麻布十番の食中毒疑い|こめお蟹ラーメン騒動をわかりやすく解説

麻布十番納涼まつり、2日目。
屋台で売られていた冷やしのカニラーメンは、2日間で少なくとも445食が出たと報じられています。
その3日後、港区保健所の電話が鳴り始めました。
下痢、嘔吐、発熱、腹痛。
連絡してきたのは5つのグループ、あわせて男女6人だったとのこと。
ネットではもう、原因はあの一杯だという見方でほぼ固まっています。
ただ、保健所が調べに入ったとき、肝心のその一杯はどこにも残っていませんでした。
今回は、麻布十番で何が起きたのかと、この件がすっきり決着しないかもしれない理由について、わかりやすく解説していきたいと思います。
26日の昼から相談が届き始めた
まずは、公表されている内容を順番に並べてみましょう。
舞台になったのは、東京・港区で8月22日と23日に開かれた第60回麻布十番納涼まつりです。
商店街の一帯を歩行者天国にして、両日とも午後3時から9時まで。
この街が1年でいちばんにぎわう2日間、と言っていいでしょう。
港区保健所に最初の連絡が入ったのは、祭りが終わって3日後の8月26日の昼ごろだったと報じられています。
麻布十番のお祭りで食べたもので体調を崩した、という内容でした。
しかもそれが、別々のグループから続けて届いています。
これまでに連絡があったのは5つのグループ、男性2人と女性4人の計6人。
症状は下痢、嘔吐、発熱、腹痛などで、医療機関を受診した人もいるものの、重症の人はいないとのこと。
最初に流れた報道では相談者は5人となっていて、その後の報道で6人という数字に変わっています。
5つのグループから6人、という数え方の違いによるものです。
ここで押さえておきたいのは、人数そのものよりも形のほうでして、知り合いでもない5組が、同じ祭りを指して電話をかけてきたという点になります。
夏祭りの屋台で買ったもので、翌日おなかを下す。
それだけなら、正直よくある話として流れていったはずです。
ところが5組が別々に、しかもほぼ同じタイミングで保健所へ届け出た。
ここで話の性質が変わりました。
港区保健所が集団食中毒の可能性があるとみて調査に入ったのは、この形が見えたからなんです。
2日間で445食が出ていた
次に気になるのが、その6人は何を食べたのかというところ。
報道で共通して名前が挙がっているのが、カニのラーメンです。
祭りの公式ガイドの表記では、出店者名が割烹こめを、商品名が「こめを冷やしカニラーメン」となっていました。
手がけていたのは、格闘技イベントのブレイキングダウンに出たことで一気に名前が知られた料理人のこめお。
今年5月には、浅草にカニのラーメン専門店も開きました。
このカニラーメンは、2日間で少なくともおよそ445食が提供されたと報じられています。
445食が世に出て、いま名乗り出ているのが6人。
数字だけ見れば、ごく一部です。
ただ、この比率をそのまま受け取るわけにもいきません。
屋台で買ったものには、レシートも会員登録も予約履歴も残らないからです。
誰が何を食べたのかを後から一覧にできる仕組みが、祭りにはありません。
もう一つ、この店の売り方で押さえておきたい点があります。
報道によると、店舗の調理場で作ったものを屋外のテント席まで運んで食べてもらう形だったとのこと。
目の前の鉄板で焼いて、その場で手渡して終わり、という昔ながらの屋台とは形が違いますね。
作る場所と食べる場所が離れているぶん、口に入るまでの時間と温度は、どこにも記録が残らないことになります。
8月下旬の東京の屋外で、その距離がどれくらいだったのか。
ここは、保健所がこれから確かめていく部分です。
初日に700食が余っていた
この件がネットで一気に広がったきっかけは、体調不良の報告そのものではありませんでした。
祭りの初日、8月22日にこめお本人が書いていた一文です。
「麻布十番祭りが雨で中止になり、700食余ってしまった。明日天気よくなってくれ」
22日は激しい雨で、予定より3時間早い午後6時に切り上げになったと報じられています。
売るはずだったものが、大量に手元へ残ってしまった。
問題は、この一文が体調不良の報告と並べて読まれたときに何が起きるか、です。
初日の余りを翌日に出したのではないか。
そういう読み方が、あっという間に広がりました。
カニは傷みやすいと言われますし、季節は8月。
疑いの目で見たくなるのも、無理はないでしょう。
ただ、ここで一度だけ線を引かせてもらいます。
前日の余りを翌日に出したという事実は、どこにも確認されていません。
保健所も、カニラーメンと6人の体調不良に因果関係があると特定したとは言っていない段階です。
6人は祭りで他のものも食べていて、全員が共通して口に入れたのは何かというところから絞り込んでいる最中だと報じられています。
それでも火の回りがここまで速かったのには、こういう背景もありました。
こめおは今年5月にも、カニの産地をめぐって強く批判されたばかり。
中国産を使っていることを自分から明かし、産地の偽装は否定しています。
そのやりとりを覚えている人にとって、今回の700食は「またか」と読めてしまう。
過去の炎上は、次の疑いが起きたときの燃料として保存されているんです。
天気を心配して書いただけかもしれない一行が、いまではいちばん強い状況証拠のように扱われてしまいました。
調べるはずの現物が残っていない
さて、ここからがこの件のいちばん厄介なところです。
祭りが終わったのは23日の夜。
保健所が動き出したのは26日の昼。
間が、3日空いています。
報道によると、23日に提供された食品そのものは、調査を始めた時点でもう残っていませんでした。
当たり前といえば当たり前で、祭りの屋台は終われば片付いて、翌日にはただの商店街に戻ります。
冷蔵庫のどこかに「23日の夕方に出した一杯」が取ってある、なんてことはありません。
つまりこの調査は、原因かもしれないものが手元に一つもない状態から、原因を証明しにいく作業になるわけです。
ネットの側は、もう答えを出しています。
700食が余って、445食が出て、6人が倒れた。
点を線で結べば、話は3日で終わりです。
ところが調べる側は、その3日後にようやくスタート地点へ立ったところ。
速さがまるで違うので、片方が「もう分かりきっている」と言い、もう片方が「まだ何も分かっていません」と言う状態が、しばらく続くことになります。
そして、この件で本当に怖いのは白か黒かではありません。
白とも黒とも言えないまま、静かに終わってしまう可能性があることのほうです。
原因不明のまま調査が閉じれば、6人は「気のせいだったかもしれない人」のまま残されます。
疑われた側にしても、疑いが晴れた記録ではなく、疑われたという事実だけが検索結果に残っていく。
どちらにとっても、いちばん後味の悪い終わり方。
決め手は6人と従業員の検便
では、保健所は何を手がかりにしているのでしょうか。
報道されている範囲で、進んでいるのは大きく4つです。
- 一つ目、体調を崩した人への聞き取り
- 二つ目、その人たちへの検便の協力依頼
- 三つ目、店の調理場への立ち入りと、食材の持ち帰り検査
- 四つ目、店で働いていた人たちの検便
並べてみると、方向がはっきりします。
食べ物が残っていないので、食べ物以外のところから攻めていく形です。
食中毒として正式に扱われるには、原因になった病原体が何だったのかと、それがその食品から来たのかが確かめられる必要があります。
同じ日に同じ店で食べた人がそろって具合を悪くした、というだけでは、そこまで届きません。
ネットの結論と行政の結論がずれるのは、この一段があるからなんです。
そのうえで、この先を分けるのは一点だと思います。
6人の便と、店で働いていた人の便から、同じものが見つかるかどうか。
ここが一致すれば、食べ物が残っていなくても話は一気に固まります。
逆に、6人からそれぞれ違うものが出たり、何も出なかったりすれば、原因不明のまま調査は静かに閉じていく。
もう一つの分かれ道が、6人が祭りで他に何を食べていたか、です。
屋台の食べ歩きは、たいてい1軒では終わりません。
全員が口にしたものがカニラーメンだけなら絞り込めますが、他にも重なるものがあれば、そちらも候補として並んで残ります。
445食のうち6人という比率が、絞り込みをさらに難しくしていく。
結論が出るまでには、それなりの時間がかかるとみられます。
連絡しないと患者に数えられない
最後に、もし自分や家族が同じ立場になったらどうするか。
今回、港区保健所が動いたのは、5つのグループが実際に電話をかけたからです。
ネットに症状を書き込んだ人の数ではありません。
ここは、意外と知られていないところだと思います。
同じ屋台で具合が悪くなった人が何十人いたとしても、書き込みは調査の材料になりません。
保健所に届けて、聞き取りに答えて、検便に協力して、はじめて患者として数に入ります。
そこまでやって、ようやく1人。
逆に言えば、黙っていた人がいるぶんだけ、この件は実際より小さい話として見えている可能性があります。
祭りやイベントで食べたもので体調を崩したときに、やっておきたいことは3つです。
- 食べたものと食べた時間、症状が出た時間をメモに残す
- 症状が重ければ医療機関を受診する
- 住まいの区ではなく、食べた場所を管轄する保健所へ連絡する
3つ目が、いちばん忘れられがちなところ。
今回でいえば会場は麻布十番なので、連絡先は港区の保健所になります。
私は専門家ではないので、症状が長引くようなら早めに病院で診てもらってくださいね。
今の時点では、原因も、そもそも食中毒だったのかどうかも、まだ何ひとつ決まっていません。
気になるのは白黒よりも、445食を口にした人のうち、あの6人のほかにどれだけが電話をかけたのかというところ。
ネットで先に出た結論のほうは、その答えが出るまで一度置いておきたいところですね。
この記事で参考にした情報
この記事は、次の内容をもとに書いています。
- 体調不良の届け出と人数、症状の内容についての各社の報道(8月27日配信分)
- 港区保健所が進めている調査の内容についての報道
- 第60回麻布十番納涼まつりの開催概要と、公式ガイドに掲載された出店者名・商品名
