2026年9月9日、公正取引委員会が、丸亀製麺などを運営するトリドールホールディングスに勧告を出しました。

食材の製造を頼んでいた取引先へ払う代金から、「システム利用料」という名目でお金を差し引いていたためです。

引いていたのは、納品総額の1.1パーセント。

数字だけ見ると、なんだか小さく感じますよね。

それなのに、確認できた分だけで1億4741万円になっていました。

 

今回は、この「システム利用料の減額」がどういうことだったのか、わかりやすく解説していきたいと思います。

システム利用料で1.1%が引かれていた

まず、何が起きたのかを整理しておきましょう。

トリドールホールディングスは東京都渋谷区の会社で、丸亀製麺のほかにコナズ珈琲などの飲食チェーンも手がけています。

その仕入れの流れの中で、食品の卸売会社を通して、37社に食材の製造を委託していました。

店で使う食材をつくってもらう関係です。

その代金を支払うときに、納品総額の1.1パーセントを差し引いていた、と報じられています。

期間は2024年8月から2026年7月まで。

公正取引委員会が減額として確認したのは、そのうち2024年8月から2025年12月分で、金額は1億4741万円だそうです。

多く引かれていた会社では、1社で約2500万円にのぼったとのこと。

 

1.1パーセントという率は、単体で見るとかすんで見えます。

消費税より小さいのだから、と流してしまってもおかしくない大きさです。

ところが、毎月の納品にずっと掛かり続けると、1社で家が買えるくらいの額に積み上がっていく。

小さいのは率であって、金額ではありませんでした。

そもそもシステム利用料とは何なのか、というところも引っかかります。

これは、注文と納品のやりとりを紙や電話ではなくシステム上で回すための費用です。

発注する側は伝票の手間が減り、受ける側も注文の行き違いが減る。

本来はどちらの手間も減らす道具で、片側だけが得をする仕掛けではありませんでした。

 

公正取引委員会は、この件を自分たちのアカウントでも告知しています。

気になるのは、「遅延利息の支払を勧告する初事案」という一文です。

初めての事案だと、役所のほうから言い添えている形になります。

 

ネットの反応で目についたのは、店頭の値上げと並べた声でした。

店では値段が上がり、仕入れ先からは引かれていく。

その方向の噛み合わなさを、うまく言い当てた投稿がありました。

うどんのコシと並べられてしまうと、さすがに返す言葉がありません。

違法なのは率ではなく引いたこと

ここからが、この件のいちばん誤解されやすいところです。

「1.1パーセントは取りすぎだったから違法になった」と読んでしまうと、話が半分ずれます。

法律が禁じているのは、率の高さではありません。

いったん決めた代金を、あとから引くこと、そのものなんです。

 

下請法と、その後を引き継いだ取適法には、「代金の減額の禁止」という決まりが置かれています。

発注したときに決めた金額を、あとになって値引きしてはいけない、という内容です。

条文の中に、「何パーセントまでならいい」という線は引かれていません。

つまり0.1パーセントでも、名目がどれだけ立派でも、決めたあとに引いたなら同じ扱いになる、というわけです。

 

このあたりは、給料の話に置き換えるとつかみやすくなります。

時給1200円で働くと決めて、月末に振り込まれた額を見たら、制服のクリーニング代が引かれていく。

このとき腹が立つのは、金額が大きいからではなくて、聞いていない引き算が入っていたからですよね。

決めたはずの数字が、あとから動いた。

今回の1.1パーセントも、構造としてはそれと同じ場所に立っています。

 

では、どうすれば引っかからなかったのでしょうか。

最初から単価に織り込んでいれば、「減額」には当たりませんでした。

同じお金でも、先に決めるか、あとから引くかで、法律の見え方がまるごと変わります。

順番の問題だった、ということ。

ちなみにこの法律が禁じているのは、減額だけではありません。

ほかの取引と比べていちじるしく低い代金を決めてしまう「買いたたき」も、並んで禁じられています。

「あとから引く」も「はじめから安く抑える」も、両方ふさいである形です。

だからこそ、今回のように名目を立てて差し引くやり方は、いちばん分かりやすく網に掛かりました。

 

なぜ「あとから引く」ほうが重く見られるのかというと、受ける側に断る場面が残らないからです。

契約の前なら、金額に納得できなければ受けない選択ができます。

ところが納品まで終えたあとになると、品物はもう相手の店の中。

交渉のカードを手放したあとで、金額のほうが動いてしまうわけです。

自社の分だけは払っていなかった

もう一つ、公正取引委員会がはっきり指摘したところがあります。

このシステムを用意していたのは、あいだに入っていた食品の卸売会社でした。

そして、そのシステムは発注する側と受注する側の両方が使うものです。

 

ここで「卸売会社をはさんでいるなら、下請けの関係ではないのでは」と思う方がいるかもしれません。

けれど法律が見ているのは、あいだに何社入っているかではなく、実際に仕様を決めて作らせているのは誰かというところです。

今回も、製造を委託していたのはトリドールホールディングスだと認定されました。

あいだに会社が一つ入っても、責任の置き場所は動かなかったわけです。

 

そのうえで利用料は、受託した側だけが払う契約になっていました。

しかも、その水準を決めていたのはトリドールホールディングスのほうだったと報じられています。

自社の利用分は払わず、全額を取引先に負わせていた、ということです。

 

公正取引委員会はここを、「下請け業者がシステムを利用することで得られる利益の範囲を超えていることは明らか」と指摘しました。

「明らか」という言葉が入っています。

言い方をぼかさずに置いてあるところに、判断の強さが出ていました。

さらに引っかかるのが、お金の行き先です。

差し引かれた利用料の一部は、卸売会社からトリドールホールディングス側へ戻っていたと報じられています。

取引先だけが払ったお金の一部が、払わせた側へ回っていた形。

うーん、と声が出てしまうところですね。

 

会社側は「下請け法や取適法の理解が不十分だった」と説明しているとのこと。

一方の下請け業者は「システム利用に対する対価以上の負担を強いられた」と述べたそうです。

同じ1.1パーセントが、片方には手続きで、もう片方には負担。

その距離が、そのまま今回の勧告になっています。

ネットでは、この会社が働く人への待遇を打ち出していたことを思い出して、複雑になったという声も出ていました。

社内へ配ることと、外の取引先へきちんと払うこと。

本来なら別々の話なのに、並べて見られてしまうと、前者の見え方まで変わってしまう。

下請法は1月から取適法になった

ニュースの中に、聞き慣れない言葉がひとつ出てきました。

それが「取適法」。

正式には中小受託取引適正化法といって、2026年1月1日に施行されたばかりの法律です。

これまで下請法と呼ばれていたものが、改正されて名前ごと変わりました。

「下請」という言い方そのものも見直されていて、いまは委託する側・受託する側という呼び方になっています。

上下に聞こえる言葉をやめる、という趣旨だそうです。

 

変わったのは名前だけではありません。

手形での支払いが禁止になったり、運送の委託が新しく対象へ加わったりと、守られる範囲そのものが広がりました。

会社の規模を測る物差しにも、資本金だけでなく従業員の数が加えられています。

物価が上がっているのに、受け取る側の代金が据え置かれたままになりやすい。

そこへ手を入れるための改正だった、と説明されています。

 

今回の件は2024年8月から2026年7月にまたがっているので、古い下請法と新しい取適法の両方で違反が認定されました。

ちょうど法律が切り替わる時期をまたいだ形です。

公正取引委員会が「初事案」と書き添えていたのは、この部分でした。

引いた分を返すだけでは終わりません。

年14.6パーセントの遅延利息を付けて返しなさい、という勧告。

遅延利息というのは、支払いが遅れた分に付く利息のことです。

これが取適法にもとづいて出されたのは、今回が初めてとのこと。

2026年1月以降の分については、会社が金額を算定して、公正取引委員会の承認を受けたうえで返すことになっています。

 

もうひとつ、「勧告」という言葉についても。

これは法律にもとづく措置の中でいちばん重いもので、会社名と何をしたかが公表されます。

注意やお願いではありません。

名前を出されたうえで、引いたお金を返すところまで求められる。

ニュースの見出しに社名がそのまま出ていたのは、そういう理由でした。

代金を引かれたときに見る3つ

この形の引き算は、丸亀製麺だけの話ではありません。

勤め先が中小企業でも、個人で仕事を受けていても、身近に起こりうるものです。

名目は「システム利用料」だけとはかぎりません。

手数料、振込料、物流センターの使用料、協賛金と、呼び方はいくらでも用意できます。

 

見るところは3つ。

  • 発注のときに決まった金額と、実際に振り込まれた金額が合っているか
  • 引かれているなら、その名目に先に合意があったか
  • その金額を決めたのは自分か、それとも相手か

ひとつ目は、請求書と通帳を並べるだけで終わります。

端数のようなズレほど見落としやすいので、ここは目ではなく計算で当てるのが確実です。

 

ふたつ目が、今回の件そのもの。

契約の前から金額に入っていたのか、支払いの段になって出てきたのか。

金額に先に入っていたかが、そのまま法律の見え方を変えます。

 

みっつ目は、地味ですがいちばん効くところ。

自分では水準を決められない費用を、自分だけが負担していく。

その形になっていたら、それは取引条件というより、押し付けに近づいている合図。

 

そして、気づいたときにいちばん効いてくるのが、消さずに残してあるやり取りなんです。

注文書、見積書、金額の書かれたメールやチャット。

「言った言わない」になった瞬間に、決まっていた金額を示せるかどうかで話が変わります。

 

もし引っかかるものがあっても、いきなり取引先へ切り出す必要はありません。

公正取引委員会にも中小企業庁にも、こうした取引について相談を受けつける窓口が置かれています。

今回のように、引かれた側が名前を出さなくても、調べたうえで表に出てくることもあるんです。

 

1.1パーセントという率は、たしかに小さく見えます。

ただ、小さかったから見逃されていたのではなく、小さいまま37社ぶん積み上がっていたから、ここまでの金額になりました。

毎月の請求書から、聞いていない名目でお金が消えていく。

それを2024年8月から2026年7月まで続けられる側と、続けられてしまう側があったというのが、この件のいちばん重いところだと感じてしまいます。

自分の通帳も、いちど並べて見てみたくなるところですね。