外国人の生活保護|法律の対象外なのに受給世帯がある理由

2026年9月11日、ガーナ国籍の男性の敗訴が確定したというニュースが流れました。
外国人であることを理由に生活保護の申請を断られたのは違法だ、として千葉市を訴えていた裁判です。
最高裁は9月9日付で、男性の上告を退ける決定をしたとのこと。
この知らせには、すぐに大きな反応が集まります。
そのなかに、こんな疑問も混ざっていました。
「なんで全国の自治体は勝手に外国人の生活保護認めてるんだよ」
言われてみると、たしかに妙な話ですよね。
片方にあるのは、法律の対象ではないという裁判所の判断。
もう片方にあるのは、実際に生活保護を受け取っている外国籍の世帯。
この2つがどうして同時に成り立っているのか、今回はそこをわかりやすく解説していきたいと思います。
敗訴が確定した9月9日の判断
争いの始まりは、男性が来日した2015年。
就労できる在留資格を持ち、兄が経営する会社で働いていたそうです。
ところが2019年、慢性腎不全を発症してしまいます。
週に3回の人工透析が必要な状態になりました。
ここで在留資格が、療養を目的としたものへ切り替わることになります。
在留資格というのは、外国籍の人が日本に滞在するときの種類分けのようなもの。
種類ごとに「できること」が決まっていて、男性が切り替わった先は、治療のために滞在するための資格でした。
つまり、働くことが認められない資格です。
そして2021年、千葉市に生活保護を申請したところ、外国人であることを理由に却下されました。
働いてはいけないと言われたうえで、働けないなら助けられないと言われる。
そういう状態から始まった裁判だったわけです。
一審の千葉地裁は2024年1月、生活保護法が対象とする「国民」に外国人は含まれない、と判断しています。
二審の東京高裁も2024年8月、外国人に適用される根拠は見当たらないとして、男性の訴えを退けました。
二審の判決が出たとき、原告側はこれを「冷酷な判決だ」と受け止めたと報じられています。
そして今回、最高裁が上告を退けて、その判断が確定。
重病で生活保護適用を求めたガーナ人の敗訴確定 最高裁が上告棄却、裁判長は反対意見「著しく人道に反する」
— 東京新聞デジタル (@tokyo_shimbun) 2026年9月11日
見出しになって流れてきたのは、ここまでの話です。
4万7千世帯はどこから出ているのか
では、勝手に認めていると言われた自治体の側は、どうなっているのでしょうか。
法律の対象ではないと、裁判所は10年以上前から言い続けてきました。
それなのに、外国籍の世帯が生活保護を受け取っているのも事実なんですよね。
厚生労働省の「被保護者調査」によると、2023年度に全国で生活保護を受けた世帯は165万478世帯。
このうち世帯主が外国籍なのは4万7317世帯で、全体の約2.9%にあたるとのこと。
近年はこの2%台後半あたりで推移していると報じられています。
法律の対象外のはずの人たちが、4万7317世帯。
この数字をどう受け止めるかは人それぞれだと思いますが、少なくとも自治体が思いつきでやっているわけではありません。
きちんと根拠があります。
ただ、その根拠が、多くの人の想像とは少し違っていて。
72年前の通知にある「当分の間」
根拠は、法律ではありません。
1954年5月8日に、当時の厚生省が各都道府県知事へ宛てて出した1本の通知です。
「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」という題名で、社発第382号という番号が付いています。
そこに書かれているのは、こういう中身。
生活保護法は外国人を対象としていないけれど、「当分の間」、日本国民への取り扱いに準じて必要と認める保護を行う。
当分の間。
1954年の当分の間が、2026年のいまも続いています。
72年です。
この通知が出た年にも、事情がありました。
1952年のサンフランシスコ講和条約で、旧植民地の出身者は日本国籍を失うことになります。
昨日まで日本人だった人が、書類の上で急に外国人になった。
その人たちが困窮したときにどうするのか、という差し迫った問題への当座の手当てが、あの通知だったと説明されています。
もともとは、急場をしのぐための紙だったんですね。
この「準じて行う」やり方を、役所の言葉では準用と呼びます。
法律を直接あてはめるのではなく、法律のやり方を借りてくる形。
だから対象の範囲も、法律ではなく行政側の判断で決められてきました。
1990年に厚生省が出した口頭での指示によって、対象になる人は次の範囲へ絞られたとされています。
- 永住者
- 日本人の配偶者等
- 永住者の配偶者等
- 定住者
- 特別永住者
- 難民認定を受けた人
この6つに共通しているのは、日本に腰を据えて暮らすことが前提になっている立場だ、という点。
働くための資格でも、学ぶための資格でもありません。
日本での暮らしそのものが土台になっている人たち、という線の引き方になっています。
この並びを見ると、今回の男性の位置がはっきりしますよね。
療養を目的とした在留資格は、ここに入っていません。
男性は裁判で負ける前の段階で、すでに準用の枠の外にいたということ。
2014年7月にも、最高裁は永住資格を持つ外国人について同じ線を引いています。
外国人は生活保護法に基づく受給権を持たないが、通達などに基づく行政措置によって、事実上の保護の対象にはなり得る。
この整理は、今回の決定でも動きませんでした。
法律の条文のほうは、1954年から一度も書き換わっていません。
決まらないまま、通知1本で72年。
今回の判断で何かが新しく変わったのではなく、変わらないことがもう一度確認された、というのが正確なところ。
ネットでは、これで外国人の生活保護が止まる、という受け止めも出ていました。
ただ、止まるも何も、法律の側は最初から何も書いていません。
書いていない場所を通知で埋めてきたので、その通知が生きているかぎり、窓口の扱いは今日も昨日と変わらないまま。
断られても審査請求ができない
呼び方が違うだけではないか、と思われるかもしれません。
法律だろうと通知だろうと、実際にお金が出るなら同じではないか、と。
ところが、はっきり違うところが1つあります。
断られたあとです。
法律に基づく権利であれば、決定に納得できないときに不服を申し立てられます。
審査請求といって、その判断がおかしくないかをもう一段上で見てもらう手続き。
準用による保護は権利ではないので、審査請求ができません。
支援団体の解説によれば、申し立てても却下されてしまうとのことです。
しかも、あの通知の立場も変わりました。
地方分権が進んだことで、国が自治体へ出す通知は、法的な拘束力のない助言という位置づけに整理されています。
助言です。
従わなければならないものではありません。
そうなると、実際の運用は自治体ごとの内規に落ちてきます。
たとえば埼玉県越谷市には「外国人に対する生活保護の措置に関する要綱」があり、2016年3月に告示されました。
対象の欄には入管法の別表第2に挙がる在留資格の人、特別永住者、難民認定を受けた人が並んでいます。
別表第2というのは、永住者や定住者のように、身分や立場にもとづく在留資格が集めてある一覧のこと。
さきほどの6つの範囲が、そのまま市の文書に書き写されている形ですね。
そして、その並びのあとにもう1行あります。
「その他福祉事務所長が必要と認める者」
必要と認める者。
最後の枠は、窓口の判断に開かれているわけです。
勝手に認めているように見えていたものの正体は、これでした。
国が決めていないから、それぞれの自治体が要綱を書いて回している状態。
そういう順番なんです。
反対意見が名指ししたのは国だった
今回の決定には、もう1つ話題になった部分があります。
第2小法廷の三浦守裁判長が、多数意見とは違う反対意見を付けたことです。
療養目的の在留資格で滞在する外国人を保護の対象外とする規定は、生存権や法の下の平等を保障する憲法に反して無効。
困窮に応じた保護をしないことは命に関わり、「著しく人道に反する」。
報道ではそう伝えられています。
ネットでは、国民審査のときのためにこの裁判官の名前を覚えておこう、という声も出ていました。
ただ、反対意見にはもう一節あります。
法律上の制度を定めることを怠り、自治体の裁量に委ねていることは、国として外国人の生存と尊厳をおろそかにするものだ、という指摘です。
矛先が向いているのは、申請した男性でも、断った千葉市の窓口でもありません。
72年ぶん決めずにきた、国のほうです。
引っかかるのは、多数意見の側もほとんど同じことを言っている点。
二審の東京高裁は、限られた財源のもとで在留外国人より自国民を優先させる政治的判断は許される、と述べたと報じられています。
生活保護、また認められず…重病のガーナ人男性落胆 東京高裁「限られた財源で自国民優先は許容される」
— 東京新聞デジタル (@tokyo_shimbun) 2024年8月6日
政治的判断は許される。
言い換えれば、これは裁判所が決めることではなく政治が決めることだ、と言っていることになります。
賛成した側も反対した側も、そろって同じ場所を指していたわけです。
それなのに、指された側の法律だけが動かないまま。
権利と措置は断られた後に違う
この形そのものは、外国人にかぎった話でもありません。
私たちが日ごろ利用している行政の支援にも、同じ構造のものがあります。
役所の給付には、大きく2つの出どころがあるんです。
1つは法律や条例に書かれているもの。
もう1つは、自治体が要綱や内規を作って行っているものです。
窓口の見た目は、どちらもほとんど変わりません。
申込書があって、担当の人がいて、条件を確かめて、支給されるかどうかが決まる。
違いが出るのは、断られた瞬間です。
法律に基づくものなら、納得できないときに不服を申し立てる道があります。
要綱で行っているものだと、申し立ての道が用意されていないことがあるんですよね。
自治体が独自に出している助成金や、地域を限った補助金には、このタイプが少なくありません。
引っ越し先が変わっただけで受けられなくなった、という話が起きるのも、根っこはここ。
法律なら全国どこでも同じですが、要綱は市町村ごとに書かれているからです。
だから、窓口で使える質問が1つだけあります。
「これは法律に基づくものですか、それとも市の要綱ですか」
聞いたからといって、その場で結果が変わるわけではありません。
ただ、断られたあとに何ができるかが、この答えで変わってきます。
権利なのか、それとも当分の間なのか。
言葉にすると大げさですが、確かめ方は世間話くらいの一言で足ります。
どちらの上に立っているのかを知っておくと、次の一手が選べるようになってくる。
もちろん、財源には限りがあります。
優先順位をつけること自体をおかしいと言うつもりは、まったくありません。
引っかかるのは、その順位を決める仕事を72年ぶん先送りにしたまま、判断だけが窓口に置かれ続けていること。
そのあいまいさは、いつか自分が窓口に立つ日にも返ってくるので、覚えておきたいところですね。
