アジア大会の中継を見ていて、日本で開いているはずなのに、どこか日本の大会ではないみたいだと感じたことはありませんか。

観客席で旗を注意される台湾のファン、試合前に流れた別の国の国歌、画面の隅に何度も出てくる見慣れないマーク。

ネットでも、アジア大会に違和感がある、という声が並んでいます。

 

そしてその違和感は、「日本で運営しているんじゃないの?」という疑問に行き着くもの。

今回は、大会の決まりごとを実際にたどりながら、日本開催なのに別の国が仕切って見える理由を、わかりやすく解説していきたいと思います。


日本開催なのに「別の国の大会」に見える場面

違和感と言われている場面は、たとえばこんなものです。

  • 9月18日のホッケーで、韓国の試合の前に北朝鮮の国歌が流れた
  • 同じ18日、台湾のスポーツ大臣が選手の歓迎式典に一時入れなかった
  • 野球の観客席で、台湾の旗や「Taiwan」のタオルが止められた
  • 世界へ流す試合の映像を作っているのが、中国のメディアなどの共同体だった
  • 中継の画面に、大会のマークとは違う竜と鳥のマークが何度も出てきた

北朝鮮の国歌が流れたのは、韓国とバングラデシュの試合の前だったと報じられています。

台湾の大臣は、台湾側が1時間半ほど掛け合った末に、ようやく式典へ戻れたそうです。

観客席の旗やタオルの件は、以前こちらの記事でくわしくまとめました。

https://ltr-oshinoko-cafe.jp/asiangames-unlisted/

ほかにも、選手の宿舎が狭い、送迎のバスが来ないといった運営の不手際が、海外のメディアからも批判されています。

 

旗を注意している人たちがどこの所属なのかは、今回調べた報道の中には出てきません。

国際大会の会場には、OCAの職員や、各競技の国際団体から来た審判や技術の担当者など、海外からの関係者がもともと入ります。

 

それでも、これだけ並ぶと「日本が決めているようには見えない」と感じるのは自然なこと。

しかも、ひとつひとつは小さくても、全部が同じ方向を向いているように見えてしまうんですよね。

では、この大会を実際に動かしているのは誰なのでしょうか。


大会の持ち主は最初から日本ではなかった

答えは、大会の出発点になっている一枚の契約に書いてあります。

2018年8月19日、インドネシアのジャカルタで、アジア・オリンピック評議会と日本オリンピック委員会、愛知県、名古屋市の4者が「開催都市契約」を結びました。

アジア・オリンピック評議会は、英語の頭文字でOCAと呼ばれる、アジアのオリンピック競技をまとめる団体です。

その契約の冒頭には、こう書かれています。

「OCAはアジアにおけるオリンピック競技を完全に管轄し、アジア競技大会はOCAの所有物である」

さらに、日本側が組織委員会を作ったあとも「OCAが競技大会を常に所有及び管理し続けることを確認する」とあります。

つまり、アジア大会は日本が持っている大会を日本で開いているのではなく、OCAが持っている大会を日本が預かって開いている形なんです。

契約書そのものも英語版が原本で、日本語版は翻訳という扱い。

もめごとが起きたときはスイスのスポーツ仲裁裁判所で、英語で話し合うことまで決められていました。

中継の画面に何度も出てくる竜と鳥のマークも、実はOCAのロゴ。

契約の中でも、OCAのシンボルやロゴや旗は、OCAの持ち物として一覧に並んでいました。

大会のマークより持ち主のマークが目立つ場面があっても、契約の上ではむしろ筋が通っているんです。

 

ちなみに、この形はオリンピックも同じで、オリンピック憲章には「オリンピック競技大会は IOC の独占的な資産」と書かれています。

東京五輪のときも、大会の持ち主はIOCでした。

延期が決まった2020年に「開催都市契約」という言葉が話題になったのを、覚えている人もいるかもしれません。

アジア大会の契約も、あれとよく似た作りになっています。


お金は開催地が出し、決めるのはOCA

では、持ち主と開催地で、役割はどう分かれているのでしょうか。

契約はまず、大会の運営をOCAが開催地に「委託」する形をとっています。

そのうえで、お金の責任や負担は、開催地と組織委員会が負うと書かれていました。

ところが、大事なところを決める力は、ほとんどOCAの側に残されたまま。

  • 放送の権利はOCAのもので、組織委員会には一つも渡らない
  • 世界へ流す映像の著作権もOCAのもの
  • 映像を作るホスト放送局との契約は、OCAの承認に回す
  • 審判は競技団体が選び、最後にOCAが承認する(旅費や宿泊費は組織委員会が払う)
  • 選手や関係者が首から下げるIDカードは、OCAが発行する
  • 大きな発表や記者会見は、OCAと足並みをそろえる

ホスト放送局を用意するのは組織委員会で、しかも「自らの費用で」と書かれています。

映像を作るお金は日本側が出し、できあがった映像の著作権はOCAのもの、という分け方。

メディア権というのは、試合をテレビやネットで流してよいという権利のことです。

放送のところには、組織委員会は「いかなるメディア権に関する権利もリリースされないことを理解している」とまで書いてあります。

 

OCAの公式配信で試合を見られることを案内している人もいました。

IDカードについても、持っていれば開催国で就労許可を取らずに役割を果たせるよう、組織委員会が関係機関に働きかけることになっています。

会場に海外から来た関係者がいるのは、国際大会では最初から組み込まれている形。

 

もうひとつ、目を引く一文がありました。

開催地の側は、大会やOCAについて「中傷せず、又はその名誉を傷つける声明を行わず」と約束しています。

同じ約束はOCAの側にもありますが、OCAの側にだけ「競技大会の組織についての事実の表明を除く」という断り書きが付いていました。

持ち主は運営について事実を言えるけれど、預かった側は持ち主を悪く言えない、という形。

言えることの幅まで、最初から違う取り決めでした。


開催国に相談なく決まったこと

この力関係は、準備の段階から、はっきり表に出ています。

2025年12月、OCAが、ラケット競技の「パデル」と、卓球とサッカーを組み合わせた「テックボール」という2つの競技の追加を組織委員会に求めていたことが、共同通信の報道で分かりました。

すでに41の実施競技は確定していて、組織委員会は追加は「困難」と答えています。

 

その後の報道によると、OCAは2競技の追加を、日本人の役員がいなかった11月上旬の理事会で決めて通達していました。

調整委員会というのは、OCAが大会の準備の進み具合を確かめるための会議で、契約で置くことが決まっているもの。

その12月に名古屋で開く予定だった調整委員会は、直前になってOCA側から中止を告げられたそうです。

OCAの副会長を務める竹田恒和は、臨時理事会で「開催国に相談もなく決めるのは、あり得ないことだ」と強く抗議したと伝えられています。

結局、大会は全43競技にふくらみました。

 

2026年8月には、最大1万5千人としていた選手や役員の数が、1万6千人から1万7千人ほどに増える見込みだと報じられています。

組織委員会はOCAに是正を求め、人数の増加にはOCAの強い意向で加わった新競技も影響しているとみられているとのこと。

契約でも、選手たちの宿泊は「最大15,000人のための宿泊施設」を用意すると書かれていました。

7月下旬には、競技会場の準備が遅れているとして、OCAが組織委員会に警告の文書を送っていたことも分かっています。

開幕の前日、OCAの調整委員長は記者会見で、選手の宿泊について「懸念点はない」と話していました。

それでも大会が始まると、宿舎やバスのトラブルが次々に伝えられたのは、ご存じのとおり。

 

運営の不手際には、もちろん組織委員会の準備不足もあったはずです。

ただ、決める人と払う人が別々の大会で、払う側だけに責任を押し付けるのも少し違う気がします。


「別の国」の正体はどこにあるのか

では、ネットで言われている「どこか別の国」とは、どこなのでしょうか。

中国を思い浮かべる人がいるのは、映像や一部の設備で中国の企業が目立ったからでしょう。

ホスト放送局は、スペインの放送局などのグループとの契約が解除されたあと、2025年9月の再入札で中国のメディアなどの共同体が落札したと中日新聞が伝えています。

ただ、ここまで見てきたとおり、放送の権利を持ち、その契約を承認する立場にいるのはOCAです。

そのOCAの本部はクウェートにあり、2026年1月にはカタールの王族のシェイク・ジョアン氏が会長に選ばれたと、笹川スポーツ財団の資料にあります。

OCAは長いあいだクウェートの王族が会長を続けてきた団体で、新しい会長が決まったときにも「クウェートからカタールへ権力が移行しただけだ」という批判が出たことも、同じ資料に書かれていました。

次のアジア大会は2030年のドーハ、その次は2034年のリヤドです。

 

台湾のスポーツ大臣が式典に一時入れなかった件も、止めたのはOCAの側でした。

台湾のメディアによると、ジョアン会長は「スポーツと政治を混同すべきではないが、われわれはすでにそうしてしまった」と認めたそうです。

違和感の多くは、大会の持ち主のところから出ていました。

そしてこの形は、オリンピックでも、ほかの国際大会でも変わりません。

 

次に国際大会で首をかしげる場面を見たら、次の3つのどれが決めたことなのかを考えてみると、見え方がかなり変わるはずです。

  • 大会の持ち主(アジア大会ならOCA、五輪ならIOC)
  • 預かって運営する開催地と組織委員会
  • 審判や試合のルールを受け持つ競技団体

北朝鮮の国歌の取り違えは運営の側、台湾の大臣の件は持ち主の側、判定への不満なら競技団体の側、というように分けて見ると、怒る先を間違えずに済みます。

アジア大会の閉会式は10月4日で、残りはあと少し。

モヤモヤは持ち主と預かり主のあいだに置いておいて、選手たちの試合はそのまま楽しみたいところですね。

日本開催なのに別の国が仕切って見えた理由は、大会の持ち主が最初から日本ではなかったことにあります。