「ごく普通のカップルに見えたみたいですね」

2026年9月23日、事件の現場になったコンビニの従業員は、週刊女性の取材にそう話していました。

ところが1週間後の9月30日に週刊文春が出した記事では、同じ店の同じ夜が、かなり違う姿で書かれています。

店の中で男性が女性の背中を強く押した、というのです。

timeleszの猪俣周杜(25)が傷害の疑いで逮捕されたコンビニ事件は、いま目撃者の話が2つ並び、しかも中身が食い違っています。

どちらを信じればいいのか、戸惑った人も多いはずです。

 

今回は、2つの目撃者の話がなぜ食い違うのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。


文春が無料で出した店内の30秒

文春の記事は有料で、会員でないと途中までしか読めません。

それでも、無料の部分だけで場面はかなり細かく描かれていました。

舞台は2026年9月18日の夜、東京都江東区のコンビニ。

午後10時半前に店へ入ってきた女性は、イートインスペースに小さなポーチを置き、何も買わずにいったん外へ出た、と居合わせた客が話しています。

そのあと女性は、黒いキャップにマスク姿の男性と一緒に店へ戻ってきました。

客の証言では、2人は椅子に座らないまま30秒ほど話し、入ってきた自動ドアへ向かって歩き出したとのこと。

そのとき男性が女性の背中を腕で強く押し、女性はつまずくように店の外へ出ていったといいます。

しばらくして、女性が店に駆け込んできました。

「助けて!」「警察を呼んで!」「彼氏に殴られた!」と叫び、鼻から流れる血を手で押さえていたそうです。

従業員はすぐに110番し、客の中にも通報した人がいたと記事は伝えています。

女性はトイレにこもり、警察官が来てから出てきて、一緒に駐車場へ歩いていったとのこと。

 

この場面の中で、記事は店にいた人を最後まで「男性」と書いています。

名前が出てくるのは、翌19日の朝に傷害の疑いで逮捕された人物として、段落が変わってから。

週刊女性の取材でも、従業員は「最初はね、あの男の子が有名なアイドルだなんて、店内にいた人は誰も気づかなかったみたいですよ」と話していました。

その場にいた人たちの目に映っていたのは、夜のコンビニにいる見知らぬ2人だったのでしょう。

有名人を見たという記憶ではなく、たまたま居合わせた男女の記憶。

細かいところまで人によって覚え方が違っても、不思議ではありません。

ネットでは、この場面をまとめた投稿が次々に流れ、無料で読める部分だけが先に広まっています。

ただ、1週間前に出ていた話を覚えている人は、ここで首をかしげたかもしれません。


1週間前は「ごく普通のカップル」だった

2026年9月23日、週刊女性PRIMEは同じコンビニの従業員に話を聞いていました。

そこで語られていたのは、次のような場面です。

  • 夜10時過ぎに、猪俣らしき若い男性が来店
  • 商品を買ったあと、イートインスペースで連れの女性と話しながら休憩
  • もめている様子はなく、ごく普通のカップルに見えた
  • そのまま2人は駐車場の車へ戻った

この記事にも、女性があとで鼻から血を流して駆け込み、スタッフが110番したことは書かれています。

違って見えるのは、その前の店の中の様子です。

この投稿のように、イートインで休憩していたという絵は、この週のうちにネットへ広がっていきました。

ところが文春では、2人は椅子に座らず、話していたのは30秒ほどで、しかも店を出るときに男性が女性の背中を強く押しています。

ゆっくり休憩していた2人と、座りもせずに押し出された女性。

同じ夜の同じ店とは思えないほど、見える景色が変わってきます。

 

では、どちらかが嘘をついているのでしょうか。

週刊女性の記事で話していた従業員は、こう断っていました。

「その日はシフトに入っていなかったのですが、一緒に働いているスタッフから話を聞きました」

つまりこの従業員は、あの夜の店の中を自分の目では見ておらず、同僚から聞いた話を記者に伝えていたんです。

いっぽう文春の店内の場面は、居合わせた客が語ったものとして書かれています。

しかも、見ていた時間が同じだったとも限りません。

週刊女性は「夜10時過ぎ」、文春は「午後10時半前」と書いていて、店員と客が同じ瞬間を見ていたのかは、どちらの記事を読んでも分からないままです。

見た人の話と、聞いた人の話。

見た瞬間まで違うかもしれないとなれば、細かいところが食い違うのは、むしろ自然なことなのかもしれません。


殴ったとされる車の中は誰も見ていない

2つの話を並べると、もう1つ見えてくるのが、猪俣周杜がかけられている疑いの中身です。

 

日刊スポーツなどによると、疑いは、コンビニの駐車場に止めた車の中で知人の女性と口論になり、顔を殴ってけがをさせた、という内容でした。

場所は、店の中ではなく車の中です。

文春の客が見たのは、2人が店を出ていくところまで。

週刊女性の従業員が聞いた話も、2人が車へ戻ったところで途切れていて。

そのあと女性が駆け込んできた姿は、どちらの話にも出てきます。

けれど、その間の車の中で何があったのかを見た人は、どちらの記事にも出てこないんです。

文春の見出しにある「目撃者が明かす修羅場」という言葉から受ける印象より、目撃者が語れる範囲はずっと狭いんですよね。

2つの話がくわしく描いているのは、あくまで殴ったとされる場面の前と後だけです。

 

逮捕された当初、猪俣周杜は調べに対して「手が当たってしまったかもしれない」と話し、容疑を否認していたと報じられました。

この投稿のように、「顔面を殴った疑い」と「手が当たってしまった」の差に引っかかった人は多かったようです。

その差を埋める場面は、店の中からは見えていません。

その後については、時事通信は捜査関係者の話として容疑を認めたと伝え、週刊女性は一部を否認していると書いていて、報道によって書き方が分かれています。

女性との間で示談が成立したと伝えられ、猪俣周杜は9月25日、処分保留のまま釈放されました。

いまは自宅に戻ったまま調べが続く、在宅捜査の段階とされています。

猪俣周杜が7日で釈放された本当の理由2026年9月25日の午後4時半すぎ、警視庁東京湾岸署の正面玄関。 黒いスーツ姿で出てきたtimeleszの猪俣周杜が、報道陣の前で「...


又聞きの話は裁判の証拠にならない

では、見た人の話と聞いた人の話は、どれくらい重さが違うのでしょうか。

刑事訴訟法の第320条は、こう定めています。

「公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない」

裁判では、その場にいた本人に法廷で話してもらうのが原則で、「あの人がこう言っていた」という又聞きの話は、原則として証拠にできません。

こうした又聞きの話は、伝聞証拠と呼ばれています。

理由は、又聞きの話にはその場で確かめる相手がいないこと。

話が人から人へ渡るあいだに、言い方が少しずつ変わっても、誰も止められないんですよね。

実は今回も、それはもう起きかけています。

文春の記事は「背中を腕で強く押し」と書いていましたが、ネットでは同じ場面が「つつくように押して」と紹介されている投稿もありました。

強く押したのと、つついたのとでは、読んだ人が思い浮かべる絵がまるで違います。

覚えている言葉で言い直しただけでも、話はこうして動いてしまうもの。

もちろん、続く第321条からは例外の決まりも細かく置かれていますが、それでも法律は、見た人の話と聞いた人の話をはっきり分けて扱っています。

 

今回の件でいえば、週刊女性の従業員の話は、まさにこの又聞き。

起訴されて裁判になれば、目撃した人が証人として呼ばれることもあるでしょう。

けれど示談が成立した事件では、検察が起訴しないと決めることもあれば、略式起訴という、裁判を開かずに書面だけで罰金を決める手続きになることもあります。

そのどちらになっても、法廷で証人が話す場面は訪れません。

つまり、2つの目撃の話が同じ場所に並べられ、どちらが正しいかを確かめる日は、来ないかもしれないんです。

 

それでも答えを知りたくて、現場の店に足を運ぶ人まで出てきました。

週刊女性の記事では、ファンと思われる人が「本当に殴ったんですか?」と聞きに来たり、電話で探りを入れてきたりして困っている、と従業員が明かしています。

けれど、店員にたずねても、返ってくるのはやはり店の中から見えた範囲の話。

車の中の答えは、そこにも置かれていないはずです。


有料部分の見出しと留置場からの手紙

会員でないと読めない文春の記事の続きは、無料の部分の最後に中身が5つ並べて予告されていました。

  • 目撃者が明かす流血と修羅場の詳細
  • 事務所が以前から心配していた女性関係
  • 菊池風磨とのあいだで交わされていた約束
  • 実の父と祖母が語る素顔
  • 留置場から母に宛てた詫び状の中身

ネットでは、このうち最後の詫び状に反応する声も上がっています。

中身は有料部分なので、ここでは書けません。

ただ、刑事収容施設法の第222条は、まだ裁判の結果が出ていない人が出す手紙について、施設の職員に「検査を行わせるものとする」と定めています。

留置場から家族へ出す手紙は、職員が中を確かめてから届けられるんですね。

所属事務所のSTARTO ENTERTAINMENTは、釈放の日に「事態の推移を見守り、猪俣の処分を決定し公表させていただきます」とコメントしていました。

事務所としての処分は、まだ発表されていません。

 

処分の発表が遅いのではないかという声も出ていますが、事務所は釈放の日に、事態の推移を見守ってから決めるという順番を先に示していました。

検察の結論が出ていないいま、発表はこの先になりそうです。

 

では、この先また「目撃者が明かす」という記事が出てきたら、どう読めばいいのでしょうか。

見るところは3つで足ります。

  • その人は、その場にいたのか(誰かから聞いた話ではないか)
  • その人が見たのは、肝心の場面の前か、最中か、後か
  • 同じ場面を、ほかの記事はどう書いているか

くわしい描写が増えるほど、全部を見た人がいるような気がしてしまうもの。

けれど実際に増えていたのは、前と後の場面でした。

けがをした女性がいる事件なので、描写の細かさより、誰が何を見たのかを確かめながら、落ち着いて続報を待ちたいところですね。