冨樫義博のXに、2026年10月5日の夜、いつもの「原稿完成。」とは違う投稿がひとつ。

心身の不調が重なったので、いま受けている依頼を最後に、締切がある仕事の依頼はすべて断って自分の原稿を優先する、という知らせでした。

読んで真っ先に浮かぶのは、体は大丈夫なのかという心配ですよね。

そしてもう一つ、ネットで多くの人が首をかしげていたのが、締切がある仕事っていったい何のことなのか、という点。

ハンターハンターの原稿こそ締切の代表のように思えますが、いまの原稿には、少し変わった事情があって。

今回は、冨樫義博が断った締切のある仕事とは何なのか、ハンターハンターの原稿とどう違うのかを、進捗ポストの読み方もまじえてわかりやすく解説していきたいと思います。

進捗報告ではなかった10月5日の投稿

冨樫義博がXに書いたのは、次の文章。

「心身の不調が重なり、現在お受けしている依頼を最後に、今後は締切がある仕事の依頼を全てお断りして自身の原稿作成を優先する事にしました。」

「原稿作成が再開しましたら又こちらで発表します。」

投稿されたのは10月5日の夜7時すぎで、各社がその日のうちに記事にしています。

報道によると、9月26日に加筆修正の完了を報告して以来、9日ぶりの投稿だったとのこと。

ふだんの冨樫義博のXは、「No.428、原稿完成。」のような短い報告がほとんどです。

そこへ不調という言葉が出てきたので、驚いた人が多かったのも無理はありません。

 

返信には「どうかご自愛ください」「無理しないでください」という声が並びました。

スポーツ紙の記事でも、「逆に原稿優先してくれてありがとうやで」というファンの声が紹介されています。

回復の効果を持つ作中のカードの画像を送って、「誰か……冨樫先生に大天使の息吹を……」と書く人もいたそうです。

ただ、心配と同じくらい目立っていたのが、ある種のツッコミでした。

いちばん大きな反応を集めていた返信は、「だれだよ 締め切りのある仕事を冨樫に依頼してるやつ」。

ファンからすれば、冨樫義博にはハンターハンターだけを描いていてほしい、という気持ちがありますよね。

だからこそ、ほかにも締切のある仕事を抱えていたこと自体に、まず驚いたのでしょう。

 

その横で、静かに受け止めている人もいました。

暗黒大陸編はいつ未完で終わっても納得する心構えでいるけれど、描き続けようとしている意思は長く果たされてほしい、という投稿です。

読み落としやすいのは、最後の「原稿作成が再開しましたら」という一文。

再開したら知らせる、と書いてある以上、いまは原稿の作業もいったん止まっていると読めます。

不調の中身について、本人は何も書いていません。

9月のXに並んでいた原稿以外の仕事

では、締切がある仕事とは何なのでしょうか。

手がかりは、冨樫義博自身のXにありました。

9月の投稿をさかのぼると、ハンターハンターの原稿とは別の仕事が、いくつも報告されています。

 

9月15日の夕方には、「依頼イラスト完成。」という投稿。

同じ日の夜には「No.428、原稿完成。」と続いていて、原稿と依頼の仕事を同じ日に仕上げていました。

9月の下旬には「単行本表紙カラー完了。」、さらに411話から420話の加筆修正を終えたという報告も出ています。

原稿以外の仕事は、次の3つ。

  • 誰かから頼まれたイラスト
  • 単行本の表紙に使うカラーの絵
  • 雑誌に載った話を単行本にまとめるための加筆修正

どれも、ハンターハンターの続きとは別の作業です。

そして、発売日やお披露目の日が先に決まる仕事には、たいてい締切がついて回ります。

単行本で言えば、本屋に並ぶ日から逆算して、表紙や修正の上がる日が決まっていくはずです。

返信欄の「誰が頼んでいるのか」という問いに、はっきりした答えは出ていません。

依頼イラストの依頼主を、本人は書いていないんです。

ネットでは出版社を責める声も出ていましたが、どこまでが出版社の仕事で、どこからが別の依頼なのかは、外からは分かりません。

確かなのは、9月の冨樫義博が、原稿と並行して締切のある仕事をいくつも抱えていたということだけ。

今回の宣言は、その並行をやめる、という意味に読むのがいちばん素直だと思います。

ハンターハンターの原稿だけ締切がない

とはいえ、ハンターハンターの原稿だって、雑誌に載る以上は締切があるのではないかと思いますよね。

実は、いまのハンターハンターは、そこが少し違います。

少しさかのぼると、ハンターハンターは2018年の秋から長く載らない時期が続き、2022年10月24日に391話から週刊での掲載が始まりました。

そこから毎週載り続けて、400話が載ったのが2022年12月26日発売の号です。

その同じ日、週刊少年ジャンプ編集部は、ハンターハンターの掲載の形を変えると発表しました。

「冨樫先生の体調などを鑑み、先生と編集部とで相談をした結果、今後は週刊連載ではない掲載形態で皆様にお届けすることになりました」という説明です。

同じ号の巻末で、冨樫義博は「極力他の方々に迷惑がかからない形で継続していければと思案中です」とコメントしていました。

それ以来、ハンターハンターは原稿がある程度そろってから、まとめて載る形になっています。

 

直近では、2024年10月7日から12月9日にかけて401話から410話が、2026年6月29日から9月7日にかけて411話から420話が載りました。

つまり、毎週の締切に追われて描く形を、編集部と話し合ってやめているんです。

原稿の進み方を見ると、それがよく分かります。

雑誌に載ったのは9月7日の420話までですが、本人のXを見ると、427話の原稿がその時点でもう完成していました。

428話の完成報告も9月15日で、掲載より何話も先に、原稿が進んでいたんです。

そう考えて冒頭の宣言を読み直すと、意味が少し変わって見えてきます。

冨樫義博が断ったのは、仕事というより締切のほうなんです。

2022年にハンターハンターの原稿から外した締切を、今度は残りの仕事からも外す宣言だった、と読めます。

 

2022年に自身の展覧会へ寄せたメッセージで、冨樫義博は腰を痛めていた時期をこう振り返っていました。

「2年ほど椅子に座れない状態で描けませんでしたが、従来のやり方をあきらめることで現在は何とか執筆を再開しております」。

従来のやり方をあきらめる、という選び方は、今回が初めてではないんですよね。

雑誌の巻末にも、いまのハンターハンターには「休載」の文字が出ません。

週刊連載ではないので、休んでいるという扱いにはならないそうです。

同じ理由で、公式の発表も「連載再開」ではなく「掲載」という言葉を使っています。

進捗ポストを読むための4つの言葉

いまのハンターハンターの状況を知るいちばんの手がかりは、冨樫義博のXです。

進捗ポストによく出てくる言葉は、次の4つ。

  • 原稿完成=その話数の原稿が描き上がったという報告。いちばん分かりやすい進み具合の目安
  • 背景指定書=名前のとおり、背景の描き方を指定する書類とみられる。原稿の仕上げに入る手前の段階
  • 加筆修正=雑誌に載った話を、単行本用に描き直す作業
  • 表紙カラー=単行本の表紙に使うカラーの絵

このうち、新しい話が進んでいる合図は、原稿完成と背景指定書の2つです。

加筆修正と表紙カラーは、すでに載った話を本にまとめる側の仕事にあたります。

直近の単行本は、2026年7月3日に発売された39巻でした。

9月の加筆修正と表紙の報告は、その次の巻へ向けた作業だとみるのが自然でしょう。

 

面白いのは、番号の順番どおりに1本ずつ仕上げているわけではないところ。

8月30日には430話の背景指定書ができたと報告していて、9月1日に427話の原稿完成を報告していました。

何話かを同時に進めながら、できた順に知らせているように見えます。

2024年7月27日には、「ネーム、原稿、カラー、台詞入れ、指示書作成 同時進行中。」と書いていたこともありました。

ネームは、原稿を描く前に、コマ割りと台詞の流れを決めておく段階のことです。

いくつもの工程を、いくつもの話数で同時に回している様子が、この短い報告からも伝わってきます。

430話の報告の最後に添えられていた「おやすみなさい。」には、つい笑ってしまった人もいたはずです。

もう1つ知っておくと便利なのが、掲載の知らせがどこから来るかという点。

2026年の411話のときは、集英社が6月22日に発表して、6月29日発売の号に載りました。

冨樫義博のXで原稿が進んでいても、いつ載るかを決めて知らせるのはジャンプ側です。

なので、進捗ポストだけを見て次の掲載日を言い当てることは、誰にもできません。

今回いちばん大事なのは、本人が最後に書いた一文。

原稿作成が再開したら、またXで発表すると書いてあります。

次に冨樫義博のXで原稿完成や背景指定書という言葉を見かけたら、それが再開の合図とみてよさそうです。

前にも止まって、また戻ってきた

今回の投稿で、もう続きは読めないのではと不安になった人も、少なくないはず。

ただ、冨樫義博がXで仕事の手が止まっていると打ち明けたことは、前にもあります。

2024年11月には、「11月末くらいまで不定期投稿になりそうです」と書いていました。

漫画家の楳図かずおの訃報に触れて、「現状がしんどいです」と心境を明かした投稿です。

そのあとも原稿は少しずつ進み、2026年の夏には、411話からの10話がちゃんと雑誌に載りました。

返信欄には、こんな声も。

「若い頃は富樫仕事しろとか思っていたけど自分が中年になると体調不良で仕事がきつい日が増えて少しは気持ちがわかるようになった」。

読んで、思わずうなずいた人も多かったのではないでしょうか。

40代を過ぎると、気力があっても体がついてこない日は、誰にでもあります。

そういう日に締切がいくつも重なっていたら、どれか1つを手放すしかありません。

冨樫義博が手放したのは、ハンターハンター以外の締切でした。

仕事を減らすと決めるのは、続けるために残すものを選ぶことでもあるんですよね。

「漫画だけで十分なんです」と書いた人もいれば、「健康第一、原稿第二でお願いします」と書いた人も。

後者の一言が、ファンの気持ちをいちばん短く言い表している気がします。

 

いつ原稿が再開するのかは、本人も書いていません。

ただ、締切を外したハンターハンターの原稿は、前にもそうやって少しずつ戻ってきました。

次の「発表します」がXに出る日を、気長に待ちたいところですね。