2026年10月8日の夕方、北海道苫小牧市の運送会社の敷地で、トラックのタイヤが破裂しました。

タイヤの近くで倒れていた50代後半の男性従業員は、病院へ運ばれましたが、亡くなったと報じられています。

仕事の途中で命を落とされたと思うと、やりきれない知らせです。

しかも男性は、空気を入れていたのではなく、タイヤ交換のために1人でタイヤを運んでいたところだったと報じられています。

運んでいるだけのタイヤが、なぜ人の命を奪うほどの破裂を起こすのか。

今回は、苫小牧のタイヤ破裂事故で分かっていることと、タイヤ交換で働く人を守る決まりが、どの作業までを対象にしているのかを見ていきます。

運送会社の敷地で起きた破裂

北海道文化放送の報道によると、事故が起きたのは苫小牧市一本松町にある運送会社の敷地内で、10月8日の午後4時10分ごろ、「大型車両のタイヤがバーストした。男性が負傷している」という通報が、消防から警察へ入ったそうです。

男性が1人でタイヤを運んでいたところ、「バンッ」という破裂音を聞いた別の従業員が駆けつけると、破裂したタイヤの近くに男性が倒れていたとのこと。

駆けつけた従業員にけがはなかったそうですが、破裂音を聞いて走っていき、倒れている同僚を見つけた人の気持ちを思うと、胸が詰まります。

警察は、当時の状況と、タイヤが破裂した原因を調べているところ。

報道が伝えているのは、ここまでです。

タイヤが新しいものだったのか古いものだったのか、空気を入れたばかりだったのか、どこが裂けたのかは、いまのところ分かっていません。

 

ネットには「タイヤを運んでいたら破裂したとかちょっと意味わからんな」と首をかしげる声もありました。

ガソリンスタンドの棚や駐車場の隅で見かけるタイヤは、ただのゴムの輪にしか見えないので、そう感じるのは自然なことだと思います。

ただ、タイヤの破裂そのものは、決して遠い出来事ではないんです。

道路を走る車の話ではありますが、静岡県警の高速隊は今年の春、高速道路の上では毎日どこかでバーストが起きている、と呼びかけています。

空気の入ったタイヤが裂けること自体は、毎日のように起きているということですよね。

大型タイヤが中に抱えている力

ネットでは、大型車のタイヤが破裂したときの力の大きさを心配する声が並びました。

その大きさは、数字にするとはっきりします。

イギリスで労働安全を担当している安全衛生庁(HSE)は、整備工場向けの案内で、空気の入ったタイヤは大量のエネルギーをため込んでいるとのこと。

同じ案内には、一般的な商用車のタイヤの側面は、荷物を積む前の時点で、中の空気から34トンを超える力を受けている、とも書かれていました。

ところが、どこか1か所でも弱っていると、押さえ込まれていた力が、裂け目から一気に外へ出てきます。

HSEの案内は、そのとき爆発のような力が裂け目から斜め方向にまで飛び出し、長年にわたって多くの死亡事故につながってきた、と説明しているんです。

なお、乗用車のタイヤは中の力がずっと小さく、同じ案内でも、乗用車には破片を止める囲いまではふつう要らないとされているそうです。

 

日本でも、タイヤの空気の力で人が亡くなった事故の記録が残っています。

2020年には福島県の運送会社の作業所で、移動式クレーンのタイヤに空気を入れていた労働者が、漏れ出した空気の力でタイヤやホイールの部品ごと吹き飛ばされ、亡くなりました。

会津労働基準監督署は、会社が特別教育をしていなかったことと、破裂したタイヤが飛ぶのを防ぐ器具を使わせていなかったことを突き止め、会社と社長を書類送検したとのこと。

労基署によると、会社は「危険ではないと思っていた」そうです。

見た目がただの黒い輪であることが、危なさを見えにくくしているのかもしれません。

囲いが義務になるのは空気を入れる間だけ

では、日本の決まりは、この力からどうやって作業する人を守っているのでしょうか。

手がかりは、労働安全衛生規則という厚生労働省の規則の中にある、タイヤについての条文。

第328条の2は、トラックや乗用車のタイヤをホイールにはめて組み立てるときに、空気圧縮機で空気を入れる作業をするなら、事業者は「安全囲い等破裂したタイヤ等の飛来を防止するための器具」を使わせなければならない、と定めています。

安全囲いというのは、タイヤを入れておく頑丈な檻のような囲いで、空気を入れている最中に破裂しても、破片や輪が外へ飛ばないようにするための道具です。

あわせて同じ規則の別の条文は、同じ「空気を充てんする業務」に就く人に、特別教育という決まった講習を受けさせるよう事業者に求めています。

条文には、どちらも「タイヤの破裂等による危険を防止するため」という目的が書かれていました。

 

ただ、対象になっている作業は、はっきり区切られています。

囲いと講習が求められているのは、空気を入れている間の作業です。

空気を入れ終えて囲いから出したタイヤを運ぶ、車に取り付ける、といった作業については、この2つの条文は触れていません。

ところが、中に抱えている力は、空気を入れ終えたあとも残ったまま。

 

そして今回の男性は、報道によれば、タイヤを運んでいたところ。

整備の現場には、走っている途中で傷んだタイヤも持ち込まれます。

見た目だけでは、中の繊維がどこまで弱っているかは分かりません。

 

もちろん、今回のタイヤがどんな状態で、なぜ裂けたのかは、まだ調べている最中。

決まりが足りなかったから起きた、と言い切れる事実は、いまのところ報道のどこにも出ていないんです。

空気を入れ終えたあとのタイヤをどう扱うかは、現場の手順と一人ひとりの知識に任されています。

報道にある「タイヤを運ぶ」という作業も、この2つの条文が囲いを求めている作業には入っていないんですよね。

溝が残っていても来る替えどき

今回のニュースのあとで、こんな声も出ていました。

「せっかく製造年月が書いてあるんだから溝が残っていても5年で使用禁止とかにするべきでは?」

原因はまだ調べている最中なので、この事故とタイヤの古さが関係しているかどうかは、いまは何とも言えません。

ただ、疑問そのものはもっともなものだと思います。

実際、何年たったら使えなくなる、という線は、法律の側には引かれていません。

 

代わりに目安を出しているのは、タイヤを作る側です。

ブリヂストンやヨコハマタイヤは、使い始めて5年たったタイヤは、使い続けてよいかを販売店などで点検してもらうよう呼びかけています。

さらに、作られてから10年たったタイヤは、見た目がしっかりしていても新しいものに交換するようすすめているそうです。

ゴムは年月とともに少しずつ硬く、もろくなっていくので、溝の深さだけでは寿命が測れないというのが、その理由。

タイヤがいつ作られたかは、側面に刻まれた4桁の数字で確かめられます。

前の2桁が製造された週、後ろの2桁が製造された年で、たとえば「1220」なら2020年の12週目に作られたタイヤ、という読み方。

今回の事故は大型トラックの話で、乗用車とは中の力の大きさが違います。

それでも、自分の車のタイヤの4桁を一度見ておくことは、家の駐車場で今日すぐにできる確かめ方の1つです。

 

タイヤ交換は、季節の変わり目になれば多くの家庭や職場で当たり前に行われる作業ですよね。

その当たり前の作業の途中で、一人の方が家に帰れなくなったと思うと、言葉が見つかりません。

亡くなられた男性のご冥福をお祈りいたします。

 

この記事で参考にした情報

  • 北海道文化放送(UHB)の報道(2026年10月9日配信)
  • 労働安全衛生規則 第36条・第328条の2(e-Gov法令検索)
  • 英国安全衛生庁(HSE)「Tyre removal, replacement and inflation」
  • 労働新聞社「【送検事例】空気充てんに係る特別教育怠る」(2020年7月15日掲載)
  • くるまのニュース「タイヤ交換面倒?でも放置は危険です!」(ブリヂストン・ヨコハマタイヤの案内の紹介)