「何の被害届?笑」

タレントのMattが、2026年10月28日の午後にインスタグラムのストーリーズへ書き込んだ一言です。

その日の昼、週刊文春は、Mattから性被害を受けたとして警視庁に被害届が出ていたと報じていました。

届けは一昨年から今年にかけて3通、出した人のうち2人が取材に答えているそうです。

訴えた人は「すでに警察にも被害届を出しました」と話し、Mattは「何の被害届?」と書く。

行為があったかどうかは、どちらか一方の言い分しか本当にはなれません。

ただ、「届けが出ている」と「何の被害届?」の食い違いだけは、両方が本当でも起きてしまうことがあるんです。

今回は、報道と本人の言い分を並べて、被害届が出されたあとに何が起きるのかを整理します。

3通の被害届と全面否定

週刊文春によると、タレントのMatt(32)について、一昨年から今年にかけて警視庁に3通の被害届が出されていたとのこと。

届けを出した人のうち2人が、「Mattに不同意で性的行為をされた」という趣旨を取材に語っていると報じられています。

そのうち都内に住むAさんは、今年の初めに東京・西麻布の会員制バーで出会い、数時間のうちに大量のテキーラを飲まされたと話しているそうです。

気づいたときには自宅のベッドの上にいて、「本当にやめてください」と何度頼んでも、相手は止まらなかったといいます。

取材に答えた2人のなかに、「行為中に撮影もされて本当に屈辱でした」と話した人がいることも、記事は伝えていました。

Aさんは「最初は、自分さえ我慢していればすべて丸く収まる、と思っていました」とも語っています。

それでも被害届を出し、先日は検察庁にも足を運んで、長い時間話を聞かれてきたそうです。

 

一方で、Matt側の代理人の弁護士は、どのケースについても相手と面識があることなどは認めながら、性的な行為そのものは否定しました。

返ってきた答えは、「そのような事実はありません」という一言です。

2人の告白の詳しい中身は、電子版の続きと、10月29日発売の誌面に載っているとのこと。

 

行為があったかどうかという根っこのところで、2人の訴えとMatt側の言い分は正反対を向いたまま。

ネットには、「信じてたのに」と肩を落とす声と、「文春だし、現時点では虚偽の可能性もあるからな〜」と距離を置く声が、同時に並んでいました。

もう一つ目立ったのが、元巨人の桑田真澄の次男であるMattの記事に、《桑田真澄は直撃に…》と父の名前まで並んだことへの反発です。

「三十路過ぎたオッサンの話にわざわざ父親引っ張ってくんなよ」という声もありました。

32歳の大人の話なので、父の名前が並ぶことに引っかかる気持ちはよくわかります。

ちなみに週刊文春は、Mattと父の所属事務所が、母が代表を務める家族の会社だとも書いていて、父を直撃した理由はそのあたりにもありそうですね。

「何の被害届?」と食い違う理由

報道が出たあと、Mattはインスタグラムのストーリーズで続けざまに反論しました。

文春に向けて「本当に笑っちゃうわ」と書き、新潮からも取材を受けたものの、弁護士を通じて説明したら記事は取り下げられた、と自分の側の経緯を明かしています。

「この虚偽内容の裏付けや証拠がしっかりとこちらにある」とも書いていました。

Mattがストーリーズに「今まで一度も警察からご連絡いただいたことがございません」と書いていたことも、報じられています。

 

3通の届けが出ているのに、本人のもとには警察から何の連絡も来ていないという食い違い。

そんなことが本当にあるのか、と引っかかりますよね。

警察の捜査の決まりである犯罪捜査規範は、被害の届け出があったら「これを受理しなければならない」と定めています。

ところが、その規範にも刑事訴訟法にも、届けが出たことを疑われている人に知らせなければならない、という決まりは見当たりません。

むしろ刑事訴訟法196条は、捜査に関わる人に、疑いをかけられた人などの「名誉を害しないように注意し」と求めています。

捜査は本来、外からも、疑われている本人からも見えにくいところで進むもの。

Mattはストーリーズで、警視庁などが「虚偽の情報漏洩に関与してる」とも書いていますが、そこは本人の主張で、裏付けは示されていません。

 

被害届とよく似た言葉に、告訴があります。

被害届は「こんな被害にあいました」と警察に知らせるもので、告訴は「相手を罰してほしい」という意思まで伝えるもの。

告訴を受けた警察は、刑事訴訟法242条で「速やかに」書類と証拠を検察官に送らなければなりません。

告訴でなくても、警察が捜査をしたときは事件を検察官に送るよう、同じ法律の246条が定めています。

どちらの手続きだったのかは、外からはわかりません。

それでも、Aさんが検察庁で話を聞かれたということは、事件が警察で止まらずに検察まで進んでいる、と読むのが自然でしょう。

届けが出ていることと、本人に連絡が来ていないことは、同じ時期に並んでもおかしくありません。

この食い違いだけでは、どちらかが嘘をついている証拠にはならないんです。

 

Mattのストーリーズは、そのあと訴えた側の職業や体調のことにまで触れていました。

性別くらいならまだしも、そこまで書くと、身近な人には誰のことか見当がついてしまうかもしれません。

Mattが逮捕されたという話ではありませんが、法律は、不同意性交等の事件では、逮捕状を見せるときでさえ、被害を訴えた人の名前や住所を伏せた書面を使える仕組みまで用意しています(刑事訴訟法201条の2)。

どちらの言い分が正しいにしても、まだ何も決まっていない段階でそこまで外に出ていくのは、少し心配になります。

男性どうしでも罪になる条文

ネットで目立った疑問が、被害を訴えた人は男性なのか女性なのか、でした。

「被害女性とは一言も書いてない」と気づいた人もいて、たしかに週刊文春の無料で読める部分は、被害を訴える人を「Aさん」とだけ書いています。

その答えに近いものが書かれていたのは、Matt本人のストーリーズの中。

「この人たち全員私よりも体の大きい男性です」と書いていました。

 

では、男性どうしでも不同意性交になるのでしょうか。

答えは、なります。

2017年の刑法の改正で、それまでの強姦罪が強制性交等罪に変わり、被害者の性別を問わなくなりました。

同じ改正で、被害を受けた人の告訴がなくても裁判にかけられる罪に変わっています。

2023年7月からは名前が不同意性交等罪になり、刑法177条の条文には、した人の側にも、された人の側にも、男性や女性という言葉が出てきません。

 

もう一つ大事なのは、この罪が体の大きさや力の差を条件にしていないこと。

条文が問うているのは、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」だったかどうかです。

その原因として、暴行や脅迫と並んで、「アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること」も挙げられています。

だから「体の大きい男性」だという事情だけでは、罪になるかどうかの答えは出ません。

 

「被害者が男性ならスルーされる」という声も上がっていました。

数字を見ると、男性の被害はそもそも表に出てきにくいことがわかります。

内閣府が2023年度に行った調査では、不同意性交等の被害にあったことがある人は、女性の8.1%、男性の0.7%でした。

被害を受けた人全体のうち、どこにも相談しなかった人は55.7%。

警察に連絡・相談した人は、わずか1.4%にとどまっています。

男性で被害を答えた人は10人と少なく参考程度ですが、そのうち誰かに相談した人は2人だけでした。

被害の多くは、警察までたどり着かないまま。

だから、届けを出すところまで行った人が越えた壁は、低くなかったはずです。

それでも、届けを出したという事実と、訴えの中身が本当かどうかは、まったく別の話。

そこを決めるのは、このあとの手続きです。

白黒を知らされる人は限られる

ネットに並んでいるのは、結局「どこまで本当なのか」という声。

「真実ならエグいけど無実なら文春ヤバい」というのが、多くの人の正直なところかもしれません。

では、その答えはいつ、誰のところに届くのか。

検察が起訴すれば、裁判は公開の法廷で開かれ、何があったのかが表に出てくるはずです。

ところが、不起訴(起訴しないこと)になった場合は、話がだいぶ変わってくるんですよね。

 

もし告訴をしていた場合、刑事訴訟法260条は、検察官が処分を決めたら、告訴した人に「速やかに」知らせるよう定めています。

告訴した人が求めれば、起訴しなかった理由まで告げなければなりません。

一方で、疑いをかけられた側に告げられるのは、求めたときに「不起訴になった」ということだけ(259条)。

そして、世間に知らせなければならないという決まりは、どこにもありません。

しかも不起訴にはいくつか種類があり、証拠がそろわなかった場合も含まれるので、そのまま「無実が証明された」という意味にならないのも、ややこしいところ。

外にいる私たちは、どちらだったのかを知らされないまま終わることもあるわけですね。

 

Mattはストーリーズで「正式に闘いましょう」「受けてたちます」とも書いています。

日付が29日に変わったころには、Mattのインスタグラムに、所属事務所の株式会社Rose World名義で「一部報道に関するご報告と見解につきまして」という文書も載りました。

行為については「本人および代理人弁護士がこれを明確に否定しております」とし、事務所としても「そのような事実はないものと認識しております」とのこと。

そのうえで「法的措置も視野に入れて適切に対応してまいります」と書き、Mattの活動は「現時点で変更はございません」としています。

投稿に添えられていたのは、「皆様の力が必要です。協力して下さい。」という一言でした。

何に協力してほしいのかまでは、書かれていません。

今後は文春との間で、名誉をめぐる裁判のような別の争いが始まる可能性もありそうです。

続報が出たときは、見出しに出てくる手続きの言葉を確かめてみるのがおすすめ。

  • 「被害届」「告訴」=訴えた側が動いた段階
  • 「書類送検」=警察が検察へ事件を送った段階
  • 「起訴」=検察が裁判にかけると決めた段階

どの言葉で報じられているかで、手続きがいまどこまで進んでいるのかが見えてくるはずです。

「自分さえ我慢していれば」と思っていた人にとっても、「何の被害届?」と書いた本人にとっても、答えが出るまでの時間はきっと長くなります。

それまでは、どちらの声にも石を投げずに見ておきたいですね。