いつもバッグに入っている、吐き気止め。

登録者116万人のYouTuber・きりまるが、10月31日に公開した動画で、子どもはほしいのに「子どもが作れない」と打ち明けました。

理由として挙げたのは、極度の嘔吐恐怖症と、パニック障害です。

吐くことが怖い人には、妊娠すると多くの人が経験するつわりが、逃げ場のない長いトンネルのように見えてしまいます。

このニュースへの反応には、自分も同じ理由で怖いという声が続き、同じ悩みを持つ人が「なんで妊娠するの?」という言葉を向けられた経験を書いた投稿もありました。

怖いものは怖い。

そのうえで、きりまるが動画で口にした不安のうち、調べれば答えが出るものを1つずつ確かめていきます。


嘔吐恐怖症のきりまるが「子どもが作れない」と話した理由

動画のタイトルは「結婚して人生最大の悩みができた」。

きりまるは今年1月、6歳下の夫「ポテ」との結婚を発表しています。

それ以来、友人やSNSのコメント、DMで「いつ子ども作るの」「妊活は?」と何度も聞かれるようになったそうです。

動画では、いまは妊娠しておらず、妊活もしていないとはっきり話していました。

自分や他人が吐く姿や声に触れるだけで、吐き気や動悸、震えが出て、パニックになることもあるといいます。

電車にはできるだけ乗らず、夫が酔って帰ってトイレへ向かうときは、耳をふさぐか音楽を大きな音で流すとのこと。

妊活に踏み出せない理由の8割はこの怖さだ、と本人は話しています。

 

動画で語られた不安は、この4つ。

  • つわりがいつ始まり、どのくらい耐えればいいのか
  • 母親のつわりが重く、それが遺伝するかもしれないこと
  • 妊娠中にパニックになったとき、薬が飲めないかもしれないこと
  • 入院していた20歳ごろ、看護師に帝王切開になると言われたこと

お腹が大きくなっていくことを「逃げられない」と感じる、とも話していました。

それに、将来に向けて体を調べるブライダルチェックも、いつ受けるか迷っているそうです。

同じ怖さを抱えている人は、きりまるだけではありません。

動画の最後に、きりまるは乗り越えた人の経験談など、どんな情報でも教えてほしいと呼びかけていました。

 

つわりはいつまで?母親が重いと遺伝する?

まず、いつ始まって、いつ終わるのか。

厚生労働省の「働く女性の心とからだの応援サイト」のコラムで、東京大学の百枝幹雄講師は、つわりは「だいたい妊娠6週頃から始まって妊娠12週頃には落ち着くことが多い」と書いています。

京都府の子育てQ&Aも、5〜6週目に始まって12〜16週ごろに自然とおさまる、という目安です。

ただ、同じQ&Aには、5か月を過ぎても続いたり、お産まで続いたりすることもある、とあわせて書かれていました。

そして、きりまるのお母さんは長引くタイプで、弟さんや妹さんを妊娠したときは臨月まで続いたと聞いているそうです。

 

もうひとつ知っておきたいのは、つわりは必ず吐くものではないということ。

このニュースへの反応にも、「私も両方あるけど出産したよ」「ちなみに私は一回も吐かなかったよ」という声がありました。

反対に、気持ち悪いのに吐けないまま続くのがつらかった、と書いている人もいます。

水も十分に飲めなくなったら、それはもう我慢する段階ではありません。

百枝講師のコラムは、その状態を妊娠悪阻という病気だと、はっきり書いています。

京都府のQ&Aも、脱水や体重の減り方がひどければ点滴や薬、入院が必要になることがあるので医師に相談を、としていました。

だから、吐き気をひとりで耐えきる前提で考えなくていいんですね。

 

次に、遺伝の話。

きりまるは動画で、つわりの重さは遺伝すると聞いて「その可能性がある血を受け継いでいる」と思うと、妊娠へのハードルが上がると話していました。

お母さんのつわりが妊娠悪阻にあたるほどだったのかはわかりませんが、重いつわりの遺伝を調べた研究はあります。

2010年にイギリスの医学誌BMJに載った、ノルウェーの出生記録を使った研究です。

お母さんが妊娠悪阻だった娘のうち、自分も妊娠悪阻になったのは3%。

お母さんがそうでなかった娘では、1.1%でした。

お母さんが重いと、娘も重くなりやすいのは本当なんですよね。

でも、3%は100人のうち3人という数。

研究者自身も、家族で同じ食事や暮らし方をしている影響は除けない、と断っていました。

お母さんと同じになると決まっているわけではありません。


妊娠したらパニック障害の薬はやめるしかない?

このニュースへの反応には「パニックになった時妊婦だと頓服飲めないかもって不安もある」という声も。

きりまる自身も、薬が飲めなくなったらどうするか、という不安を挙げていたひとりです。

 

日本精神神経学会と日本産科婦人科学会が一緒にまとめた、妊娠中や産後の女性の診療ガイドがあります。

このガイドは、パニック障害(ガイドでは「パニック症」)も含まれる不安症を、強迫症とあわせて妊娠中や産後の女性にもっとも多くみられる心の病気として扱っているんですよね。

そのうえで、妊娠がわかってから飲んでいる薬をやめることについては「慎重に行うことが望まれる」と書いていました。

急にやめればいい、とはどこにも書かれていません。

不安をすぐにやわらげる薬として日本でよく使われる、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬についても、赤ちゃんへの影響は今日では大きくないと考えられている、としたうえで、使い方には注意するよう求めています。

そして、妊娠を考える段階で量を減らしたり、薬以外の治療へ切り替えたりすることを提案し、飲んでいるあいだに妊娠した場合は「無理のない範囲で減量」としていました。

妊娠する前から、主治医と薬の量を整えておくという順番です。

 

また、妊娠中の薬の扱いは、調査をもとに変わることもあります。

2025年4月25日の厚生労働省の会議では、吐き気止めのドンペリドンについて、薬の説明書(添付文書)で「使ってはいけない人」を並べた欄から、「妊婦」を外すことが認められました。

妊娠に気づかずに飲んでいた人が、必要以上に不安にならずに済むようにするための見直し、というのが国立成育医療研究センターの説明です。

ただし同センターは、つわりの治療に積極的に使う薬ではない、とも書いていて、きりまるの吐き気止めがこの薬なのかも、動画からはわかりません。

昔の言われ方が、いまの考え方と違っていることもあります。

脳外科医の木村俊運さんは、てんかんの薬を飲む女性がいまだに「妊娠してはいけない」と言われて受診してくる、という学会の話を紹介し、いまは妊娠できる年齢でも安全な薬がある、と書いていました。

一度言われた一言が、いまの考え方とずれていることもあるんですね。

 

なら、薬のことは誰に聞けばいいのか。

国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」は、厚生労働省の事業として、妊娠中や妊娠を希望する女性の薬の相談を受けている窓口です。

全国47都道府県の拠点病院に「妊娠と薬外来」があり、ウェブの問診から申し込むと、近くの病院でカウンセリングを受けられます。

申し込みの事務手数料は1,100円で、それとは別に病院ごとのカウンセリング料がかかるとのこと。

センターは、どの薬に変えるかを決めることまではしない、とも書いているので、聞いた内容を主治医のところへ持ち帰って一緒に決める形です。

まだ妊娠していない段階でも相談できるところが、いまのきりまるの状況にちょうど合う窓口ではないでしょうか。

 

パニック障害だと帝王切開になる?

きりまるが20歳ごろに看護師から言われたのは、「自然分娩だとパニックが出ちゃうから帝王切開になると思うよ」という一言でした。

この一言で思い描いていた出産の形が崩れた、と振り返っています。

先ほどの診療ガイドが、不安症の人への対応として要点に挙げているのは、治療のリスクと良い点を、患者や家族と話し合って一緒に決めるというやり方です。

パニック障害なら帝王切開、という要点は挙げられていません。

ガイドの書き方を見るかぎり、診断名だけでお産の方法が決まるものではなさそうです。

帝王切開だったかどうかは書かれていませんが、妊娠中もお産のときも、何度も発作を起こしながら出産を終えた人の投稿もあります。

きりまるは、1年後の結婚式が終わってから妊活を、と夫婦で話しているそうです。

その1年のあいだにも、できることがあります。

同じガイドの最初の章は、妊娠を考えている段階で受ける「プレコンセプションケア」についてでした。

そこには、3〜6か月ほど心の状態が安定していることを確かめてから妊娠をめざす、と書かれています。

迷っているブライダルチェックと一緒に、主治医へ「いつか妊娠したい」と伝えておくだけでも、準備は始められそうです。

なお、僕は専門家ではないので、薬やお産の方法については、必ず主治医や産婦人科の医師と相談してくださいね。

 

動画のなかで、きりまるは「つわり程度で、とか言ったらあれやけど、つわりで子どもを諦めるっていうことは本当はしたくないんよ」と話していました。

吐くことが怖い人にとって、つわりは「程度」では片づかない、とても大きな壁です。

同じ怖さを抱えている人も、まずは怖いと口に出していいはず。

怖いと言えたことが、もう準備のひとつなのかもしれませんね。

 

この記事で参考にした情報

  • ユーチュラ「きりまる、結婚後の一番の悩みを告白 極度の嘔吐恐怖症とパニック障害で『子どもが作れない』」(2026年11月7日配信)
  • 厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」専門家コラム「働く女性のつわりについて」(東京大学医学部 産婦人科学教室 百枝幹雄講師)
  • 京都府「子育てQ&A つわりがひどくてつらい」
  • Vikanes ÅV ほか「Recurrence of hyperemesis gravidarum across generations: population based cohort study」BMJ 2010;340:c2050
  • 日本精神神経学会・日本産科婦人科学会「精神疾患を合併した,或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド」(総論1 プレコンセプションケア/各論4 不安症,強迫症/各論12 妊産婦と向精神薬)
  • 国立成育医療研究センター「吐き気止めに使われる薬・ドンペリドンの“妊婦禁忌”解除へ」(2025年プレスリリース)
  • 国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター「妊娠と薬について知りたい方へ」