8月10日の正午ごろ、新潟市の角田浜海水浴場で、家族3人が沖へ流されました。

搬送された姉と弟が亡くなっています。

その2日前には、愛知県東栄町の鴨山川で川遊びに来ていた家族が流され、助けに水へ入った父親が亡くなりました。

海と川で場所は違っても、家族で水辺へ出かけて、流されて、という同じ形の事故がこの夏は続いています。

 

角田浜の家族は、ゴムボートを持っていました。

浜には朝から黄色い旗が出ていました。

沖へ引く流れは、その日その浜のどこかを走っていました。

どれも、水に入る前に知っていれば意味を持つことばかりです。

そして、どれも特別な訓練は要りません。

今回は、子どもと海へ行く前に知っておきたい離岸流と旗の見方について書いていこうと思います。

浮き輪より先に積むのはライフジャケット

ライフジャケットを海水浴に持っていく家族は、ここ数年で確かに増えました。

それでも浜辺を見渡せば、着けている子どもはまだ少数派です。

川遊びやボートでは当たり前になってきたのに、海水浴となると「そこまでしなくても」という感覚がまだ残っています。

わが家の車に積むものを思い出してみてください。

浮き輪、ビーチボール、水鉄砲、日焼け止め、クーラーボックス。

そのリストにライフジャケットが入っている家庭は、まだそれほど多くありません。

 

角田浜で流された家族も、ゴムボートは持って行っていました。

ゴムボートは、水に浮かべてその上に乗る遊具です。

海水浴場でよく見かける、あのボート型のもの。

そして3人とも、ライフジャケットは着けていなかったと報じられています。

浮くもの、つまり遊具は用意する。

でも身に着ける浮力までは考えていません。

どの家庭でも、同じ選び方をしています。

 

ただ、この2つは別のものです。

浮き輪やゴムボートは、手が離れれば体から離れます。

波にあおられて体が落ちれば、先に行ってしまうのは遊具のほう。

ライフジャケットは体から離れません

波を受けて水中で姿勢を崩しても、浮いたまま顔を水面の上に出していられます。

つまり、浮くもので遊ぶか、自分が浮いているか

 

子ども用は数千円から手に入ります。

しかも海でも川でも使えるものが多いので、夏に一度買えばその年の水辺はひととおりまかなえる計算になります。

浮き輪を買い替える金額と、そう変わりません。

車に積むものを決めるのは、家を出る前の数分です。

その数分だけは、玄関で少し立ち止まってもいいと思います。

浜に着いたらまず旗の色を見る

浜に着いたら、荷物を下ろす前に旗を探してください。

海水浴場の旗は、その日その時間の海の状態を色で知らせるものです。

黄色は、遊泳注意。

海に入ってよいけれど、気をつけて、という意味になります。

角田浜では、事故の日の朝から黄色い旗が出ていました。

当日の波の高さは30センチ。

数字だけを見れば穏やかな海です。

ただ、沖のうねりは1メートルありました。

波打ち際が静かでも、沖の水は動いています。

そういう日の合図が、黄色の旗でした。

 

そして、この浜をよく知る地元の人たちの受け止め方は、もう少し重いものです。

角田浜で「遊泳注意」が出ているのは、実質的には入るなという合図だという声があります。

同じ黄色でも、浜によって意味の重さが違う

これは、旗の色の説明書きには書かれていないことです。

 

見た目や数字が安心の材料にならないのは、水辺にかぎった話ではありません。

この夏、26歳のラグビー選手がチーム練習のあとに重度の熱中症で倒れ、亡くなっています。

その日の練習が始まったのは、日中を過ぎた16時50分でした。

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角田浜は事故のあと、遊泳禁止になりました。

泳ぐ前に浜から見分ける離岸流

離岸流というのは、岸から沖へ向かって流れる水の帯のことです。

海上保安庁の説明によると、幅はだいたい10メートルから30メートル。

流れの速さは最大で毎秒2メートルに達することがあり、これは競泳自由形の金メダリストとほぼ同じ速さになります。

沖へ数十メートル、ときには数百メートル先まで及ぶこともあるそうです。

つまり、大人が全力で泳いでも岸へ戻れない流れが、遊泳区域のすぐ横を走っていることがあります。

遊泳区域というのは、浜辺にブイやロープで示された「ここまでで泳いでください」の範囲のことです。

 

では、なぜそんな流れができるのか。

わかりやすいのは、銚子海上保安部の解説。

波は砂を運びます。

運ばれた砂が波打ち際の少し沖に積もって、水中にできるのが細長い高まり。

波はその高まりを越えて岸へ入ってきます。

入ってきた水は、当然どこかへ戻らないといけません。

でも高まりが壁になっているので、まっすぐ沖へは戻れず、岸に沿って横向きに流れます。

その横向きの流れが集まって、砂の高まりのいちばん弱いところを決壊させてしまう。

そこが、沖への通り道になります。

 

岬も堤防も要りません

砂が積もって、その一部が弱くなるだけ。

それだけで通り道はできてしまいます。

海上保安庁も、離岸流は海岸線のどこでも起こる可能性があると言っています。

特に起こりやすいのは、太平洋や日本海のような外洋に面していて、遠浅で海岸線が長く、波が海岸に対して真正面から入ってくる浜です。

日本の海水浴場の多くが、この条件のどれかに当てはまります。

 

泳ぐ前に、少し高いところから海面を眺めてみてください。

まわりでは波が白く崩れているのに、そこだけ崩れずに帯のようになっている場所。

水面が暗く見える場所。

泡やゴミが、岸へ寄らずに沖へ向かって動いている場所。

このどれかが見えたら、そこが通り道です

暗く見えるのは、水深が深いか、砂が巻き上げられているからだそうです。

 

この場所は離岸流が非常に発生しやすい。

そう証言したのは、角田浜で監視にあたってきた人でした。

角田浜は、新潟市でいちばん大きな海水浴場です。

600メートルの砂浜を毎日見ている立場からの言葉が、テレビの取材で伝えられています。

海面を眺めるのは、着替えて水に入る前の1分で足ります。

浮き輪とゴムボートは一気に沖まで流される

浮き輪やゴムボートに乗っているときは、自分では流されていることに気づけません。

角田浜の監視員も、浮き輪で浮いていたら一気に流される、と話していました。

足が底に着いていないので、動いているのが自分なのか水なのか分からなくなります。

しかも水面から出ている面積が大きいぶん、風も受けます。

浮いて楽をしている状態が、いちばん流されやすい状態でもあるということ。

 

角田浜の家族も、そこから始まりました。

午前10時半ごろに浜へ着いて、父親と13歳の娘がゴムボートに乗り、8歳の息子は波打ち際で遊んでいたと報じられています。

そのゴムボートが、遊泳区域より沖へ流されました。

気づいた息子が、泳いで向かいます。

父親が息子をゴムボートに乗せようとしたところで波にあおられ、3人とも水に落ちました。

娘は沖で漂流しているところをヘリコプターに救助され、父親は息子を抱えて角田岬の岩場まで泳いで、そこでヘリコプターに救助されています。

姉弟2人は、搬送された病院で亡くなりました。

目撃した人は、子ども2人の乗ったゴムボートが流されている、と通報しています。

浜から見ていた人の目にも、流されていることは分かりました。

浮いている本人だけが分からない状態。

 

海上保安庁は毎年、同じ注意を呼びかけています。

流された浮き輪やゴムボートを追いかけて溺れる事故が多いので、追いかけないでほしい、と。

浮き輪やビーチボールが沖へ動き出すと、私たちはとっさに手を伸ばします。

買ったばかりのものだったり、子どもがずっと楽しみにしていたものだったりすると、なおさら足が海へ向かってしまいます。

でも、それを運んでいるのは風か流れです。

人が泳いで追いつける速さで動いているとは限りません。

物は諦める

これを家族で先に決めておくと、当日その場で迷う時間がなくなります。

流されたら岸と平行に泳いで抜ける

流されたと気づいたときの動き方を、先に頭へ入れておきます。

まず、流れに逆らって岸へ泳がないこと。

離岸流の速さは最大で毎秒2メートル、金メダリスト級です。

正面から泳いで勝とうとすれば、体力だけが先に尽きます。

次に、岸と平行に泳ぐこと。

離岸流の幅は10メートルから30メートルほどで、沖へ長く伸びてはいても横には狭いもの。

横へ動けば、その帯から出られます。

抜けたと感じたら、そこで岸へ向かって泳ぐ。

もう泳ぐ力が残っていなければ、あお向けに浮いて助けを待ちます。

海上保安庁が呼びかけているのも、この順番です。

このあお向けが、いちばん大事かもしれません。

言葉で読むと簡単そうですが、いきなり海でやろうとしても、たいていうまくいきません。

だから、家のお風呂やプールで一度やっておいてください。

一度でも体で覚えていると、いざというときの体の動きが違います。

 

そして、海の事故の通報は118番です。

119番ではありません。

海上保安庁につながる番号で、覚えていないと、いざというときに携帯の画面の前で数秒止まります。

その数秒が惜しいので、今この行を読んだついでに、118と口に出しておいてください。

 

車にライフジャケットを積む。

浜に着いたら旗の色を見る。

水に入る前に海面を眺めて、波が崩れない帯や暗い水面を探す。

流れていった浮き輪やゴムボートは諦める。

流されたら岸と平行に泳ぐ。

無理ならあお向けで浮いて、118番。

どれも、お金も体力もほとんど要らないことばかりです。

 

今度の週末、うちの家族も海へ行くかもしれません。

そのとき、いちばん幸せなのは、今日の備えが一度も出番のないまま、日焼けした顔で全員そろって家に帰ることです。

亡くなられたお二人のご冥福を心よりお祈りいたします。