慶応大4年クレカ窃盗|余罪100万円まで気づかれなかった理由

慶応大学の4年生が逮捕された、というニュースが流れてきました。
場所は、アルバイト先のスポーツ施設。
盗まれたのは、更衣室のロッカーに入っていた女性客のクレジットカード1枚だったそうです。
そのカードで買われた化粧品は2個、金額はおよそ1万4000円と報じられています。
ここだけ読むと、若さと出来心の話に見えますね。
ところが警視庁は、余罪がおよそ100万円分あるとみて調べているとのこと。
1万4000円と、100万円。
この差が、どうしても引っかかるんです。
客のロッカーを開けたのは受付の女子大生
ジムやスポーツクラブに通っている人には、なじみの光景があります。
会員証を見せて、軽く会釈して、そのまま更衣室へ向かう。
あの数秒に、疑いを差し込む余地はありませんよね。
今回逮捕されたのは、その受付に立っていた人でした。
受付というのは、会員証を確認して、忘れ物を預かって、鍵の相談にも応じる持ち場ですよね。
利用者からすれば、施設のなかでいちばん頼りにする窓口。
報じられているところでは、逮捕されたのは慶応大学4年の女子大学生で、22歳だそうです。
容疑は、窃盗と詐欺の2つ。
今年4月、アルバイト先である東京・渋谷区のスポーツ施設で、50代の女性客のクレジットカード1枚を盗んだとされています。
そのうえで新宿区へ移動し、そのカードで化粧品2個を購入した疑いがもたれているそうです。
ここまでが、警視庁の発表として伝えられている部分になります。
手口として報じられているのは、こんな流れでした。
まず、施設の3階にある更衣室へ入ります。
そしてマスターキーを使って客のロッカーを無断で開けたとみられているそうです。
こじ開けたのでも、暗証番号を盗み見たのでもありません。
正規の鍵で、正面から開けています。
ここが、この事件のいちばん気持ちの悪いところなんです。
怪しい人物が防犯カメラに映るわけでもなく、壊された跡も残りません。
鍵を預かる立場の人が鍵を使っただけなので、痕跡が何も残らないというわけです。
受付は、施設のなかでいちばん信用されている場所。
その信用が、そのまま使われてしまった格好になります。
ジムの受付に鍵を預けるのは、疑っていないからではなく、疑う理由がないからですよね。
逮捕された日や、施設の名前は公表されていません。
報道の映像では、帽子を深くかぶった姿が映されていたとのこと。
盗んだカードで買った化粧品は1万4000円
次に引っかかるのが、金額です。
立件されたぶんの買い物は、化粧品2個でおよそ1万4000円と報じられています。
ブランドものの時計でもなく、旅行でもなく、現金の引き出しでもありません。
デパートの化粧品カウンターで、少し奮発すれば届く金額。
家計の感覚なら、家族でちょっといい外食を1回した分くらいでしょうか。
一方で、引き換えに失ったものの大きさは、まったく釣り合っていません。
慶応大学の4年生ということは、卒業まであと半年ほど。
就職活動を終えた人なら、内定先も決まっている時期でしょう。
積み上げてきた進路が、化粧品2個の隣に並んでしまったことになります。
うーん。
あと半年で終わるはずだった学生生活が、逮捕という形で切れてしまったことになります。
ネットでも、この釣り合わなさに反応が集まっていました。
バイト代で買えたはずなのに、という声。
あと半年だったのに、というぼやきも。
どちらも、多くの人が同じところでつまずいた証拠だと思います。
ただ、ここから先を学歴の話にしてしまうと、たぶん何も見えてきません。
慶応だから驚いた、という気持ちは自然なものですし、僕もそこで一度立ち止まりました。
でも、いい大学の学生が、で片づけると、同じことが自分の通う施設で起きる可能性を見落とします。
気になるのは、大学名ではなく金額の動きのほう。
1万4000円で終わっていない、というところです。
マスターキーは従業員なら誰でも持ち出せた
ここで、施設側の話に移ります。
報道を読んでいていちばん驚いたのは、容疑者の供述ではありませんでした。
マスターキーの置き場所です。
伝えられているところでは、マスターキーは2階の受付で管理されていました。
そして従業員であれば誰もが持ち出せる状況だったと報じられています。
誰が、いつ、何のために持ち出したのか。
その記録が残っていた、という説明は出てきません。
更衣室のロッカーを閉めるとき、私たちは自分の鍵だけを持って離れますよね。
だから、あの鍵は自分ひとりのものだと感じてしまうんです。
でも実際には、ほとんどの施設に合鍵があります。
ダイヤル式のロッカーだとしても、番号を控えている人はどこかにいるものです。
忘れ物、鍵の紛失、体調を崩した人の救助。
開けなければいけない場面は現実にあるので、マスターキーそのものは必要なものです。
問題は、あるかないかではありませんでした。
ホテルの客室にも合鍵はありますが、清掃や点検の担当が決まっていて、いつ誰が入ったかは記録に残ります。
学校の職員室の鍵も、誰かが勝手に持ち出して教室を開けてよいことにはなっていないはずです。
同じように、合鍵は、誰がいつ触ったかが分かってはじめて安全になります。
持ち出しの台帳が1冊あるかどうかだけで、この4か月は変わっていたかもしれません。
今回はそこが抜けていた、と報じられているわけです。
受付に立つ人を疑いましょう、という話をしたいのではありません。
むしろ逆でして。
持ち出しの記録がない仕組みは、まじめに働いている大多数の従業員も一緒に疑われる仕組みでもあります。
誰でも開けられたのなら、誰でも疑われることになるからです。
鍵の管理は、働く側を守るためのものでもあったということ。
衝動的という供述に無理がありすぎる
さて、供述のほうです。
調べに対して、女子大生はこう話していると報じられています。
「化粧品が欲しいと思って、衝動的にカードを使ってしまった」
カードについては「更衣室で拾った」と話し、容疑を一部否認しているとのこと。
この2つを並べると、言いたいことは分かります。
盗ってはいない、目の前に落ちていた、その場の勢いで使ってしまった。
1回だけの出来心なら、この説明でも筋は通りますね。
ただ、拾ったという説明は、盗んだ瞬間を見た人がいなければ崩しにくい言い方でもあるんです。
ところが警視庁は、まったく別の絵を描いています。
ほかの複数の利用客からも同じような手口でカードを盗み、あわせておよそ100万円分の買い物をしたとみているそうです。
複数の客、同じ手口、100万円分。
ここまで来ると、衝動というひと言では収まらなくなります。
衝動は1回目の理由にはなっても、2回目の理由にはなりません。
同じ手口を続けるには、鍵の在り処を知っていることと、開けても騒ぎにならないという感触の2つが要るはずです。
そして片方は、施設の側が用意してしまっていました。
拾ったカードを、つい使ってしまった。
そこまでは、まだ勢いで語れます。
でも次のロッカーを開けるとき、人はどうしても一度考えるものです。
そのとき何が背中を押したのか、そちらのほうが気になります。
ここで、時間を見てみましょう。
最初に立件された買い物は、今年4月のことでした。
そして報じられたのが、8月17日。
春に使われたカードの話が、夏の終わりになってようやく表に出てきた形。
およそ4か月、誰も気づいていなかったわけです。
1万4000円という額が、ここでもう一度効いてきます。
カードの明細に、見慣れない1万4000円が1行だけ紛れる。
金額として、それは不自然に大きいわけでもありません。
自分で買ったものを思い出せない月なら、そのまま通り過ぎてしまう帯です。
ロッカーには鍵がかかったままで、こじ開けられた跡も残りません。
財布もカードも、元の場所に戻っています。
気づく手がかりが、どこにも落ちていない状態でした。
つまり、こういうことになります。
最初の1万4000円が、次の1回の許可証になってしまったというわけです。
止める人が誰もいなかった、という言い方もできます。
4月の時点で明細の問い合わせが1件でも入っていたら、100万円という数字は生まれていなかったはずです。
そう考えると、この事件の分かれ目は、更衣室ではなく明細の側にあったことになります。
うちのジムのロッカーは誰が開けられる?
ここまで書いてきて、他人事にできなくなってきました。
ジムに通っている人のバッグには、たいてい同じものが入っています。
財布、スマホ、車の鍵。
ぜんぶまとめてロッカーへ放り込んで、1時間ほど走って戻ってくる。
そのあいだ、あの鍵は自分だけのものだという前提で過ごしています。
今回の件で分かったのは、そこが思い込みだったということ。
合鍵は、たいていの施設にあります。
あって当然のものなので、なくせという話にはなりません。
だとすれば、こちら側でできることは2つくらいでしょうか。
ひとつは、更衣室のロッカーへ入れるものを分けておくこと。
使わないカードを財布から抜いておくだけでも、盗られたときに気づく速さが変わります。
もうひとつは、明細の見方。
探したいのは大きな金額ではなく、身に覚えのない数千円から1万円台の1行のほうです。
カードの利用通知をアプリやメールで受け取る設定にしておけば、使われたその場で分かります。
今回の1万4000円も、まさにその帯でした。
被害に遭った利用客が何人いるのかは、まだ公表されていません。
余罪が立件されるのかどうかも、これからの話になります。
ひとつだけ確かなのは、誰かが明細のおかしさに気づいたから、4か月が止まったということ。
次にジムへ行ったら、ロッカーに何を入れて出るのかを一度見直したいところですね。
