2026年8月19日、竹中工務店の元社員が背任の疑いで逮捕されました。

逮捕されたのは、この会社で元大阪本店総括作業所長を務めていた61歳の男性。

大阪万博の会場工事で、現場のいちばん上に立っていた人です。

工事費を多めに請求させて、その分を会社に払わせていた疑いが持たれています。

続報で、金額と期間がはっきりしました。

下請けの口座へ振り込ませたのがおよそ2779万円、会社が受けた損害がおよそ1369万円です。

期間は2025年2月から6月

浮いたお金は、自宅や所有するマンション、親族が営む飲食店の改修費に充てられたとみられています。

さらに同じ日の午前11時すぎには、大阪府警が大阪市中央区の竹中工務店本社へ家宅捜索に入りました。

 

ニュースが出た直後から、Xでは「氷山の一角じゃないか」という声が広がっています。

あれだけ大きな工事で1369万円というのは、どこか中途半端な金額にも思えませんか?

今回は、この万博の現場で何がどう行われたのかについてわかりやすく解説していきたいと思います。

万博の現場トップが逮捕された理由

万博の現場トップと言われても、ぴんと来ないかもしれません。

この男性の肩書きは「総括作業所長」。

建設の世界では、ひとつの工事現場をまとめる責任者のことを「作業所長」と呼びます。

現場に集まる職人さんたちの上に立って、工程もお金も安全も、まとめて見る人のことです。

そこに「総括」が付くと、さらに広い範囲を束ねる立場になります。

現場を預かる人間としては、会社の中でいちばん上に近いところにいた、と思ってもらえば大きくは外れません。

 

では、竹中工務店は万博会場のどこを担当していたのか。

同社を中心とするJVが手がけたのは、会場のシンボルだった大屋根リングの西側700メートルと、パビリオンの工事でした。

JVというのは共同企業体のことで、ひとつの会社では抱えきれない大きな工事を、複数の会社が組んで請け負う仕組みのことです。

つまりこの男性は、あの木の輪の半分近くを預かる現場の頂点にいた人でした。

 

その人が、下請け業者と共謀して水増しした代金を、自分の会社に払わせた。

大阪府警の捜査2課はそう見て、背任の疑いで逮捕に踏み切りました。

 

逮捕の続報で、水増しの舞台もはっきりしてきています。

報道によると、容疑の中心にあるのはあの大屋根リングの工事費です。

万博でいちばん写真に撮られた場所、といっていい建物でした。

共謀したとされるのは、万博工事を請け負っていた奈良県内の土木建築会社の関係者です。

会社側は「この事態を厳粛に受け止め、警察による捜査に全面的に協力し、事実関係を確認した上で、会社として厳正に対処いたします」とコメントを出しました。

万博を運営した日本国際博覧会協会も「不正が事実であれば誠に遺憾」とコメントしています。

下請けに水増しさせる手口の中身

「まじめにやっている業者が、いちばん割を食うんじゃないか」

この一件を聞いて、まずそこが引っかかった人は多いと思います。

その引っかかりは、手口を知るとかなり正確だったと分かるはずです。

 

下請けに水増しさせる手口の中身に入る前に、建設の仕事がどう流れているかだけ押さえておきましょう。

大きな工事を受注するのが、竹中工務店のようなゼネコン。

元請けと呼ばれる立場ですね。

ただ、実際に鉄骨を組んだりコンクリートを流したりするのは、元請けの社員ではありません。

元請けは仕事を専門の会社へ発注し、その会社がさらに別の会社へ発注していきます。

これが下請けと呼ばれる関係で、日本の建設現場では4次・5次まで連なるのが普通のことなんです。

 

では、水増し請求というのは具体的にどうやるのか。

弁護士事務所が公開している企業向けの解説によると、建設業でよく見られるのは2つのやり方だそうです。

ひとつは、人工(にんく)の数を増やすこと。

人工というのは、職人さん1人が1日働く単位のことで、現場のお金は「1人工いくら」で積み上がっていきます。

10人で足りた作業を、15人来たことにして請求書を書く

差額の5人分が、まるまる浮くわけです。

もうひとつは、材料費の上乗せ。

実際に使った量より多く仕入れたことにして、その分を請求に混ぜ込みます。

どちらも、現場を見ていない人には見抜けません。

 

ここで、ひとつ疑問が浮かびます。

水増しした請求書を書くのは下請けのほうなのに、なぜ下請けが協力するのか。

理由は、大きく2つあります。

ひとつは、お礼が返ってくるから。

元請けの担当者と下請けが結託した水増しでは、協力の見返りとして下請け側へお金が戻るのが一般的だとされています。

もうひとつは、単純に断りにくいから。

次の仕事を出すかどうかを決めるのは、目の前にいる元請けの現場責任者です。

その人からの頼みごとを、下請けの立場で突っぱねるのは簡単ではありません。

横領ではなく背任と呼ばれる理由

ニュースを見て、「着服」や「横領」という言葉を思い浮かべた人も多いと思います。

でも、この男性にかけられているのは背任の疑いです。

ここが違うのには、はっきりした理由があります。

横領にあたるのは、自分が預かっているお金を、そのまま自分のものにしてしまうケース。

会社の金庫やレジから抜く、と考えると分かりやすいです。

 

いっぽう背任というのは、会社のために働くべき立場の人が、自分や誰かの利益のために動いて、会社に損をさせることをいいます。

 

今回の構図を、そこへ当てはめてみましょう。

この男性は、竹中工務店のお金を直接つかんだわけではありません。

下請けに多めの請求書を出させて、竹中工務店に払わせた。

お金は正規のルートを通っています

伝票の上では、ごく普通の工事代金の支払いに見えるんです。

だから「抜き取った」ではなく「損をさせた」になる。

罪名が背任であること自体が、この手口の性質を物語っていますね。

 

ちなみに背任は、刑法で5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と定められた罪です。

これが会社の役員による犯行だと特別背任というさらに重い罪になりますが、今回は社員なので通常の背任にあたります。

 

続報では、この手口がもっとはっきりした形で報じられました。

この男性は、その下請け業者へ自分の家のリフォームを発注していたとみられます。

そして、その工事代金を万博の工事費に紛れ込ませて請求させた。

改修の対象は自宅だけではありません。

所有するマンションと、親族が営む飲食店まで含まれていたと報じられました。

つまり本人は、現金を一円も受け取っていない可能性があります

自宅の壁が新しくなり、その請求書だけが万博の現場へ回っていた、という構図になります。

 

そして、正規の支払いに見えるということは——見つけにくいということでもあるんです。

大阪府警も、いまそこを調べています。

下請けとの関係、そして払われたお金がどこを通って自宅のリフォーム代になったのか。

金の流れの解明は、ここから始まります。

氷山の一角という声が出る理由

さて、その「氷山の一角」について。

Xでいちばん伸びていた反応が、これです。

逮捕された当初は「1000万円」と報じられていたので、その数字で驚かれています。

同じ受け止めをしている人が、ほかにもずらりといました。

これをただの決めつけと片づけられない理由が、いくつかあります。

ひとつは、さきほど見た重層下請けの構造。

4次・5次と連なった先で書かれた請求書を、元請けの本社が1枚ずつ検算することはできません。

現場のことをいちばんよく知っているのは、現場の責任者。

裏返すと、現場を知り尽くした人が数字をいじっても、気づける人はまずいません

 

もうひとつは、この手口が建設業界で目新しいものではない、ということ。

水増し請求とキックバックについては、弁護士事務所が企業向けに予防策の解説を出しているほど、繰り返し起きている類型なんです。

つまり今回は、誰も見たことのない新種の犯行が見つかったわけではありません。

前からある型の1件が、たまたま表に出た。

そう受け取るほうが自然でしょう。

 

しかも今回は、下請け業者と共謀していたとされています。

片方だけでは成り立たない形ですから、同じような関係がよそにもあったのではないか、という疑いは自然に出てきますよね。

建設の世界を知る人からも、こんな声が出ていました。

ただ、ここまで書いてきて、逆のことが気になってきます。

そんなに見つかりにくいのなら、今回はなぜ見つかったのか

発覚の経緯は発表されていないので、断定はできません。

ただ、報じられている手口には、ひとつだけ隠しようのない部分があります。

自宅のリフォームです。

 

水増しした請求書は、伝票の中に紛れれば見えなくなります。

でも、そのお金が形を変えて向かった先は、本人の家でした。

下請けの帳簿に残るのは、工事現場ではない住所での作業です。

職人さんたちは、万博とは関係のない家に行った日のことを覚えています。

数字は隠せても、人の動きは隠せません

1369万円という金額の小ささも、そう考えると別の見え方になります。

大きく取ろうとしなかったから続いたのではなく、形に残るものへ換えてしまったから終わったのかもしれません。

 

ここでひとつ線を引いておきます。

「他にもありそうだ」と考える根拠は、あくまで仕組みの話です。

竹中工務店の他の現場で同じことが起きていた、という報道は出ていません。

そこから先は、まだ誰にも分からない話です。

万博の工事代金が払われないままの下請け

今回の逮捕がこれだけ強い反応を呼んだ背景には、万博の工事代金をめぐる別の問題があります。

下請け業者が代金を受け取れないまま、いまも解決していないんです。

先に断っておくと、こちらは竹中工務店の話ではありません

海外パビリオンを請け負った別の元請け会社と、その下請けとの間で起きている話です。

 

たとえば中国館の工事では、元請けだった会社から下請けへの支払いが、万博の開幕した2025年4月に止まりました。

未払いを抱えた業者は大阪府へ5万筆の署名を提出し、いまも複数の裁判が東京地裁で続いています。

ネット上の署名活動には、7万を超える賛同が集まりました。

「家賃が払えない」「借金するしかない」。

現場で汗をかいた側から、そういう声が上がっています。

その横で、現場の頂点にいた人が、水増しで浮かせたお金を自宅の工事に回していた疑いで捕まった。

同じ万博の工事という一点で、この2つは勝手につながります

くり返しますが、別の会社の、別の事件です。

それでも今回これほど怒りが広がった理由としては、こちらのほうが本体なのかもしれません。

 

ふたつの話には、会社の違いを越えて重なる部分があります。

どちらも、請求書が通る場所に立っている人だけが得をしているという点です。

水増しを指示できるのも、支払いを止められるのも、金の流れの上流にいる側でした。

下請けは、水増しを頼まれても断りにくく、代金を止められても取り立てにくい。

同じ弱さが、片方では加担する形で、もう片方では泣き寝入りする形で出ています。

 

今回の逮捕で動いたのは、ひとりの現場責任者の分だけです。

払われないままの代金のほうは、いまも裁判所で争われています。

会社に損をさせると刑事事件になり、下請けに損をさせると民事で争うことになる。

この差が、いちばん腹の立つところなのかもしれません。

 

大きなイベントとお金の話でいうと、この夏はこんな一件もあったので気になる方は読んでみてくださいね。

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まだわかっていない3つのこと

最後に、いま分かっていないことを並べておきます。

まだ速報の段階です。

ここを曖昧にしておくと、想像と事実が混ざってしまいますからね。

  • どうやって発覚したのか
  • 本人が認めているのか
  • ほかの現場でも起きていたのか

 

1つ目は、発覚の経緯。

会社の内部調査で見つかったのか、取引先から情報が入ったのか。

ここは何も発表されていません。

会社が自力で見つけられたのかどうかで、この件の見え方はずいぶん変わってきます。

 

2つ目は、本人が容疑を認めているかどうか。

警察は認否を明らかにしていません。

 

3つ目が、ほかの現場でも同じことが起きていたのかどうかです。

今回はっきりしたのは、2025年2月から6月までの、ひとつの現場の話でした。

ただ、自宅などの改修そのものは2023年6月から始まっていたと報じられています。

総額は6000万円を超えるといわれていて、立件されたのはその一部です

残りの費用がどこから出ていたのかは、まだ分かっていません。

この3つが出てくれば、氷山の一角なのかどうかも、だいぶ見えてくるはずです。

 

あの木の輪を作っていた現場で、請求書の数字が静かに膨らんでいた。

そう聞かされたときの後味の悪さは、金額の大小とは、たぶん別のところにあります。

 

立件されたのは、2025年の春から夏にかけての5か月分でした。

改修そのものは、その1年半以上前から続いていたと報じられています。

切り取られた5か月の外側に何があったのかは、これから調べられていくところです。

続報が出てきたら、またお伝えしますね。