2026年8月19日、竹中工務店の元社員が背任の疑いで逮捕されました。

逮捕されたのは、この会社で元大阪本店総括作業所長を務めていた61歳の男性。

大阪万博の会場工事で、現場のいちばん上に立っていた人です。

工事費を多めに請求させて、その分を会社に払わせていた疑いが持たれています。

あれから10日がたって、分かったことがずいぶん増えました。

逮捕の容疑になった水増しは1369万円ですが、自宅などの改修そのものは2023年6月から続いていて、総額は6000万円を超えるとみられています。

別の万博工事でも水増しさせていた疑いがある、とも報じられました。

そして2026年8月28日、竹中工務店の副社長が記者会見で頭を下げています。

社内のチェックが働いていなかったと、会社の側が認めた形です。

 

ニュースが出た直後から、Xでは「氷山の一角じゃないか」という声が広がっていました。

続報が増えるほど、その見方のほうへ寄っていっているというのが正直なところです。

今回は、逮捕から今日までに分かったことを、順番にわかりやすく解説していきますね。

万博の現場トップが逮捕された理由

万博の現場トップと言われても、ぴんと来ないかもしれません。

この男性の肩書きは「総括作業所長」。

建設の世界では、ひとつの工事現場をまとめる責任者のことを「作業所長」と呼びます。

現場に集まる職人さんたちの上に立って、工程もお金も安全も、まとめて見る人のことです。

そこに「総括」が付くと、さらに広い範囲を束ねる立場になります。

現場を預かる人間としては、会社の中でいちばん上に近いところにいた、と思ってもらえば大きくは外れません。

 

では、竹中工務店は万博会場のどこを担当していたのか。

同社を中心とするJVが手がけたのは、会場のシンボルだった大屋根リングの西側700メートルと、パビリオンの工事でした。

JVというのは共同企業体のことで、ひとつの会社では抱えきれない大きな工事を、複数の会社が組んで請け負う仕組みのことです。

つまりこの男性は、あの木の輪の半分近くを預かる現場の頂点にいた人でした。

 

逮捕容疑になったのは、大屋根リング関連の工事のうち、会場内に建てられた仮設事務所の内装工事です。

2025年2月から6月にかけて、下請け業者へ何度も水増しの請求書を出させたとされています。

注目したいのは、ここの数字です。

本来の工事費はおよそ1410万円。

そこへ上乗せされたのが1369万円で、工事の中身とほぼ同じ額でした。

ひとつの内装工事の請求書が、まるまる倍近くに膨らんでいたことになります。

 

共謀したとされるのは、万博工事を請け負っていた奈良県内の土木建築会社の関係者です。

この会社は、大屋根リングのトイレ工事なども手がけていました。

浮いたお金の行き先は、この男性の自宅と、別に所有するマンション、そして親族が営むカフェの改修費だったとみられています。

逮捕された日の午前11時すぎには、大阪府警が大阪市中央区の竹中工務店本社へ家宅捜索にも入りました。

下請けに水増しさせる手口の中身

「まじめにやっている業者が、いちばん割を食うんじゃないか」

この一件を聞いて、まずそこが引っかかった人は多いと思います。

その引っかかりは、手口を知るとかなり正確だったと分かるはずです。

 

下請けに水増しさせる手口の中身に入る前に、建設の仕事がどう流れているかだけ押さえておきましょう。

大きな工事を受注するのが、竹中工務店のようなゼネコン。

元請けと呼ばれる立場ですね。

ただ、実際に鉄骨を組んだりコンクリートを流したりするのは、元請けの社員ではありません。

元請けは仕事を専門の会社へ発注し、その会社がさらに別の会社へ発注していきます。

これが下請けと呼ばれる関係で、日本の建設現場では4次・5次まで連なるのが普通のことなんです。

 

では、水増し請求というのは具体的にどうやるのか。

弁護士事務所が公開している企業向けの解説によると、建設業でよく見られるのは2つのやり方だそうです。

ひとつは、人工(にんく)の数を増やすこと。

人工というのは、職人さん1人が1日働く単位のことで、現場のお金は「1人工いくら」で積み上がっていきます。

10人で足りた作業を、15人来たことにして請求書を書く

差額の5人分が、まるまる浮くわけです。

もうひとつは、材料費の上乗せ。

実際に使った量より多く仕入れたことにして、その分を請求に混ぜ込みます。

今回も、架空の作業費と、材料の単価や数量の水増しが使われたと報じられました。

どちらも、現場を見ていない人には見抜けません。

 

ここで、ひとつ疑問が浮かびます。

水増しした請求書を書くのは下請けのほうなのに、なぜ下請けが協力するのか。

断りにくいから、というのが大きいはずです。

次の仕事を出すかどうかを決めるのは、目の前にいる元請けの現場責任者。

その人からの頼みごとを、下請けの立場で突っぱねるのは簡単ではありません。

 

この見立ては、続報でそのまま裏づけられました。

8月21日、共謀したとされる下請けの建築会社の代表が、報道各社の取材に応じています。

水増しを持ちかけたのは元所長のほうで、自分は従わざるを得なかった、という説明でした。

もちろん、これは下請け側から見た景色です。

断ったらどうなっていたのか、本当に断れなかったのかは、これから調べられていくところでしょう。

ただ、持ちかけた側と、断れなかった側がいたという構図までは、はっきりしてきました。

横領ではなく背任と呼ばれる理由

ニュースを見て、「着服」や「横領」という言葉を思い浮かべた人も多いと思います。

でも、この男性にかけられているのは背任の疑いです。

ここが違うのには、はっきりした理由があります。

横領にあたるのは、自分が預かっているお金を、そのまま自分のものにしてしまうケース。

会社の金庫やレジから抜く、と考えると分かりやすいです。

 

いっぽう背任というのは、会社のために働くべき立場の人が、自分や誰かの利益のために動いて、会社に損をさせることをいいます。

 

今回の構図を、そこへ当てはめてみましょう。

この男性は、竹中工務店のお金を直接つかんだわけではありません。

下請けに多めの請求書を出させて、竹中工務店に払わせた。

お金は正規のルートを通っています

伝票の上では、ごく普通の工事代金の支払いに見えるんです。

だから「抜き取った」ではなく「損をさせた」になる。

罪名が背任であること自体が、この手口の性質を物語っていますね。

 

ちなみに背任は、刑法で5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と定められた罪です。

これが会社の役員による犯行だと特別背任というさらに重い罪になりますが、今回は社員なので通常の背任にあたります。

 

お金の受け取り方にも、この罪名らしさがよく出ていますね。

この男性は、下請け業者へ自分の家のリフォームを発注していたとみられます。

そして、その工事代金を万博の工事費に紛れ込ませて請求させた。

下請け業者は、実際のリフォーム工事をさらに別の業者へ発注していたそうです。

つまり本人は、現金を一円も受け取っていない可能性があります

自宅の壁が新しくなり、その請求書だけが万博の現場へ回っていた、という形でした。

どうやって発覚したのか

正規の支払いに見えるということは、見つけにくいということでもあります。

では、これはどうやって表に出たのか。

ここは逮捕の時点で分からなかった部分ですが、続報ではっきりしました。

 

大阪府警に情報提供が入ったのは、2026年2月です。

そこから警察はおよそ半年をかけて、この男性の周辺と、万博工事に関わった膨大な数の下請け業者を調べています。

不正な資金の流れをつかんだうえで、8月19日の逮捕にこぎつけた、という流れでした。

誰からの情報提供だったのかは明らかにされていません。

 

ここで押さえておきたいのは、会社の内部調査が見つけたのではないということです。

外から一報が入って、警察が半年かけて裏を取った。

会社の中の仕組みが止めたわけではありませんでした。

 

そして、なぜ外から見えたのかを考えると、報じられている手口には隠しようのない部分があります。

自宅のリフォームです。

水増しした請求書は、伝票の中に紛れれば見えなくなります。

でも、そのお金が形を変えて向かった先は、本人の家でした。

下請けの帳簿に残るのは、工事現場ではない住所での作業です。

職人さんたちは、万博とは関係のない家に行った日のことを覚えています。

数字は隠せても、人の動きは隠せません

1369万円という金額の小ささも、そう考えると別の見え方になります。

大きく取ろうとしなかったから続いたのではなく、形に残るものへ換えてしまったから終わったのかもしれません。

氷山の一角という声が出る理由

さて、その「氷山の一角」について。

Xでいちばん伸びていた反応が、これです。

逮捕された当初は「1000万円」と報じられていたので、その数字で驚かれています。

同じ受け止めをしている人が、ほかにもずらりといました。

これをただの決めつけと片づけられない理由が、いくつかあります。

ひとつは、さきほど見た重層下請けの構造。

4次・5次と連なった先で書かれた請求書を、元請けの本社が1枚ずつ検算することはできません。

現場のことをいちばんよく知っているのは、現場の責任者。

裏返すと、現場を知り尽くした人が数字をいじっても、気づける人はまずいません

 

もうひとつは、この手口が建設業界で目新しいものではない、ということ。

水増し請求とキックバックについては、弁護士事務所が企業向けに予防策の解説を出しているほど、繰り返し起きている類型なんです。

実際、週刊誌の取材に答えた元ゼネコン社員は、この種の不正そのものは珍しくなく、ふつうは社内の処分や民事の話で終わってしまう、と話しています。

つまり今回は、誰も見たことのない新種の犯行が見つかったわけではありません。

前からある型の1件が、たまたま表に出た。

そう受け取るほうが自然でしょう。

 

建設の世界を知る人からも、こんな声が出ていました。

そして、この見方を強める材料が、逮捕の翌日から次々に出てきます。

まず、この男性は万博の別の工事でも水増し請求をさせていた疑いがある、と報じられました。

自宅などの改修は2023年6月から始まったとされ、水増しの総額は6000万円を超えるとみられる規模です。

立件されたのは、そのうち2025年2月から6月までの5か月分だけでした。

 

なぜそれだけの規模になったのか、という理由もあとから見えてきます。

この男性は万博工事の全般を見る立場で、発注も、見積もりの査定も握っていたそうです。

どの下請けに仕事を出すかを、事実上ひとりで決められる立場だったということになります。

頼まれた側が断りにくかったのも、当然といえば当然でした。

 

立件された金額についても、ひとつ触れておきます。

容疑になったのは1369万円ぶんだけでした。

ただ、刑事事件で容疑にできるのは、証拠で固められたところまでです。

1369万円しか無かったのではなく、1369万円ぶんの証拠がそろった

そう読むほうが、報じられている中身には素直です。

 

ここまで並べてくると、見えてくることがひとつ。

「氷山の一角か」という問いのうち、万博の中についてはもう答えが出ています

同じ現場の別の工事でも水増しがあったとみられ、改修の総額は6000万円を超え、立件されたのはその一部。

一角だったんだな、というのは、出てきた数字を並べるだけで分かります。

 

残っているのは、万博の外はどうだったのか、というほうですね。

これについては、いまのところ報道が出ていない状態です。

ただ、報道が無いことは、無かったことの証明にはなりません

今回だって2023年から3年近く続いていたのに、外から一報が入るまで誰も見つけていませんでした。

見つける仕組みが働いていなかった会社について、見つかっていないから起きていない、とは言えません。

だから「他にもあるんじゃないか」と考えるのは、決めつけとは違います。

いま出てきている話に、素直に沿った受け止め方だと思います。

会社は被害者なのか

この事件、法律の上で損をさせられた側は竹中工務店です。

大阪市の市長も、逮捕の日に「竹中工務店も被害者」と話していました。

大阪府の知事は「非常に残念」「厳正に対処してもらいたい」と述べ、今後の工事での指名停止については「事実関係を注視する」としています。

 

ただ、この「被害者」という言葉に、そのまま頷けない人は多いのではないでしょうか。

万博の会場建設費は、資材の高騰などで上振れを繰り返し、当初の予定の1.9倍にあたる2350億円まで膨らみました。

その多くは、私たちが払った税金です。

膨らんだ工事費の中に、しれっと混ざっていた誰かの自宅の壁の代金。

そう聞けば、会社の損得の話で終わらせたくなくなるのが普通だと思います。

そして2026年8月28日、竹中工務店の副社長が決算の記者会見で謝罪しました。

「多大なるご迷惑、ご心配をおかけしましたことを深くおわび申し上げる」

「あってはならないことが起きてしまった」

そのうえで、こう続けています。

チェックがきいていなかったところは、我々も大きく反省するところ

 

会見では、具体的にどこが働かなかったのかにも触れられました。

協力会社への発注を受け持つ調達部と、支払いを担う経理部。

本来なら請求書はその2つを通るはずなのに、そこで止まらなかったということです。

会社は7月末に社内の再発防止チームを立ち上げ、協力会社との付き合い方のルールも見直すとしています。

事件による損失は、2026年12月期の決算へ反映される見通しとのことでした。

 

私がこの一件でいちばん引っかかっているのは、ここです。

発注も、見積もりの査定も、下請けを選ぶ判断も、ひとりの現場責任者に集まっていたということ。

権限がひとつの椅子に集まっていて、そこを通り過ぎたあとは誰も見ていませんでした

しかも、それが2023年から3年近く続いています。

チェックが甘かったというより、請求書を疑う人が現場から本社まで一人もいなかった、というほうが近いはずです。

それなら、止まらなかったのはこの人だったからではありません。

同じ椅子に座れば、誰でも同じことができてしまいます。

 

ですから「一人の社員が悪いことをした」では、この話は終わりません。

法律の上での被害者は、たしかに竹中工務店です

ただ、そのお金の出どころをたどれば、損をしたのは私たちのほうでした

会社が被害者かどうかより、その椅子を誰も点検していなかったことのほうが、よほど怖い話です。

万博の工事代金が払われないままの下請け

今回の逮捕がこれだけ強い反応を呼んだ背景には、万博の工事代金をめぐる別の問題があります。

下請け業者が代金を受け取れないまま、いまも解決していないんです。

先に断っておくと、こちらは竹中工務店の話ではありません

海外パビリオンを請け負った別の元請け会社と、その下請けとの間で起きている話です。

 

たとえば中国館の工事では、元請けだった会社から下請けへの支払いが、万博の開幕した2025年4月に止まりました。

未払いを抱えた業者は大阪府へ5万筆の署名を提出し、いまも複数の裁判が東京地裁で続いています。

ネット上の署名活動には、7万を超える賛同が集まりました。

「家賃が払えない」「借金するしかない」。

現場で汗をかいた側から、そういう声が上がっています。

その横で、現場の頂点にいた人が、水増しで浮かせたお金を自宅の工事に回していた疑いで捕まった。

同じ万博の工事という一点で、この2つは勝手につながります

もちろん、この未払いを起こしたのは竹中工務店ではありません。

まったく別の会社の、別の事件です。

それでも、だから関係ないという話にはならないと思っています。

今回これほど怒りが広がった理由としては、こちらのほうが本体だったのかもしれません。

 

ふたつの話には、会社の違いを越えて重なる部分があります。

どちらも、請求書が通る場所に立っている人だけが得をしているという点です。

水増しを指示できるのも、支払いを止められるのも、金の流れの上流にいる側でした。

下請けは、水増しを頼まれても断りにくく、代金を止められても取り立てにくい。

同じ弱さが、片方では加担する形で、もう片方では泣き寝入りする形で出ています。

 

今回の逮捕で動いたのは、ひとりの現場責任者の分だけです。

払われないままの代金のほうは、いまも裁判所で争われています。

会社に損をさせると刑事事件になり、下請けに損をさせると民事で争うことになる。

この差が、いちばん腹の立つところなのかもしれません。

 

大きなイベントとお金の話でいうと、この夏はこんな一件もあったので気になる方は読んでみてくださいね。

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まだわかっていない3つのこと

逮捕から10日で、分かったことはずいぶん増えました。

その一方で、まだ答えが出ていないところもあります。

ここを曖昧にしておくと、想像と事実が混ざってしまいますからね。

  • 本人が認めているのか
  • 下請け業者の責任はどうなるのか
  • 6000万円の残りはどこから出ていたのか

 

1つ目は、本人が容疑を認めているかどうか。

逮捕から10日たっても、警察は認否を明らかにしていません。

 

2つ目は、下請け業者の扱いです。

水増しの請求書を書いたのはこちら側なので、共謀が認められれば、罪に問われる可能性があります。

警察はこの会社の関係者から任意で事情を聴いていて、便宜が図られていなかったかも調べているようです。

「従わざるを得なかった」という説明が、どこまで通るのか。

断りにくい立場だったことと、書いた請求書の責任は、別々に判断されることになります。

 

3つ目が、6000万円の残りです。

立件されたのは、2025年2月から6月までの5か月分の1369万円だけでした。

改修そのものは2023年6月から続いていて、その差はまだ埋まっていません。

残りがどこから出ていたのかが分かったとき、この事件の大きさが決まります

 

あの木の輪を作っていた現場で、請求書の数字が静かに膨らんでいた。

そう聞かされたときの後味の悪さは、金額の大小とは、たぶん別のところにあります。

 

この男性は逮捕の前、報道陣の前でこう話していました。

リングをなんとか予定通り完成させて、万博の成功に少しでも貢献したい、と。

あの輪を予定通り立ち上げたのは、間違いなくこの人が束ねた現場です。

その同じ現場から、自宅の壁の請求書も回っていました。

どちらも本当のことなんだと思います。

ただ、だから仕方がない、という話にはなりません。

3年近く誰も気づかず、外から知らせが入って初めて動いたのなら、問われているのは一人の言い分ではなく、その現場を回していた全体のほうです。

 

「氷山の一角じゃないか」。

逮捕の日にみんながそう書いたのは、勘でも決めつけでもありませんでした。

この10日で出てきた数字のほうが、そちらへ寄っていっただけです。

残りがどこまで出てくるのか、これからの続報を一緒に見ていきたいと思います。