オンラインの面接で、画面の向こうの人が話している中身と、口の動きが合っていない場面。

たいていは回線のせいだと思って、そのまま進めますよね。

ところが、その場で「口の動き全然一致してないですけど大丈夫です?」と聞いた人がいました。

返ってきたのは「いいえ、ご自身が喋っていますよ」という一言。

2026年9月9日にネットへ書き込まれたこのやりとりが、翌10日には面接の様子を撮った動画つきで公開され、一気に広がりました。

タイムラインを流れているのは、「AIが面接に来た」という言い方。

今回は、このなりすまし面接とは何かを、わかりやすく解説していきたいと思います。


口の動きだけが合っていなかった

まず、何が起きたのかから。

書き込んだのは、AIを使ったサービスを手がけている会社の社長です。

オンラインで採用の面接をしていたところ、応募してきた人の口の動きと、話の中身がまったく合っていなかったとのこと。

気になって指摘したら、「いいえ、ご自身が喋っていますよ」と返ってきた。

うーん。

この一往復だけで、もう十分に不気味です。

 

ネットの反応も、笑いより先に寒気のほうが来ていました。

「めちゃくちゃホラーやん」という声。

「仮に通ってたら何が会社に来たんだ」と書いている人もいます。

面接なので、通ればその先にあるのは入社です。

採用の面接というのは、会社が外から人を中へ入れる入口。

そこにこういうものが来るようになった、というだけで、けっこうな出来事です。

おかしな人が来るかもしれない、という話ではなく、そもそも誰が来ているのか分からないという怖さ。

そこがいちばん薄気味悪いところ。

 

動画が出てきたのは、書き込みの翌日でした。

文字だけの説明では信じてもらえない、と思ったのかもしれません。

しかも別の会社の経営者から、「うちにもこの前AIが面接に来ました」という反応まで出ていました。

1件きりの珍事として片づけるには、少し数が合いません。

 

ただ、まだ分かっていないこともあります。

画面に出ていた人が最初からいなかったのか、それとも実在する人が喋りだけを機械に任せていたのか。

そこはまだ、誰にも確かめられていません。

ネットでも「実在してる人が、どうしても受かりたくて喋りだけAIに任せたとかじゃないのかな」という見方が出ていました。

どちらだったのかで、話の重さはずいぶん変わってきます。

ちなみにネットには、こんな指摘もありました。

面接する側にAIを使う会社はもう出てきているので、このままいくとAI同士で面接し合うことになる、と。

言われてみれば、たしかにそうなりますね。


決め手になったのは社名の言い間違い

引っかかったのは、社長が「これはおかしい」と確信した場所です。

挙げているのは、応募先の会社の名前を、相手が言い間違えた場面

似た響きの別の名前で呼ばれて、そこから頬杖をついて画面を見ていた、とのことでした。

 

最新の検知ツールでも、専門の業者でもありません。

決め手になったのは、受けに来た会社の名前という、間違えようのない一点。

言い換えると、顔と声はもう本物そっくりに作れて、作れなかったのは下調べの時間のほうでした。

 

いまは、ビデオ通話の映像の上で顔を差し替えたり、声を似せて作ったりする仕組みが出回っているとのこと。

こういう手口には、すでに名前が付いています。

なりすまし面接です。

本人とは別の人物が、本人の顔と声を借りてビデオ面接を受ける、そして通ってしまえばそのまま組織の内側に入ってしまう。

入られたあとは、社内の資料にも、取引先の情報にも、普通の社員として手が届きます。

やっていること自体は、昔からある替え玉受験のオンライン版です。

本人の代わりに別の誰かが席に座って、点を取ってくる。

ただ、替え玉受験なら試験が終われば帰りますが、採用の場合は中に入って居座ることになります。

そこが、同じ替え玉でも重さの違うところ。

ここまで来ると、採用の失敗というより、玄関の鍵の話に近くなってきますね。


3月にも実在の経歴が使われていた

この春にも、日本の会社で似たことが起きていたと報じられています。

2026年3月、ある会社のオンライン面談に出てきた人物の履歴書に書かれていたのは、実在するエンジニアの経歴でした。

画面に映った相手も、その人と同じ名前で、同じ見た目だったそうです。

気づいたのは、自己紹介をしている段階だったと伝えられています。

話の中身がおかしいというより、話し方のほうが噛み合わなくて。

その場では決めずに、いったん社内で相談してから動いた、という流れでした。

 

このときに違和感として挙げられているものが、なかなか生々しくて。

  • 履歴書に書かれた言語レベルと、実際の日本語が合っていない
  • 単語は意図に沿っているのに、文法が不自然でちぐはぐ
  • 反応の速さが妙に早い
  • 映像の解像度が極端に低く、顔の動きや歯の見え方も不自然

どれも、それ単体では決定的な証拠になりません。

厄介なのはそこで、確信が持てないまま面談だけが進んでいきます

 

そして、この会社が最後に何をしたか。

経歴を書かれていた本人の会社の問い合わせフォームへ、直接連絡を入れています

返ってきた答えは、その日のうちに。

そんな面談は受けていない、というものでした。

 

画面の中ではいくら見ても決着しなかったのに、画面の外へ一本出したら1日で終わっています。

ここは覚えておいて損がないところです。

 

報道のほうでも、この手口は広がってきていると伝えられています。

見出しに「偽装就職」と付くくらいには、もう個別のいたずらの扱いではなくなってきました。


片言だからAIとは限らない

3月の件で違和感として挙がっていたものを、もう一度並べてみてください。

日本語が不自然。

反応が速い。

画質が悪い。

自分のことを妙な言い方で呼ぶ。

 

これ、本物の人にもそのまま当てはまってしまいます

外国から応募してきた人。

回線の細い家から参加している人。

緊張して言葉が飛んでしまう人。

 

実際にネットでも、こんな指摘が出ていました。

特性のある人は、片言のような話し方になることがある、という指摘。

自分のことを「ご自身」と言ったりもする。

いま出回っている見抜き方のリストは、そのまま本物の人に刺さります。

見抜き方が広まるほど、間違って疑われる人のほうも出てくる。

しかも疑われた側には、違いますと示す手立てがありません

 

調査会社のガートナーは、2028年までに、応募者のプロフィールの4人に1人が偽物になると予測しているそうです。

4人に1人が偽物なら、面接する側は最初から疑ってかかるほうが合理的になってしまう。

すでにネットには「オンライン面談で身分証を見せてくださいの確認がある会社があったけどそういうことか」という声も出ていました。

 

ネットで見かけたのは、日本語だから気づけたところもある、という受け止め。

言い回しが複雑なぶん、粗が残る。

英語ならこの先は見分けがつかなくなるのではないか、と書いている人もいます。

 

つまりこの件、AIが面接に来た話に見えて、本人だと証明させられるのは本物の人のほうです。

偽物が増えると割を食うのは、いつも普通に応募している人。

自分は疑われる側にはならない、と言い切れる材料は、たぶん誰も持っていません。


11か国が名前を並べた注意喚起

この話、実は国のほうが先に動いています。

2026年7月31日、日本を含む11か国の関係機関が、北朝鮮IT労働者に関する注意喚起を公表しました

日本側で名前を並べているのは、外務省、国家サイバー統括室、警察庁、財務省、経済産業省の5つ。

アメリカ、韓国、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ニュージーランド、イギリスの機関も入っています。

警察庁がそれを知らせたのは、8月3日でした。

中身は、他の国の国民になりすましてオンラインの求人サービスから仕事を受け、その報酬が北朝鮮へ送られている、というもの。

AIを含むより高度な手法が使われるようになった、とも書かれています。

稼いだ外貨は、核やミサイルの開発の資金に回っているとみられているそうです。

採用した会社の側からすると、給料を払った先が核やミサイルの開発だった、ということになってしまう。

 

そして日本国内でも、日本人になりすまして日本企業のサービスから仕事を受け、収入を得ていた例が確認されているとのことでした。

遠い国のニュースとして読んでいたら、受け皿はもう国内にあったという話。

しかもこの注意喚起、去年の夏に出したものを1年でまた新しくしています。

書き足さないといけない何かが、この1年で増えたわけですね。

 

ネットには、今回の相手もこの流れではないか、という見方も出ていました。

ただ、そう決まったわけではない、という一点。

そこまで言えている材料は、いまのところ見当たりません。

分かっているのは、なりすまして面接を受ける動きが、国が名前を連ねて注意喚起する規模まで来ている、というところまでです。


画面の外へ一本かけるという手

では、実際にどうすればいいのか。

やることは、そんなに難しくありません。

 

面接をする側なら、台本から外れた質問を1つ混ぜてみるのが手軽です。

そちらの今日の天気を聞いてもいいし、手を振ってもらってもいい。

用意された受け答えの外に出ると、途端に噛み合わなくなることがあります。

手元の紙に今日の日付を書いて見せてもらう、というのも、その場ですぐできる一つ。

あらかじめ用意できないものを、1つ挟むのがコツです。

 

もう一つが、画面の外の経路を使うこと。

3月の会社がやったのは、まさにこれでした。

本人の会社へ直接問い合わせる、代表番号にかけてみる、紹介元にもう一度確認する。

画面の中で証明できるものは、思っているより少ないんです。

 

そして、受ける側の備えも一つ。

自分が疑われたときに、こちらから示せる経路を用意しておくことです。

疑われること自体は、失礼でも何でもありません。

確かめてもらえたほうが、こちらとしても後腐れがなくて。

前の職場の担当者、資格の登録先、本名で持っている連絡先。

こんなことまで必要なのかと思いますが、4人に1人が偽物になる世界では、本物の側にも証明の手間が回ってきます。

 

顔と声で本人だと分かる時代は、思っていたよりずっと短かった。

これから面倒になるのは、偽物を見抜くことよりも、本物が本物だと分かってもらうほうかもしれません。

私もオンラインで人と会うときは、画面の中だけで決めないようにしておきたいと思います。