大阪の秋祭りで、悲しい事故が続きました。

2026年10月10日、泉佐野市と泉大津市で、交差点を右へ曲がろうとしただんじりが相次いで横転し、男性2人が亡くなっています。

亡くなったのは、どちらも「たかり」と呼ばれる役を担っていた人だと報じられました。

この呼び名をはじめて耳にした人も多く、ネットでは「たかりは死ぬための役」という言い方まで広がっています。

泉州で暮らす人は、決して死ぬ気ではないと書いていました。

では、たかりとは何をする役で、亡くなった人たちはなぜあの場所にいたのか。

今回は、報道と地元の声をもとに、たかりという役についてわかりやすく解説していきたいと思います。


泉佐野と泉大津で起きた同じ形の横転

最初の事故は、10日の午前11時ごろ、泉佐野市長滝の交差点で起きたそうです。

勢いをつけて角を曲がる「やりまわし」で右折しようとしただんじりが、右側へ倒れたと報じられています。

だんじりの右側面に乗ってバランスを取っていた51歳の会社役員の男性が下敷きになり、病院へ運ばれたあとに亡くなりました。

ほかにも男性7人がけがをしていて、そのうち同じくたかりをしていた3人は、骨折などの重いけがだったとのこと。

 

2件目は、同じ日の午後1時20分ごろでした。

泉大津市宮町の交差点で、やはり右折しようとしただんじりが横転し、隣の和泉市に住む48歳の会社員の男性が下敷きになって、その場で死亡が確認されています。

こちらでも、10代後半から60代の男性9人がけがをしたとのこと。

51歳と48歳、家族や祭りの仲間にとっては、あまりに突然の別れでした。

現場は別々の市で、祭りも別のものです。

それでも、どちらも交差点の右折で起き、どちらもたかりの役の人が亡くなっています。

 

しかも、同じ月の3日には、堺市でもだんじりが横転して11人がけがをする事故が起きたばかりでした。

大阪府警は、どちらも勢いよく曲がるやりまわしの最中に起きたとみて、詳しい原因を調べています。

 

泉州で生まれ育った人は、事故の日にこう書いていました。

事故のたびに「やめてしまえ」という声が出ることを承知のうえで、この人は安全対策も事故の検証も必要だと書き、最後を故人へのお悔やみで結んでいます。


「たかり」は倒れないように引く重り

では、たかりとは何をする役なのでしょうか。

共同通信の配信記事は、方向転換のときにだんじりにぶら下がって重りになる役、と説明しています。

泉大津市の事故を伝えた関西テレビの記事は、もう少し具体的に「右折する際にだんじりの右側面が浮かないよう、ぶら下がって引き、バランスを取る役割」と書いていました。

だんじり祭りでいちばん名前の知られた岸和田市の観光ページは、岸和田のだんじりを「重さ四トンを超える」と紹介しています。

それを大勢で引いて走らせ、速さを落とさないまま交差点を直角に曲がるのが、やりまわしという見せ場です。

 

右へ曲がるとき、だんじりは外側の左へ傾こうとして、曲がる側の右の側面が浮き上がります。

側面に乗る、ぶら下がる、と報道によって言い方は違いますが、たかりの人たちはその右側にとりついて、体の重さで押さえ込んでいるわけですね。

たかりは、だんじりを倒さないために内側の側面を引き下ろす重りなんです。

 

ところが泉佐野市の事故で、だんじりが倒れたのは右側でした。

外へ倒れるのを防ぐために押さえていた右側へ、だんじりが倒れ込んだ形になります。

内側へ倒れるこの形には、地元で「イン転け」という呼び名があるようです。

倒れ方に名前がついているほどなら、逃げ方は教わらないのか、という疑問もネットには出ていました。

地元の人のこの書き込みには、岸和田の9月の祭りでは、外へ大きく傾いた時点で内側のたかりがすぐに避難する、とあります。

押さえきれないところまで傾いたら手を離す、という順番が地元にはあるようです。

ただ、これは個人の書き込みで、泉佐野や泉大津の祭りでどう決められていたのかは、報道からはわかりません。

 

2023年4月に堺市で起きた別の横転事故も、よく似た形で伝えられていました。

修理を終えたばかりのだんじりのお披露目で、大勢が引き、屋根や側面にも人が乗っていたと報じられています。

右へ曲がるときに大きく左へ傾いて標識にぶつかり、立て直そうと右へ引いたところで転倒し、右側面に乗っていた男性6人が押しつぶされて重いけがを負いました。

その場を見ていた人は、いつもより引く人が2倍もいたので速さが出すぎていた、と話していたそうです。

報道を並べるかぎり、たかりは倒れてくるだんじりを体で受け止める役ではありません。

危ないのは、押さえていた側へだんじりが傾き返してきたときなんです。

なお、泉大津市の事故で、だんじりがどちらへ倒れたのかは、報道からははっきりしませんでした。

2件とも、なぜ倒れたのかはまだ警察が調べている段階です。


「命を懸ける」と「死ぬための役」のあいだ

たかりという呼び名に、今回はじめて触れた人も多かったのではないでしょうか。

同じ岸和田市の観光ページは、やりまわしを支える人として、前へ前へと引く青年団、旋回のきっかけをつくる前梃子(まえてこ)、舵を取る後梃子(うしろてこ)、後梃子に合図を送る大工方を挙げています。

ところが、この紹介の中に、たかりという名前は出てきません。

屋根の上で跳ねる大工方のように目を引く役でもなく、外から見れば、だんじりの横に人が鈴なりにつかまっているようにしか見えないのでしょう。

何をしているのか知られていなかった役が、亡くなった人の役名として、はじめて大きく報じられてしまったわけですね。

だんじりの事故は、これまでも繰り返されてきました。

2023年の週刊女性PRIMEの記事は、関西各地のだんじり祭りで過去10年に合計10人弱が亡くなっていると伝えています。

 

しかも、だんじりの町の人自身が、祭りに「人生そのものをかけてる」と書くほど。

祭りを外から見てきた人の目には、その言葉はこう映っていたそうです。

ただ、命を懸けるという言葉は、本来その覚悟の大きさを語るためのものでした。

それが、役の説明が無いまま事故の知らせと並べば、死ぬことが役目であるかのように聞こえてしまうのも無理はないと僕は思います。

命を懸ける覚悟と、死ぬつもりは、同じものではないんです。


だんじりの速さを決めているのは誰か

では、だんじりの速さやたかりの乗り方は、誰が決めているのでしょうか。

ネットには、規制しない市が悪いという声も、道路の許可を取り消すべきだという声も出ていました。

公道でだんじりを引くには、道路交通法の第77条にもとづいて、警察署長の許可を受ける必要があります。

条文は「道路において祭礼行事をし」と、祭りをはっきり名指ししている形です。

ただし、許可するかどうかを決める基準は、交通の妨害になるおそれがあるかどうか。

妨害のおそれがあっても「公益上又は社会の慣習上やむを得ないもの」と認められれば、許可しなければならないと定められています。

そして、付けられる条件も、道路の危険を防ぎ、交通の安全と円滑を図るためのものとして書かれていました。

許可の取り消しも、付けた条件に違反したときか、交通の安全のために特別の必要が生じたときにできる、という形です。

だんじりを何人で引くか、どれだけの速さで曲がるか、たかりが何人乗るか。

速さも人数も、この条文は決めていません。

条文が決めていない以上、そこはそれぞれの祭りの運営の中で決めていくしかないんです。

地元の人の中には、だんじりそのものを倒れにくく作り直してきたことを挙げる声もありました。

過去には、責任が問われた例もあります。

共同通信の配信記事によると、大阪の各地ではこれまでにも横転や、だんじりと柱のあいだに挟まれる事故が起きていて、安全対策を怠ったとして責任者らが書類送検された例もあるそうです。

 

2014年10月、兵庫県三田市の神社の祭りで、だんじりが境内の建物にぶつかり、1人が死亡、16人がけがをしました。

翌年、だんじりの前後から運行を指揮していた男性2人が、業務上過失致死傷の罪で罰金の略式命令を受けています。

2021年には民事裁判の判決も出て、その男性たちと地元の自治会に、けがをした女性への賠償が命じられました。

判決は、男性たちには建物との衝突を予見して、事前に止まるよう指示する注意義務があったと認めています。

同じ判決は、だんじりの引き手らの過失を認めませんでした。

今回の事故がこの例と同じ道をたどるのかどうかは、まだ誰にもわかりません。

 

亡くなった2人は、だんじりが外へ倒れないように、その場所で支えていた人たちです。

このように情報をまとめているうちに、2つの交差点の手前までは、いつもどおりの祭りの日だったはずだと思えて、胸が苦しくなります…。

亡くなられたお二人のご冥福を心よりお祈りいたします。