巨人がドラフト1位で指名した横浜高の織田翔希投手について、指名の翌日にあたる10月23日の夜、アメリカの記者から短い一報が流れてきました。

MLB側で、球団と契約できる対象選手としても、ドラフトの対象選手としても、名前がまだ登録されていないというのです。

日本語に訳されて回るうちに、その一報は「メジャー挑戦の方針が変わったかもしれない」「巨人入りの大逆転もある」という話にふくらんでいきました。

 

けれど本人は指名を受けた直後、「非常に光栄な指名をいただきました」という言葉に続けて、こう話しています。

「アメリカに挑戦する気持ちは全くブレません」

本人の言葉と流れてきた一報は、本当に食い違っているのでしょうか。

今回は、巨人入りの可能性がどこまで本当なのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。


方針変更を言い切った人はいない

一報を出したのは、海外の若い選手とMLB球団の契約事情を追っている、フランシス・ロメロという記者です。

「関係者によると、織田翔希は2027年の国際契約期間にも、MLBドラフトにも、まだ対象選手として登録されていない」

「これは11月1日を前にした方向転換のしるしかもしれない」

この11月1日が何の日なのかは、投稿のどこにも書かれていません。

 

原文は「まだ(yet)」で、続く一文も「かもしれない(could)」になっていて、言葉はどちらもかなり控えめです。

方針が変わったと言い切った人は、もとの投稿のなかにはいません。

それが日本語で紹介されると、「大逆転の巨人入団の可能性が出てきました」と書き添える投稿まで現れて、言葉が一段強くなっていきました。

 

投稿の最後には、詳しくは自分のサイトの「International Notes」で、と書かれています。

その記事は有料の読者だけが読める形で、無料で読めるのは「織田翔希に開かれているいくつかの道を整理する」という予告の数行だけ。

11月1日の答えも、無料の範囲には出てきません。

いまネットで回っているのは、有料記事を紹介するための投稿の一行なんです。

「そんなすぐに変更が反映されるんか?」と首をかしげたくなるのも、無理はありませんよね。

 

MLBドラフトに日本の高校生は入れない

「織田ってMLBドラフトの対象選手じゃないから登録の必要なくね?」という声も出ていて、こちらは決まりを読むとそのとおりでした。

MLB公式の用語解説によると、ドラフトで指名される資格があるのは、アメリカ(プエルトリコなどの領土を含む)かカナダに住んでいる選手。

日本で暮らす高校生は、そもそもこの名簿の外側にいます。

ではなぜドラフトの話が出てくるかというと、織田投手は10月15日の会見で、進路にアメリカの大学も入れていました。

アメリカの大学へ進めば、何年か後にMLBドラフトで指名される側に回れます。

ロメロ記者自身も、会見の当日にこう書いていました。

「国際市場を通るのか、MLBドラフトを通るのかはまだはっきりしない」

2つの道のどちらにも決まっていないのは、会見の日から同じなんですよね。

 

大学という選択肢には、鹿児島県にある国立の体育大学の名前を出して乗っかる人も。

アメリカの大学へ行くくらいなら鹿屋体育大学こそ真の挑戦だ、という冗談まで出ていました。

いまの「未登録」も、その二択がまだ決まっていない状態をそのまま映しているだけかもしれません。

ここだけを切り出して巨人行きの合図と読むのは、少し急ぎすぎです。


巨人の交渉権は2027年3月末まで残る

では、織田投手はいつまでに決めることになるのでしょうか。

アメリカの球団が海外のアマチュア選手と契約できるのは、いまの決まりのままなら2027年1月15日から。

いっぽう巨人の交渉権は、2027年3月末までに契約して公示できなければ消えてしまいます。

公示というのは、球団の選手として正式に届け出ることです。

巨人の榑松伸介スカウトディレクターも「これからなんとか巨人軍に向いていただけるように」と話していて、期限まで交渉を続けていく考えを示していました。

 

つまり、アメリカで契約できるようになる1月15日のあとも、巨人の交渉権は3月末まで残っています。

この重なりを、受験の滑り止めにたとえた人もいました。

アメリカで契約できなければ、最後に巨人へ入る道も残る、という見方。

 

ところが、MLBの選手会と球団側が結んでいる労使協定が、12月1日で期限を迎えるんです。

デイリースポーツも、期限が切れたあとに球団が契約の手続きを止めるロックアウトに入ることが懸念されていると伝えています。

米ヤフースポーツに配信された記事には、「ロックアウトのせいで、2027年の国際契約期間がいつ始まるのか正確には誰にも分からない」という一文までありました。

 

さらにMLBは2026年6月、海外の選手との契約を自由競争からドラフト制に変える案を、選手会に正式に出しています。

MLB公式サイトによると、指名される年の9月1日までに18歳になっていることが条件で、18歳の織田投手もその対象に入る年齢です。

選手会はこれに強く反発していて、この案だと「最初のドラフトが早くても2027年9月、遅ければ2028年3月までずれ込み、国際契約が丸1年なくなる」と声明で批判しました。

もしドラフト制が決まって、選手会が言うとおり最初の指名が2027年9月以降にずれ込めば、いまの決まりなら1月15日に始まるはずの契約より先に、巨人の3月末の期限が来てしまいます。

巨人入りの可能性が本当に動くとしたら、それは本人の気持ちではなく、この12月の交渉の結果しだいなのかもしれません。

 

巨人を経由しても契約金の上限は同じ

ネットには、巨人に入るほうが得だという声もあります。

並んでいるのは、契約金や、成績しだいで早めのポスティング(球団の許可を得てメジャーへ移る仕組み)も認められそうだという見立て。

最初の契約の条件は、たしかに巨人のほうが手厚く見えるかもしれません。

 

ただ、高校からそのまま海を渡った選手は、国際アマチュアの枠でマイナー契約を結び、マイナーのいちばん下にあたるルーキーリーグから上を目指すのが基本。

その契約金には、球団ごとに使える上限の枠が決まっています。

この枠から外れるのは、25歳以上で、MLBが認める海外のプロリーグで6シーズン以上プレーした選手など。

25歳になる前に海を渡るかぎり、巨人でどれだけ活躍しても、アメリカでの契約は同じ国際アマチュアの枠になります。

実際、ロッテから海を渡った佐々木朗希も2025年1月に、この枠のなかでドジャースと契約しました。

同じ2025年1月には、桐朋高の森井翔太郎が日本のドラフトを経ずにアスレチックスとマイナー契約を結んでいます。

巨人を通って変わるのは、日本での契約金と、アメリカへ着くまでの数年をどこで過ごすか、なんです。

織田投手は15日の会見で「NPBを通ったほうがメリットが多いかもしれませんが、世界一(のリーグ)でプレーしたい」と話しています。


最初から決まっていた?という疑い

「最初から決まっていたのでは」と疑う声もあり、「これで巨人入りしたら織田のメジャー挑戦を尊重して手を引いた他球団に失礼じゃないの?」という書き込みもありました。

アメリカ行きの宣言から1週間後に巨人だけが1位で指名して、翌日にはヤンキースでプレーした松井秀喜が巨人の新監督に決まり、松井監督が口説きにいくのでは、という声まで出ています。

そこへ「方針が変わったかも」という一報が重なれば、全部がひとつの筋書きに見えてしまうのも無理はありません。

手を引いた11球団の側からすれば、割り切れない気持ちが出てくるのも当然のことです。

 

ただ、織田投手は会見の前に、日本の12球団すべてと面談して、アメリカへの思いを伝えていたと報じられています。

横浜高の村田浩明監督は、指名のあとに「強行指名はもしかしたらあるぞという話はしていた」と話していて、学校の側も巨人の指名を想定の内に入れていました。

そのうえで監督は「意思は全く変わらないということで。私は決断した道をサポートしたい」と続けています。

 

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いま出ている材料で言えるのは、巨人入りが新しく決まりかけている証拠はどこにもない、ということ。

本人はまだひと言も気持ちが変わったとは言っておらず、状況が動くとすれば、アメリカの決まりが3月末までに固まらなかったときです。

揺れていたのは流れてきた一報で、本人の言葉は会見の日から変わっていないんですよね。

まずは12月1日の労使交渉がどう決着するのか、共に見守っていきたいですね。