「今お前、言えてないぞ。言い直せ」

2026年10月31日、脳梗塞で休んでいたサンドウィッチマンの伊達みきおが、ニッポン放送の冠ラジオで生放送に戻ってきました。

冒頭の一言は、うまく言えていなかったらそう言ってほしいと、伊達みきおが相方の富澤たけしに頼んだ言葉です。

伊達みきおには、発音がうまくいかない「構音障害」という後遺症が、まだ残っています。

本人によると、「毎日」のような言葉が、まだうまく言えないそうです。

復帰を喜ぶ声と一緒に、「無理しないで」「まだ治っていないのに大丈夫なの」と心配する声も並びました。

ところが、自分や家族が同じ後遺症を経験した人たちからは、「人と話すのが怖くなった」という声も上がっていて。

今回は、構音障害とはどんな後遺症なのか、それでも生放送に戻ってきた理由と、相方に頼んだことの意味を、わかりやすく解説していきたいと思います。

「おまんたせ」で戻ってきた生放送

伊達みきおの休養が発表されたのは、2026年8月28日のことでした。

その前の8月22日には同じラジオを欠席していて、8月27日に出演するはずだったコンサートも見合わせていたそうです。

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10月31日の放送で本人が話したところでは、脳梗塞が起きたのはロケの最中でした。

そこから北海道・釧路の市立総合病院に2週間入院し、東京の病院へ移ってリハビリを続けてきたといいます。

復帰の当日も、都内でリハビリに行ってきたそうです。

そして10月31日のお昼すぎ、番組のオープニングにいつもの声が戻ってきました。

ネット局の名前を読み上げたあと、「おまんたせしました、どうも。帰ってきました!」と呼びかけて、スタジオの外では拍手が起きていたと報じられています。

休養の発表から、64日ぶりの生放送でした。

 

休んでいるあいだには、がんで活動を休んでいるとんねるずの石橋貴明からも連絡があり、伊達みきおは「貴さんこそどうなんですか」と返したそうです。

心配されている側が、心配してくれた先輩の体を気づかって返す。

休んでいるあいだから、もういつもの調子だったんですね。

 

放送のあと、伊達みきおは集まった40人の取材陣の前に立ち、自分の体のことを細かく話しています。

  • 脳梗塞の種類は、脳の奥の細い血管が詰まる「ラクナ梗塞」で、比較的軽いほうだったこと
  • 最初は右手に力が入りにくかったものの、手足のまひは残っておらず、車の運転もできること
  • 心臓でできた血のかたまりが脳へ飛んだおそれもあると言われ、「心臓の上にプレートを埋め込んで」もらったこと
  • 後遺症として残っているのは構音障害だけだということ

言葉については「だいたい言語が7割5分くらい自分の中では戻ってる」と話していました。

生放送を終えた感想を聞かれて、すぐに「やっぱり楽しいっすね、仕事するって」と返したのも伊達みきおらしいところですね。

隣の富澤たけしは「これで僕の方が休めるなと」とボケて、取材陣を笑わせていました。

芸人仲間からも喜びの声が上がっていて、口笛なるおも、こう書いています。

短い一言のほうが、待っていた時間がよく伝わってきますね。

 

頭は話せても舌が追いつかない構音障害

構音障害と聞いても、どんな状態なのかすぐには浮かばないかもしれません。

自治体が配っている手引きのひとつ、札幌市の「心のバリアフリー」には、こう書かれています。

「構音障がいは、会話の内容に問題はありませんが、何らかの原因により発音が正しくできない状態のことをいいます」

言いたいことは頭の中でちゃんと組み立てられているのに、口や舌がそのとおりに動いてくれない状態です。

よく似た言葉に「失語症」がありますが、こちらは聞く・読む・書くことまで難しくなるもので、構音障害とは別のもの。

休養中に番組の助っ人を務めてきた狩野英孝も、口や舌、声帯など、声を出すのに大事なところがうまく働かなくなる症状だと説明していました。

伊達みきおの場合は、舌の筋肉が弱っているそうです。

言いにくい言葉もはっきりしていて、例に挙げたのが「毎日(まいにち)」でした。

「まい」の「い」から「に」のように、「い」の段の音から「い」の段の音へ続くところが、まだうまく言えないとのこと。

リハビリの先生と一緒に、その言葉を一つずつ練習しているそうです。

本人の見立てでは、2月ぐらいには完璧にしゃべれるようになるんじゃないか、ということでした。

 

それでも、まだ治っていないのになぜ戻ってきたのか、と心配になる気持ちはわかります。

しんどい体で生放送に出なくても、と思うのは、ファンとしてはごく自然なことですよね。

でも、伊達みきおは「仕事をしながらリハビリしていこうと決めて」と話していて、ラジオやテレビで人前で話すこと自体がリハビリにつながると考えているそうです。

後遺症を隠さずに仕事をしながら治していく姿に、勇気づけられるという声もありました。

医療情報サイトのMSDマニュアル家庭版にも、脳卒中などによる構音障害が軽い場合は、単語や文を繰り返し声に出すことで、顔の筋肉や舌の使い方を覚え直していける、と書かれています。

本人の言い方を借りれば、2時間の生放送もそのままリハビリの時間なんです。

 

伊達みきおは同じ放送で、父親も昔脳梗塞で倒れ、右半身にまひが残ったことを明かしています。

しゃべりづらさもあったのに、リハビリで「今はベラベラしゃべってる」とのこと。

父親が話せるようになるまでを近くで見てきたからこそ、話しながら治す道を選んだのかもしれません。

 

ひとつだけ、ネットで出ていた大事な指摘もあります。

呂律が回らないのは新しい脳梗塞のサインかもしれないので、場合によっては119番を、という声でした。

日本脳卒中協会は、ろれつが回らない、言葉が出ないといった症状が突然現れたら、救急車を呼ぶよう呼びかけています。

ただ、後遺症として前から残っている話しにくさと、急に出てきた新しい変化は、別もの。

家族に後遺症がある人ほど「いつものことだから」と見過ごしやすいので、いつもと違う、急に変わった、と感じたときは迷わず救急車を呼んでください。

わかったふりをさせない頼みごと

伊達みきおが富澤たけしに頼んだのは、言えていない言葉があったら、その場で言い直させてほしいということでした。

富澤たけしが「きつくない?」と気づかうと、伊達みきおは「きついかもしれないけど、それをやってほしい。俺のためだと思って」と返しています。

この頼みごとの重さがよく分かるのは、同じ後遺症を経験した人たちかもしれません。

ネットには、自分も経験したという人のこんな声があります。

「自分ではちゃんと話してるつもりなのに相手には呂律が回ってないとわかる」

「私の時は人と話すのが怖くなりました」

家族の側からは、構音障害のある父親が、伝わらないと「分かんないならもう良い!」とさじを投げてしまう、と書いていた人もいます。

もう少しだけ頑張って喋ってほしいのに、という言葉が続いていました。

そして、こうした声を読むと、つらいのは口が動かないことそのものより、話すたびに伝わらない経験が積み重なっていくことのようにも見えます。

 

さきほどの札幌市の手引きには、周りの人へのお願いとして、こう書かれていました。

「わかったふりをせず、相手の言っていることの傾聴に努めましょう」

同じページには、プレッシャーを与えると話すこと自体への意欲を失ってしまうことがある、という注意も並んでいます。

聞き取れないまま笑ってうなずくのも、本人が望んでいないのに何度も言い直させるのも、どちらも話す人を黙らせてしまうんですよね。

「言えてないぞ」と言ってほしいという頼みは、わかったふりをしないでくれ、というお願いでもあります。

しかもそれを、周りが言い出す前に、本人のほうから長年の相方へ頼んでいるんです。

つまり、同じ言い直しでも、誰が言い出したかで意味が変わってきます。

本人から頼まれた言い直しなら、それは手伝いです。

 

ネットでは早速、「ちょっと何言ってるかわかんない」という富澤たけしのおなじみのセリフを重ねる声も出ていました。

ボケとして笑いを取ってきたあのセリフが、今回ばかりは本人の頼みにいちばん沿った返しになってしまうのが、このコンビらしいところですね。

ただ、これは長年コンビを組んできた2人だから成り立つ形でもあって。

伊達みきおを師匠と慕ってきた後輩芸人も、この日の復帰を喜んでいました。

家族に構音障害がある人がそのまま真似をするより、まずは本人がどうしてほしいのかを聞いてみるのがよさそうです。

話す・聞く・食べることのリハビリを受け持つ専門職の「言語聴覚士」に、接し方を相談してみるのもひとつの手でしょう。

 

来週の助っ人も脳梗塞から戻った人

一方で、伊達みきお自身は、まだ本当の意味での復帰は済んでいない、と考えています。

富澤たけしが「『もういい』とかも言いづらい……漫才が終わらないんじゃないですか」とボケると、伊達みきおは「ネタができてから本当の復帰だと思ってる」と答えました。

漫才はまだ一度もできていないので、そこは少し時間がかかりそうだ、とも話しています。

ラジオは戻ってきたけれど、サンドウィッチマンの漫才はまだ戻ってきていない、というのが本人のいまの見立てです。

 

そんななか、復帰したあとの11月7日の放送にも、番組は助っ人を呼んでいます。

なすなかにしの那須晃行です。

那須晃行は2023年12月12日に脳梗塞を発症して緊急のカテーテル手術を受け、2024年4月に4か月ぶりに仕事へ戻っています。

戻ってきたときの報道の見出しは「できる仕事から少しずつ」で、まさにいまの伊達みきおと同じ歩き方です。

11月7日は、同じ病気から仕事へ戻った芸人どうしが並ぶ予定になっています。

 

思えば、休養が発表された夏には、本人がどんな形で戻ってくるのか、誰にも分かりませんでした。

そして戻ってきた伊達みきおは、言えない言葉があることを隠さず、相方に言い直しまで頼んでいます。

次にラジオで伊達みきおが言い直す場面があったら、それは調子が悪いのではなく、2人でリハビリを進めているところなのかもしれませんね。

この記事で参考にした情報

記事の中の発言や説明は、次の情報で確かめています。

  • ニッポン放送「サンドウィッチマン ザ・ラジオショー サタデー」(2026年10月31日放送)と、放送後の取材についての報道(オリコン・スポニチアネックス・日刊スポーツ・デイリースポーツ・スポーツ報知、いずれも2026年10月31日配信)
  • 札幌市「心のバリアフリー」の手引き(言語障がいのページ)
  • MSDマニュアル家庭版「発話障害のリハビリテーション」
  • 公益社団法人 日本脳卒中協会「脳卒中の主な症状」
  • お笑いナタリー「なすなかにし那須が脳梗塞の治療で休養」(2023年12月17日)

なお、僕は専門家ではないので、ろれつや言葉の様子がいつもと違うと感じたときは、この記事を読み返すより先に病院で診てもらってくださいね。