高須幹弥の『整形依存症』発言|断る医者と断らない医者がいる理由

顔に5,000万円以上をかけてきた美容外科医に、別の美容外科医が面と向かって「整形依存症になっていると思う」と告げる場面が、いまネットで広く出回っています。
言ったのは、高須クリニック名古屋院の院長を務める高須幹弥。
言われたのは、東京・歌舞伎町で美容クリニックの統括院長を務める辻大成です。
かなりきつい言葉なのに、動画への返信を読んでいくと、高須幹弥を信頼するという声と同じくらい、言われた側が最後まで話を遮らずに聞いていたことへの好感が並んでいました。
しかも翌日には、高須幹弥の父である高須克弥院長が、こんな投稿をしています。
僕はたいせい先生を理解しています。
日本で理解されていない時代、僕は精神科のドクターに紹介された患者さまのお助けをしました。
当時日本で理解されなかった性同一障害の患者様のお力にもなりました。シンガポールやタイの病院と提携して協力しました。
美容外科は幸福医学です。… https://t.co/q3T9YNo6B3— 高須克弥 (@katsuyatakasu) 2026年11月4日
息子は医者なら断らなければいけないと言い、父はその辻大成を「理解しています」と書く。
頼まれた手術をどこで断るかは、同じ高須の名前を持つ医者どうしでも分かれているんです。
今回は、この討論で何が語られたのかを整理したうえで、高須幹弥の一言がなぜここまで信頼されたのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。
神経を切ってと頼んだのは医師本人
話題の動画は、NewsPicksの討論番組「2Sides」のひとコマで、司会は加藤浩次。
2026年11月3日にYouTubeで19分ほどの抜粋が公開されていて、57分の全編は有料会員向けです。
討論のテーマは、辻医師の告知の言葉を借りれば「整形依存症の相談を断るべきか」でした。
辻大成は、Instagramの自己紹介に「顔面課金5000万円超」「日本一の小顔整形ドクター」と掲げている美容外科医です。
番組の中で本人が話したところでは、初めて整形を受けたのは14歳ごろで、昼ごはんを抜いて貯めた自分のお金だったといいます。
それで自分に自信がつき、人生が前向きになったことに感動して、自分も美容外科医になったとのこと。
そこから毎月のように手術を受け、顔のあちこちをひととおり終えてはまた最初から重ねて、5,000万円ほどになったと話していました。
自分で受けたことのない手術を人にすすめるのは説得力がない、だから自分が受けて、いい面も悪い面もお客様に伝えたい、というのが本人の説明です。
話が大きく動いたのは、あごの骨を削る手術の話になったときでした。
あごの骨には、下唇やあごの皮膚の感覚を伝える神経(オトガイ神経)が通る小さな穴があります。
この神経を残したまま削ろうとすると、削れる量は数ミリにとどまるそうです。
辻医師は、少しでも顔を小さくしたくて、神経を切ってもいいからと頼んで削ってもらったとのこと。
その結果、唇のまわりは触っても何も感じなくなり、ボトックスやヒアルロン酸は痛みなく打てるので「ある意味便利な体」と笑っていました。
ほかの手術も重ねてきた結果として、目が閉じにくく、眠っているあいだも目が開いているといった不便も、本人は淡々と並べています。
出演の告知でも、自分のことを隠さずにこう書いていました。
NewsPicks【2side】出演📺️
たいせい先生 vs 高須幹弥先生
『整形依存症の相談を断るべきか?』少しでも自分の顔を理想に近づけたいと勇気を持って歩むその一歩は果たして本当に病なのか?
お客様の理想への渇望を僕は全力でお応えしたい。
とかいう僕もその整形依存症のひとりだから。 pic.twitter.com/eLRSsfdg0v— たいせい先生(辻大成)🥇日本一の小顔整形ドクター (@Dr__Taisei) 2026年11月3日
最後の一文で、自分から「整形依存症のひとり」と名乗っているんですよね。
これを聞いた高須幹弥は、神経を切って骨を削るのは絶対にやってはいけないことで、本人に感覚がなくなってもいいと言われても医者として断らなければいけない、という立場をはっきり示しました。
番組の字幕では、続けてこう出ています。
「先生自身が醜形恐怖症で整形依存症になっている」
さらに、そういう手術を医者として毎日引き受けていることについて、「それを毎日やっていてつらくないか?」とも問いかけました。
辻医師は、自分も近い考え方だからこそ共感して、メリットもデメリットも話してあげられる、と答えています。
公開の翌日には、自分のXに「偉大過ぎる高須先生に対して異を唱えるのは失礼にならないようとても緊張しました」とも書いていました。
なお、辻医師が本当に醜形恐怖症にあたるのかどうかを、この記事では判断しません。
それを決められるのは、本人を診察した医者だけです。
顔面課金5000万円の医師が選んだ呼び名
2人の考え方の違いがいちばんはっきり出たのは、来る人の呼び方でした。
高須幹弥は、高須クリニックでは50年前から来る人を「患者さん」と呼んでいると話しています。
「お客さん」と呼ぶと商売になって、お金を出させるほうへ走ってしまうので、医者と患者の関係でなければいけない、という考えです。
番組の字幕にも、「ここがやっぱり『お客さん』と呼ぶか『患者さん』と呼ぶかの違い」という言葉が大きく出ていました。
対する辻医師は「お客様」と呼びます。
病気ではない人を患者と呼ぶと「私のどこが病気なのか」と傷つけてしまうことがあるので、そう呼ぶほうが角が立たない、というのが理由でした。
美容整形にはサービス業の側面が大いにある、とも話しています。
聞いていると、どちらの言い分にも筋が通っているので、つい両方にうなずいてしまうんですよね。
それでも僕には、この呼び名の違いが、断るときの言いやすさの違いに見えます。
相手を患者と呼んでいれば、「あなたのためにならないから、やめておきましょう」と言いやすいはず。
相手をお客様と呼ぶなら、注文どおりに仕上げることが誠実さになるでしょう。
それに、注文する側にも、手術を重ねたくなるだけの理由があります。
辻医師自身、14歳で受けた手術で人生が前向きになったと話していましたし、整形した側からはこんな実感も。
信じたくないけど日本が顔面史上主義はガチです。整形した私が断言します‼️可愛いと美容室は無料だしご飯屋さんもタクシー代もサービスされるし、私は外にでれば次から次へとラッキーなことが起きます。顔が変わっただけなのにこの差はうまれる❕
— はる整形垢 (@piyochanman12) 2026年11月3日
顔が変わると周りの扱いが変わる、という実感を持った人が、もう少し、もう少しと手術を重ねたくなる気持ちも、分かる気がします。
動画への返信には「仕事を断る勇気を持てるのはやっぱりボンボンだからだと思うな」「この人がやらなくてもほかの誰かがやるし」という冷めた声も並んでいました。
しかも、断ればその手術の代金は入ってこないうえに、断られた人は別のクリニックへ行けます。
厳しいようですが、その見方にも一理あるんですよね。
高須幹弥の一言が信頼される理由
では、医者が頼まれた手術を断ることについて、国の決まりは何か言っているのでしょうか。
本人のためにならない手術を断れ、と医者に命じる決まりは見当たりません。
むしろ医師法19条1項には、「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と書いてあります。
厚生労働省は2019年12月25日の通知で、断ってもよい場合を具体的に整理しました。
挙がっているのは、迷惑行為が続いて信頼関係がなくなった場合や、払えるのにわざと払わない場合などです。
その中で、自由診療が出てくるのはたった1か所。
「医学的な治療を要さない自由診療において支払い能力を有さない患者を診療しないこと等は正当化される」
つまり、お金が払えない人を断ってよいことは書いてあっても、本人のためにならない手術を断る話は、どこにも出てきません。
美容医療を受ける人のためには、厚生労働省が消費者庁と作ったチェックリストもあります。
確かめる問いは2つだけです。
- 医師の説明を「十分に」理解できましたか?
- その施術は、「今すぐ」必要な施術ですか?
気をつける例として挙がっているのは「『今すぐ契約すれば安くなる』など、即日の施術や契約を強引に勧められた」「希望していない施術をしつこく勧められた」というものでした。
このチェックリストが思い描いているのは、クリニックの側に押し切られる人なんですね。
ところが、辻医師の手術はその逆です。
1問目でいう医師の説明を受けたのは、自分自身が医者である本人。
神経を切ってでも削ってほしいと言い出したのも、本人でした。
2つの問いは、どちらもそのまま通ってしまいます。
同じ日、辻医師は別の投稿でこうも書いていました。
根本治療はおそらく僕もお客様も求めてないのです、ただただこのコンプレックスでどうしようもない今のこの顔を本当に少しでもいいからマシにしたくて毎日ひたすら渇望しているだけなのです。 https://t.co/DSu1uLMQ1s
— たいせい先生(辻大成)🥇日本一の小顔整形ドクター (@Dr__Taisei) 2026年11月4日
自分から強く望んでいる人を前にしたとき、その手を止める仕組みは、チェックリストにも厚生労働省の通知にも用意されていません。
だから、あの場で「医者として断らなければいけない」と言い切ったのは、決まりではなく高須幹弥自身の判断でした。
医学の本はもう答えを書いている
では、医学の側はこの問題をどう見ているのでしょうか。
医学の情報を一般向けにまとめた『MSDマニュアル家庭版』には、身体醜形症という病気の解説があります。
実際には目立たない、あるいはささいな見た目の欠点を、大きな欠点だと思い込んで、毎日何時間も悩んでしまう病気です。
その中に、こういう一文がありました。
「美容外科手術による治療は、ほぼ常に効果がなく、患者が結果に満足できないリスクが非常に高いため、推奨されません。」
同じ解説には、美容医療などを何度も受けても期待した結果を得られない場合が多く、かえって思い込みが強まってしまうこともある、とも書かれています。
高須幹弥が番組で話していたことは、医学の本がすでに書いている内容とほとんど同じでした。
ただ、これはあくまで医学の解説で、手術を止める決まりとは別物です。
討論を見ながら、自分や家族の顔の悩みを思い浮かべた人もいるかもしれません。
では「もっと顔を変えたい」と思い始めたとき、何を手がかりにすればいいのでしょうか。
経験した側からは、こんな呼びかけも流れています。
鼻整形する子。よく見ろ可愛いぞ。生まれもった鼻が1番可愛い。鼻整形したら加齢と共に修正リスク矢印鼻リスクあるんだ。鼻整形は割と高確率で悪化します。もっかい判断して
— パミール(鼻整形やらかした) (@V9K1dRQD9JXGzY) 2026年10月31日
手術を受ける側が今日からできることは、この4つです。
- その日のうちに決めない(チェックリストにも、美容目的の施術は多くの場合緊急性が低いと書いてある)
- 「やらなくていい」と言われたら、その言葉をいったん持ち帰る
- 顔のことが頭から離れない状態が続くなら、相談先を美容外科だけにしない
- 契約で困ったら消費者ホットライン188、医療の心配は医療安全支援センターへ
身体醜形症について、MSDマニュアルには、特定の抗うつ薬と、考え方のくせを整えていく認知行動療法が役に立つと書かれています。
つらさの正体が心の側にあるなら、手術以外の道もちゃんと用意されているんです。
僕は専門家ではないので、顔のことで苦しさが続くときは、医療機関で相談してみてくださいね。
「みきてゃは信頼できる」と感じた人が受け取ったのは、どの決まりも言わせてくれない「やめておきましょう」を、高須幹弥が自分の口で言ったことだったのかもしれませんね。
この記事で参考にした情報
この記事の内容は、次の資料で確かめています。
- 番組=NewsPicks「2Sides」YouTube抜粋版(2026年11月3日公開)と、辻大成・高須克弥のXの投稿
- 断ってよい場合=医師法19条1項、厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(2019年12月25日)
- 受ける前の確認=厚生労働省・消費者庁「美容医療の施術の前に確認するチェックリスト」
- 病気の解説=MSDマニュアル家庭版「身体醜形症」
