元AV女優や元キャバ嬢がホストに貢いで、そのまま潰れていく。

そういう話を、ネットで見かけることがあります。

ただ、貢がせた相手と、そのあと風俗へ送る係は別の人です。

スカウトに紹介料を払っているのも、女性ではありません。

払っているのは、その女性を迎え入れた店のほう。

そうやって人が動くとき、当の本人の頭ごしに、別のところでお金が動いています。

 

そしてその流れは、去年の法改正でようやく違法になりました。

つまり、それまでは違法ではなかった、ということ。

今回は、こういう働き方に人が流れていく道すじと、そこで誰が何を受け取っているのかについてわかりやすく解説していきたいと思います。

稼ぎたくて始めたわけではない

始まりは、たいてい派手な話ではありません。

この話でいちばん誤解されているのが、動機の部分。

高い報酬に惹かれて自分から飛び込んだ、という形で語られがちですが、実際に起きているのはその逆のことが多いようです。

先にあるのは借金のほうで、稼ぎはそれを埋めるために後から必要になります。

その借金の名前が、売掛です。

ホストクラブでその日に払いきれなかった飲み代を、店がいったん立て替えて、ツケにしておく仕組み。

数万円で済むこともあれば、数百万円まで膨らむこともあります。

 

ここで大事なのは、売掛が銀行の借金と違って、審査も担保も無いところ。

返せるかどうかを誰も確かめないまま、金額だけが積み上がっていきます。

しかも、その金額は自分ひとりで決めたものとはかぎりません。

高いお酒を入れる場面では、その場の空気と、担当との関係が同時に乗ってきます。

断れば冷たくされるかもしれない、という気持ちが働いた状態で、値段だけが動いていく。

そして返せなくなったときに、返し方のほうを誰かが提案してくる。

この順番が、この問題の骨格です。

売掛そのものは、いまも禁止されていない

ここで、多くの人が取り違えているところがあります。

2025年6月28日に改正された風営法で、悪質なホストクラブの営業はいくつも違法になりました。

たとえば、客が抱いた好意につけこんで「このままだと関係が終わる」と告げてお金を使わせる行為。

料金について事実と違う説明をして誤解させる行為も、同じ並び。

 

そして、支払いのために売春や性風俗店での勤務、AV出演をするよう要求する行為も、刑事罰の対象になりました。

6か月以下の拘禁刑か、100万円以下の罰金。

拘禁刑は、懲役と禁錮をひとつにまとめた刑の名前で、去年の6月から始まっています。

 

ただし、色恋営業そのものが丸ごと禁止されたわけでもありません。

条文が名指ししているのは、関係が壊れると告げる形と、降格を避けるために必要だと告げる形。

好意を持たせて通わせること自体は、いまも条文の外にあります。

そして、売掛そのものを禁じる条文も、この改正の中にありません。

違法になったのは、取り立てのときに何を言うか、のほうだけ。

借金を作る蛇口は開いたままで、先の配管に網がかけられた形。

 

この改正には続きもあって、2025年11月28日に全面施行を迎えています。

足されたのは、営業の許可を出さない条件のほう。

過去5年以内に行政処分を受けた経歴があると、許可が下りなくなりました。

店の入れ替わりで看板だけ変える、という逃げ方をふさぐための一手です。

風俗へ送る係は、店から報酬をもらう

では、返せなくなった人はどうやって風俗店へたどり着くのか。

ここに、専門の係がいます。

スカウトと呼ばれる人たちです。

路上で声をかけたり、SNSで見つけたりして、店へ紹介する。

そして紹介した相手が働き始めると、店から紹介料が入ります。

これがスカウトバックと呼ばれているもの。

つまり、スカウトのお客さんは女性ではなく、受け入れる店のほう。

女性は商品の側に置かれていて、値段は店とスカウトのあいだで決まります。

 

この構図が、報道の中にそのまま出てきました。

2025年10月1日、スカウトグループ「オンライン」の元代表が職業安定法違反の疑いで逮捕されています。

報じられた逮捕容疑の中身は、2022年7月25日ごろ、ホストに売掛金のあった20代女性を、ソープランドに紹介した疑い

ホストの売掛と、風俗店と、紹介する人。

逮捕容疑のたった一文の中で、三者がつながっています。

このグループが受け取っていた紹介料は、5億4000万円以上とみられているとのこと。

国内最大規模といわれた別のグループでは、メンバーが一時およそ1500人、年間およそ50億円を得ていたとみられる、とも報じられていました。

そちらは2009年ごろ、東京・歌舞伎町を中心に始まったとされています。

昨日今日はじまった商売ではなく、2009年ごろから続いてきた形。

路上で声をかけられた、という話が長く積み重なってきたわけです。

 

そして同じ形は、国境を越えても組み立てられます。

2024年、警視庁はアメリカやオーストラリア、カナダの売春組織へ女性を送り出していたグループを摘発しました。

およそ3年のあいだに200人から300人を送り出し、紹介料は総額2億円にのぼるとみられる、と報じられています。

SNSや求人サイトで高収入をうたって集め、現地の組織へ引き渡す流れ。

送る距離が長くなっただけで、役割分担は国内と変わりません。

このスカウトバックについて、警察庁は施行を前にこう予告していました。

「女性を搾取する卑劣なビジネスモデル」。

役所の文章としては、かなり踏み込んだ言い方です。

個人の悪さではなく、儲かる型として名指ししている、というところ。

奥にいる人ほど、罪は重く書いてある

罰の重さを並べると、順番が逆さまに見えてきます。

スカウトバックを受け取る側の罰は、さきほどの6か月以下の拘禁刑か100万円以下の罰金。

 

ところが、紹介という行為そのものには、もっと重い罰が用意されています。

職業安定法63条2号。

公衆衛生や公衆道徳のうえで有害な業務に就かせる目的、という書き出しの条文。

そこへ職業紹介や労働者の募集をした人の罰が置かれています。

その重さは、1年以上10年以下の拘禁刑、または20万円以上300万円以下の罰金。

 

気づいてほしいのは、下限があること。

「10年以下」ではなく「1年以上10年以下」と書かれているので、軽くしようと思っても1年より下へは降りられません。

傷害罪のほうは15年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金で、下限そのものが書かれていない形。

しかも条文は、紹介を行った人だけでなく、それに従事した人も同じように並べています。

頼まれてやった末端であっても、同じ重さの条文で問われる形。

 

この罪については、厚生労働省も2025年2月17日付で、職業紹介の業界団体へ周知の文書を出しています。

有害な業務、または違法や有害が疑われる業務の職業紹介や求人情報を防いでほしい、という内容。

路上のスカウトだけでなく、求人サイトの側にも網がかけられている、という形です。

人を有害な仕事へ送り込む行為を、法律はかなり本気で嫌っている、と読めます。

法律は、本人を罰していない

では、送り込まれた側はどう扱われているのか。

売春防止法の3条には、「何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない」と書かれています。

してはならない、と言い切っている条文です。

ところが、この3条に違反したときの罰則が、どこにも置かれていません。

 

罰が用意されているのは、別の条文のほうです。

  • 相手を誘うこと
  • あいだに入って話をまとめること
  • 先にお金を貸すこと
  • 契約させること
  • 場所を提供すること
  • 資金を出すこと

並べてみると、全部が本人ではなく、まわりで動かしている側の行為だと分かります。

1956年に作られたこの法律は、最初から罰の置き場所を外側に決めていた、というわけです。

 

買った側にも、罰則はありません。

相手が18歳未満なら別の法律で処罰されますが、大人どうしなら、買った人はおとがめなしのまま。

買春を罰するかどうかについて、政府は国会で「慎重に検討していく必要がある」と答えるにとどめています。

つまりこの法律が見ているのは売る人でも買う人でもなく、売春を商売として回している側だ、ということ。

 

そして2024年4月1日、その姿勢はもう一段はっきりしました。

困難な問題を抱える女性への支援に関する法律が施行され、売春防止法から補導処分の章と保護更生の章が丸ごと削られています。

婦人補導院は廃止され、婦人相談所は女性相談支援センターという名前に変わりました。

更生させる対象から、支援する相手へ。

国の側の建て付けは、そこまで動いています。

それでも名前が出て責められるのは、たいてい本人のほう。

同じ警告が、何度もくり返されている

ここまでの決まりが、いまどう使われているのか。

警察庁の投稿をさかのぼってみると、この問題についての発信が何度も出てきます。

2025年3月に改正案の閣議決定、6月に施行の予告、6月28日に施行、11月28日に全面施行。

そして施行から時間がたった今年の春にも、また出ていました。

「高額の売掛金を負わせ、売春行為等を強要することは、『愛』ではありません」。

新生活が始まる4月1日に合わせて出されている文面です。

改正案の段階から数えて、同じ相手へ同じことを5回。

その事実だけで、まだ止まっていないことが分かってしまいます。

 

だからこそ、覚えておいてほしいのは次の一点。

売掛を理由に風俗やAVの話を持ち出すのは、相手側の犯罪です。

返す返さない以前の話として、その要求だけは別枠で違法になります。

 

迷ったときの窓口も、いくつか。

警察庁のサイトには悪質ホストクラブ対策の専用ページがあって、そこから各地の相談先へたどれる形。

緊急でなければ警察相談専用電話の#9110、暴力団や人身取引が絡んでいそうなら匿名通報ダイヤル(0120-924-839)。

生活そのものが苦しいなら、各都道府県の女性相談支援センター。

どれも、本人でなくても電話していい窓口です。

 

借金は、たしかに自分で作ったものかもしれません。

ただ、その返し方を決める場所に、いつのまにか自分の席がないまま。

ここまで見てきた仕組みの怖さは、たぶんそこにあります。

お金の流れをたどると、いつも本人だけが蚊帳の外。

その一点だけでも覚えて帰ってもらえたら、この形に巻き込まれる人は少し減るところですね。