大山の食パン28.5キロは何のため?ネットで出ている説と犯人像

2026年8月14日、鳥取県の大山を走る道路のガードレール沿いに、食パンが並んでいるのが見つかりました。
その数、およそ30個。
距離にして150mほどにわたって置かれていたそうです。
見つけたのは、大山の自然環境を管理している財団の職員でした。
その日のうちに全部回収したのですが、翌15日にも、さらに16日にも、同じように食パンが捨てられていたといいます。
3日間で集まった量は28.5キロ。
誰が置いたのか、何のために置いたのか。
なぜ食パンなのか、なぜあの場所なのか、なぜ3日も続いたのか。
警察も鳥取県も現場を確認しましたが、いまのところ何ひとつわかっていません。
ネットでは、この不気味さをどう受け止めればいいのかわからず、笑い話にする人と本気で怖がる人に割れている状態です。
今回は、そこで出ているいくつかの説を並べたうえで、それぞれが当たっていた場合にどんな人物が浮かぶのか、どれくらい悪い話になるのかを整理していきたいと思います。
大山の道路に3日続いた食パン
食パンが置かれていたのは、鳥取県の大山町と伯耆町の境目あたりを通る県道158号です。
大山環状道路と呼ばれている道で、中国地方でいちばん高い大山のまわりをぐるりと回っています。
一帯は国立公園。
観光で車を走らせる人も多い場所に、食パンが点々と置かれていました。
回収された量を、日ごとに並べてみましょう。
- 8月14日 16.7キロ
- 8月15日 6.3キロ
- 8月16日 5.5キロ
ここで一つ、引っかかる点が出てきます。
量が日ごとに減っているんです。
初日がいちばん多くて、翌日は半分以下、3日目はさらに減っています。
もし毎日決まった量をまいているなら、こういう減り方はしません。
抱えていた分を、出し切っていったように見えます。
もう一つ、捨て方も普通ではありません。
ごみを捨てるだけなら、人目につかない場所に一か所へまとめて放るのがいちばん早いはずです。
ところが今回は、ガードレールに沿って150mほどにばらけていました。
車を走らせながら次々に投げていったのか、それとも一つずつ置いていったのか。
どちらにしても、ひと手間かかっています。
この様子がニュースで流れたとき、ネットの反応はまず笑いのほうへ振れました。
でかすぎるヘンゼルとグレーテルが通った
— りく(いしゅみ) (@isyumi_net) 2026年8月19日
道に点々とパンが落ちている光景は、たしかに昔話みたいです。
ただ、実際に拾って歩いた人は笑えなかったと思います。
初日だけで16.7キロ分の食パンを、150mにわたって拾い集める作業ですから。
パン屋が挙げた練習用という説
ネットでいちばん納得を集めたのが、この説でした。
パン屋を営んでいるという人が、別々に2人、ほぼ同じことを書き込んでいます。
きっかけは、写真に写ったパンの形でした。
山(コブ)が4つあるものと、5つあるものが混ざっているというのです。
売り場に並ぶ食パンで、こんな混ざり方はしません。
「見るからに個人店のパンですね。見習いに期限切れ(在庫の小麦粉)の粉を使わせて研修させていたのかな?」
型に入れて生地を分ける練習を、繰り返していたのではないか。
もう一人は、もっと細かいところまで書いています。
パンには技能検定という国家資格があって、実技で焼くのがイギリスパンという山型の食パン。
1級なら4斤、2級なら3斤。
材料は小麦粉、塩、砂糖、ショートニング、イースト、水だけ。
材料費は、たかが知れています。
では、あの量になるまで何回焼くのか。
「写真の量は32斤程度なので、4斤を8回も練習したらそうなります」
つまり、大きな工場を持ち出さなくても届く量なんです。
別の人は、形や長さが不揃いなところから「工場のメーカー品ではなく個人店の廃棄では」と書いていました。
もちろん、ここまでは全部、ネットに書かれた推測です。
警察も県も、パンの出どころについては何も発表していません。
それでも、この説だけが答えられる質問が一つあります。
なぜ、食パンなのか。
家庭から28.5キロの食パンは出ません。
売り物として焼いたなら、これだけ余る前に売り切っているはず。
売るためではないパンが大量に出る場所は、練習の現場くらいです。
初日に多く、日を追って減っていった量の動きも、練習で溜まった分をさばいたと思えば説明がつきます。
クマをおびき寄せたという見方
2番目に多かったのが、わざとまいたのではないか、という見方です。
まず、3日続いています。
荷台から落ちたのなら、1回で終わるはず。
2日目、3日目と同じ道に出てくるとなると、誰かが同じ場所へ何度も足を運んでいることになります。
次に、置いた場所。
隠したいなら、藪の奥へ放り込めば済みます。
それをせずに、通りかかった車からでも丸見えのガードレールの外側に、わざわざ並べているわけです。
隠す気がありません。
ここから出てくるのが、餌やり説です。
公園のカルガモに、ちぎったパンを投げる人。
野良猫に、毎日ごはんを置いていく人。
あの感覚のまま、山の動物にやっていたのではないか、と。
「餌やり禁止の看板の目の前で、子どもが餌をまいていた」という目撃談も、ネットにはいくつも並んでいました。
そして、この説がいちばん怖がられているのは、まだ続いているのかもしれない、という一点があるからです。
道から見える場所にあれだけあるなら、見えない場所にはもっとあるのではないか。
似た光景を見た人もいました。
これはよくない
罰当たりなことです
私は、青森に住んでいた頃に雪道の歩道に大きな焼き魚が3匹落ちているのを見たことがある
5~10m間隔に落ちていたのがまた…
雪の上に焼き魚
おかしな光景でした— Abies (@Abies33912qx6) 2026年8月19日
青森の雪道に、大きな焼き魚が3匹。
5メートルから10メートルおきに、間隔をあけて。
一か所にまとめず、点々と置いていく。
捨てるというより、配っているんですよね。
ごみの処分代をケチったという説
3つ目は、もっと生活寄りの話です。
「今は事業ゴミを捨てるのにもお金がかかる時代なので、どうせ捨てるなら、とこのような事になっているのではないか」
「けちったの?」
商売で出たごみは、家庭ごみの日には出せません。
決まった業者に連絡して、重さの分だけお金を払い、引き取っていってもらうことになります。
28.5キロとなると、手間も費用もそれなりです。
つまり、そのお金を惜しんだのではないか。
では、なぜパン屋にそんな在庫が出るのか。
そこを書き込んだ人がいました。
工場が、注文より多めにパンを焼く。
それを配送のドライバーに持たせて「売ってこい」と言う。
注文していない店に頭を下げて置いてもらうので、当然、売れ残る。
持って帰ると怒られる。
だから、ドライバーが自分でなんとかするしかありません。
親や知人に配ったところで、あれだけの数の食パンを引き受けてもらうのには限界があります。
配り切れなかった分をこっそりどこかへ捨てていた人もいた、というところまで書いてありました。
これも裏の取れた話ではありません。
ただ、余ったパンを抱えて困る人が、どこかに実際にいるということ。
それだけは伝わってきました。
ちなみに、不法投棄の罰そのものはかなり重い。
個人で5年以下の懲役か1000万円以下の罰金、その両方が科されることもあるそうです。
会社としてやれば3億円以下。
未遂でも捕まります。
28.5キロを3回運ぶ手間と、この罰。
釣り合っているとは、とても言えません。
説ごとに変わる犯人像と悪質さ
ここまで4つの説を並べてきました。
どれが当たっているかで、浮かんでくる人物像はまるで違います。
そして、「どれくらい悪い話なのか」も説によって別物です。
ニュースを見て気持ち悪いのは、犯人がわからないからというより、悪意でやったのか善意でやったのかすら決められないからだと思います。
一つずつ当てていきましょう。
練習で出たパンだった場合
浮かぶのは、パンを焼く技術を持った人です。
小さな店の人か、パンを教えている場所の人か、これから資格を取ろうとしている人か。
悪意はありません。
練習で出てしまった食べられないパンの、置き場所に困っただけ。
ただ、悪質さで言うと、思ったより軽くありません。
仕事や勉強で出たパンは、家庭ごみではなく事業ごみです。
それを山の道端へ運んだ時点で、はっきり不法投棄になります。
そして何より、3日続けたという事実。
1日目に回収されたことを知らずに続けた可能性もありますが、知ったうえで続けたなら、話はまるで変わってきます。
処分代を惜しんだ場合
これは、はっきり計算した人です。
処分にかかるお金と、山まで運ぶ手間を天秤にかけて、山のほうを選んでいます。
「見つからないだろう」という読みも、そこには入っているはずです。
4つの中では、いちばん重い部類に入ると思います。
うっかりでも思い込みでもなく、損得を考えたうえでの行動だからです。
罰則が懲役まで用意されているのは、まさにこの型を想定してのことでしょう。
餌やりのつもりだった場合
ここがいちばん厄介です。
浮かぶのは、動物のためになると思っている人。
悪いことをしている自覚が、たぶんありません。
法律の重さで言えば、不法投棄という点は他と同じです。
でも、こちらは止まりません。
「捨てた」人は在庫がなくなれば終わりますが、「あげている」人は続けます。
3日で終わったのか、それとも見つかったから場所を変えただけなのか、いまのところ誰にもわかりません。
もう一つ、この説がつらいのは、結果が本人の願いと真逆になるところです。
人の食べ物の味を覚えたクマは、また道路に出てきます。
出てくれば、次に待っているのは駆除です。
助けるつもりで、殺す方向へ押していることになってしまう。
毒が入っていた場合
ネットには、この説も出ていました。
散歩中の犬をねらったのではないか、動物を殺す目的だったのではないか、と。
気味の悪さから連想が伸びるのは、自然なことだと思います。
ただ、いまのところ、これを支える材料は何も出ていません。
回収されたパンから何かが見つかった、という発表もありませんでした。
この説だけは、人に渡すには材料が足りていない段階です。
4つの人物像を並べてみると、共通していることが一つあります。
どの人の頭の中にも、クマは出てきません。
どの説だとしてもクマは寄ってくる
鳥取県は、県内のクマの出没件数をまとめて公開しています。
8月14日の時点で、今年度はすでに114件。
今年の4月から6月末までの目撃だけで65件あり、これは前の年の同じ時期のおよそ4倍です。
6月18日には、大山の山頂付近の登山道でもクマが目撃されました。
そして、その同じページに、県からのお願いが書かれています。
「食材や生ゴミを屋外に置かない・捨てない。適切な管理や処分をしましょう」
初日の16.7キロが見つかったのが、まさにその8月14日でした。
県が「食べ物を外に置かないでください」と呼びかけているその日に、同じ県の国立公園の道端へ、においの強い食べ物が16.7キロ。
パンは、クマにとって都合が良すぎる食べ物です。
やわらかくて、消化しやすくて、遠くからでもにおいでわかる。
ここで、最初の問いに戻ります。
練習で出たパンだったのか、処分代を浮かせたかったのか、動物にあげたかったのか。
動機は3つとも別物ですが、クマの鼻には、その違いは届きません。
届くのは、あの道の脇に3日間においがあった、という事実だけです。
しかも、寄ってきたクマにとっても、いいことは何もありません。
中国地方のツキノワグマは、環境省が「絶滅のおそれのある地域個体群」に選んでいます。
人里へ降りて騒ぎになれば、待っているのは捕獲か駆除です。
誰が置いたのかも、何のためだったのかも、いまのところわかっていません。
ただ、動機がどれであっても、あの道の脇には3日分のにおいが残りました。
気になるのは、その3日のあいだにあそこを通ったクマがいたかどうかのほうですね。
