コカイン中毒の仕草|同じ癖が出る人は2人に1人いる

鼻の下を指の側面でこすって、そのまま軽く鼻をすする。
花粉の季節なら、電車でも職場でも見かける動きです。
たいていの人は、ああ今年も始まったんだなと思って通り過ぎますが、その同じ動きにいま、別の読み方が付き始めました。
コカインを使っている人はこんな仕草をする、という見分け方がネットで広がっているんです。
ただ、そこでいちばん大きくなったのは、別の向きの声でした。
「俺の連れ鼻炎で全く同じ動きしてる」
そう書いた人の声にも、かなりの反応が集まっていました。
今回は、しぐさで人を見分けるという話がどこまで成り立つのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。
同じ癖に心当たりがある人の数
あの仕草は、そんなに珍しいものではありません。
2019年の全国調査では、日本でアレルギー性鼻炎を持っている人の割合は49.2%だったと報告されています。
2人に1人という割合。
このうちスギ花粉症だけを取り出しても38.8%にのぼるとのことで、鼻がぐずぐずしている人は街にいくらでもいるわけです。
しかも鼻炎には、一年を通して症状が出る通年性のタイプがあります。
国立成育医療研究センターの説明では、その原因にダニやハウスダストが挙がっていて、花粉の季節が終わっても鼻をこすっている人は街から消えません。
その人たちが一年じゅう続けているのは、まったく同じ動き。
鼻をこするという動作そのものも、医療の側では手がかりとして扱われています。
同じセンターの説明には、子どもは症状をうまく言葉にできないので、鼻をこする、口で呼吸をする、といったところから気づかれることもあるそうです。
つまりあの動きは、鼻の不調の側から先に見つかっていた特徴でした。
もっと手前に、けた違いに人数の多い理由が先に立っているんです。
鼻をこする理由は、ほかにもいくらでもあります。
乾燥した部屋、風邪のひきはじめ、緊張したとき、ただの癖。
心当たりのある人は、この行の途中でもう自分の手が動いたかもしれませんね。
そのうえ、見分け方を知っていると言う人たちの中でも、判定はきれいに割れていました。
「触りすぎだし啜ってないし素人がアピってる様にしか見えない」
そういう声も出ていて、同じ映像を見ながら、一方は経験者にしか分からない癖だと言い、もう一方は素人の演技だと言っています。
判定が真っ二つになったということ。
見分ける物差しとして使うには、ここがいちばん困ります。
人によって伸び縮みするものは、もう物差しと呼べません。
見抜けた割合は半分と少しだった
では、しぐさを見て当てられる人は、実際にどれくらい当てているのでしょうか。
しぐさから相手の隠していることを読めるかどうかは、海外で山のように実験が重ねられてきたテーマです。
その200件あまりをまとめて計算し直した分析では、判定を当てられた割合は平均で54%でした。
2万5千人近い人が下した判定を全部足して割った数字で、コインを投げて表か裏かを当てる50%とほとんど変わりません。
もう少し細かく見ると、具合の悪い結果も出ています。
姿だけを見て判定した場合、当たった割合は52%でした。
逆に声だけを聞いた場合は63%まで上がっていたそうなので、映像で見抜くというのは、いちばん当たらないやり方だったことになります。
嘘の研究と薬物の話は、もちろん別ものです。
それでも、しぐさから他人の隠しごとを読むという構図は同じで、その構図そのものが当たっていない、というのが研究の山の答えでした。
それでも、当てている感覚だけは、しっかり残るものです。
車の運転と同じで、免許を持っている人はたいてい自分の腕を平均以上だと思っていますが、事故はそういう人の間でも起きます。
見抜く力も、当たっている感覚と当たっている実績が別々に動いているんですよね。
もうひとつ、感覚だけが育っていく理由があります。
当てた記憶は残るのに、外した記憶は残らないからです。
あの人は絶対そうだと思ったら本当にそうだった、という話は何度でも語られますが、そうだと思ったけれど違っていた人のことは、翌日にはもう思い出せません。
採点表が片側しか埋まらないので、自分の打率だけがどんどん上がっていくわけです。
だから「経験した人にしか分からない」という言い方は外からは確かめようがなく、外れても誰にも気づかれずに済みます。
そこがいちばん怖いところでした。
配られたのは見抜く技術ではない
あの動画が広まって、実際に増えたものが2つあります。
見分け方を教わった人は、たしかに増えました。
けれど同じ瞬間に、鼻をこする癖を持っている人が、いっせいに見分けられる側へ移されています。
2人に1人が、何もしていないのに疑われる側へ回された。
これが、あの動画がいちばん大きく配ったものでした。
配られたのは見抜く技術ではなく、見抜かれる側の椅子だったわけです。
「決めつけられるって、可哀想でしかない」
ネットに出ていたこの一言が、いまのところいちばん正確な要約だと思います。
笑って見ていた人と、この言葉を書いた人は、たいてい同じ人です。
面白がった翌日に、自分が鼻をすする番が来る。
そしてこの構図は、鼻の話だけで終わりません。
歩き方でこういう育ちだと分かる、目の動きで嘘をついていると分かる、字の書き方で性格が分かる、という話はいくらでもあります。
どれも同じ形をしていて、共通しているのは、示された特徴の持ち主が、示した側よりずっと多いところです。
少ない側の見分け方を、多い側の全員に当てにいく。
ここで無理が起きます。
言い方を変えると、あの見分け方が危ないのは、たまに当たるからです。
当たる場合があるからこそ、外れた人まで一緒に連れていってしまいます。
1人を見つけたとして、残りの99人はその場に立たされたままです。
増えているのは本当だった
ここまで読んでも、それでも気になる人はいると思いますし、実際に増えているという話はあちこちで見かけますから。
その感覚は、数字の上でも合っています。
厚生労働省の研究班が2025年に行った全国調査では、使ったことがあると答えた人は、15〜64歳の0.4%でした。
人口に置き換えると、およそ35万人と推計されるそうで、いまの調査方法になった2007年以降でいちばん多い数字だと報じられています。
警察の側でも、同じ向きの数字が出ました。
2025年にコカインで検挙された人は804人で、前の年より218人も多く、過去最多だったと発表されています。
増えているというのは、本当のことなんです。
コカイン経験が推計35万人、2007年以降で最多 厚労省研究班
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) 2026年7月6日
増え方が急なので、ニュースの見出しも強くなりました。
もっとも、見出しを強くしているのは変化の幅で、もとの数が小さいほど変化は大きく見えます。
218人増えたと聞いたときの印象と、804人という全体を見たときの印象は、だいぶ違うはずです。
同じ調査では、大麻の経験者が推計141万人と、コカインよりずっと多く出ています。
それでも街の話題として盛り上がるのは、こういう分かりやすい仕草がくっついた側でした。
そして0.4%と49.2%を並べたとき、どちらの説明がありふれているかは、考えるまでもないところです。
街で鼻をこすっている人を見たとき、その人に起きている可能性がいちばん高いのは、去年もおととしも起きていたことでした。
数字が増えていることと、その人が当てはまることは別の話になります。
しかも0.4%は使ったことがあると答えた人の割合で、いま使っている人の割合は、そこからさらに小さくなるはずです。
決めつけを口に出した側に起きること
思うだけなら自由なのに、どこから話の種類が変わるのでしょうか?
心の中で思うところまでは、誰にも止められません。
それを言葉にして外へ出した時点から扱いが変わり、あの人は薬をやっていると名前つきで書けば、相手の評判を落とす発言になります。
名誉毀損という言葉が出てくるのも、ちょうどこのあたりからでした。
成り立つかどうかは、書いた内容が本当かどうかとは別の条件でも決まってきます。
そこは9月20日に書類送検が報じられた件でも論点になったところなので、条件は別にまとめました。
厄介なのは、疑われた側にできることがほとんど残っていないところです。
鼻炎ですと言っても、言えば言うほど言い訳のように響きますし、検査結果を持ち歩いている人もいません。
潔白を示す手段が用意されていない疑いは、かけられた時点でもう勝てないんです。
会社や学校のように毎日顔を合わせる場所だと、それがなおさら重くのしかかります。
一度そういう目で見られると、鼻をかむだけで視線が動くようになる。
言った側は数日で忘れ、言われた側だけがその季節を覚えています。
そのつり合わなさが、この手の決めつけの本体でした。
だからこそ、外へ出す前の一拍が効きます。
その仕草に、もっとありふれた説明が付かないか。
それを一度当てるだけで、たいていの決めつけは自分の中で止まります。
自分がその癖を持っている場合
最後に、疑われる側へ回された2人に1人へ。
いちばん現実的なのは、気にしすぎないことなのかもしれません。
あの見分け方を真剣に握っている人はそこまで多くありませんし、ネットで盛り上がった話のほとんどは、数日で次の話題に押し流されていくものです。
そのうえで、もし誰かに言われたときのために、一つだけ覚えておくと楽になります。
それは、証明する義務が自分の側にないということ。
疑いを口にした側が、その根拠を出す順番です。
こちらが慌てて鼻炎の説明を始めると、その順番が入れ替わってしまいます。
鼻をこする癖そのものは、街の風景の一部です。
花粉の時期に薬を飲んでいる人が、街に何百万人といます。
その中のひとりであることは、後ろめたいことでもないんですよね。
もし子どもがよく鼻をこすっているなら、そちらは別の話として受け取ってください。
成育医療研究センターの説明では、それが鼻炎に気づくきっかけになっているとのことなので、気になるようなら耳鼻科で相談してみてくださいね。
僕は専門家ではないので、判断はお医者さんに預けたほうが早いと思います。
あの動画を面白いと思った気持ちそのものは、たぶん自然なものです。
ただ、あれを見たあとの街には、癖を持っているだけの人が2人に1人まぎれています。
僕も花粉の季節には同じ動きをするので、次に誰かの鼻に目がいったときは、49.2%のほうを先に思い出したいところですね。
