「ビール売り子」という言葉が、9月9日の昼から検索の上のほうに並びました。

週刊文春が、広島カープの小園海斗選手について「試合後にホテルで…」という見出しの記事を出したからです。

サブタイトルは《ビール売り子との密着フォトを入手》。

離婚を発表したばかりのタイミングだったので、反応はあっという間に広がりました。

 

ところが、その記事を最後まで読んだ人は、まだほとんどいません

そのうえで先に走っているのは、名前の出ていない相手のほうを探す動きです。

 

今回は、いま何が分かっていて何が分かっていないのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。

「試合後にホテルで…」の先が読めない

見出しがこれだけ強いと、中身のほうも一緒に出回っていそうな気がしますよね。

ところが実際には、無料で読める部分は途中でぷつりと切れています

読めるのは、8月31日にインスタグラムで出した離婚の報告と、結婚が2021年1月だったこと。

それから、今年1月にカープ同期入団の羽月隆太郎選手が指定薬物の使用で逮捕され、5月に有罪判決が確定したという流れまでです。

ネットで「ゾンビたばこ」と呼ばれている、あの一件のこと。

売人とされる男が逮捕されたところまでで、続きは有料の会員登録の案内に変わります。

 

つまり、無料で読めるのは今年ずっと報じられてきた話のほうで、新しい部分はまだ壁の向こう側。

記事そのものは、9月17日号の週刊文春に載っているものです。

ネットに流れているのは、その記事ではなく、記事の見出しなんですよね。

 

実際、ネットでは「相手はマツダの売り子?」という書き込みと、「試合後にホテルってことは遠征先の球場?」という書き込みが、同じ時間帯に並んでいました。

どこの球場の話なのかすら、まだ誰も答えられない状態です。

「小園の記事、全部読めてないんだけど」と正直に書いている人もいました。

ネットに出ている要約のほうも、写真がいつどこで撮られたものかまでは書けていません。

 

それでも矛先だけは、もう動きはじめています。

二軍にいた8月に起きていたこと

この夏の流れを、いったんそろえておきましょう。

小園選手にとって、8月は野球の面でも重い月でした。

8月16日の阪神戦、9回の守備で乱れが出て、代打を送られています。

その2日後の8月18日に、出場選手登録を抹消されました。

一軍の名簿から外れる、いわゆる二軍落ちのこと。

新井貴浩監督は「このままだと遊撃として使うことができない」と話しています。

打撃ではなく守備を理由にした降格でした。

 

抹消された時点で、今季は101試合に出て打率.257、本塁打1本、打点23。

一方で昨年は打率.309を残して、自身初の首位打者に立っています。

契約更改では推定1億5000万円でサインし、今年のWBCでは侍ジャパンにも選ばれました。

球界を代表する遊撃手になったばかりの人が、シーズン終盤に期限を切らないまま二軍へ回された形です。

 

そして8月31日、離婚の報告が出ます。

「ご報告です。この度渡辺リサさんと離婚しました。離婚の経緯などはお控えさせていただきます」

経緯には触れない、と本人がはっきり書いていました

そこから9日後に、その経緯を名乗って出てきたのが今回の記事、という順番になります。

なお9月9日の時点で、球団も本人も、この記事について何かを出した様子はありません

 

今回の見出しを「またか」と受け止めた人も、当然のように出てきました。

ネットにも「ゾンビたばこのあとだと軽く感じるな」「これとゾンビの合わせ技で離婚した訳ね」という書き込みが並んでいます。

うんざりする気持ちも、正直よく分かるところ。

 

ただ、その「またか」がどこへ向かうのかについては、今回だけ少し事情が違います。

これまでの騒動で名前が出ていたのは、選手か、その周辺で逮捕された人たちでした。

今回は、名前を出されないまま巻き込まれた人がいます

球場の中では選手と売り子は会えない

報道が出たあと、野球をよく見ている人たちから、思わぬ方向の声が上がりました。

球場の中で、選手と売り子さんに接点はないはずだ、というものです。

言われてみると、たしかにそうなんですよね。

売り子さんが歩いているのはスタンドの客席で、選手がいるのはグラウンドとベンチとロッカー。

試合中に両者が同じ場所に立つ場面を思い浮かべようとしても、なかなか出てきません。

 

客席から選手が見えるのと、選手から客席の誰かが見えるのとでは、距離がまるで違うんですよね。

客席が埋まっている日なら、なおさらのこと。

「甲子園で売り子のアルバイトをしていた親戚がいるけれど、選手と接触したという話は聞いたことがない」と書いている人もいました。

もちろん、聞いたことがないというのは、無かったことの証明にはなりません。

ただ、少なくとも「球場で毎日顔を合わせているうちに」という絵は、そのままでは成り立たなそうです。

 

しかも見出しにあるのは「試合後」の話でして、試合中の売り場の光景とは時間帯からしてずれています。

遠征先ではないか、という読みが出てきたのもそこでした。

本拠地の話なのか、それとも遠征先の球場の話なのか。

その一点が変わるだけで、疑われる範囲はまるごと入れ替わります

そしてその一点は、記事を読まないかぎり分からないまま。

ビール売り子は球団の人ではありません

そもそも球場でビールを売っている人は、球団に雇われているわけではありません

マツダスタジアムの場合、売り子スタッフを募集しているのは、球場の飲食を担っている会社のほうになります。

仕事の中身は、客席のあいだを移動しながらビールやドリンク、お菓子を売ること。

樽の交換や商品の補充は「チェッカー」と呼ばれる担当が受け持つ、という分担です。

 

募集のページには10代から50代まで幅広い年代のスタッフが働いている、とも書かれていました。

若い女性ばかりの職場、というイメージも、実際とは少し違うようです。

人気のある売り子さんにファンが付くこともありますが、それは売り場での話。

選手と同じロッカーへ通う仕事でも、遠征に帯同する仕事でもありません。

 

シフトは試合日程に合わせて組まれるので、短期で入る人もいます。

主催試合のない日は、そもそも球場に人がいない仕事。

学校や別の仕事と掛け持ちしながら、試合のある日だけ球場へ来る。

名前も顔も、球団のサイトのどこにも載っていない働き方。

そういう人がスタンドの階段を上り下りしている、と考えるほうが実態に近そうです。

 

雇い主が違うことは、今回そのまま効いてきます。

球団が所属選手について何かを説明するとき、その説明の中に売り子さんは入っていません

雇っている会社が違うのだから、当然といえば当然のこと。

けれども結果として、並びはこうなるんです。

名前を出された選手のほうには、球団という説明の窓口があります

名前を出されていない側には、その窓口がありません。

探されているのは名前が出ていないほう

今回の記事で実名が出ているのは、小園選手だけです。

無料で読める範囲に、相手について「ビール売り子」以上のことは出てきません。

年齢も、どの球場の人かも、そこには書かれていないままです。

にもかかわらず、いまネットで探されているのは、名前が出ていないほうなんですよね。

 

球場はどこなのか、担当していたのはどのエリアなのか、あの人ではないか。

そういう書き込みが、記事を読んでいない人たちのあいだで先に始まっていました。

名前が出たのは、たった1人だけ。

名前の出ていない何十人もが、候補に入っています。

この件は「選手ひとりの女性問題」の話に見えて、実は名前を出された側より、出されなかった側のほうがまとめて疑われる話なんです。

 

しかも疑われている人たちには、否定する場所がないまま。

球団の会見でもなければ、事務所のコメントでもありません。

明日もふつうにシフトに入って、客席の階段を上っていく人たちです。

ネットにも「広島の売り子さんだったら、他の人がすごく仕事しづらくなる」という書き込みがありました。

そう言いたくなる気持ち、分かる気がします。

 

売り場に立っているだけで、今日は何を聞かれるか分からなくなる。

そんな一日を、明日から誰かが過ごすことになります。

自分は何もしていないのに、同じ仕事をしているというだけで、お客さんの目つきが変わる。

その変わり方は、記事が正しかったかどうかとは関係なく起きてしまうもの

「試合後にホテルで…」の続きはお金を払った人しか読めないのに、矛先だけ先に決まっているのは、どう考えても順番が逆だと感じてしまいます。

同じ制服の人が全員候補になる

これ、球場だけの話ではありません。

たとえば職場で、誰かの不倫が噂になったとします。

名前が出るのは、たいてい片方だけ。

すると必ず、もう片方を探す動きが起きます。

同じ部署の人、同じ制服の人、あの日いっしょに残業していた人。

 

やっているほうは「誰だろうね」の雑談のつもりでいます。

やられているほうは、身に覚えのないことで一日じゅう視線を浴びることになる。

このズレは、いつも取り返しのつかない側に効いてしまうんです。

探す側は当たっても外れても失うものがなくて、探される側は外れたときにも残るものがあります

そこが決定的に違うところ。

 

そのうえで、同じ「売り子さん」という言葉を追いかけてみると、出てくるのは今回のような話ばかりではありません。

「広島の球場の売り子さんは、態度も対応も爽やかなんだよね」「東京から来たと言ったら、来てくれたお礼に美味しく入れますねと言われた」という書き込みも、同じ日に出てくるんですよね。

同じ仕事が、一方では思い出として語られていて、もう一方では容疑者のように扱われています。

その差を作っているのは、その人たちの働き方ではなく、たまたま流れてきた見出しのほうです。

 

小園選手の側に説明が要ることは、たぶんこの先も変わりません。

ただ、説明する窓口を持たないまま巻き込まれている人のほうが、この件では数がずっと多いはず。

中身が読めていないうちは、その人たちの顔ぶれも当然わかりません。

分からないものを埋めようとして、いちばん近くにいる人から順に当てはめてしまう。

そこだけは、記事の続きが出るより先に止められるところでもあります。

続きが読める日が来るまで、球場でビールを買うときの目だけは、いつもどおりにしておきたいところですね。