2026年9月5日、くら寿司が「ちいかわ」とのコラボキャンペーンを中止すると発表しました。

翌6日の営業開始から、景品も限定メニューも全部止まります。

理由として挙げられていたのは、自社の従業員による不正行為でした。

報道では、フリマアプリに景品が大量に出品されたことから調査が始まり、従業員が景品を横領した事実が判明したと伝えられています。

 

皿を5枚入れてゲームを回していた人ほど、この一報で手が止まったのではないでしょうか。

そしてネットでは、その従業員がこの先どうなるのかという話が、あっという間に広がりました。

今回は、この手の件でいくらの請求が飛ぶのか、そのお金がどうやって数えられるのかを、わかりやすく整理していきたいと思います。


フリマの大量出品が先にあった

まずは、起きたことを順番に並べてみましょう。

このコラボが始まったのは2026年8月21日で、当初は9月30日までの予定でした。

食べ終えた皿を5枚入れるとゲームが1回まわる、おなじみの「ビッくらポン!」です。

景品はオリジナルフィギュアが全5種、アクリルマグネットが全8種、缶バッジが全8種。

そこへ湯呑みや寿司皿のプレゼントも重なる、かなり大きな企画でした。

 

異変が見つかった場所は、店の中ではなく画面の中。

フリマアプリに景品が大量に出品されているのが先に見つかり、そこから会社が調べ始めたと報じられています。

産経新聞は、8月31日から事実関係の調査を始めたと伝えていました。

そして9月5日、調査の結果として従業員による不正行為が判明したという発表です。

横領の疑いがあるのは1つの店舗で、現在は警察に相談中だという報道も出ています。

 

このコラボについては、9月に入ったころから別の声も出ていました。

何回まわしてもフィギュアが出ない、当たりの入れ方が偏っているのではないか、という不満です。

その話と今回の横領が結び付くのかどうかは、会社も報道も何ひとつ言っていません

ただ、疑いの向く先が店の外にもあったという点は、あとから効いてくる気がします。

くら寿司ちいかわのフィギュアが出ない|疑いが晴れない本当の理由くら寿司が『ちいかわ』とのコラボキャンペーンを始めたのは、2026年8月21日でした。 4回目となる今回も、食べ終えた皿を5枚入れると...

 

ここでひとつだけ、先に確かめておきたいことがあります。

ネットでは「バイトの子がやったんでしょ」という前提で話が進んでいますが、会社の発表も報道も、言っているのは「従業員」までなんです。

アルバイトなのか社員なのか、雇用のかたちは公表されていません。

何人が関わっていたのかも、まだ出ていない情報です。


テレビCMだけが止まらなかった

会社が出したお知らせには、6日の営業から止めるものが番号を振って並んでいました。

  • ビッくらポン!のフィギュア・アクリルマグネット・缶バッジの配布
  • オリジナル湯呑みのプレゼント
  • オリジナル寿司皿のプレゼント
  • レシート応募キャンペーン(ショートエプロンの抽選50名)
  • コラボメニュー(あげだっこ!ソースのめん・うさぎのパァンッケーキ)
  • ビッくらポン!の動画と店内装飾(原宿・なんばパークスサウス・新宿靖国通りの3店)

景品だけの話ではなかった、ということ。

食べに来た人が注文するメニューも、旗艦店の飾りつけも、まとめて畳まれました。

 

そのお知らせの終わりのほうに、こんな一文が添えられています。

「テレビCMにおきましては引続き『ちいかわ』コラボキャンペーンが実施中である旨の放送が継続しております」

店の中はあしたから止められるけれど、外へ出ていったものは、もう止まりません

テレビでは今日もコラボが続いていて、その放送を見た人が店に来ても、景品はもうない状態です。

店の側は、そのお客さんに事情を説明するところから明日を始めることになりそう。

1か月以上を残したまま、企画のほうだけが先に終わった格好

 

うーん、この一行が、今回の大きさを何より正直に教えてくれている気がします。


値札と請求書は別の紙に書かれる

さて、そこでよく目についたのが「結局この人はいくら払うことになるのか」という疑問でした。

漫画家の遠藤海成も、こんな投稿をしています。

複数人で割ったとしても、個人で支払える額に収まるのか。

引っかかるところは、たぶんここなんですよね。

 

そして、ここに今回いちばん怖いすれ違いがあります。

持ち出した側が見ているのは、たぶん手の中のモノなんですね。

缶バッジ1個、フィギュア1個、フリマで売れた金額。

発覚しても、そこで得た分を返せば話は終わる——という数え方です。

 

ところが会社の側は、手の中のモノを見ていません。

会社が見ているのは、止まったほうなんです。

民事の賠償は、儲けた額ではなく、与えた損害の額で決まる仕組み

儲けをぜんぶ吐き出したら終わり、という計算にはなっていません。

だから、景品の原価をいくら足し算しても、請求書の額にはたどり着けないまま

値札と請求書は、はじめから別の紙に書かれています。

 

刑事のほうは、さらに別の紙です。

業務上横領罪は刑法253条で、10年以下の拘禁刑と定められています。

この罪には罰金刑という選択肢がありません。

店の商品を勝手に持ち出したかたちなら窃盗罪(刑法235条)になり、こちらは10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。

どちらの名前が付くかは、そのモノを預かる立場だったかどうかで変わってきます。

 

そして刑事と民事は、別々に進む話でして。

警察の側で決着がついたから会社への支払いが消える、という関係にはなっていません。

逆に、会社と話がついたから刑事のほうも終わり、という関係でもないんです。

片方が終わっても、もう片方の紙は残ったまま。

 

さらに言うと、会社の中でも別の手続きが動いていきます。

報道では、くら寿司が社内規定に基づいて厳正に対処するとしていて、該当者への厳正な処分や法的措置を含めて対応する方針だとも伝えられていました。

刑事の紙、民事の紙、そして勤め先の紙。

数えられる場所が3つあるのに、持ち出した側が見ていたのは1か所だけでした。

 

ただ、今回それがどうなるのかは、まだ何も決まっていません。

警察に相談中という段階なので、そこは急がずに見ておくところ。


醤油差しの1本に6700万円

数え方の違いが数字になって表に出た例が、3年前にあります。

2023年1月、回転寿司チェーンのスシローで、少年が醤油差しの注ぎ口や未使用の湯呑みをなめる動画が広がった件です。

運営会社は同年3月、およそ6700万円の損害賠償を求めて提訴しました

 

6700万円。

醤油差し1本の値段でないことは、誰の目にも明らかですよね。

報道によると会社側は、その店だけでなく全国600以上の店舗の衛生管理に疑念を生じさせたと主張していました。

つまり請求書に書かれていたのは、なめられたモノの値段ではなく、揺らいだ前提のほうだったわけです。

回っている皿を、何も考えずに取っていいという前提。

あの動画が壊したのは、そちらでした。

 

この訴訟は同じ年の7月31日付で調停が成立し、訴えは取り下げられています。

会社側は、少年側が責任を認め、納得できる相応の内容で和解したとコメントを出しました。

最終的にいくらで収まったのかは公表されていません。

ですから「6700万円を払わされた」という話ではないんです。

それでも、はじめに突きつけられた数字が6700万円だったという事実は、そのまま残りました。


捨てるはずのものなら大丈夫か

ここまで読んで、寿司屋の従業員の話でしょ、と思った方もいるかもしれません。

でも、この数え方のズレは、たぶんもっと身近なところにあります。

 

職場で、こういう場面に出くわしたことはありませんか。

賞味期限が近くて捨てるだけの商品。

イベントで余ったノベルティ。

展示に使って傷が付いた見本品。

「どうせ処分するんだから」と言われて、そのまま持ち帰る人がいる光景です。

 

そして正直なところ、その多くは問題になりません。

会社が黙って許しているからです。

捨てるものを1つ持ち帰られても、会社の損は捨てる手間が減るくらい。

値札と請求書が、たまたま同じ額になる場面なんですね。

 

わざわざ怒る人がいないので、「持ち帰っても平気なもの」という記憶だけが残っていきます

そして次に手が伸びるとき、人はその記憶のほうを物差しに使うわけです。

値札で考える癖が育つのは、たぶんこういう場所。

 

ただ、この黙認が成り立っているのは、そのモノが自分の会社だけのものだったときに限られます。

そこが変わると、同じ「もらっただけ」が別の重さになってしまう。

取引先から預かった試作品。

コラボ相手のキャラクターが刷られたグッズ。

お客さんに配ると約束して用意した景品。

このあたりに手を伸ばした瞬間、数える人が社内から社外へ移ります。


よその名前が乗っていないか

判断の材料は、意外と単純です。

自分がいま手にしているそのモノに、よその名前が乗っているか

 

乗っていないなら、話し合いは会社との間で終わります。

乗っているなら、そのモノは会社の在庫であると同時に、会社がよそと交わした約束の一部でもあるんです。

今回のキャンペーンで言えば、景品の後ろには作品があり、権利を持つ相手がいて、全国の店に配る段取りがあり、テレビCMまで走っていました。

そこから1つ抜くのは、棚から商品を1つ減らすのとは、まるで別の行為になります。

 

もっと手前で使える物差しも、ひとつ。

それは「これ持って帰っていいですか」と、その場で聞けるかどうか。

捨てるパンやノベルティなら、たいていの人は普通に聞けますよね。

たぶん聞けないと自分で分かっているものは、持ち出しの対象ではありません

判断に迷う場面のほとんどは、この一問で足りてしまうはず。

 

もうひとつ、フリマに出した時点で起きることも書いておきます。

社内で誰にも気づかれなかったとしても、出品された画面は世界中から見えたまま。

今回、会社が動く入口になったのも、客の通報でも棚卸しでもなく、フリマの画面でした。

持ち出しは店の中で完結しますが、転売は最初から外に出ています。

その一歩を踏んだ瞬間に、話は自分の職場を離れてしまうというわけです。

 

もし身のまわりに、フリマで小遣いを稼いでいる若い人がいたら、伝えられることは1つあります。

仕入れ先を聞くのは野暮でも、「それ、どこの名前が入ってる?」なら普通に聞ける

名前が入っているものが並んでいたら、そこだけは一度立ち止まったほうがよさそうです。

 

そのうえで、いちばん割を食ったのは誰かと考えると、やっぱり気持ちが重くなります。

皿を5枚ずつ数えて、あと1種類だと粘っていた人。

今週末に行くと約束していた家庭。

それから、何も知らずに明日から店に立つ、同じ店で働く人たち。

今回の従業員がいくら請求されるのかは、まだ何も出ていません。

ただ、その額を決めるのが本人ではないことだけは、もう決まっています。

数えているのは会社のほうなので、出てくる数字を待ちたいところですね。