収録が進んで、罰ゲームの流れになる。

バラエティを見ていれば、たいていここは笑うところ。

ところが、その日の藤田ニコルは、収録が終わってから泣いていたそうです。

出されたのは、カフェインの入ったお茶。

そのときの藤田ニコルは、まだ誰にも言っていない妊娠初期でした。

 

2026年8月30日の夜に放送されたこの告白は、翌31日にネットで一気に広がります。

同情の声も多かったのですが、それと同じくらい「なんで隠すの」という反応も飛んでいました。

 

今回は、その「なんで隠すの」に答えるところから、妊娠を言い出せない人が職場でどんな目に遭いやすいのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。

収録後に泣きながら検索した話

まずは、何があったのかを順番に確認していきましょう。

番組は、2026年8月30日に放送されたテレビ朝日系『夫が寝たあとに』のスペシャル回です。

出産と育児をテーマにした回で、初出しの話として藤田ニコルが語ったのが、この日の出来事でした。

 

まだ妊娠を公表していない時期に、収録で急に罰ゲームの流れになったそうです。

出されたのは、カフェインの入ったお茶。

飲みたくはなかったけれど、断ることができなかった。

そのときのことを、藤田ニコルは「飲んで泣きました」と話しています。

 

収録が終わったあと、赤ちゃんへの影響を調べながら泣いていた、とも語られていました。

不安になって病院で相談すると、医師からは「1、2杯であれば大丈夫だよ」という言葉が返ってきたとのこと。

それで安心はしたそうです。

ただ、報道によると本人はこう続けています。

「初めて自分のことじゃなくて、子供のことを考えて泣いた日。自分が別にどうでもいいけど、守れなくてごめんね、みたいな…」

 

うーん。

自分のことなら我慢できるのに、という順番が入れ替わった瞬間の話ですね。

現場にいたマネージャーも、報道の中でコメントを出していました。

急にカフェイン入りのお茶を飲む展開になり、本人も断ることができず少量飲むことになった。

その時期は飲食系にとくに気をつけていたので、かなり申し訳なかった、という内容です。

 

時系列も置いておきます。

藤田ニコルが俳優の稲葉友との結婚を発表したのが2023年8月です。

第1子の妊娠を報告したのが2025年12月で、出産の発表が2026年5月でした。

つまり今回の収録は、2025年12月より前ということになります。

 

放送の翌31日、この話はネットで一気に広がりました。

同情の声もかなり集まっていましたが、それと同じくらい飛んできたのが「なんで隠すの」「先に言えばよかったのでは」という反応です。

言われてみれば、そう思う人がいるのも無理はありません。

ここから、その「なんで隠すの」に答えていきます。

なぜ安定期まで言わないのか

妊娠がわかったら、早めに周りへ伝える。

これができていれば、今回のようなことは起きませんでした。

それでも多くの人が、しばらく黙っています。

理由は、大きく分けて2つです。

1つ目は、体のほうの事情。

妊娠初期は流産が起きやすい時期とされていて、その多くは本人がどれだけ気をつけていても防げないものだと言われています。

だからこそ、広く伝えたあとに万一のことがあると、今度は伝えた全員へ説明し直すことになる。

その場面を想像すると、口が重くなるのは自然なことです。

安定期に入ってから、という言い方が広まった背景には、このあたりの事情があります。

ネットには「そんな謎ルールを作ったほうが悪い」という声もありましたが、安定期までという言い方は、経験から積み上がった自衛のようなものなんです。

 

2つ目は、仕事のほうの事情。

これは芸能界に限った話でもないんです。

妊娠を伝えたら、担当を外されるかもしれません。

決まりかけていた話が、なかったことになってしまいます。

そう思って言い出せない、という声は、今回の件でもかなり見かけました。

 

法律の上では、妊娠や出産を理由にして不利益な扱いをすることは禁じられています。

男女雇用機会均等法に書かれていて、いわゆるマタハラの根拠になっている条文です。

そして、妊娠を職場へ申告する義務は本人にはありません。

言うか言わないかは、本人が決めてよいことになっています。

いつ伝えるかについても、決まった時期があるわけではないんです。

つわりで休みが増える人は早い段階で伝えることになりますし、体調が軽い人は安定期まで黙っていられる。

同じ妊娠でも、言えるタイミングは人によって数か月ちがってきます。

 

ここが、今回の話のややこしいところなんですよね。

制度は「言わなくてよい」と言っていて、現場は「言ってくれないと守れない」と言う。

その間に立たされた人が、黙ったまま罰ゲームのお茶を飲むことになりました。

 

芸能人の特別な事情でしょ、と思われるかもしれません。

でも置き換えてみると、そんなに遠い話でもないはずです。

歓迎会で、とりあえずビールが回ってくる席。

健康診断のレントゲンです。

重い荷物を運ぶ当番。

どれも「言ってくれれば外したのに」で終わる場面で、その「言ってくれれば」が、いちばん言いにくい時期に重なっています。

言われないと守れない場所の弱さ

ここまで来ると、責める先を探したくなるはずです。

断らせた番組が悪いのか、言わなかった本人が悪いのか。

ところが当の本人が、8月31日にこんなことを書いていました。

誰も悪くない、私が悪い。

体験談として話しただけで、誰かを責める意図はなかった、ということです。

話した本人が火消しに回っている図には、少し複雑な気持ちにもなる。

 

そのうえで、この件をもう一段引いて見ると、犯人探しとは別の姿が浮かんできます。

今回の現場では、危ないものを避ける仕組みが、本人の申告ひとつにぶら下がっていました。

妊娠していると言えば守られます。

言わなければ、誰も気づけないまま。

つまり、安全のスイッチを押す役が、いちばん押しにくい人の手だけに握られていたわけです。

 

これは妊娠に限った話ではありません。

そばアレルギーの人が、断りきれずに一口食べてしまいます。

薬を飲んでいる人が、言い出せないまま接触の多い競技に混ざる。

持病があるのに、心配されるのが嫌で黙ったまま長時間の移動に付き合う。

形は違っても、骨格はどれも同じ。

守られるためには、本人がいちばん言いたくないことを言わなければならない、という設計です。

そしてそういう場所では、いちばん言い出しにくい立場の人が、いちばん危ない目に遭います。

新人です。

派遣。

その日だけのゲストです。

罰ゲームというのは、たいていその場でいちばん立場の弱い人のところへ流れていきますから。

 

「先に伝えておけば防げた」というのは、事実として正しい指摘。

ただしそれは、全員が同じように言える前提で成り立っている正しさなんです。

 

言える人は言えばいい。

問題は、言えない人が出たときに何も残らないことのほうです。

マネージャーが「申し訳なかった」と言い、本人が「私が悪いんです」と言い、番組は罰ゲームを続けていきます。

誰も悪くないまま、同じことがまた起きる形だけが残りました。

「1、2杯なら大丈夫」の中身

ここで、気になっている人が多いであろう数字の話もしておきます。

医師の言った「1、2杯であれば大丈夫だよ」は、どのくらい根拠のある言葉なのか。

 

妊娠中のカフェインについては、国ごとに目安が出ています。

農林水産省がまとめている資料によると、世界保健機関は1日300ミリグラムまで、イギリスやヨーロッパの機関は200ミリグラムまでという数字を示しているとのこと。

そしてコーヒーは、1杯150ミリリットルでおよそ90ミリグラムです。

紅茶はその半分ほどで、緑茶はさらに少なくなります。

 

並べてみると、コーヒーなら2杯から3杯あたりが目安の線です。

お茶であれば、もっと余裕があります。

医師の「1、2杯」は、この範囲にきちんと収まる言葉だったわけです。

 

つまり体への影響という意味では、藤田ニコルが心配したことは起きにくい状況でした。

それでも泣いたのは、なぜなのでしょうか。

ここが、この話のいちばん大事なところだと思います。

泣いた理由は、量ではありません。

自分で選べなかった、というほうです。

 

妊娠中の人は、口に入れるものを一つひとつ確認しながら過ごしています。

生ものを避け、飲み物の裏の表示を見て、外食のメニューでも一度手が止まる。

そうやって毎日積み上げてきた確認を、罰ゲームの1杯が横からひっくり返しました。

数字の上では安全でも、積み上げてきたものが崩れる感覚のほうは消えません。

「守れなくてごめんね」という言葉は、そこから出てきたものだと思うんです。

 

ちなみに、カフェインの許容量は体質や持病によっても変わります。

気になることがあれば、主治医に聞くのがいちばん確かです。

聞かないで済ませるという工夫

では、周りにいる人には何ができるのでしょうか。

答えを「本人が早めに言う」に置いてしまうと、また同じところへ戻ってきます。

そこで、聞かなくても安全になる形を考えてみましょう。

今日から使えそうなものを並べます。

  • 飲み物は、出す前に本人へ選んでもらう
  • 罰ゲームや余興は、飲む・食べる以外の選択肢も用意しておく
  • 理由は聞かずに「今日、無理なものある?」とだけ確認する
  • 迷ったら既定をノンカフェインにする

どれも大したことではありません。

ただ、この4つが入っているだけで、本人が何も言わなくても危ないものが当たらなくなります。

「言わせる」から「言わなくて済む」へ、負担の向きを変えるだけの話です。

 

理由を聞かない、というのが地味に効きます。

「なんで飲めないの?」と一言つけ足された瞬間に、答えたくない人は「大丈夫です」と言ってしまいますから。

 

もうひとつ、自分が当事者になったときのために、断り文句をひとつ持っておくのも手です。

「今日は薬を飲んでいるので」「体調を整えている最中なので」。

理由になっていないようで、これ以上は踏み込みにくい形になっています。

言いたくないことを言わずに断るための、逃げ道のような一言です。

持っているだけで、その場で固まらずに済むはず。

当事者の側には、使える道具もあります。

母性健康管理指導事項連絡カード、通称「母健連絡カード」です。

厚生労働省が様式を用意している紙で、医師から受けた指導内容を、そのまま職場へ伝えられるようになっています。

通勤の時間をずらす、休憩を増やすといった内容が書かれていて、勤め先はその内容に応じた対応をとることになっているとのこと。

自分の口で症状を説明しなくていい、というのがこのカードのいいところです。

カードがなくても、本人からの申し出があれば必要な対応をとることになっている、とも案内されています。

 

そして大前提として、言うか言わないかは本人が決めていいことです。

早く言ってくれれば守れたのに、というのは、守る側の都合でもありますから。

 

今回の件は、テレビの収録という特別な現場で起きた話に見えます。

それでも、飲み物が回ってきて断れなかった、という部分だけを抜き出すと、どこの職場にもある場面になってしまう。

先に伝えておけば防げた、というのは、たしかにその通りです。

ただ、言えるかどうかは人によってこれだけ差があるのに、そこへ安全をぶら下げたままにしておくのは、やっぱり無理があると感じてしまいます。

せめて飲み物くらいは、注ぐ前に選んでもらえる場にしておきたいところですね。