2026年9月に入ってから、武田塾という名前をネットでよく見かけるようになりました。

きっかけは、その塾に所属する講師が出ている動画での発言です。

福島大学の原子力の研究について「触らせたくない」と言い切った場面が広まって、9月1日には大学の学長が声明を出す事態になっています。

翌2日には、いわき市の市長までX上で言及しました。

 

ここで急に落ち着かなくなるのが、その塾にいま子どもを通わせている家庭ですよね。

うちの校舎も、あの人たちと同じなんでしょうか。

今回は、チェーンの塾の看板の下で何が同じで何が違うのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。

教えている会社は本部ではない

先に、いちばん大きいところから。

武田塾を運営しているのは株式会社A.verという会社ですが、実際に教室を開けて子どもを迎えている会社は、たいてい本部ではありません

フランチャイズ方式で急成長した塾で、各地の校舎はそれぞれ別の会社が運営しているとのこと。

コンビニの直営店と加盟店の関係と同じで、看板ものぼりも共通なのに、レジの向こうにいる人を雇っているのは別の会社、というわけです。

 

本部がやっているのは、方針を決めて、教材の進め方を作って、看板を貸すところまで。

そこから先の、誰を雇ってどんな教室にするかを決めるのは、加盟した会社のほうです。

この構図、親の側からは本当に見えません。

今回名前の挙がった校舎のページを開いてみましたが、そこを運営している会社の名前は見当たりませんでした。

住所も電話番号も最寄り駅からの分数も、ちゃんと出ています。

出てこないのは、契約する相手の名前だけ。

数の話も、調べてみると少し不思議なことになっていました。

校舎数は資料によって「300校以上」「450校超」「550校舎超」と幅があります。

どれかが嘘というより、数えた時点も数えた人も違うのでしょう。

加盟を募集している情報では、開業資金330万円・ロイヤリティは売上の15%と案内されていました。

つまり武田塾という名前は、数百の会社が共同で使っている看板に近いんです。

 

ここが分かると、親が塾を選ぶときの手つきが少し変わります。

パンフレットに書いてある方針や合格実績は、看板の側から出てきたもの。

一方で、月謝を払い込む先も、面談で向かい合う人も、辞めるときに話をする相手も、全部が校舎の側にいます。

同じ紙に載っているのに、出どころは二階建て。

評判が校舎で真っ二つに割れる

この二階建てが分かると、口コミの謎がひとつ解けます。

塾の口コミサイトを開くと、武田塾の総合評価は1点台から4点台まで散らばっているんです。

料金は高いが自習室がいい、講師は丁寧だが教室が落ち着かない、といった具合に、褒めている点と困っている点がかみ合っていません。

ところが校舎名まで絞り込むと、評価の傾向がぐっとまとまってきます

 

ネットでも、同じ受け止め方をしている人がいました。

「武田塾は校舎が多いからか、校舎によって質の違いが大きいらしいね」

面談に行ったら予約の時間を過ぎても始まらず、待たせたことへのひと言もなかった、という体験談も出ていました。

それに対して「たまたま悪い塾長、校舎に当たっちゃったかなあ」と返している人がいます。

当たり外れ、という言い方が自然に出てくるところに引っかかりました。

 

本部がそろえられるものと、そろえられないものがあるからです

参考書をどの順番で進めるか、宿題をどれだけ出すかは、マニュアルにできます。

教室の空気はどうか。

面談で親の話をどこまで聞くか。

辞めたいと言われたときに、どう返すか。

このあたりは生身の人がやることなので、運営する会社が変われば当然変わってきますよね。

 

ネットには「武田塾はやめとけ」という見出しの記事も並んでいますが、あれも同じ罠を踏んでいることがあります。

全国の口コミをひとまとめにして平均を出しても、数百の別会社をならした数字が出てくるだけ

だから「武田塾はどうですか」という聞き方をすると、答える人によって話が食い違うわけです。

聞くなら「◯◯校はどうですか」まで下ろす。

口コミサイトには校舎ごとのページもあるので、探すのが少し面倒でも、そこまで下りたほうが早く着きます。

星を下げ合っていた5年半前の話

この構図がいちばんはっきり表に出たのは、5年半ほど前のこと。

2021年3月、武田塾の柏校で、講師に口コミの投稿を指示していたことが発覚しています。

運営していたのは、やはり本部とは別の会社でした。

きっかけは、指示の画面がSNSに出回ったことだったそうです。

 

本部が公表した調査結果に、指示された投稿の内訳が書かれていました。

 

  • 自校舎への高評価口コミ 多数
  • 競合他社への低評価口コミ 1件
  • 他法人の運営する武田塾への低評価口コミ 1件

3つ目で手が止まります。

柏校の側は、同じ看板を出している武田塾に星ひとつを付けていたわけです。

本部はこの校舎とのフランチャイズ契約を、公表と同じ日付で解消したことも明らかにしていました。

 

投稿先として指示されていたのは、地図アプリの評価欄だったと報じられています。

社員が塾生を装って五つ星を付ける、という中身だったとのこと。

地図アプリの評価は、教室のように口コミの件数がもともと少ない場所ほど、数件の投稿で平均が大きく動きます。

星の数だけを見て選ぶと、塾生を装った投稿にそのまま当たってしまう。

 

ここから読み取れることは、ひとつです。

口コミ欄の星が付いているのは、看板ではなく校舎のほう

そして校舎どうしは、ときに客を取り合う相手にもなる。

だとすると、「武田塾 評判」で検索して出てきた数字を、そのまま自分の通う教室の話として読むのは、けっこう危ういということになります。

 

念のため書いておくと、これは2021年に発覚した一件で、いまの各校舎がどうだとは誰も言っていません。

ただ、そういうことが起こり得る形ではあります。

そこは押さえておいて損はないところ。

評判は流れて責任は流れない

ここで、今回の騒動に戻ります。

問題になった発言をしたのは、本部の側に所属している講師でした。

なのに写真を撮られて名前が広まったのは、その動画とは何の関係もない地方の校舎の看板です。

2021年のときは、まったく逆向きに流れていました。

加盟していた会社がやったことが、武田塾という名前ぜんぶの信用を削っていく。

 

看板は、上からも下からも評判を流します

ところが責任のほうは、どちらへも流れません。

9月上旬の時点で調べたかぎり、運営会社としての謝罪は確認できませんでした。

出演者本人の謝罪動画は9月5日に出ています。

ちなみに動画に出ていたもう1人は、その謝罪の場に出てきていません。

一方で名前の出た校舎の側には、関わっていないので謝るものがないわけですね。

 

謝った人と、謝っていない人と、そもそも関われない人。

その3種類が、同じ看板の下に並んで立っている状態です。

すると、いちばん行き場をなくすのは誰か。

不安になった親です。

教室で校舎長に聞いても「本部のことは分かりかねます」で終わり、本部に問い合わせれば「校舎の運営は加盟店が行っています」と返ってくる。

どちらも嘘をついていないのに、聞きたかった答えだけが宙に浮く。

 

フランチャイズの契約は、本部と加盟店のあいだで結ばれるもの。

親と塾のあいだの契約は、その外側でもう一本、校舎との間に結ばれています。

2本の線が交わっていないので、こちらの困りごとが本部まで届く道は、そもそも用意されていません

このすき間は、フランチャイズという形がある限り、どの業種でも生まれます。

うまくいっている間は、誰も気づきません。

何かが起きた日に、はじめて見えてくる。

今回いわき市の市長が声を上げたのも、もともと福島大学の副学長を務めていた人だからでした。

地元の人にとっては、大学の話と塾の看板が、同じ町の風景の中に並んで立っています。

通わせる前に聞いておく3つ

では、親の側は何をすればいいのか。

むずかしい話ではありません。

入る前に、3つ聞いておくだけです。

 

  • この校舎を運営している会社の名前は
  • いまの校舎長は、いつからここにいるのか
  • 辞めるときの手続きと、返金はどうなるのか

1つ目は、契約書に名前が載る相手を先に知っておく、ということ。

本部の名前しか知らないまま申し込むと、何かあったときに連絡先が分からなくなります。

そして、ここで教えてもらった会社名でもう一度検索すると、同じ会社が他にどんな教室を持っているかも見えてくる。

1つの会社が近隣の何校かをまとめて運営している例もあるので、隣町の評判が参考になることも。

2つ目が、意外と効きます。

教室の中身は人で決まるので、校舎長が替わった直後の評判は、その校舎の過去の口コミとつながりません。

去年までの高評価と、いまの教室は別もの。

逆に、低い星が並んでいても、それが前の体制の話なら気にしすぎなくていい場合もあります。

 

3つ目は、いちばん聞きにくくて、いちばん大事なところ。

入るときの説明はどこでも丁寧ですが、辞めるときの条件は、こちらから聞かないと出てこないことがあります。

とくに、いつまでに言えば翌月分が止まるのか

そこは面談のその場でメモしておくと、あとで助かります。

 

そして、この3つには裏の使い道もあるんです。

聞いたときの相手の顔つきが、そのまま情報になるから。

すらすら答える校舎もあれば、質問をはぐらかして自分の言いたいことだけ話す校舎もあります。

入る前にはぐらかす相手が、入ったあとで丁寧になることは、まずありません。

ついでに、自習している子の様子も見せてもらえると、その教室の空気はだいたい分かります。

看板がそろえているものもある

ここまで書くと、看板には意味がないように読めてしまいそうですね。

そこは一度、逆から見ておきます。

武田塾が知られているのは「授業をしない」という方針で、市販の参考書をどの順番でどこまでやるかを決めて、宿題と確認テストで進み具合を測っていく形です。

この骨格は本部が用意しているので、どの校舎へ行っても大きくは変わりません。

自分の子に合う勉強のやり方かどうかは、看板を見て判断していい部分なんです。

 

変わるのは、骨格を回す人と場所のほう。

だから看板で候補を絞るのは正しくて、最後の一歩だけ看板の外を見る、という順番になります。

入口の看板と、出口にいる人。

両方見られればいちばんですが、時間が限られているなら後ろを優先しておきたいところ。

言い換えると、看板は入口の役には立つけれど、出口までは保証してくれません

 

今回の騒動でいちばん気の毒なのは、動画に一度も出ていないのに看板だけ写真に撮られた校舎と、そこへ毎日通っている子たちだと思います。

ただ、この形は塾に限った話ではないんですよね。

ジムでも整体でも飲食でも、同じロゴの下に別の会社が並んでいるお店は、身のまわりにいくらでもあります。

看板は入口を選ぶために使って、最後は目の前の人を見る。

そのくらいの距離感で付き合っていくのが、ちょうどいいところですね。