7月28日の夕方、熊本で最大震度7の地震がありました。
その1時間半ほどあと、熊本県嘉島町のイオンモール熊本で大きな爆発が起きています。
亡くなった7人は、いずれもモールに入る店舗のスタッフだったとのこと。
うち2人は、お客さんを外へ誘導したあと、いったん駐車場まで下がっていた人たちでした。
その2人が、もう一度、建物の中へ入っていったのです。
なぜ戻ったのか。
勤め先だった雑貨店の運営会社は、8月2日の夜になってようやく、売上金を金庫へ移すため館内へ戻るよう指示したと認めました。
ただ、そこへたどり着くまでに1週間かかっています。
その間、会社は沈黙し、親会社のサイトからは社名が消えていました。
そのうえ遺族への最初の説明は、いま語られている話とは別のものだったのです。
隠していたのではないか。
ネットでそう言われているのは、この経緯があるからでした。
ひとつだけ、はっきりしていることがあります。
会社に事実を認めさせたのは、調査でも内部告発でもありませんでした。
亡くなった本人が、駐車場で親族に残した短い言葉です。
もし、その一言がなかったら。
隠蔽と言われている4つの動き
謝ったのなら、もう責めなくてもいいのではないか。
そう思える出来事なら、話はここで終わっていたはずです。
けれど今回は、謝罪までの1週間に何をしていたかが問われました。
爆発のあと、この会社の動きとして報じられているのは次の4つです。
- 1週間、会社としての声明を出していない
- 報道各社の取材にも応じていない
- 公式サイトへつながらないと指摘された
- グループ会社の一覧から、社名も紹介ページも消えた
どれも、事実を明かしていく方向の動きではありません。
社名が消えていたことが確認されたのは、8月2日の昼だと報じられています。
そして同じ日の夜が、通夜でした。
社長と幹部が参列し、経緯をまとめた書面を渡して謝罪したとのこと。
名前を引っ込めた日に、頭を下げに来たことになります。
翌8月3日、公式サイトに謝罪文が掲げられました。
書かれていたのは、亡くなった2人への弔意と、遺族へのお詫び。
館内へ戻す指示を出した経緯にも、社名が消えていた件にも触れていません。
そして、5つ目の動きがいちばん重いところ。
遺族への最初の説明では、従業員の側から「荷物を取りに行きたい」と申し出があったことになっていたそうです。
売上金の話は、そこには出てきません。
遺族が問いただし、あとになって売上金の指示が先だったという説明へ変わりました。
会社は、情報が錯綜して思い込んでいた、店長と突き合わせて分かった、と釈明しています。
順番がひとつ入れ替わるだけで、話はまるごと別のもの。
- 本人が戻りたがったのなら、不運な事故
- 会社が戻したのなら、防げたはずの人災
亡くなった人に理由を背負わせる説明が、一度は遺族へ届いてしまった。
謝罪の言葉がどれだけ丁寧でも、これは別の勘定として残ります。
ハビタの件、素直に謝罪して当時の状況下では予見できないとして遺族と一緒に被害者面して設備側の管理責任を一緒に追求する方向で行くのが生命線だったのに中途半端に嘘付くからこの先難しいやろな
— 8102 (@kam_jyun) 2026年8月4日
最初から順番どおりに話していれば、届いていた言葉はあったはずでした。
駐車場で、親族は止めていた
あの日の夕方に何があったのか、報じられている順に見ていきます。
地震のあと、この会社の営業部長は、まず店舗へ3回電話をかけました。
64歳の取締役で、呼び出しに応答はありません。
2人はそのとき、お客さんを避難させたあと、駐車場へ退避していました。
午後5時10分ごろ、営業部長はその日休みだった店長へつなぎ、2人が避難して無事であることを把握します。
そのあと、モールが休館になる見通しだと伝わってきました。
そこで店長へ、もう一度かけています。
伝えた言葉は「もし戻れるのであれば売上金を金庫に保管してほしい。無理なら可能な範囲で」。
あわせて「イオン側の許可を得てから入ってほしい」とも添えたとのことです。
その内容が、店長から避難中の2人へ渡りました。
店の造りも押さえておきます。
売り場はモールの2階、金庫は1階のバックヤードにありました。
売上金を運ぶには、フロアをまたいで歩くことになります。
再入館は、午後5時35分ごろ。
無事が分かってから爆発までは、およそ40分でした。
亡くなった1人が、大竹玖瑠美さん、22歳の正社員です。
もう1人は25歳の契約社員の女性で、氏名は公表されていません。
館内へ入る前、彼女は駐車場で買い物中のおばといとこに出くわしています。
親族2人は「危ないからやめた方がいい」と止めました。
それでも彼女は、会社に頼まれたという意味のことを残して、中へ入っていきます。
戻ってから爆発までは、約5分後とも、十数分後とも報じられていて、幅があるようです。
証言がなければ、どうなっていたのか
ここが、この事故でいちばん恐ろしいところ。
あの立ち話が、なかったとしましょう。
爆発のあと、遺族の手元に残るのは、娘が館内で亡くなったという事実だけになります。
なぜ戻ったのかを知っている人は、どこにもいません。
そこへ会社から、本人が荷物を取りに行きたがったので、と伝えられる。
確かめようにも、遺族の側には手がかりが何も残っていないわけです。
2人は「自分の判断で戻った従業員」として片づけられていました。
そこまでうまく運ぶだろうか、と感じる人もいると思います。
ただ、先に並べた4つの動きと、遺族への最初の説明を思い出してください。
会社は実際に、その説明を一度は遺族へ届けています。
訂正されたのは、遺族が問いただしたからでした。
ハビタの営業部長見てると、もし大竹玖瑠美さんのいとこの「『会社に売上を金庫に戻すよう言われた』と言って戻った」って証言がなかったら、大竹さん達は自業自得で死んだ扱いされてたな。だってあの営業部長、最初遺族に「従業員に『荷物を取りに行きたい』と言われた」って虚偽の説明してたんだぜ…
— あーぁ (@sxzBST) 2026年8月3日
同じことを感じている人は、かなりの数います。
公的な記録でも、社内の書面でもありませんでした。
事実がこの世に残ったのは、彼女がたまたま身内に会ったからです。
本人は、真実を守るつもりで言ったわけではないでしょう。
仕事に戻る理由を、身内に伝えただけでした。
その何気ない一言が、彼女の身に起きたことを、この世につなぎ止めています。
「無理なら」が断れない理由
止められたのに戻ってしまった。
そう聞くと、なぜ言うことを聞かなかったのか、と思いたくなります。
でも、この2つの声は重さがまるで違いました。
会社の言葉は、強制の形になっていません。
もし戻れるのであれば、と条件を付け、無理なら可能な範囲で、と逃げ道まで用意しています。
文面だけを取り出せば、これは配慮です。
ところが、雇っている側から言われた瞬間、意味が変わってしまう。
言った側からすれば、無理なら断ればいいという話。
受け取った側には、断ったという事実のほうが残ります。
しかも今回は、店長を経由して降りてきた頼みでした。
直属の上司から「会社がこう言っている」と渡された頼みを、避難中の20代が押し返せるかどうか。
熊本県内の他の3店舗にも、同じ趣旨の指示が出ていたと報じられています。
その3店舗は施設の許可を得て売上金を回収し、無事でした。
あの夕方、行けそうなら行くという判断が、いくつもの現場へ同時に降りていたことになります。
一方で、駐車場の親族の言葉には、何の力もありません。
心配から出た制止は、大げさだと受け取られる側に回りやすいからです。
命に近いことを言っていたのは、明らかに親族のほうでした。
けれど人を動かしたのは、遠慮がちな頼みのほう。
声の中身ではなく、誰の口から出たかで、人は動いてしまったんです。
イオン熊本
上長に「売上を金庫に入れてくれ」って言われたら、雇用されている側としては普通に断れない。
ハビタは売上金以上の補償と信頼を失った。
現在、雇用されている人も進退を考えるだろうね。
社員を大事にしない会社なんて。— レジェンド タイガー|ANAラー (@tigadge) 2026年8月3日
雇われて働いた経験があれば、すぐ分かる感覚のはず。
イオンのマニュアルでは、一度避難したら館内には戻らないことになっていたと、イオンの社長が会見で説明しています。
イオン側の担当者から店長へは、2人が入っていくのを見て声をかけた、という連絡もあったとのこと。
気にかけた人は、ここにもいました。
営業部長は、そのあとこう語っています。
「私が売上金の話を出さなければ、今回のことはなかった」
「中に入るという指示を出したことは問題だった。今後は避難を優先し、戻ることがないよう徹底する」
痛恨の極み、という言葉も残しました。
幹部の1人は「本当に今考えると、命に代えるものでは全くありません」と述べたそうです。
この人たちの誰かが、2人を死なせるつもりだったとは思いません。
問題は、そのつもりがなくても人を送り出せてしまうところにあります。
無理ならと付け足した瞬間、断るかどうかを決める役目は、いちばん立場の弱い人へ移ってしまうからです。
なお、爆発そのものの原因は、まだ確定していません。
LPガスに起因する可能性があるとして、8月3日から経済産業省や警察、消防などが施設の中に入って調べ始めたところです。
会社の指示が問われるのとは別に、なぜガスが漏れたのかは、これから明らかにされていきます。
同じ電話が自分にかかってきたら
ここまで読んで、ひやりとした人もいるはずです。
自分の家族が同じ場面に立ったとき、止められるだろうか、と。
声をかけるだけでは足りません。
今回、声はちゃんとかかっていたからです。
身内の「やめときなよ」には、いつも説明責任がついてきます。
なぜ危ないのか、どのくらい危ないのか、言った側が示さないと通りません。
ところが「できたらでいいから」のほうは、根拠がなくても言えてしまう。
指示ではない形をしているぶん、反論する場所すら用意されていないわけです。
そのあとに残るものも、まるで違います。
家族の忠告に従っても、翌日の生活は何も変わりません。
会社の頼みを断ると、明日からの関係のほうに残ります。
一晩の判断なのに、片方にだけ次の日がぶら下がっているわけです。
これでは、勝負になりません。
では、家族にできることは何でしょうか。
止まらせようとする方向は、いったん諦めます。
代わりに聞くのは、3つだけ。
- どこへ行くのか?
- 何をしに行くのか?
- それは誰に頼まれたのか?
効くのは、3つ目です。
誰に頼まれたのと聞かれた瞬間、頼んできた相手の顔が、本人の頭にはっきり浮かびます。
自分で決めたつもりだったものが、他人からの頼みだったと分かるだけで、断る言い訳が生まれるんですね。
そしてもうひとつ。
聞いておけば、その言葉が家族の側に残ります。
今回、遺族を助けたのは、まさにこの形の言葉でした。
最後に、いちばん大事なところを書いておきます。
行った本人を、責めないでください。
戻った判断を軽率だったと言われるのは、遺族にとっていちばん刺さる言葉になります。
今回、止めた親族は何ひとつ間違えていません。
届かなかったのは、言い方が弱かったからではないからです。
ハビタの営業部長が年配の男性で、若い女性の社員さんが従った図式が辛いです。男女差だけでなく、そこには明確な権力勾配があるでしょう(若い男性の社員や派遣、パートでも、年齢差や社内での身分の差があればとっさにでも断れないかもしれないです)。
— Harmonia axyridis (@alg159378) 2026年8月3日
とっさに断れないのは、その人が弱いからではないのですね。
大竹さんは、中学と高校でバレーボール部のキャプテンを務めていました。
後輩は、大好きな先輩だったと話しています。
父親を3年前に亡くしてから、働いて家計を支えていた人でした。
8月3日の正午から、告別式が営まれました。
お母さんの言葉が、報道に残っています。
「もう娘は帰ってこないんですよ」
「しっかり真実を話してください」
「帰れって言ってほしかったです」
通夜の場では「許さんけんね」という言葉も口をついたそうです。
別の親族は「いまは怒りの方が強い」「私は人災だと思う」と語りました。
遺族は、刑事責任を問うことも検討しているそうです。
この会社に口を開かせたものは、結局ひとつだけでした。
22歳の彼女が、駐車場で身内に残したたった一言です。
それがなければ、2人はいまも自分の判断で戻ったことにされていました。
無理ならと添えた指示も、通夜で手渡した書面も、公式サイトのお詫びも、あの一言の前では軽く見えてしまいます。
これから会社が話すことが、その一言に見合うものであってほしい。
あの駐車場のやりとりを思い浮かべると、どうにもやりきれません…。
亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。

