新名神6人死亡の求刑が7年…軽すぎると言われている件

6人が亡くなった事故で、検察が求めた刑は7年。
軽すぎませんか、と思った人がほとんどではないでしょうか。
2026年9月10日、三重県の津地方裁判所で開かれた裁判の話です。
新名神高速道路で渋滞の列に大型トラックが追突し、乗用車に乗っていた一家5人と、その前を走っていた男性が亡くなりました。
トラックを運転していた55歳の元運転手に、検察が求めたのが拘禁刑7年。
ニュースのコメント欄には、6人の命で7年とはどういうことなのか、という声が並んでいます。
ナイフなら15年なのに、と書き込んでいる人もいました。
ただ、この7年という数字には、あまり知られていない事情がひとつ。
今回は、なぜ7年だったのかと、その7年がどこから来た数字なのかを、順に見ていきたいと思います。
渋滞の最後尾で起きた13秒
事故が起きたのは今年3月、三重県亀山市の新名神高速道路でした。
渋滞の列に、大型トラックが追突したと報じられています。
亡くなったのは、追突された乗用車に乗っていた一家5人と、その前を走っていた56歳の男性の、合わせて6人。
一家というのは、45歳の父親と42歳の母親、そして11歳の長女と8歳の長男、5歳の次女です。
いちばん下のお子さんは、まだ小学校に上がる前だったとのこと。
9月10日は、検察が意見を述べる論告求刑の日。
そこで示された中身がこうでした。
携帯電話でTikTokの料理動画のスクリーンショットを撮ろうとして、13秒ほど脇見をしていたそうです。
そのあいだ、大型トラックは時速およそ82キロで走り続けていたとのこと。
渋滞に気づいて急ブレーキをかけたものの、間に合いませんでした。
検察側は論告で「脇見は瞬間ではなく交通規範意識の欠如は甚だしい」と述べています。
交通の危険をあまりに軽視したもので、非常に危険で悪質だ、とも。
過失の程度は非常に重い、という言葉も置かれました。
そのうえで求めたのが、拘禁刑7年です。
新名神6人死亡事故、スマホ見ながら運転の55歳被告に拘禁7年求刑 津地裁https://t.co/3vj9UPfjAi
新名神高速道路で3月、スマートフォンを見ながら運転し、6人を死亡させたとして、自動車運転処罰法違反の罪に問われた元トラック運転手の被告の論告求刑公判が開かれ、検察側は拘禁刑7年を求刑した。
— 産経ニュース (@Sankei_news) 2026年9月10日
法廷では、遺族が気持ちを述べる意見陳述もありました。
亡くなった男性の妻は「主人を返してください」と述べ、こう続けたと報じられています。
TikTokのスクショと人の命、どちらが優先されるべきか、分からないはずないですよね、と。
別の遺族は「正直7年は短いと感じる」とも話しています。
一緒に生きるはずだった私の人生まで奪われた、という一節も、そこにありました。
7年は手加減された数字ではありません
コメント欄でいちばん誤解されているのが、この7年という数字です。
7年というのは、誰かが情状をくんで削った数字ではありません。
まず、求刑というのは判決ではなく、検察側の意見のほうです。
この人にはこれくらいの刑がふさわしいと考えます、と法廷で述べる場面。
実際にいくつの刑を科すかを決めるのは、裁判所のほうになります。
判決は10月20日に言い渡される予定で、求刑がそのまま通るとはかぎりません。
これより短い数字になることも、当然ありえます。
そのうえで、今回問われている罪名を見てみましょう。
自動車運転処罰法違反、そのうちの過失致死。
いわゆる過失運転致死と呼ばれるもので、この罪の法定刑は「7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」と決まっています。
拘禁刑というのは、2025年6月から懲役と禁錮が一本化されてできた刑のこと。
去年ニュースで急に見かけるようになった言葉なので、聞き慣れないのも無理はありません。
変わったのは呼び名で、刑事施設に入る刑であること自体は同じです。
つまり7年というのは、この罪でたどり着ける上限そのもの。
検察は、出せるいちばん重い数字をそのまま出したことになります。
読売新聞オンラインの見出しにも、「法定刑の上限」という言葉がそのまま入っていました。
ながらスマホで新名神6人死亡事故、元トラック運転手の女に拘禁刑7年を求刑…法定刑の上限 : 読売新聞 https://t.co/3k3D6SgD70 #新名神高速道路 #ながらスマホ
— 読売新聞オンライン (@Yomiuri_Online) 2026年9月10日
遺族の言葉を、もう一度読み返してみてください。
7年と決まっていて、判決で7年が出たとしても、私たちは納得はしません。
これは判決への不満ではなく、天井そのものへ向けられた言葉でした。
遺族の側は、そこがどうなっているかを、すでに知ったうえで話しています。
求刑がいくら重くても、上限を超える判決が言い渡されることはありません。
だから「7年が出たとしても」という言い方になるわけですね。
6人が亡くなっても7年から増えない
次に多かったのが、6人なのになぜ1人分なのか、という疑問でした。
これはもっともな引っかかり。
刑法には、1つの行為が同時にいくつもの罪に当たる場合の決まりが置かれています。
今回のように、1回の追突で複数の方が亡くなったときも、この形。
そのときは、当てはまる罪の中でいちばん重いものの範囲で刑を決めることになっています。
だから亡くなった方が2人でも6人でも、上限の7年は動かないまま。
人数がそのまま足し算になるわけではない、というのが「6人で7年」の正体です。
量刑を決める場面で人数が重く見られることはあっても、枠そのものは広がりません。
納得できるかどうかはまた別として、仕組みとしてはそうなっています。
ちなみに、ナイフで人を殺めた場合と比べている書き込みも多く見かけました。
あちらは殺人罪で、人を死なせるつもりがあったかどうかで分かれる罪です。
今回の罪名が扱っているのは、そのつもりが無かった場合のほう。
同じ「人が亡くなった」でも、法律は別の棚に置いているというわけです。
棚が違えば、そこに並んでいる年数も違ってきます。
そこを知らないまま数字だけを見比べると、司法が甘いという話に着地してしまう。
危険運転と過失運転を分けている線
そしてもう一つ、リプ欄でくり返し出ていたのがこの問いでした。
スマホを見ながら大型トラックを走らせて6人が亡くなったのに、なぜ危険運転ではないのか。
同じ自動車運転処罰法の中に、危険運転致死傷罪という重い罪があります。
人を死なせた場合の法定刑は「1年以上の有期拘禁刑」。
有期拘禁刑というのは、上限が20年。
上限が7年で止まる過失運転とは、置かれている場所がまるで違います。
ここが分かれ目なのですが、危険運転かどうかは、危なさの度合いでは決まりません。
条文に並んでいる行為に当てはまるかどうか、で決まります。
並んでいるのは、たとえばこうしたものです。
- お酒や薬物の影響で正常な運転が難しい状態での運転
- 進行を制御することが困難な高速度での運転
- 運転の技能を持っていない状態での運転
- 車の前に割り込むなどして通行を妨害する目的の運転
- 赤信号をことさらに無視する運転
- 通行禁止の道路を危険な速度で走る運転
このほか、病気の影響で正常な運転が難しい状態のまま走った場合など、別に定められている形もあります。
お気づきのとおり、危険運転の一覧に「スマホを見ながら」は入っていません。
どれだけ長く画面を見ていたとしても、当てはまる形が無ければ、扱いは過失運転のほうになります。
危ないかどうかではなく、書いてあるかどうか。
そこが、私たちの感覚といちばんずれている部分ではないかと思います。
このリストは、はじめからこの形だったわけでもありません。
危険運転致死傷罪ができたのは2001年で、2013年に自動車運転処罰法という独立した法律になりました。
2020年には、あおり運転などの妨害行為も加わっています。
つまり、問題になった行為が、あとから1つずつ書き足されてきた。
そういう積み重ねでできているリストなんですね。
7月の改正で入ったのはドリフトだった
ここで、多くの人が見落としている出来事があります。
この危険運転致死傷罪、実は今年の7月21日に改正法が施行されたばかりでした。
2001年に作られてから、いちばん大きな見直しだと言われています。
変わったのは、大きく3つ。
1つめが、お酒の類型に数値の基準ができたこと。
呼気1リットルにつき0.5ミリグラム以上のアルコールがあれば、一律に対象になります。
2つめが、速度の類型にも数値が入ったこと。
一般道なら制限速度を50キロ超える、高速道路なら60キロ超えるといった線が引かれました。
そして3つめが、わざとタイヤを滑らせたり浮かせたりして走る、いわゆるドリフト走行です。
千葉県警察も、施行の前にこの改正を告知していました。
【#酒酔い運転 等の数値基準の新設について】
令和8年7月21日から
酒酔い運転の要件にアルコール濃度の数値基準が新設されます。
このほか、危険運転致死傷罪の要件についても改正されます。
飲酒運転は、悪質・危険な犯罪です。
飲酒運転は絶対しない・させない・許さない!! pic.twitter.com/YLBpLubuV2— 千葉県警察 (@Chibakenkei) 2026年7月16日
枠そのものは、今年の夏に確かに広がっています。
ドリフト走行は、新しく危険運転の側へ入りました。
ところが、ながらスマホは入っていません。
今回の事故は3月なので改正前の話ではあるものの、仮に7月より後の事故だったとしても、扱いは変わらなかったことになります。
見送りの理由に「何秒見ていたか」があった
では、なぜ入らなかったのでしょうか。
ながら運転を対象へ加えるかどうか、議論そのものはされていたと報じられています。
見送られた理由として挙げられていたのは、大きく2つでした。
1つは、行為の中身が幅広すぎること。
スマホでゲームをしていた人と、カーナビで道を確かめた人を、同じ罪でひとくくりにできるのか、という問題です。
たしかに、ここは簡単ではなさそうに思えます。
もう1つが、こちらでした。
事故のあとで、運転していた人が何秒間スマホを見ていたのかを証明するのが難しい。
証明できなければ、法律を作っても使われません。
だから慎重に検討すべきだ、と。
この2つめの理由が、どうにも引っかかります。
今回の法廷で検察が示していたのは、まさにその秒数だったからです。
13秒。
証明が難しいという理由で外された行為について、難しいはずの秒数のほうが、法廷にはちゃんと出ていました。
この件は、判決が軽そうだという話に見えます。
けれど、並べてみると順番が逆。
証明が難しいからと危険運転の枠から外された行為で、証明のほうが、先に法廷へ届いていました。
もちろん、1件の裁判で秒数が出せたからといって、どの事故でも同じように数えられるとはかぎりません。
それでも、難しいと言われてきたことが、この法廷では現に行われていました。
他人事ではないな、と感じた人もいるかもしれません。
信号待ちのあいだに通知をひらく。
走りながらナビの行き先を入れ直す。
どちらも、自分の中では「ほんの一瞬」のほうへ分類されているはずです。
今回の論告に置かれていた言葉は、まさにそこを指していました。
脇見は瞬間ではなく。
13秒という数字は、運転している側の体感と、あとから数え直した記録とで、長さがまるで違って見えるものなんですね。
ながらスマホによる死亡・重傷事故は、去年1年間で148件。
過去10年でいちばん多い数字だったと、警察庁の集計をもとに報じられています。
呼びかけも取り締まりも続いているのに、数字のほうは減っていません。
10月20日に出る数字のこと
判決は、10月20日に言い渡される予定です。
そこで出てくるのは7年か、それより短い数字か。
少なくとも、7年を超える数字が出てくることはありません。
遺族が「7年が出たとしても納得はしません」と話したのは、そこまで見たうえでの言葉でした。
怒りの向け先が判決なのか、それとも数字の天井のほうなのか。
ニュースを追いながら、そこだけは分けて見ておきたいところです。
料理動画のスクリーンショットを撮ろうとした13秒のあいだ、6人はまだ、いつもどおり高速道路を走っていました。
亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。
