日本ラグビーのプロリーグ「リーグワン」2部・九州電力キューデンヴォルテクスのサイモニ・ヴニランギ選手が、チーム練習のあとに重度の熱中症で倒れ、2026年8月7日の朝、福岡市内の病院で亡くなりました。

26歳でした。

 

夏の運動は、夕方になってから。

そう決めて、日が傾くのを待ってから走りに出ている方は多いですよね。

夕方練習の部活へ子どもを送り出している親御さんも、きっと同じだと思います。

ところが、ヴニランギ選手が倒れた日の練習は、始まったのが夕方の16時50分だったとのこと。

真昼の炎天下ではなく、「もう峠は越えた」と感じはじめる時間帯です。

「夕方なら涼しいから安全」は、どこまで本当なのでしょうか。

この記事では、夕方の練習でも熱中症が危ない理由と、今夜からできる備えを、いま分かっている事実から順番に見ていきます。

ラグビー選手が熱中症で倒れた夕方の練習

まず、何が起きたのかを順番に整理しましょう。

倒れたのは、2026年8月3日。

この日、九州電力キューデンヴォルテクスはチーム練習を行っていて、ヴニランギ選手は練習のあとに熱中症の症状を訴え、救急搬送されたと報じられています。

診断は、重度の熱中症

そして8月7日の朝、福岡市内の病院で亡くなったことが発表されました。

倒れてから、わずか4日でした。

 

見ておきたいのは、その日の練習の中身です。

練習が始まったのは、夕方の16時50分。

時間は約50分で、内容はランニングが中心だったとのこと。

炎天下で何時間も、というメニューではありません。

ただ、気象庁の記録では、この日の福岡は最高気温36.9度

練習が始まった17時ごろも、気温はまだ35度ほどあったと報じられています。

夕方といっても、体が受けていた暑さは、真昼とほとんど変わらなかったことになります。

 

ヴニランギ選手はフィジー出身で、身長196センチ・体重117キロの、体の大きなフォワードでした。

大東文化大学でプレーしたあと、2023年にリーグワン1部の東京サントリーサンゴリアスへ進み、2026年7月に九州電力への加入が発表されたばかりでした。

大学時代から日本でプレーしてきた選手なので、日本の夏を過ごすのは今年がはじめてではありません。

チームは現在、活動を停止していて、再開のめどは立っていないそうです。

リーグワンや他のチームからも、哀悼の発表が続いています。

倒れた日も水分補給の休憩はとっていた

練習中、水分はとっていなかったのか。

まず気になるのは、そこだと思います。

結論から言うと、とっていました。

報道によると、この日の練習では、給水の休憩が複数回はさまれていたとのこと。

練習時間そのものも、約50分でした。

そして、同じ練習に参加していた他の選手には、体調不良は出ていないそうです。

 

同じ時間、同じ暑さ、同じメニュー。

そのなかで重度の熱中症になったのは、ヴニランギ選手ひとりでした。

なぜヴニランギ選手だけが、これほど重い熱中症になったのか。

その理由は、まだ発表されていません。

給水の休憩を複数回はさんだ、夕方の約50分の練習。

それでも、重度の熱中症は起きました

熱中症がいちばん多いのは炎天下じゃない?

熱中症と聞いて頭に浮かぶのは、炎天下のグラウンドや真昼の工事現場だと思います。

ところが、救急搬送の数字は違う場所を指しています。

東京消防庁の集計(2025年6〜9月)では、熱中症で搬送された人の発生場所は、住宅が36%でいちばん多かったそうです。

外でもなく、運動中でもなく、家の中。

しかも搬送された人の半数以上は、65歳以上とのことです。

 

家の中で何が起きているのか。

仕組みはこうです。

建物には昼の熱が残っていて、日が沈んでも室温はなかなか下がりません。

夜は湿度が上がるので汗が乾きにくく、体の熱を逃がしにくくなります。

そして眠っている間は、のどの渇きにも、体温の上がりにも気づけないまま

起きていれば「暑いな、水を飲もう」と動けますが、寝ている体はそうはいかないのです。

こうした夜の熱中症には、近年「夜間熱中症」という呼び名も使われています。

夜の熱中症のやっかいなところは、眠っている本人がその場で気づけないことです。

だから、異変に気づくのは朝になってから、というケースが多くなります。

朝起きたときのずきずきする頭痛や、起き上がれないほどのだるさ

「寝不足かな」「疲れが残っているのかな」で片づけてしまいがちですが、それが夜の熱中症のサインのことがあります。

もちろん、朝のだるさのすべてが熱中症というわけではありません。

ただ、寝る前は元気だったのに朝だけ調子が悪い、が続くようなら、寝室の暑さを一度疑ってみてもいいかもしれません。

 

暑い時間を避ける、という工夫そのものは正しい知恵です。

ただ、今年の暑さは17時でも35度あり、夜の寝室にも熱が残ります。

時間をずらせば安全、という保証はもうありません。

いちばん無防備なのは、眠っている時間なんです。

夜ランニングと子どもの部活で見直すこと

涼しくなってから体を動かす、という習慣の方は多いと思います。

夜ランニングや散歩、夕方からの子どもの部活、日が傾いてからの公園遊び。

どれも「昼よりまし」を選んだ、まっとうな工夫です。

ただ、今回の事故が起きたのは16時50分開始の練習でした。

しかも8月3日の福岡は、一日でいちばん気温が下がった時間でも29.1度

夜になっても、30度近くから下がらなかったわけです。

 

だから、夜ランニングと子どもの部活では、いくつか見直すことがあります。

まず、出る前に気温と一緒に湿度も見ること。

気温がそこそこでも、湿度が高い夜は汗が乾かず、体に熱がこもりやすくなります。

次に、飲み物は途中で買うのではなく、持って出ること。

そして、ここまで来たらやめるという目安を、走り出す前に決めておきましょう

体の異変は、夢中になっているときほど後回しにしてしまいます。

子どもの部活や外遊びなら、切り上げの時間を大人の側が先に決めておく。

給水休憩をとっていたプロのチームでも起きたことを思えば、途中でやめる判断は決して大げさではありません。

 

もうひとつ、夜ランニングに足しておきたい習慣があります。

なるべく一人で走らないこと、そして家を出るときに、どこを走るかとだいたいの帰り時間を伝えておくことです。

昼間の公園なら、座り込んでいる人がいればすぐ誰かが気づきます。

夜の道では、それが期待できません。

帰りが遅いことに家族が気づける、というだけでも心強い備えになります。

子どもの部活や外遊びなら、「しんどくなったら、がまんしないで言っていいからね」を先に伝えておきたいところです。

子どもは、練習の途中で調子の悪さをなかなか言い出せません。

言っていい、と先に言われているだけで、子どもは声を上げやすくなります。

今夜からのエアコンは朝までつけっぱなし

寝るときのエアコンは、タイマーで切れる設定にしている方が多いと思います。

電気代も気になりますし、つけっぱなしは体に悪そうな気もしますよね。

ただ、タイマー切りには落とし穴があります。

エアコンが切れたあとの明け方に、室温と湿度がじわじわ上がっていくんです。

眠りが深い時間帯に部屋が暑くなっても、気づいて起きられるとは限りません。

だから自治体などの呼びかけでは、暑い夜はエアコンを朝までつけっぱなしにすることがすすめられています。

 

目安は、室温28度以下。

ここで大事なのは、エアコンの設定温度ではなく、実際の室温を見ることです。

環境省も、室内でも温度を測るように呼びかけています。

設定を28度にしていても、部屋の造りや日当たりで、実際の室温はそれより高いことがあるからです。

寝室に温度計をひとつ。

それだけで、なんとなく涼しい気がする、を数字で確かめられるようになります。

湿度も一緒に表示されるものなら、なおいいですね。

 

エアコンの風が体に当たるのが苦手で、それでタイマー派になっている方もいると思います。

その場合は、まず風向きを上に向けて、体に直接当てない設定に。

冷えた空気は自然に下へ降りてくるので、上向きの風でも寝室は冷やせます。

あわせて、扇風機やサーキュレーターで部屋の空気をゆっくり回すのも定番の工夫です。

空気が回ると、ベッドのまわりだけ暑い、といった温度のムラが減ります。

風そのものが苦手でも、壁や天井に向けておけば、体に当てずに空気だけを動かせます。

 

あとは、寝る前にコップ1杯の水を飲むこと。

そして、枕元に飲み物を置いておくこと。

夜中に目が覚めたとき、その場で一口飲めるかどうかの差は小さくありません。

それでも朝起きて頭痛や強いだるさなど、体調がおかしいと感じたら、我慢せずに病院で診てもらってください。

エアコンを我慢する親にどう伝えるべきか?

搬送された人の半数以上が、65歳以上。

この数字で、離れて住む親御さんの顔が浮かんだ方もいるのではないでしょうか。

やっかいなのは、高齢になるほど暑さを感じにくくなることです。

本人は本当に「暑くない」んです。

だから電話で「エアコンつけてる?」と聞いても、大丈夫、暑くないから、と返ってきて会話が終わってしまいます。

 

感覚を聞くのではなく、数字を聞く。

「いま部屋、何度?」という聞き方に変えるだけで、返ってくる答えが変わります。

温度計がない家なら、湿度も出るデジタルの温度計をひとつ送ってしまうのも手です。

聞くのは、エアコンの設定温度ではなく、部屋の温度計の数字。

室温が28度を超えていたらエアコン、と線を先に決めておくと、我慢する理由が減ります。

電気代がもったいないからとエアコンを我慢する親には、タイマーで切ると明け方の部屋が暑くなって危ないらしいよ、と伝えてみてください。

 

夕方の練習で、水分補給の休憩をとっていたプロ選手でも、命を落とすことがあります。

エアコンのスイッチと、コップ1杯の水と、親への短い電話。

どれも、今夜からできることです。

今夜、寝室のエアコンをつけるとき、夕方の練習で倒れた26歳の選手のことが頭に浮かびそうです…。

亡くなられたサイモニ・ヴニランギ選手のご冥福を心からお祈りいたします。