2026年8月14日の午後、北海道虻田郡豊浦町の海岸で、10代前半の兄弟2人が海に流されました。

翌15日の未明に搬送先の病院で亡くなったのは、2人を助けようと海へ入った39歳のお父さんです。

兄弟2人は自力で岸へ戻り、無事でした。

子どもと海へ出かける同じ親の一人として、これがよその出来事とは思えません。

今回は、この事故で何が起きたのかと、同じ場面に立ったとき親に何ができるのかを、順番に確かめていこうと思います。

豊浦町のキャンプ場で起きた水難事故

事故が起きたのは、8月14日の金曜日、午後2時ごろ。

8月なかば、夏休みのまっただ中です。

場所は豊浦町の海岸で、大岸シーサイドキャンプ場のすぐ前の海でした。

家族は江別市から、車でおよそ2時間かけて来ていたそうです。

江別の家を出てから海に着くまでの車内は、着いてからの遊びの話でにぎやかだったことでしょう。

 

海で遊んでいた10代前半の兄弟2人が沖に向かって流され、気づいたお父さんが2人を追って海へ入りました。

兄弟2人は、自分の力で岸へ戻ることができたとのこと。

お父さんを海から引き上げたのは、キャンプ場にいた他の利用者。

そして翌15日の未明、搬送先の病院で亡くなりました。

報道によると、お父さんも兄弟2人も、ライフジャケットは身に着けていなかったようです。

現場は遊泳禁止と知らされていた海

この海岸は、海水浴場ではありません。

豊浦町の説明も同じで、ここは遊泳区域に設定されていない海。

遊泳区域というのは、自治体などが「ここは泳いでよい」と定めた範囲のことで、監視や救護の体制はその中に置かれます。

裏を返せば、この海には監視員も旗もない、ということです。

そしてキャンプ場の管理者は、利用者に遊泳禁止を知らせていました

この点は、各社の報道で一致しています。

管理者がこの場所を営んできたのは、およそ15年。

2025年5月に公開された取材ブログには、「離岸流も発生する場所」だから十分に気をつけてほしい、ここは海水浴場ではなく砂遊びや釣りをする場所だ、という趣旨の管理者の言葉が残っていました。

離岸流とは、岸から沖へ向かう強い流れのことです。

見た目には分かりにくく、泳ぎの得意な人でも岸へ戻れなくなることがあるとされています。

泳がないでほしいという呼びかけは、その場しのぎの注意ではなく、この海を15年見てきた人の実感から出た言葉でした。

 

このキャンプ場が愛されてきた理由も、はっきりしています。

テント1張り500円から泊まれて、予約はできない先着順。

この値段で海の目の前に泊まれる場所はそう多くなく、キャンプが好きな人にはたまらない条件です。

開いているのは4月下旬から10月中旬まで。

砂浜のすぐ後ろにテントと車を並べられて、目の前がもう海です。

事故の前のXでは、海の目の前に泊まれる穴場として好意的に紹介されていました。

報道の映像に映っていたのも、白い波の立つ海岸線と、砂浜のすぐ後ろに並ぶテントと車の列。

テントを出て数歩で波打ち際に立てることが、この場所のいちばんの魅力で、同時にいちばんの危険でもあります。

 

知らされていなかったから起きた事故ではありません。

知らされていて、それでも起きた事故です

わが子が流されたら親はどう動くか

このニュースを知った親の多くが、同じことを考えたはずです。

自分だったら、どうするか。

たぶん、考えるまでもありません。

わが子が沖へ流されていく光景が目に入った瞬間、親の体は海へ向かって動きます。

危険を数えるのも、浮くものを探すのも、そのあとです。

遊泳禁止と知らされていても、その瞬間の体は止まらないのだと思います。

頭では大人が飛び込んでも助けられないと知っている人でも、わが子となれば話は別でしょう。

 

ただ、何も持たずに水へ入ることには、はっきりした危険があります。

水の中で余裕を失った人は、そばに来た人がいれば、その体に必死でつかまろうとするとされています。

悪気があってのことではなく、水の中で体が勝手にそう動いてしまうのだそうです。

つかまられた側は腕を取られ、泳ぎに自信のある大人でも一緒に沈んでしまいます。

助けに入った人が先に力尽きる水の事故は、こうして起きるのです。

浮くものを一つ持って入るだけで、つかまる先を自分の体の代わりにできます。

 

それでも、あの日のお父さんの行動を、間違いだったと言うことは私にはできません

同じ場所に立てば、自分もきっと、何も持たずに海へ入っています。

「なぜ入ってしまったのか」という問いは、岸の安全な場所からしか出てきません。

結果を知ってから言えることと、あの場で見えていたことは、別のものです。

 

実際、同じ形の事故は続いています。

8月8日には、愛知県東栄町の鴨山川で、小学6年生の息子さんを助けようと水へ入った40歳のお父さんが亡くなりました。

この事故でも、ライフジャケットは着けていなかったとのことです。

豊浦町の事故は、その6日後の出来事でした。

息子2人を心配するネットの声

事故のあと、ネットには多くの声が集まりました。

といっても、家族の行動を責める声が中心ではありません。

残された息子2人を気づかう声のほうが、ずっと大きく広がっています。

同じ年ごろの子を育てている親からの言葉も、たくさん見かけました。

私も同じ親として考えると、お父さんがいちばん望んでいたのは、息子2人が生きて岸へ帰り着くことだったのかもしれません。

実際に、2人は自分の力で岸へ帰り着いています。

 

どうかこの先、2人があの日の海を、自分たちへの責めに変えないでほしい

そしていつかまた、家族の思い出ごと夏を好きでいられる日が来ることを願っています。

夏が来るたびに思い出すのが、怖かった海ではなく、お父さんと遊んだ時間であってほしい。

名前も顔も知らない2人のために、同じ願いを書き込む人が、いまも絶えません。

もし目の前で子どもが流されたら

もし目の前で子どもが流されたら、助かる道は「飛び込まない」ことから始まります

まず、自分は水に入りません。

大声で周りの人を呼びます。

そして通報です。

海の事故には、118番という専用の緊急番号があります

118番は海上保安庁につながる番号で、ここにかけると、海の救助が直接動きます。

海の上の救助を担っているのは、消防だけでなく、海上保安庁の船や航空機。

119番しか浮かばない人が多いからこそ、家族で水辺へ行く前に覚えておきたい番号です。

 

つづけて、浮くものを投げます。

浮き輪でも、クーラーボックスでも、ふたをしたペットボトルでも構いません。

手元に何もないときは、周りのテントに声をかけてみてください。

つかまる物さえあれば、流された人は救助が来るまで浮いていられます

体が浮いている時間が長いほど、救助が間に合いやすくなるからです。

飛び込まないことは、見捨てることではありません。

助けるための、いちばん確かな手順です。

Yahoo!ニュースの読者投票では、約2,000人が参加して、「ライフジャケットの着用の徹底」を選んだ人が55.9%で最多だったそうです。

誰かを責めるより先に、多くの人が始めたのは備えの話でした。

 

泳ぐ場所を選ぶことも、その備えに入ります。

監視員と旗のある海水浴場なら、人の目と救護の体制の中で遊べます。

家族より先に、異変に気づいてもらえることもあります。

北海道には、ライフジャケットを無料で貸し出す海水浴場も出てきました。

豊浦海浜公園海水浴場では、今年は7月18日から8月23日まで、無料レンタルの窓口が開かれています。

 

その海水浴場に立つ旗には、色ごとに意味があります。

しかも旗の意味あいは、どこの浜でも同じとは限りません。

そして離岸流は、浜に立って波の様子を見るだけで、できやすい場所をある程度見分けられるそうです。

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子どもと水辺へ行く日は、せめて子どもにはライフジャケットを着けさせるべきではないでしょうか

そのうえで、118番と「飛び込まない」を、大人の側が知っておく。

亡くなられたお父さんのご冥福を、心よりお祈りいたします。