事故

熊本イオンモール爆発|戻った2人を入れたのは誰だったのか

7月28日、最大震度7の揺れのあと、イオンモール熊本の買い物客およそ3000人は、30分ほどで全員が外へ出ました。

爆発が起きたのは、そこから1時間近くたった午後5時50分ごろ。

亡くなった7人は、全員がテナントの従業員でした。

そのうちの2人が館内へ戻ったのは、午後5時35分ごろだったとされています。

戻ってから、およそ15分後の出来事でした。

そしていま、その2人を建物に入れたのは誰だったのかで、説明が真っ二つに割れています。

午後5時35分、一般の入口から

令和8年7月28日、熊本を最大震度7の揺れが襲いました。

嘉島町のイオンモール熊本では、買い物客およそ3000人が、およそ30分で避難を終えています。

大型の商業施設で3000人を30分。

日ごろの訓練が機能していなければ、まず出ない数字です。

実際、買い物客に犠牲者は出ませんでした

避難そのものは、うまくいっていたんです。

 

イオンのマニュアルも、はっきりしていました。

「一度避難したら、館内には入らない」

イオンの吉田昭夫社長は、7月29日の記者会見でその点をあらためて強調しています。

それでも、2人の女性従業員は午後5時35分ごろ、一般のお客さん向けの入口から建物の中へ戻りました。

従業員用の通用口ではなく、買い物客が使う入口です。

こそこそと裏から入ったわけではない、ということ。

そして、午後5時50分ごろ、爆発。

このとき館内には、少なくとも8人の従業員が残っていたと報じられています。

外へ出た人と、中にいた人。

その差が、そのまま生死の線になってしまいました。

 

ガスはどこから漏れたのか

このモールがある一帯は、都市ガスが供給されていない地域です。

そのため敷地内にLPガスのタンクが置かれ、そこから配管で館内へガスが送られていました。

タンクの大きさは、最大で9トンを超えます。

経済産業省の会見によれば、そのタンク自体は壊れていませんでした

もし漏れていたとすれば、配管のどこかに問題があった可能性が出てきます。

そして、地震を感知して自動でガスを止める装置が本当に作動したのかどうか。

そこが調査の焦点になっているとのこと。

 

LPガスは空気より重いので、漏れても上へ抜けず、床に近い低いところへたまっていきます。

液体から気体になると、その体積はおよそ250倍にもなるそうです。

8月3日には、経産省が警察・消防と合同で施設内の現地調査を始めましたが、原因の輪郭が見えるのはまだこれからとのこと。

「もし戻れるのであれば」の一言

8月3日、亡くなった2人が働いていた雑貨店の運営会社が、遺族に謝罪し、報道陣の前で説明を行いました。

熊本市に本社を置く、ハビタという会社であることがわかっています。

会見で、指示を出した本人である64歳の営業部長が、こう述べています。

「私が指示をしたのは事実。責任を痛感している」

 

なぜ、そんな連絡をしたのか。

理由として語られたのは、イオンモール熊本が当面休館になるかもしれない、という見通しでした。

休館になれば、売り場に置いたままの売上金は、しばらく手が届かなくなります。

そこで、当日休みだった店長へ、こう伝えたといいます。

「もし戻れるのであれば売上金を金庫に保管してほしい、無理ならば可能な範囲で」

店長はその連絡を受けて、店にいた従業員へ電話をかけました。

記者から「会社の指示と認めるか」と問われ、会社側は「そうだ」と答えています。

 

言葉としては、無理を強いる形になっていません。

けれど、会社から店長へ、店長から現場の従業員へと降りていくあいだに、その「もし」というリスク管理意識はどんどん薄くなっていきます。

断るための材料を、いちばん下にいる人だけが持っていません。

しかも会社は、地震のあと店長を通じて、2人が無事であることをすでに確認していました

無事を確かめたあとで、連絡が届いているわけです。

亡くなったのは、22歳の女性と、25歳の同僚女性でした。

 

さらに、遺族への当初の説明は「もう1人が荷物を取りに行くのについて行った」というものでした。

のちに会社は、これを「思い込みだった」と訂正しています。

最初に伝えられた話が、あとから覆ってしまう。

経緯を知りたい遺族にとって、これがどれほど重いことでしょうか。

「私は人災だと思う」

「話をすりかえないで」

「止めてほしかった」

遺族が口にした言葉です。

会社側は「今考えると、命に代えるものでは全くない」「痛恨の極み」と述べました。

営業部長はマニュアルの存在を知っていたと認めたうえで、なぜそうしたミスを犯したのだろうと後悔している、とも語っています。

制止しなかった、と、許可は出していない

ここからが、いまこの事故で最も揺れている部分です。

会社側の説明はこうでした。

2人が戻ろうとしたとき、入口にイオンのスタッフがいて「気をつけて」と声をかけられた。

制止されることはなかった、と。

 

一方、イオン側の説明は正反対です。

「再入館が可能だという主旨を従業員に伝えた事実はない」

そう明確に否定し、当時の状況について現地スタッフらへの聞き取り調査を進めています。

 

どちらかが嘘をついている、という話に持っていきたくなる場面です。

けれど、2つの説明はよく読むと、真っ向からぶつかっているわけではありません。

会社側が語っているのは「止められなかった」ということ。

一方でイオン側が否定しているのは「入っていいと伝えた」という点なんですよね。

止めなかったことと、許可を出したこと。

この2つが、あの入口で同じものとして扱われてしまった。

そこが、この事故のいちばんの問題点なのではないでしょうか?

 

一連の出来事は、一つの会社が売上金を人の命より優先した話として語られています。

でも、中身をほどいていくと、避難したあとに「戻っていい」と言う役が、施設側にも店子側にも割り振られていなかった、という話に近いんです。

避難の手順は、きちんと決められていました。

だから3000人が30分で外へ出られたのですね。

ただ…、決まっていなかったのは、その先でした。

いったん閉じた建物の扉を、もう一度開けてよいと宣言する権限。

それがどこにも置かれていないと、現場では「止められなかった」が「入っていい」に変換されてしまいます。

 

弁護士やテレビのコメンテーターがいま最も問題にしているのも、まさにそこでした。

「安全確認を宣言するのは、誰なのか?」

イオンは「個人の責任として考えるつもりはない」としたうえで、避難対応の検証を行う方針を示しています。

同じ指示を受けた、ほかの3店舗

この見方を裏づける事実が、会見で一つ出てきました。

この会社は、県内のほかの3店舗の店長にも連絡していたんです。

伝えた内容は「施設側からの許可を得た場合」に売上金を回収して金庫に保管するように、というものでした。

そして、許可を得た3店舗の店長は、それぞれ回収して金庫にしまっています

 

同じ会社の、同じ日の、ほとんど同じ文言の連絡。

にもかかわらず、3つの施設では手続きとして許可が出て、1つの施設では出ないまま人が入りました。

会社側は、別の商業施設では「気をつけて入ってください」と言われて入れたので、もう一度入れるのかという認識を持ったのも事実だ、とも話しています。

つまり、施設によって扱いがまるで違っていたとのこと。

「決まっていなかった」ことの証拠として、これ以上わかりやすいものはありません。

逆に言えば、許可が出た3店舗では、誰かがきちんと「入っていい」と言う役をやっていたということ。

その役がいた場所と、いなかった場所。

分けたのは、たまたま誰がその日その入口に立っていたか、だったのかもしれないのです。

 

なお、ネット上では無関係のテナント企業が名指しされるデマも広がり、名指しされた企業が否定の声明を出す事態にもなりました。

責任の置き場所が空白のままだと、人はその空白を、誰かの名前で埋めたくなるのかもしれません。

「戻っていい」を言う役は誰か

ここまで読んで、少しひやりとした人もいるはずです。

自分の職場でも、同じことが起こりうるからです。

火災報知器が鳴って外へ出たあと、誰の言葉で建物の中へ戻っているでしょうか。

たいていは、なんとなくです。

誰かが「もう大丈夫みたいですよ」と言い、その声が周りに伝わって、止まっていた列がまた動き出していく。

その「誰か」に権限があるのかを確かめたことのある人は、ほとんどいないのではないでしょうか。

訓練でやるのは、たいてい外へ出るところまでです。

戻る手順まで練習した記憶がある人は、そう多くないはずでして。

 

ビルや商業施設に入っているテナントで働いているなら、事情はもっと入り組んでいます。

建物を管理しているのは施設側で、自分を雇っているのは自分の会社。

避難の指示は施設の放送で流れてくるのに、戻る連絡は会社の電話で来る。

指揮する人が、途中で入れ替わっているわけです。

決めておけること自体は、そう難しくありません。

  • 戻ってよいと言えるのは誰か?
  • その人が不在のときは誰か?

そして、止められなかったことを、許可と読み替えないこと

紙に三行書いて休憩室に貼っておくだけでも、あの日のような「たぶん大丈夫」の持ち寄りは減らせます。

 

自宅のガスをどうするか

今回の爆発を受けて、ガス業者への点検依頼が急増しているそうです。

自宅がLPガスなら、気になるのは自然なことだと思います。

やっかいなのは、ごく微小な漏れは、においでは気づけないという点でした。

鼻でわかるうちは、まだわかりやすい部類。

気になるなら、契約している業者へ点検を頼むのがいちばん早くて確実です。

 

亡くなった7人は、閉店後のいつもの仕事をしていただけでした。

売上金を金庫に入れて、帰る。

その当たり前の作業が、あの日だけは、戻ってはいけない場所にありました。

午後5時35分に入って、午後5時50分。

その15分のあいだ、2人は自分が危ない場所にいるとは思っていなかったはずです。

このように情報をまとめているうちに、「あの時ああしていれば…」「こうしていれば…」と考えて胸が痛くなります…。

亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。

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