2026年9月16日、午前6時半すぎのコンビニの前。

まだ売り出してもいない時間に、もう人が並んでいました。

この日発売されたのは、ポケモンカードの30周年を記念した拡張パックです。

ローソンが売り出すのは、午前7時から。

ネットには全国の店先の様子が流れて、「これじゃ子どもは買えない」という声が一気に広がりました。

 

ところが同じ日に、子どもの手へちゃんと渡していたお店もあるんです。

買えない店と買える店が、どうして分かれてしまうのか。

今回はその理由を、わかりやすく解説していきたいと思います。


朝6時半すぎに並んでいた列

発売されたのは、拡張パック「30th CELEBRATION」でした。

ポケモンカードゲームの公式サイトが、今年の6月2日に発売を告知していた30周年の記念商品です。

つまり、発売の日付は6月の時点で分かっていたことになります。

30周年という区切りは一度きりですから、この一枚を待つ気持ちも、いつもの新商品とは違っていたでしょう。

 

日テレNEWSは9月16日、東京・秋葉原をはじめ各地の店先に早朝から列ができたと報じています。

報道によれば、列が確認されたのは午前6時半すぎだったそうです。

そして午前7時にコンビニでの販売が始まると、今度は店内にも列ができたとのこと。

自転車が道路脇を塞ぐように停められていたお店もあったそうです。

 

うーん。

近所で同じ光景を見た人もいたようで、「よく行くローソンにやたらと車が止まっている」「あれじゃあ子供は買えんわな」という書き込みも流れていました。

朝の買い物に寄っただけの人からすれば、いきなり現れた列に面食らったはずです。

お店で働いている人も、売り出す前のひとときを列の対応に使うことになりました。

その報道には、もう一つ大事な点が出ています。

多くのお店が、この商品の買い方を抽選に切り替えていたという点です。

列ができていたのは、どこも対策をしていなかったからではありません。

列ができたのは、先着で売り出していた売り場でした。

 

騒ぎのなかでは、並んでいた人が誰なのかをめぐって、かなり強い言葉も飛び交っています。

ただ、そこは警察が動いた話でも、誰かの身元が確かめられた話でもありません

はっきりしているのは、朝7時前の歩道に列ができていた、というところまでです。


決まっていたのは数のほうだった

売る側が何を決めていたのかも、あわせて見ておきましょう。

ローソンは公式サイトで、この商品の売り方を事前に出していました。

 

書かれていたのは、販売開始が9月16日(水)の午前7時からであること。

そして「9月16日(水)から販売終了までの間、お一人様1会計につき5パックまで」という上限でした。

価格はローソン標準価格で360円(税込)です。

あわせて「店頭でのご予約・お取り置きは承っておりません」「商品がなくなり次第終了」という一文も添えられています。

 

意外に思われるかもしれませんが、何も決めていなかったわけではないんです。

ひとりが一度に買える量には、ちゃんと線が引かれていました

それでも、列ができたのは朝6時半。

 

では、決まっていなかったのは何だったのか。

「いつ売り出すか」のほうです。

午前7時、早い者勝ち。

そこだけは、並んだ順番に任されていました。


学校のある子は、朝7時に立てない

9月16日は水曜日です。

平日の朝7時というのは、小学生や中学生にとってどういう時間でしょうか。

家を出る支度をしているか、もう通学路を歩いているか、そのあたりのはずです。

少なくとも、コンビニの前に30分早く立って待てる時間ではありません

 

ここが、この騒動のいちばん静かな部分だと思っています。

早い者勝ちで売るというのは、要するに「その時刻に立てた人が買える」という決め方です。

1人5パックまで、という上限は誰にでも平等にかかります。

でも、朝7時の1回に参加できるかどうかは、最初から平等ではありません

 

だから並んでいる人が誰であっても、この一点は動かないんです。

仮に列の中身がそっくり入れ替わったとしても、朝7時に立てる人が買って、学校のある子は買えません

矛先をどこへ向けても、そこだけは残ります。

国籍でも、年齢でも、目的でもなく、動かしているのは時計のほうでした。

 

ネットには、こんな声もあります。

「転売ヤーは論外として、大人が買ってるから子供が買えない、子供に譲れ、ってのはちょっと違うと思うんすよね」。

言われてみれば、平日の朝に自由に動ける大人は、転売のためだけに並んでいるわけでもないでしょう。

問題は誰が並んだかではなく、並ぶこと自体が入場券になっている売り方でした。

 

先着順というのは、値段でも抽選でもなく、時間で順番を決める方式です。

お金を多く出せる人が勝つわけでもなければ、運のいい人が勝つわけでもありません。

勝つのは、売り出しの時刻に体をそこへ置ける人です。

そして平日の午前7時に体を置けない人の筆頭が、学校へ行く子どもでした。


子どもに売れている店がやめたこと

面白いのは、その売り方を先にやめてしまったお店が、すでにいくつもあることです。

 

まずイオン。

売り場には「ポケモンカード 小・中学生のお客さま限定販売」という掲示が出ていて、「『ポケモンカード』の販売について6月より小・中学生のお客さま限定での販売とさせて頂きます」と書かれていました。

確認の仕方まで具体的で、小学生は保護者同伴のうえマイナンバーカードなど年齢が分かるもの、中学生は生徒手帳などの提示が必要とのこと。

パック数にも上限が設けられています。

この掲示がネットで話題になったのは今年の8月上旬で、今回の騒ぎが起きるよりずっと前でした。

つまり、発売日の朝に慌てて決めたやり方ではありません

 

もう一つが、カードショップの「竜星のPAO/PAO」を運営する株式会社AZismです。

同社は2026年8月1日と2日の12時から17時にかけて、秋葉原店・池袋店・立川店で「小中学生限定販売枠」を始めたと発表しました。

入荷の状況に合わせて子ども向けの販売時間と販売数を決め、必要に応じて年齢確認や保護者同伴での案内をしながら運用する、という形です。

 

理由もはっきり書かれていました。

大人のコレクション需要が高まって発売直後に来店が集中しやすく、学校帰りの子どもが店頭で買いにくくなっているそうです。

だから、本来遊びたい子どもたちに商品が届く環境をつくりたい、という説明でした。

 

ネットには、個人商店らしき手書きの貼り紙の写真も流れています。

「当店では近隣の子供達が帰宅後に販売スタートします」。

規模もやり方も違う3つですが、やめたことは同じでした。

どれも、並んだ順で決めるのをやめています。

 

イオンとPAOが先に決めたのは「買える相手」のほうです。

貼り紙のお店は「買える時刻」を放課後へずらしています。

どちらも、朝の列そのものを意味のないものに変えました。


売る先を閉じても朝の列は消えなかった

同じころ、もう一方の出口でも動きが出ています。

メルカリが9月15日、「30th CELEBRATION」関連商品の出品を禁止すると発表しました。

同社の説明によれば、これは「マーケットプレイスの基本原則」と、2025年に定めた新しい対応方針にもとづく判断だそうです。

思いつきで止めたわけではなく、前もって用意してあった手を抜いた形でした。

 

開始は9月16日の0時。

対象になったのは、未開封の拡張パックと、カードセット(全9種)でした。

未開封のまま売る道が、そこで閉じたことになります。

開封済みのシングルカードは、これまで通り出品できるそうです。

理由として挙げられていたのは、販売開始直後に取引が増えることでのトラブルや、取引する人への誹謗中傷が起きることだといいます。

それによって「安心・安全な取引環境が確保できない」と判断した、という説明でした。

期間中は注意喚起と出品監視、削除の対応を行い、繰り返す利用者にはアカウントの利用制限を含めて厳しく対処するとも書かれています。

売り先のいちばん大きな一つが、発売日の0時に閉まった形です。

この判断は市場でも受け止められたようで、日本経済新聞は9月16日に、メルカリの株価が大幅に下がったと伝えていました。

出品を止めるというのは、会社にとっても軽い決断ではなかったわけです。

 

それでも、朝6時半には列ができました。

 

ネットでは早くも抜け道が指摘されていて、出品禁止の対象になっていない商品の高額出品や、メルカリの中にある事業者向けの売り場、メルカリShopsでの在庫を持たない販売が挙がっています。

「いいぞもっとやれ」という賛同の隣に、「ザルのメルカリShopsからは続々と出てる」という冷めた声が並んでいました。

 

そもそも、カードの転売そのものを禁じる法律はありません

高額転売を禁じたチケット不正転売禁止法は、対象が「特定興行入場券」、つまり日時と場所が決まったイベントの入場券だけです。

限定販売のグッズやゲームソフトは、この法律の対象外だと文化庁も政府広報も説明しています。

カードも、そちら側。

 

法律が何も言っていないぶん、この件で実際に何かを決められるのは、売っている側だけ

そして売り方には、数を決めるやり方と、相手や時刻を決めるやり方の二種類がありました。

9月16日の朝にいちばん混んでいた場所で選ばれていたのは、前者のほうです。


次の発売日までに親ができること

とはいえ、次の発売日はまたやってくるもの。

朝7時に並ぶ以外の道も、ちゃんとあります。

  • いつも行くお店の掲示を一度見ておく。年齢限定や時間指定をしている店は、貼り紙で先に告知していることが多い
  • 公式の抽選の口を押さえる。ポケモンは2026年5月21日に、ポケモンセンターオンラインの一部抽選などでマイナンバーカードによる本人確認を導入すると発表している
  • コンビニの販売時刻と購入制限は、各社の公式サイトに発売前から出る。並ぶ前にそこを見れば、何時から何パックまでかが分かる
  • カードショップの抽選に申し込む。今回も多くのお店が抽選へ切り替えていたので、店頭に並ぶより先に受付が始まっていることがある

地味ですが、いちばん確かな手がかりは公式サイトの案内です。

今回でいえば、ローソンの案内は発売日を待たずに公式サイトへ出ていました。

朝7時から、ひとり5パックまで。

そこまで読んでから、並ぶかどうかを決められたわけです。

 

打てる手は、意外と残っています。

どれも決定打ではありません。

ただ、朝の列だけが入口ではないと知っていれば、9月16日の朝のような時間の使い方はせずに済むはずです。

 

並んだ順で決めているかぎり、学校のある子が勝てる日は来ないと感じてしまいます。

それでも、うちの子が買えるかどうかを左右しているのは、遠くの誰かではなくて、近所のお店がどの売り方を選んだかでした。

次の発売日が来る前に、よく行くお店の貼り紙を一度だけのぞいておくと、朝の景色が少し変わるかもしれません。