2026年9月16日の午後、札幌で開かれた会見。

頭を下げる言葉と一緒に出てきたのは、もう一つ大きくなった数字でした。

北海道共同募金会が、新たに7000万円の使途不明金があることを明らかにしたと報じられています。

合計で、2億5000万円。

 

ネットでは「小学生のころ募金したのに」という声が目につきます。

ただ、この件でいちばん引っかかるのは、金額そのものではありません。

今回は、その2億5000万円がどこまでわかっているのかと、赤い羽根のお金を誰がどう見ているのかを、わかりやすくまとめていきたいと思います。


新たに出てきた7000万円の中身

報道によると、北海道共同募金会は9月16日、これまでの使途不明金の経緯と再発防止策について会見を開きました。

その席で明らかになったのが、新たな7000万円です。

この募金会ではすでに、およそ1億8000万円の使途不明金が見つかっていました。

そこに7000万円が乗って、合計が2億5000万円になったわけです。

会見で出たのは「大変申し訳ございません」という言葉でした。

着服の疑いがあるとして、50代の元事務局長はすでに懲戒解雇されています。

募金会は第三者委員会を立ち上げ、これだけの金額が消えた原因を調べることにしている、とのことです。

 

見出しにはあまり出ていない話も、この件には付いています。

元事務局長は2025年に、偽造した理事会の議事録で約1億9000万円を借り入れていたと報じられました。

借りた先は、道内2か所の金融機関だといいます。

募金会は刑事告訴の方針も検討しているそうです。

つまり、募金箱に入ったお金の行方だけではありません。

募金会という名前を使って外から引っ張ってきたお金の話も、同じ事案の中に入っています。

うーん。

寒い中で街頭に立って、箱を持っていた人たちの顔が、どうしても浮かんでしまうので。


国税が来るまで誰も気づかなかった

リプ欄を読んでいて何度も目に入ったのが、この疑問でした。

会社が少しでも使途不明金を出せば、あちこちから目の色を変えて人が来る。

なのに募金は、どうして誰も見ていなかったのか。

 

ここは、募金会自身が公表しています。

北海道共同募金会が6月14日に出した文章によると、問題発覚のきっかけは2026年2月17日の国税局の査察だったそうです。

元事務局長が、所得税法違反の嫌疑をかけられていました。

その過程で、ほとんどの会計資料が押収されたそうです。

残った資料を精査する中で、3月末になって「募金会にあるべき金銭が相当額不足している可能性」を確認したと書かれていました。

同じ文章には、簿外での処理が多数されていたことから、報告できる事案の把握にも相当の時間を要した、ともあります。

簿外というのは、正式な帳簿に載せないままお金を動かすことです。

 

読み返して、背筋が寒くなるのはここ。

きっかけは、募金の見張り役ではありませんでした。

元事務局長個人の所得税を調べにきた、まったく別の役所です。

募金のお金を追いかけていた人ではなく、所得税を追いかけていた人が、先に穴を見つけた形になります。

 

そして、この見方は外野の勝手な感想でもないんです。

募金会は9月11日に、第三者委員会を発足させました。

身内を入れずに、外部の弁護士3人と公認会計士2人だけで組んだ調査チームです。

その委員会に、何を調べてくれと頼んだか。

公表されている委嘱事項は、次の6つでした。

  • 多額の使途不明金が発生し、財源不足に至った原因の調査
  • 使途不明金が令和8年、つまり2026年2月の国税局調査まで判明しなかった原因の調査
  • 元事務局長の関与の有無と法的責任の調査
  • 役員、元役員の関与および責任の有無の調査
  • 再発防止策の提言
  • その他、第三者委員会が必要と認めた事項

2番目に置かれているのは、消えた金額の話ではありません。

「なぜ国税が来るまで判明しなかったのか」のほうです。

募金会自身が、そこをいちばん説明しなければいけないところだと考えている、ということになります。


法律が細かく決めていたのは配分のほう

では、赤い羽根のお金には、決まりが無かったのでしょうか。

決まりは、ちゃんとあるんですよね。

しかも、かなり細かいところまで書かれています。

 

赤い羽根共同募金は、社会福祉法という法律に名前が出てくる制度です。

第112条は共同募金を「都道府県の区域を単位として、毎年一回、厚生労働大臣の定める期間内に限つてあまねく行う寄附金の募集」と定義しています。

第113条には、共同募金を行う事業は第一種社会福祉事業とする、共同募金会以外の者は共同募金事業を行つてはならない、ともありました。

第一種社会福祉事業というのは、施設に入って暮らす人を預かる事業などが並ぶ枠のこと。

原則として国や自治体、社会福祉法人しか手を出せない区分に、募金の運動も入れてあるわけです。

だから北海道の赤い羽根は、道内にひとつしかありません。

 

そして法律は、集まったお金の配り方について、ずいぶん細かく手を入れています。

  • 配分の公正さのために配分委員会を置く
  • 配るときはその委員会の承認を得る
  • 募集の前に、目標額と受配者の範囲と配分の方法を決めて公告する
  • 配り終えたら1か月以内に、募金の総額と、配分を受けた人の名前と、配分した額を公告する
  • 国や地方公共団体は、配分に干渉してはならない

並べてみると、法律が見張っているのは、ほとんどが「出口」のほうでした。

どこへ、いくら、誰の承認で出すのか。

ここは条文で押さえられています。

 

ところが、お金が入ってから出ていくまでの通り道は、条文に出てきません。

通帳を誰が持つか。届出印を誰が押すか。伝票を書く人と決裁する人を分けるか。

これは、それぞれの法人が自分でつくる経理規程に書かれているものです。

この件は、募金のお金が盗まれた話に見えて、見張られていたのは出口で、通り道は法人の内規に預けられていた、という話なんだと思います。

 

しかも法律は、そこを気にしていなかったわけでもありません。

共同募金会の設立を認可するときの審査基準に、「特定人の意思によつて事業の経営が左右されるおそれがないものであること」という一項が入っています。

特定の誰かに左右されないこと。

まさに今回、そこが引っかかりました。

設立の入口では確かめているのに、毎日どう回っているかまでは条文の守備範囲の外だったことになります。


46都府県の点検はもう終わっている

「他も怪しい」「全部調べろ」。

リプ欄でそう書いている人がいて、僕も同じことを思いました。

ここについては、実はもう調べ終わっていて、結果まで公表されています。

 

全国の共同募金会をまとめているのが、中央共同募金会です。

北海道の件を受けて、北海道を除く46都府県の共同募金会を対象に「出納業務適正実施のための全国緊急一斉点検」を行いました。

実施されたのは、2026年6月24日から7月3日にかけて。

回答は46都府県すべてから返り、回答率は100パーセント。

それぞれの共同募金会の会長と、お金の使い方をチェックする役どころである監事の署名を求めたうえで、回収したそうです。

簿外の口座と勝手な借り入れについては、取引のある金融機関に直接確認させています。

自己申告だけで済ませていないので、けっこう本気の点検です。

 

結果が公表されたのは7月17日でした。

中央共同募金会は、北海道と同じ使途不明金につながる事案は確認されなかった、としています。

ただ、この報告は問題なしで終わっていないんですよね。

細かい穴が、数字つきで並んでいました。

  • 口座や届出印を管理する担当者について、規定が無かった共同募金会が2県
  • 帳簿に載っていない口座が見つかった共同募金会が3県
  • 振込を依頼する人と承認する人を分けていなかった共同募金会が4県
  • 支払う日を決めず、請求が来るたびに払っていた共同募金会が8県
  • インターネットバンキングのパスワードを定期的に変えていなかった共同募金会が10県

どれも、それ自体が不正だという話ではありません。

ただ、中央共同募金会は今回の北海道について「一人の職員が単独で法人の出納業務を行っていた」と書いていました。

その形に、あと一歩で近づける穴ではあります。

該当する会には改善を求め、8月末までに対応状況を確認するとしていました。

 

もう一つ、点検の数字で目を引いたものがあります。

市町村の共同募金委員会名義の口座が、200以上ある県が7つありました。

お金の通り道そのものが、とにかく多いんです。


誰にいくら配ったかは公告される

では、募金する側にできることはあるのでしょうか。

あるんですよ、それが。

しかも、法律がちゃんと用意してくれています。

 

根拠になっているのは、社会福祉法の第120条です。

共同募金会は寄附金の配分を終えたら、1か月以内に、募金の総額と、配分を受けた団体の名前と、配分した額を公告する決まりになっています。

災害などに備えて積み立てた準備金の額も、一緒に公告しなければいけません。

 

つまり、「内訳が何も見えない」という感覚に対して、内訳のほうは出る決まりなんです。

各都道府県の共同募金会のサイトには、たいてい結果報告のページがあります。

去年いくら集まって、どこの団体にいくら渡ったのか。

名前と金額が並んだ一覧が置かれているはずです。

 

もちろん、その一覧を見れば着服が見抜けるわけではありません。

今回消えたのは、配分の手前の段階でしたから。

それでも、自分の町の名前や、知っている施設の名前が並んでいるかなら、5分あれば確かめられるはずです。

 

ちなみに、集まったお金のいちばん大きな部分は、自治会や町内会を通した戸別募金で、全体の7割を超えるとされています。

学校で子どもたちが参加する学校募金も、共同募金の中にある区分のひとつです。

「小学生から集めておいて」という声が出るのは、そこが本当に地続きだからでした。

 

北海道の分については、配る側のお金が足りなくなっています。

中央共同募金会は8月28日に、北海道内の地域福祉活動が止まらないよう、緊急支援助成を実施すると発表しました。

助成を受けるはずだった道内のボランティア団体やNPO、社会福祉協議会、福祉施設などに、中央から直接お金を出す形です。

北海道共同募金会も、7月14日に助成の一部再開を公表しています。

9月1日には新しい常務理事兼事務局長が就任して、金銭管理の透明性やチェック体制の強化を最優先課題に挙げました。

 

そして9月4日、中央共同募金会と46都府県の共同募金会が連名で、こんな文章を出しています。

今回の事案は、皆さまからお預かりする募金に携わる者として、断固として許される事態ではなく、寄付者の善意を裏切る、決してあってはならないものです

今年も10月1日から80回目となる共同募金運動が始まります

出典:赤い羽根共同募金「共同募金を支えてくださる皆さまへ」(2026年9月4日)

謝りながら、次の運動はもう始まりますと書いてあるんですよね。

図々しいと読むこともできますし、止めるわけにはいかないのだと読むこともできます。

 

第三者委員会の結論が出るのは、これからです。

元事務局長が何にいくら使ったのかも、今の時点では明らかになっていません。

ただ、今年も10月がやってきて、玄関のチャイムは鳴るし、街頭では誰かが箱を持って立ちます。

そのときに羽根を受け取るかどうかは、去年の結果報告を一枚めくってから決めても、たぶん遅くありません。