2026年9月20日の夜、Netflixのドラマ『ダウンタイム』についての投稿が、あちこちで読まれました。

中心にいたのは、安達祐実さんです。

そして、ほめている人たちがそろって同じ一点を指していました

顔の上半分が動いていない、という声。

特殊メイクの出来ばえよりも、そこがいちばんリアルだったという受け止めでした。

では、ボトックスを打つと、人の顔は本当にあんなふうになるのでしょうか。


ほめている人が全員おなじ一点を指した

『ダウンタイム』は、美容整形業界を舞台にしたNetflixのオリジナルシリーズです。

松岡茉優さんと仲里依紗さんがW主演を務め、9月17日から配信が始まりました。

安達祐実さんが演じているのは、整形依存のキャバクラ嬢・板井佐緒里という役どころ。

Netflixの公式アカウントが出したキャラクター紹介には、施術の名前まで書かれていました。

「板井佐緒里(30代女性)」「口角拳上」。

患者たちの特殊メイクを手がけたのは、特殊メイク・特殊造形ディレクターのAmazing JIROさん率いるチームです。

シネマトゥデイの記事によると、俳優ひとりひとりにオーダーメイドで造形が施されていました。

手術直後から回復期間、完成形までの過程が再現されているとのこと。

かなりの手間がかかっているのは、公開された写真を見るだけでも伝わってきます。

 

ところが、9月19日ごろから並んだ声が指していたのは、別のところでした。

SmartFLASHの配信記事も、見出しに「上半分動かさないのリアルすぎ」という言葉を立てています。

実際に投稿を見にいくと、「整形した人独特の顔面の上半身動かさないのリアル過ぎる」という書き方が目につきました。

「顔を大きく動かさない感じとか、『今まさにダウンタイム中なんだな』って伝わってくる」と書いている人もいます。

「全然動かない表情が怖すぎて目もいっちゃってるし夢に出て来そうです」と書いている人まで。

感心されていたのは形ではなく、動かないという一点でした。


モデルがいるという話は誰が言ったのか

この役については、「モデルは実在のあの人ではないか」という話も一緒に広まっています。

実名を挙げている投稿も、それなりの数が流れていました。

ただ、この点については監督が先に答えています

シネマトゥデイが9月18日に配信したインタビューで、Yuki Saito監督はこう話していました。

僕が入る前から取材しているチームもいて、彼らの情報も反映しているので、取材を反映していないエピソード、キャラクターはないと思います。各キャラクターにモデルがいるというわけではありませんが、取材した方々のエピソードをミックスして反映しているという感じです

出典:シネマトゥデイ(2026年9月18日配信)

監督は半年かけて取材を重ねたそうです。

患者の側では、初めて整形した人、これから考えているという初心者から、数千万円以上かけて5回6回と繰り返している人、醜形恐怖症と診断されながらやめられない人まで。

医師の側でも、老舗のクリニックから開業したばかりの若い医師まで会ったといいます。

 

監督の言葉には、もう一つ手がかりがありました。

同じインタビューの中で、監督は長井短さん演じる「ヲ蔵ちゃん」については、モデルになった人の名前をはっきり出しているのです。

名前を出せる相手なら出している人が、患者のキャラクターについてはそうは言っていません。

そう読むと、この言葉はそのまま受け取ってよさそうでした。

安達祐実さんの演技が刺さったのは、取材で集まった話が混ざって、ひとりの役になった結果です。


ダウンタイムとは何のことか

作品のタイトルにもなっている「ダウンタイム」は、もともと美容医療の言葉でした。

配信前に公式が発表したキーワード集には、こう説明されています。

美容を目的とした手術や施術を受けた後、腫れや内出血などの症状が自然な状態に落ち着くまでの回復期間のこと。施術内容によって、その期間や症状は異なる。

出典:Netflixシリーズ「ダウンタイム」キーワード集(シネマトゥデイ2026年9月3日配信)

腫れや内出血が引くのを待つ時間、という意味合いです。

作品の中では、この期間が「サナギが蝶になるまでの大事な時間」として描かれています。

SNSでも、この言葉はすでに日常語です。

アカウント名のうしろに「DT中」と書いている人も、ドラマの感想の隣に並んでいました。

観る側にも、受けた側にも、同じ言葉が通じている状態。

そして、今回いちばん面白かったのが、顔の上半分の話でした。

あの動かなさは、腫れが引くのを待つ種類のものではありません。


顔の上半分だけが動かなくなる仕組み

顔にできる「表情じわ」は、笑ったり眉を寄せたりするときに筋肉が動くことでできます。

同じ表情を繰り返しているうちに、しわがそのまま残ってしまう。

メーカーの説明にも、そう書かれていました。

そこで使われるのが、ボツリヌス毒素を使った注射です。

日本では一般に「ボトックス」と呼ばれていて、しわの原因になる表情筋をリラックスさせることで、しわを目立たなくします。

 

仕組みそのものは、わりと単純でした。

筋肉が縮むのは、神経から「動け」という信号を受け取ったときです。

その信号を運んでいるのがアセチルコリンという物質で、ボツリヌス毒素はこの物質が出るのを弱めます

信号が届かなくなると、筋肉は縮まず、しわも寄りません。

 

大事になるのは、打つ場所でした。

しわ取りの注射でよく名前が挙がるのは、眉間、目尻、額です。

どれも顔の上半分ですね。

だから効いているあいだは、上半分だけが動かず、口もとや頬はふつうに動くという見え方になります。

 

ネットで「上半分が動かない」と言われた状態は、ちょうどこの形と重なりました。

ただし、安達祐実さんの役がその注射を受けた設定なのかどうか。

公式のどこにも、そうは書かれていません

Netflixが出したキャラクター紹介に載っていた施術名は「口角拳上」で、こちらは口角を上げる、顔の下半分の話です。

役の顔がどう作られたのかは、外からは分かりません。

分かるのは、あの見え方になる薬が実在していて、しかも珍しいものではない、というところまで。


あの顔には終わりの日がある

では、その注射を受けた人の顔は、ずっとそのままなのでしょうか。

ここが、想像とずれる部分でした。

メーカーの患者向けサイトには、治療の2〜3日後から少しずつ効果が出て、通常3〜4か月ほど続くと書かれています。

時間が経って注入したボツリヌスがなくなると、効果はだんだんと薄れて元の状態に戻るとのこと。

治療の影響で悪化することはない、とも添えられていました。

 

添付文書にも、症状が再発したときは再投与できると書かれています。

そのうえで、3か月以内の再投与は避けることという決まりが置かれていました。

つまり、あの動かない顔は消えない結果ではありません。

いまも薬が効いている最中のしるしに近いはずです。

 

ここで、作品のハッシュタグを思い出してみてください。

Netflixの公式アカウントがキャラクター紹介に付けていたのは、「#ビフォーには戻れない」でした。

切ったり削ったりした場所については、たしかにそのとおりでしょう。

けれども、しわ取りの注射は逆でした。

放っておけば、ビフォーが戻ってきます。

ダウンタイムは待っていると症状が落ち着いていく時間で、こちらは待っていると変化のほうが消えていく時間です。

性質の違う二種類の時計が、同じ顔の上に載っているわけでした。

 

だから、繰り返し受ける人が出てきます。

一度で終わらないので、3〜4か月ごとに通うことになる。

メーカー自身も、効果を保ちたいなら治療を続けることをすすめる書き方をしていました。


国が認めているのは顔の2か所だけ

気軽に打てるもの、という印象を持った方もいるかもしれません。

その手前に、線が一本引かれていました。

国内で承認されているしわ取り用のボツリヌス製剤は、ボトックスビスタという薬です。

2009年に承認されていて、添付文書(薬の公式な説明書)に書かれた効能・効果は次の一文だけ。

65歳未満の成人における眉間の表情皺又は目尻の表情皺

出典:ボトックスビスタ注用50単位 添付文書(承認番号 22100AMX00398000)

眉間と、目尻。

顔の上半分のうち、額はこの一文に入っていません。

65歳以上についても、海外の臨床試験で有効性が低く有害事象が多かったことから、投与は推奨できないと書かれていました。

 

それでも、額に打つこと自体はできます。

承認された範囲の外で使う「適応外使用」という形です。

違法というわけではなく、医師の判断で行われています。

ただ、範囲の外へ出ると変わるものがありました。

 

国内で承認された薬を使って思わぬ健康被害が起きたときには、医薬品副作用被害救済制度という公的な仕組みがあります。

ところが厚生労働省の資材には、「原則として決められた用法・用量等に従って使用されていない場合は救済対象になりません」と書かれていました。

医療広告のガイドラインでも、その点を患者に分かるよう明示することが医療機関に求められています。

 

名前についても、落とし穴が一つ。

「ボトックス」はアラガン社が商標登録した製品名で、メーカーは「韓国製のボトックスや、ボトックスの後発品は存在しません」とはっきり書いています。

安く案内されている「ボトックス」が、同じ薬とはかぎりません。

だからメーカー自身も、使用する医薬品が国内で薬事承認されたものなのか医師に確認することが重要、と患者向けに書き添えていました。

 

なお、ボトックスビスタによる治療ができるのは、所定の講習を受けて認定された医師だけです。

副作用として報告されているものも公開されていて、頭痛、まぶたが下がる(眼瞼下垂)、注射部位の痛み、筋肉の部分的な脱力などが並びます。

どれも、聞けば答えてもらえる種類のことばかり。

未承認の薬を、保険のきかない自由診療で使う場合。

広告のガイドラインは、さらに5つの明示を求めています。

  • 未承認の医薬品であること
  • 入手経路
  • 国内に同じ成分の承認薬があるかどうか
  • 海外での安全性に関する情報
  • 救済制度の対象にならないこと

クリニックのサイトにこれが見当たらないときは、その場で聞いてよい項目です。


受ける前に確かめたい4つのこと

厚生労働省は、美容医療を受ける人に向けて「美容医療の施術を受ける前にもう一度」という1枚の資材を出しています。

チェック項目は4つだけで、とても短いものでした。

  • 使用する薬などがどのようなものか、自分でも説明できるか
  • 効果だけでなく、リスクや副作用についても知って納得したか
  • ほかの施術方法や選択肢の説明も受け、自分で選んだか
  • その施術は「今すぐ」必要か

4つ目には、こんな注意書きが添えられています。

美容目的の施術は、多くの場合に緊急性がないこと。

「今契約すれば安くなる」といった勧誘に十分気をつけましょう、と。

 

伝えておく側の項目もあります。

メーカーが患者向けに挙げているのは、全身性の筋肉の病気がある場合、妊娠や授乳の可能性がある場合、使っている薬がある場合など。

ほかの医療機関でボツリヌス製剤の治療を受けているときも、投与日と量を申し出ることになっています。

厚生労働省の公式アカウントも、糖尿病の薬を痩身目的で使うケースに触れながら、同じことを呼びかけていました。

困ったときの窓口も決まっています。

治療そのものへの苦情や心配は、各地の医療安全支援センター

契約や解約でもめたときは、消費者ホットラインの「188」

どちらも、施術を受ける前にメモしておける番号です。

 

ドラマを観て怖くなった人も、逆に興味が湧いた人も、たぶん同じ場所に立っています。

知らない言葉が多すぎて、どこから聞けばいいのか分からない、という場所です。

今回のことで、聞ける言葉が3つ増えます。

  • その薬は国内で承認されたものか
  • 打つ場所は承認の範囲に入っているか
  • 効果はいつごろ切れるのか

あの動かない顔は、たしかに強い絵でした。

それでも、あれは終わりの形ではなく途中の形。

そう分かっているだけで、画面の向こうの顔も、鏡の中の自分の顔も、少し落ち着いて見られるところですね。

なお、僕は専門家ではないので、実際に受けるかどうかは必ず担当の医師と相談してくださいね。


この記事で参考にした情報

  • シネマトゥデイ「『ダウンタイム』美容整形経験者への取材で気付き Yuki Saito監督が裏側明かす」(2026年9月18日配信)
  • シネマトゥデイ「安達祐実、研ナオコらが特殊メイクで大変身!Netflix『ダウンタイム』場面写真公開【キーワード集あり】」(2026年9月3日配信)
  • Netflix Japan 公式アカウントの投稿(2026年9月20日)
  • アラガン・エステティックス「ボトックスビスタによる治療を受けた患者さまへ」
  • ボトックスビスタ注用50単位 添付文書(承認番号 22100AMX00398000)
  • 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告等ガイドライン)」
  • 厚生労働省「美容医療の施術を受ける前にもう一度」
  • SmartFLASH「安達祐実、整形依存の怪演に『上半分動かさないのリアルすぎ』称賛殺到」(2026年9月20日配信)