ミセスの渋谷広告の意味|好きな人もダサいと言う人も同じだった

流行っている曲ほど、なぜか素直に聴けなくなった経験はありませんか。
逆に、みんなが聴いていると安心して好きになれる、ということもありますよね。
そんなふたつの気持ちを見透かしたような広告が、いま渋谷駅前に出ています。
「みんなが聴いてるから好き?」
「みんなが聴いてるからダサい?」
Mrs. GREEN APPLEが掲げたこの2行を見て、結局どういう意味なのかと首をかしげた人もいるはずです。
好きになる人と、ダサいと言う人。
正反対に見えるこのふたりには、じつはひとつだけ同じところがあるんです。
今回は、ミセスの渋谷広告の意味を、その同じところを手がかりに、わかりやすく解説していきたいと思います。
渋谷駅前に出たふたつの問い
Mrs. GREEN APPLEが3年ぶり通算6作目となるオリジナルフルアルバム『POPS』を出すのは、2026年9月30日。
その発売を前にした9月25日、公式Xに「確かめよう。」という一言を添えた動画が投稿されました。
動画の中で投げかけられたのは、報道によると次のような問いだったそうです。
- 「みんなが聴いているから好き?」
- 「みんなが聴いているからダサい?」
- 「暗い曲は流行らない?」
- 「音楽の価値は何で決まる?」
- 「ロックはバンドだけのもの?」
このうち最初の2つが、東京・渋谷駅前の広告にも大きく掲げられ、写真がネットで広がっていきました。
通学中に撮ったからブレブレなんだけど、、😿😿
渋谷駅に広告が🍏🍏‼️‼️— まも⸒⸒10/28 (@wankonooyatu) September 28, 2026
丸い筒のような形をした建物の壁いっぱいに、白地に黒の縦書きの2行だけが、大きく並んでいます。
アルバムの名前と発売日は、その横に小さく添えられている程度です。
広告に書いてあるのは、問いとアルバムの告知だけ。
答えはどこにも書かれていません。
ネットには、この問いに自分なりの答えを返す声がたくさん寄せられています。
「私の答えは『自分で決めること』」という声もあれば、「今は全部大好きだよ!でも、ミセスがめっちゃ売れてないと私は気付かなかったかもしれない」という正直な声もあったそうです。
なかでも目立ったのが、自分の癖を白状する声でした。
「私めっちゃ逆張りするからミセスとか絶対いい曲なのに聴いてない」という一言には、思わずクスッとしてしまいます。
いっぽうで、「人の曲の好みをダサいと言う奴が一番ダサい」と、ダサいと言う側をたしなめる声も並んでいました。
でも、よく考えると、この一言もまた誰かをダサいと言っているので、話がぐるっと一周しているんですよね。
みんなが好きだと好きになる効果
「みんなが聴いているから好き」という気持ちは、実は経済学の世界で名前がついています。
バンドワゴン効果と呼ばれるものです。
バンドワゴンというのは、パレードの先頭を行く楽隊の車のこと。
英語には「バンドワゴンに飛び乗る」という言い回しがあって、勢いのある側につくことを指します。
日本でも選挙の時期になると、優勢と報じられた候補にさらに票が集まる現象を、この名前で呼んだりもしますね。
この言葉を消費の話に持ち込んだのが、アメリカの経済学者ハーヴェイ・ライベンシュタインでした。
1950年に経済学の専門誌「クォータリー・ジャーナル・オブ・エコノミクス」に載せた論文で、彼はこの効果を、ほかの人も同じものを買っているからこそ欲しい気持ちが増えること、と説明しています。
行列ができている店に、つい並びたくなる。
クラスのみんなが持っている文房具が、急に自分も欲しくなってくるのも、よくある話でしょう。
どちらも、同じ仕組みで動いている気持ちなんです。
そして音楽に当てはめると、友達が口ずさんでいる曲や、街でよく流れている曲を、気づけば自分も好きになっているという流れになります。
とはいえ、この気持ちそのものは悪いものではありません。
先ほどの「ミセスがめっちゃ売れてないと私は気付かなかったかもしれない」という声は、まさにこの効果の入り口の話でした。
みんなが聴いていたから出会えて、聴いてみたら本当に好きになった。
そういう出会い方は、音楽の歴史の中でいくらでもあったはずです。
ただ、この効果には少し困った一面もあります。
好きになった理由を、周りが勝手に「流行ってるから」で片づけてしまうことです。
ミセスについて、周りからよく聞く言葉を並べたような投稿もありました。
「流行ってるもんね〜」から始まって、最後は「また、ミセスか〜」で終わる並び。
「流行ってるもんね〜」
「明るい曲が多いからいいですよね〜」
「やっぱり真ん中の人が好きなの?」
「え?10年もやってるの?」
「急にイメージ変わって、どうしちゃったんだろうね」
「事務所のお金儲けの道具にされてそう」
「また、ミセスか〜」— PANDA (@PANDA218514490) September 28, 2026
好きな曲の話をしているのに、返ってくるのは人気の話ばかりなんです。
言われる側からすると、曲の中身をひとつも見てもらえていない寂しさがあるんですよね。
みんなが好きだと冷める効果
今度は反対側、「みんなが聴いているからダサい」の気持ちです。
こちらにも、同じ論文の中にちゃんと名前があります。
スノッブ効果です。
ライベンシュタインはこれを、ほかの人も同じものを買っているせいで欲しい気持ちが減ること、と説明しました。
スノッブは、英語で「お高くとまった人」くらいの意味で使われる言葉です。
みんなと同じものを持つと自分が埋もれてしまうので、あえて外したくなる心理を指しています。
ネットでよく言う「逆張り」は、この気持ちにかなり近いものでしょう。
限定品や非売品にやたら惹かれてしまうのも、同じ根っこから来ています。
しかもこの効果は、流行が大きくなるほど強く働くのが特徴です。
聴いている人が増えれば増えるほど、「もういいかな」と離れていく人も増えていくという、なんとも皮肉な関係なんですよね。
思い当たる場面は、きっと誰にでもあるはずです。
好きだったインディーズのバンドがテレビに出始めたとたん、なんとなく冷めてしまった。
みんなが見ているドラマほど、意地でも見たくなくなる。
学生時代に、この感覚を味わった覚えがある人もいるかもしれません。
実際、ミセスの広告をきっかけに、自分の中学時代を振り返る人もいました。
LUNA SEAにラルクにGLAYにX、周りがみんな聴いていた時代に、自分はディル(DIR EN GREY)と黒夢を聴いていたという思い出話です。
中学生の頃、LUNA SEAとかラルクとかGLAYとかXとか、友達みんな聴いてたけど俺はディルと黒夢聴いて音楽の趣味は孤立していたかも😗
— かみかみ (@19950822happy) September 26, 2026
友達と違う曲を聴いているだけで、少し大人になったような気分になれた、あのころの感覚。
懐かしさと少しの照れくささが、同時によみがえってくるような投稿でした。
いま振り返ると、あのころ選んでいたのは曲というより「みんなと違う自分」だったのだろうな、と思います。
スノッブ効果も、それ自体が悪いわけではありません。
みんなと違うものを探す気持ちがあるからこそ、まだ誰も知らない名曲に最初にたどり着く人が出てくるんです。
1950年の論文が同じ棚に入れたふたつ
ここまで読むと、「好き」と「ダサい」は正反対の気持ちに見えますよね。
ところが、ライベンシュタインの論文では、このふたつは同じ棚に並べられていました。
彼は人がモノを欲しがる理由を、大きくふたつに分けています。
ひとつは、そのモノそのものの良さから来る気持ち。
もうひとつは、そのモノの良さとは関係のないところから来る気持ちです。
バンドワゴン効果とスノッブ効果は、どちらも後ろのグループに入っていました。
ちなみに同じグループには、値段が高いからこそ欲しくなるヴェブレン効果も並んでいます。
みんなが聴いているから好きになるのも、みんなが聴いているからダサいと思うのも、決め手は曲の中身より、その曲を聴いている人の多さのほう。
向きが逆なだけで、どちらも見ているのは周りの人たちなんです。
だとすると、好きと言っている人も、ダサいと言っている人も、その瞬間はまだ曲をちゃんと聴いていないのかもしれません。
そう考えると、あの広告の2行は、両方の人に同じことを問いかけていたように見えてきます。
あなたが見ているのは曲ですか、それとも周りの人ですか、と。
動画に並んでいた問いの中には、「音楽の価値は何で決まる?」というものもありました。
ライベンシュタインの分け方を当てはめると、答えの候補はふたつ。
曲そのものの良さで決まる価値と、聴いている人の多さで決まる価値です。
ふだんの私たちは、このふたつをごちゃまぜにしたまま「好き」「ダサい」と言っているのかもしれません。
この問いは、発売を控えたアルバムの名前『POPS』ともつながっています。
そもそもポップスは、大勢の人に聴かれる音楽を指す言葉です。
みんなに聴かれる音楽という名前のアルバムを出す直前に、「みんなが聴いてるから?」と自分から問いかけている形なんですよね。
そして、添えられた「確かめよう。」の一言も、ネットでは、答えはアルバムを聴いて自分の耳で確かめて、という意味に受け取られています。
なかには、試されているのはミセスの側だと読む人もいました。
これ聴き手にとっては「確かめよう」なんだけど、このアルバムを出すミセスからしたらある意味「さぁ試されよう」なんだよな。
問題提起に自分たちの作品を掲げるって挑戦的すぎてカッコ良い。
この広告は「貴方なり」を見つけてくれというか、How-to味がある。— あめ (@ame_aimga) September 27, 2026
みんなに聴かれている側が「みんなが聴いてるから?」と問い返すのは、なかなか勇気のいることです。
自分の耳だけで一曲聴く方法
では、周りを見ずに曲だけを確かめるには、どうすればいいのでしょうか。
いちばん手軽なのは、アーティスト名も再生回数も見ずに、一曲だけ最後まで聴いてみることです。
ランキングの順位や再生回数の数字は、それだけでバンドワゴン効果とスノッブ効果の両方のスイッチを押してしまいます。
画面を伏せて、イヤホンだけで聴く。
それだけで、耳に入ってくるのは曲そのものになります。
シャッフル再生やラジオのように、次に何が流れるか自分で選べない聴き方も、先入観を外すにはぴったりです。
もうひとつは、聴き終わったあとに「好き」「ピンとこない」をひとことだけ自分の中で決めておくこと。
理由までうまく言えなくてもかまいません。
周りの評判を先に読むと、自分の感想はどうしてもそちらへ引っ張られていきます。
でも、自分の答えを決めてから評判を読めば、周りと違っていても、それはそれで面白い発見になるはずです。
「みんなは絶賛しているけど、自分にはピンとこなかった」という答えも、自分の耳で出したものなら立派な感想。
ネットでは、「聞く」と「聴く」を使い分けているという音楽好きのあるあるも話題になっていました。
音楽好きあるある
「聞く」と「聴く」を使い分けてる
— マヨナカ (@mayonakasoda) September 26, 2026
なんとなく耳に入ってくるのが「聞く」で、自分から耳を傾けるのが「聴く」。
ミセスの広告に使われていたのも、自分から耳を傾けるほうの「聴く」の字でした。
ちなみに『POPS』は、CD発売の1日前にあたる9月29日の午前0時から、デジタルでの先行配信が始まります。
収録は全16曲で、そのうち9曲が書き下ろしの新曲だそうです。
すでに知っている曲より、まだ誰の評判もついていない新曲こそ、この確かめ方にはうってつけだと思います。
好きでもダサいでも、答えそのものに正解はありません。
ただ、その答えを出したのが自分の耳だったのか、周りの声だったのかは、案外自分でも気づいていなかったりします。
渋谷の2行にドキッとした人は、今夜いちど、周りの声を閉じて一曲だけ聴いてみてくださいね。
