「インフルって心筋炎になるんですか!?!?」

名古屋でアイドルの練習生として活動していた、8歳の女の子の訃報に、こんな声が並んでいます。

2026年9月28日、所属事務所のDIANNAプロジェクトが、女の子は「インフルエンザ罹患に伴う心筋炎」のため亡くなったと公表しました。

インフルエンザなら、何日か寝込めば治るもの。

多くの親が、そう思って子どもの熱と付き合ってきたはずです。

だからこそ、「娘と同い年。涙が溢れます」という声には、驚きと一緒に、うちの子は大丈夫かという不安がにじんでいました。

しかも今年のインフルエンザは、例年と少し事情が違っていて。

今回は、インフルエンザから心筋炎になるとはどういうことなのか、子どもの危ないサインは家のどこで見えるのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。


「知らなかった」が並んだ8歳の訃報

本人の名前で運営されてきたXのアカウントに、本人に代わる形で出された報告によると、女の子が亡くなったのは9月25日の午前4時ごろ。

事務所の発表と同じ9月28日に出たその報告には「人生の1/3がアイドルでした」とあり、「永遠のアイドルとして皆さんの心の隅にでもいさせてあげてください」と結ばれていました。

通夜と葬儀は、遺族の意向で近親者だけで済ませたとのこと。

 

その知らせに寄せられた反応には、悲しみと一緒に「知らなかった」という驚きも並びました。

「インフルエンザも、甘く見ないほうがいいね……」とつぶやいた人もいれば、「インフルエンザ罹患による心筋炎という病気があるんですね」と受け止めた人もいます。

驚くのも無理はありません。

インフルエンザで気をつけるものといえば、高い熱や、うわごと、急に走り出すような異常行動を思い浮かべる人が多いでしょう。

心臓と結びつけて考えたことがある人は、そう多くないはずです。

 

そのうえ、今年は流行の始まりが早いことも、ネットではすでに話題になっていました。

厚生労働省は8月28日、インフルエンザが流行シーズンに入ったと発表しています。

全国の決まった医療機関から届く1週間の患者数が、1か所あたり1人を超えると流行入り、という目安があり、8月17日から23日の週に1.11人となりました。

感染症法が施行された1999年以来、2009年に次いで2番目に早い流行入りだそうです。

去年の流行入りは、9月22日から28日の週でした。

冬の病気という感覚のまま過ごしていた夏の終わりには、もう流行が始まっていたんですね。

では、どうして心臓の話はこれほど知られていなかったのでしょうか。


心臓の文字がない国の注意書き

理由の一端は、厚生労働省が出しているインフルエンザのQ&Aにあります。

いま出ている最新の、令和8年度夏期の版。

インフルエンザの特徴を説明する答えには、「お子様ではまれに急性脳症を、高齢者や免疫力の低下している方では細菌による肺炎を伴う等、重症になることがあります」とありました。

子どもについて名前が挙がっている重い合併症は、急性脳症です。

続く質問では、急に走り出す、部屋から飛び出そうとするといった異常行動への注意が、2問を使って丁寧に説明されています。

重い異常行動は熱が出てから2日以内に起きることが多いので、少なくとも2日間は子どもを一人にしないように、という具体的な一手まで。

ところが、心筋炎という言葉が同じQ&Aに出てくるのは、新型コロナワクチンの副反応を説明する箇所だけでした。

インフルエンザの合併症としては、一度も出てこないんです。

 

ワクチンの効き目を説明する質問でも、重症化の例として挙がっているのは「肺炎や脳症等の重い合併症」でした。

子どもの病院として知られる国立成育医療研究センターの解説ページも、挙げているのはクループ症候群、気管支炎、肺炎、熱性けいれん、そしてまれな急性脳症まで。

医師向けの医学事典であるMSDマニュアルには、「A型またはB型インフルエンザの感染後には,まれに脳炎,心筋炎」が起きると書かれていました。

もっとも、心筋炎は確かにある合併症ですが、「まれ」とされていて、どのくらいまれなのかは一般向けの資料に数字では示されていません。

一般向けの案内に名前が出てこないのも、そのまれさのためなのでしょう。

 

だから、親の目が頭と肺に向いてきたのは、国の案内がそこを繰り返し伝えてきたからでもあります。

知らなかった自分を責める必要は、まったくないんです。

そのうえで、名前の出てこない心臓のほうも、どんな形でサインが出るのかを一度だけ知っておくと、いざというときの迷いが減ります。


お腹に出ることがある心臓のサイン

そもそも心筋炎とは、心臓を動かしている筋肉に炎症が起きる病気のこと。

心臓は、縮んだりゆるんだりを繰り返して全身に血を送り出すポンプのような臓器なので、その筋肉が炎症で弱ると、送り出す力そのものが落ちてしまいます。

ウイルスなどに感染したあとに起きることが多く、軽いまま自然に治ってしまうものから命にかかわるものまで、幅の広い病気です。

なかでも、始まって間もなく心臓と血の巡りが急に保てなくなる重いものを、医師は劇症型心筋炎と呼んでいます。

 

厚生労働省のサイトに載っている日本循環器学会の資料には、心筋炎の始まり方がこう説明されていました。

多くは、寒気や発熱、頭痛、だるさといったかぜのような症状や、食欲がない、吐き気、嘔吐、下痢といったお腹の症状が先に出るそうです。

そこから数時間から数日のうちに、心臓の働きが落ちたサインや胸の痛み、脈の乱れが出てくることがある、とされています。

かぜのような症状が先で、心臓の症状はそのあと。

では、心臓の働きが落ちたサインは、家ではどう見えるのか。

昭和医科大学病院の小児循環器・成人先天性心疾患センターは、子どもの心筋炎の主な症状として、次のような様子を挙げています。

  • ぐったりする、元気がない
  • 呼吸が速い、苦しそうにしている
  • 顔色が悪い、唇や手足が青白い
  • 胸の痛みや胸の違和感
  • おしっこの量が減る

胸の痛みのほかは、子どもが言葉にしなくても、そばで見ていて気づける様子ばかり。

同じセンターは、かぜのあと体調がなかなか戻らず、元気がない、吐いてしまう、呼吸が苦しいといった様子が続くときは注意が必要だとしています。

つまり、熱が下がりかけてからでも、元気が戻らないなら、それが相談していい合図。

 

お腹の症状については、小児の心臓病を扱う日本小児循環器学会の雑誌に2024年に載った解説に、はっきりした一文があります。

血の巡りが悪くなったことでお腹に症状が出る、という内容です。

「腹痛や嘔吐等の消化器症状は,循環不全による症状であることが多く,特に劇症型心筋炎の初期症状として高頻度にみられる」

心臓の病気なのに、最初のサインがお腹に出ることがあるんです。

また、胸の痛みは、炎症が心臓を包む膜まで及ぶと出てくるもの、と同じ解説にあります。

膜まで届かなければ胸は痛まないので、胸が痛いと言わないから心臓は大丈夫、とは限りません。

 

とはいえ、ここで話を大きくしすぎないように気をつけたいところ。

国立成育医療研究センターによると、インフルエンザそのものでも吐き気や腹痛、下痢が出ることがあり、治療に使う薬の副作用で吐き気が出ることもあるそうです。

吐いたから心臓が悪い、とは決して言えません。

お腹の症状だけで見分けることはできないし、見分けられなくて当然なんです。

 

それに、同じ解説には、急性心筋炎の多くは自然に良くなるとも書かれていました。

日本循環器学会の資料でも、劇症型ではない急性心筋炎は、炎症が1〜2週間ほど続いたあとに回復へ向かうと説明されています。

しかも病院では、心電図や血液検査で心臓に炎症が起きていないかを確かめられるそうです。

家で見分けなくていい、見分けるのは病院の仕事と考えてかまいません。

そして、昭和医科大学病院のセンターの解説には、「ご両親やご家族の生活が直接の原因になることはありません」という一文も置かれていました。


いつもと違う夜にできること

家で「いつもと違う」と感じたときの目安は、厚生労働省のQ&Aにも書かれています。

高い熱が続く、呼吸が苦しい、意識の状態がおかしいといった具合の悪さがあれば、早めに医療機関を受診するように、というもの。

子どもが自分から「動悸がする」と言ってくれるとはかぎらないので、呼吸が速い、顔色が悪い、ぐったりしているといった見た目の様子が目安になります。

そこへ吐き気が止まらないといったお腹の変化が重なれば、様子を見るより、迷わず相談していい場面です。

 

困るのは、それが夜中や休日に起きたとき。

迷ったときのために、全国同じ番号で小児科の医師や看護師に相談できる窓口が用意されています。

それが、こども医療でんわ相談の「#8000」です。

かけると、対処の仕方や受診する病院について助言を受けられるとのこと。

ただし、受け付けている時間は都道府県ごとに違うので、流行が本格的になる前に、住んでいる県の時間を一度確かめておくと安心でしょう。

 

それから、ワクチンについても、今年は少し早めに考えておきたいところです。

昨年度の冬に出たQ&Aは、インフルエンザは例年12月から3月ごろに流行するので、12月中旬までに接種を終えるのが望ましい、としていました。

今年は、その12月を待たずに、9月18日に発表された9月7日から13日の週の数字が5.54人まで上がっています。

今年の夏期のQ&Aによると、ワクチンには発病をある程度抑える効果に加えて、肺炎や脳症のような重症化を防ぐ効果も期待されているそうです。

いつ接種するかは子どもの年齢や体調でも変わるので、かかりつけの小児科で今年の時期を早めに相談しておくと、迷いがひとつ減るかもしれません。

僕は専門家ではないので、気になる様子があれば、ためらわず医療機関で診てもらってください。

 

8歳という年齢を見るたびに、胸が詰まってしまいます。

次に子どもが熱を出した夜は、熱の高さだけでなく、顔色やお腹の具合、ぐったりしていないかにも目を向けて、迷ったら#8000を押してみてくださいね。

亡くなられた女の子のご冥福を、心よりお祈りいたします。


この記事で参考にした情報

  • DIANNAプロジェクトのお知らせ(2026年9月28日)
  • 厚生労働省「インフルエンザの発生状況について」(2026年8月28日・9月4日発表)と公式Xの週ごとの発表
  • 厚生労働省「令和8年度夏期 急性呼吸器感染症(ARI)等への対策に関するQ&A」(インフルエンザの特徴・異常行動・受診の目安・ワクチンの効果)
  • 厚生労働省「令和7年度 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」(ワクチンの接種時期)
  • 国立成育医療研究センター「インフルエンザ」(子どもの病気の解説ページ)
  • MSDマニュアル プロフェッショナル版「インフルエンザ」
  • 日本循環器学会「ウイルス感染に伴う心筋炎・心膜炎の臨床像」(厚生労働省サイト掲載資料)
  • 安田和志「心筋炎」日本小児循環器学会雑誌 40巻2号(2024年)
  • 昭和医科大学病院 小児循環器・成人先天性心疾患センター「心筋炎」「小児の心筋炎について」