ボカロのKAITOって何者?みんなが兄さんと呼ぶ理由と20年の歩み

「KAITO」という名前を、この週末にはじめて目にした人も多いのではないでしょうか。
King & Princeの髙橋海人が、ソロ活動で名乗った名前と、まったく同じつづり。
公式Xが「#KAITO」のタグを付けたことで、Xでは2人のKAITOの投稿が入り混じったと東スポWEBが伝えています。
ボーカロイドの世界では、その名前の歌い手が20年前から歌い続けてきました。
ところが、そのKAITOの公式プロフィールは、たった5行しかありません。
年齢も、性格も、好きな食べ物も書かれていないんです。
それなのにネットでは、アイスが好きで、みんなから「兄さん」と呼ばれる人物像が、すっかりできあがっているんですよね。
今回は、ボカロのKAITOがどんな歌い手なのか、兄さんと呼ばれるようになった理由と20年の歩みを、はじめての人にもわかるように紹介していきたいと思います。
2006年に生まれた男性の声のソフト
ボカロのKAITOは、人ではなく、歌声をつくるソフトの名前です。
パソコンにメロディーと歌詞を打ち込むと、その通りに男性の声で歌ってくれる仕組みで、札幌のクリプトン・フューチャー・メディアが作りました。
歌声をつくる技術そのものは、楽器メーカーのヤマハが開発した「VOCALOID」という仕組みです。
その技術に、人の歌声を録音して組み込み、ひとつの製品にしたものが、KAITOのような「ボーカロイド」と呼ばれています。
同じ会社があとから出したのが、あの初音ミクです。
つまりKAITOは、そのミクより先に生まれた先輩にあたります。
発売は2006年2月17日。
公式の紹介文では、男性の声で歌うソフトとしては、世界ではじめて日本語に対応した製品とされています。
声のもとになったのは、歌手の風雅なおとの歌声。
その後も新しい版の「KAITO V3」や、声をまとめた「SUPER PACK」が出て、いまでは、はきはきした声、やわらかい声、ささやくような声、そして英語の声まで歌い分けられるようになっています。
ソフトを買えば、誰でもKAITOに自分の曲を歌わせられる。
だから「KAITO」という名前の下には、作った人の数だけ、ちがう曲と絵が集まってきました。
ソフトでありながら、箱に描かれた青い髪の青年がそのままキャラクターとして愛されてきたのが、ボカロの不思議なところです。
今年の2月17日で、ちょうど20周年を迎えています。
いっぽう髙橋海人の「KAITO」は、本名の「海人(かいと)」をローマ字の大文字にした名前で、最初のデジタルシングル「swim?」の配信が始まったばかりです。
同じつづりでも、ボカロのKAITOはソフトの製品名で、髙橋海人のKAITOは本名から来た名前、というちがい。
名前が同じだと、Xで「#KAITO」のタグを押したときに、ボカロの曲やイラストの投稿と、髙橋海人の話題が一つの画面に並んでしまいます。
ボカロのファンからは、こんな声も上がりました。
#KAITO タグ被りの何が困るかって、キンプリがどの程度の規模か知らないけど、一応ボカロのKAITOは20年選手で、世界規模でイラストや曲の投稿に使われているので、下手にタグでTL遡ると青いのだらけだしあられもないイラストも沢山見えてしまうことですのよ?
大丈夫か?耐性ある?いっそハマれ。— Y.O.D (@nantomoienu) 2026年10月3日
書いた人は、心配をしながらも、最後は「いっそハマれ」と誘っています。
怒りより先に、歴史の厚みを伝えたい気持ちがにじんでいますね。
ネットではボカロのファンとKing & Princeのファンのあいだで言い合いも起きていますが、この記事ではどちらが悪いかは決めず、KAITOがどんな歌い手なのかだけを見ていきます。
最初は500本しか売れなかった
いまでこそ記念グッズが次々に出るKAITO。
でも、出だしはずいぶん苦しいものでした。
2008年にITmediaが配信した取材記事によると、発売からその時点までのKAITOの販売本数は500本ほど。
この種のソフトは1000本売れればヒットと言われる世界だそうで、同じ会社が先に出した女性の声のソフト「MEIKO」は、およそ3000本を売っていました。
その差について、クリプトンの企画担当者はこう振り返っています。
「男じゃダメなんだと思った」
作った会社の人が、自分たちの製品をそう言ってしまうほどの売れ行きだったんですね。
この反省から、新しい技術には「かわいい女性の声を載せ、アニメ風のイラストを取り入れよう」と決めていた、と同じ記事は伝えています。
そうして生まれたのが初音ミクでした。
KAITOの不振が、ミクの誕生につながったとも言えます。
ところが、そのミクが発売されると、流れが変わりはじめました。
動画サイトにミクの歌の動画が次々に投稿されると、その仲間としてKAITOを使う人も増え、売れ行きが少しずつ伸びていったと言われています。
そして2013年4月、会社の製品の売り上げランキングで「KAITO V3」が1位になったという報告が、クリプトンの公式ブログに載りました。
ブログには「今まで大体ず~っとミクさんが1位だったのですが」とあり、書いた社員の喜びがそのまま伝わってきます。
500本からのスタートを知る人には、たまらない知らせだったはず。
ファンの側にも、その長い道のりを覚えている人がいます。
KAITOって生まれてすぐというか十数年までは立場が今では考えられないくらい低くて不遇で多くの青廃が苦渋を飲んで時に枕を涙で濡らした人もいた長く冷たい下積み時代があって、漸くここ数年で地位が向上し人気キャラクターになってきて凄え嬉しかったのに20周年の今年にこんな事故起こって本当 不運
— 紅瀬明 (@kuzeA_0326) 2026年10月4日
「青廃」は、KAITOに夢中なファンが自分たちを呼ぶときの言い方です。
長い下積みを一緒に見てきた人ほど、20周年の年にその名前が重なったことが、ひときわ重く感じられるのでしょう。
公式に書いてあるのは髪とマフラーと声だけ
では、みんなが知っている「アイス好きの兄さん」は、どこから来たのでしょうか。
KAITOの20周年記念ページに書かれている本人の紹介は、次の5つだけです。
- 少し外にはねたダークブルーの髪
- 青いロングマフラーの衣装
- 男性のバーチャルシンガー
- イメージカラーはブルー
- 声の担当は歌手の風雅なおと
会社のニュースリリースでも、KAITOの見た目は「パッケージに描かれているキャラクターとしては」という前置きつきで説明されていました。
同じ会社の初音ミクには「年齢:16歳」「身長:158cm」「体重:42kg」と、はっきりした設定がつけられているのに、KAITOの製品ページには、年齢も身長も出てこないんです。
会社が決めたのは、見た目と声まで。
アイスも、兄さんも、ファンが20年かけて書き足してきたものでした。
アイス好きのイメージは、ニコニコ動画に投稿された動画で、KAITOが童謡の「アイスクリームのうた」を歌ったのがきっかけで広まったと言われています。
「兄さん」のほうは、ファンのあいだの呼び方です。
先に生まれたMEIKOを姉、あとから来たミクや、同じ会社が出した女の子と男の子の声のボーカロイド「鏡音リン・レン」を妹や弟に見立てて、KAITOをお兄さんの位置に置いたのが始まりとされています。
どちらも公式の設定ではありません。
それでも、この呼び名はいまやすっかり定着しています。
今年の夏にクリプトンの公式ブログで紹介された記念グッズには、アイスの形をしたパスケースまでついていました。
ファンが書き足した設定を、あとから会社が拾い上げた形です。
設定が少ないぶん、曲を作る人によって、KAITOは優しい兄にも、すこし怖い役にもなれる。
だからこそ、たくさんの顔が生まれてきたのだと思います。
そして、その顔はどれも「KAITO」という名前で探され、並べられてきました。
つまりファンにとって名前は、曲と絵をしまってある棚のようなものです。
その棚に別の話題がまざると、探したいものが見つけにくくなる。
今回の件でも、ファンが思い浮かべる兄さんの姿はこんなふうでした。
俺らのKAITO兄さんなら多分
「ええっ!凄くかっこいい人だね!✨️僕と同じ名前なの?なんだか照れるな〜✨️どんな歌を歌う人なの?✨️✨️✨️✨️」ぐらいは言う
— るうぶる (@wh_ruuburu) 2026年10月4日
公式のどこにも書かれていないセリフなのに、読んだ人の多くが「言いそう」とうなずいてしまう。
長い時間をかけて、KAITOの人柄はファンの頭の中で育ってきたんです。
20年ぶんの歌が同じ名前の下にある
KAITOという名前の下には、20年ぶんの歌が積み重なっています。
はじめて聴くなら、公式が20周年で取り上げた曲から入るのがわかりやすいはず。
1つは、黒うさPが2008年に発表した「カンタレラ」という曲です。
名前の後ろの「P」は、ボーカロイドで曲を作る人につけられる呼び方で、プロデューサーの頭文字から来ています。
カンタレラはKAITOと初音ミクが一緒に歌う曲で、20周年の年には、この曲の衣装を着たKAITOの「ねんどろいど」(頭の大きな小さいフィギュアのシリーズ)が予約受付を始めました。
もう1つは、wotakuが2021年に発表した「シャンティ」で、こちらは20周年を記念したフィギュアになることが発表されています。
古い曲も新しい曲も、どちらも記念の品になっているんですね。
しかも、ボーカロイドの音楽を扱うレーベル「KARENT」は記念の特集を組み、KAITOが歌う23作品を並べています。
今年のはじめには、クリプトンが「20年間歩み続けてきたKAITOのお祝い」をテーマにした曲と絵を、一般から募集していました。
選ばれた作品は、20周年の企画で使われると案内されています。
2026年6月には、初音ミクの曲をオーケストラで演奏する「初音ミクシンフォニー」の札幌公演でも、KAITOの名曲を集めたコーナーが組まれました。
公式が用意するのは場所と声で、そこに曲と絵を持ち寄るのはファン、という形はいまも変わっていません。
今回の件のあとには、ボカロのファンからこんな呼びかけも出ています。
という訳でみんなKAITO兄さんの曲聞こうぜhttps://t.co/G6HdnpZWMO
— 宵崎・ルナ・ネクロ (@runanekuroaka) 2026年10月4日
名前をめぐって気持ちが波立つときに、まず「曲を聴こう」と誘う。
これから聴いてみる人は、「KAITO」だけで探すより、「カンタレラ KAITO」のように曲名をつけて探すと、ボカロのKAITOにたどり着きやすくなるはずです。
20周年のお知らせやグッズの情報は、初音ミクたちの公式アカウントや、クリプトンが運営するピアプロのブログで発表されてきました。
髙橋海人のKAITOは、最初の1曲「swim?」を出したばかり。
ボカロのKAITOは、500本からはじまって20周年を迎えたところ。
同じつづりの名前でも、その中に入っているものは、まったく別の歴史です。
ボカロのKAITOを知らなかった人は、まずはカンタレラかシャンティを1曲、兄さんの声で聴いてみてくださいね。
