流那の産婦人科セクハラは犯罪になるのか|「綺麗な体してるね」の線引き

婦人科で受けたセクハラを語る切り抜き動画が、いまネットで大きく広がっています。
話しているのはYouTuberの流那で、子宮がんの検査のあと、医師にひざをさすられ、「お姉ちゃん、綺麗な体してるね」と言われたという内容です。
「これはセクハラじゃなくて犯罪」「産婦人科の医者でしょ」「病院名を公表して訴えたほうがいい」という声が、2026年10月10日の夕方から一気に集まりました。
ところがこの動画、本人が2023年10月にYouTubeで話した内容の切り抜きなんです。
3年前の話だと分かっても、聞いていて怒りがこみ上げてくるのは無理もありません。
診察台の上で言葉にできなかった記憶を、自分から書き込む人も出てきました。
昔、内診で変な角度で器具が当たり痛くて驚き、思わずお尻(腰)を上げてしまった。するとカーテン越しに男性医師が「や・め・な・さいっ」とリズム調?で言い、私の太ももをバシッと叩いた。叩く必要ある?凄くトラウマ。普通は痛いか訊かないか😭?その後、別の婦人科でこんな痛くならなかったのに。 https://t.co/hxk9MtxjUH
— ムラサキ@解離性障害 (@INTJloneliness) 2026年5月31日
婦人科の診察は、それでなくても緊張するものですよね。
今回は、この話が法律の上で「犯罪」になるのか、病院名を出すとどうなるのか、そして診察室で患者が頼んでいい3つのことを、わかりやすくまとめていきたいと思います。
ひざをさする手と「いまどこに住んでるの?」
流那は3人組YouTuber「ばんばんざい」の元メンバーで、自分のチャンネルでも発信している人です。
2023年10月22日、そのチャンネルに「誰か相談に乗ってください」という動画を出していました。
生理によるイライラや腹痛がひどいという相談の流れで、以前に別の病院で受けた検査のことを話し出したそうです。
子宮がんの検査を受けに、自宅から最寄りの婦人科へ行ったときのこと。
担当の医師から「ベッドに寝転んでください。脚を開いてください」と言われ、そのとおりにすると、そこにはカーテンがなかったといいます。
検査が終わると、医師は「痛くなかった?」と言いながら、ひざをさすってきたとのこと。
本人は「ヤバイと思って、鳥肌がばーっと立ったけど、何も言えないしな」と振り返っています。
そのあと別の部屋で説明を受けると、今度は「お姉ちゃん、綺麗な体してるね」と言われたそうです。
帰り際には「お姉ちゃん、いまどこに住んでるの?」と聞かれ、さらに「お姉ちゃん、可愛いからおじさん、いろんなことを教えてあげるよ」とまで言われた、と話しています。
これは、さすがに気持ちが悪いですよね。
検査の結果を取りに行かなければいけないのに、その記憶がよみがえって、しばらく行けなかったそうです。
後日ようやく足を運ぶと、「そのおじさん、おらんくなってた。おばさんに替わってた」とのこと。
病院の名前も、医師の名前も、本人は一度も出していません。
切り抜きの中の流那はときおり笑顔で話していて、そこに引っかかった人もいれば、笑わないと平常心を保てないからだ、と受け止める声も並びました。
「盛っているのでは」と疑う声も一部にありますが、この記事では、この話が本当かどうかを判定しません。
内診台では医師と患者のあいだをカーテンで仕切るのが一般的とされていますが、そのカーテンがあるほうがいいのか、無いほうがいいのかも、前から意見が分かれてきたところです。
医療の名の下に女性への人権侵害が隠されており、内診室のカーテンが産科暴力の温床となっている。なぜなら、カーテンで仕切ることによって、女性の人格が切り離されて「物」として扱われ、プライバシー侵害や性的・身体的・心理的暴力が顧みられない。日本以外では、内診室のカーテンは珍しいという」
— 野村麻衣 Mai Nomura(🌻) (@222Minette) 2023年2月12日
そして、その場では何も言えなかった、という一言がいちばん重く残るんですよね。
「セクハラ」の一言では足りない
「セクハラじゃなくて犯罪だ」という感覚には、法律の上でも根っこがあります。
セクハラという言葉が出てくる代表的な法律は、男女雇用機会均等法です。
その第11条が会社に求めているのは、「その雇用する労働者」が職場で性的な言動に苦しまないように手を打つこと。
つまり、この条文が守っている相手は会社で働く人なんです。
診察室にいる患者は、この条文の外にいます。
患者が受けた被害を考えるなら、見るべきは刑法などの別の決まりです。
刑法の第176条は、不同意わいせつの罪を定めています。
罰は6か月以上10年以下の拘禁刑で、罰金の定めはありません。
拘禁刑というのは、それまでの懲役と禁錮がひとつにまとまった呼び方です。
この条文の第1項には、同意しない気持ちを表せない状態の例が8つ並んでいて、その中に「予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること」もあります。
驚いて固まり、何も言えなくなる状態も、条文の例の中に書き込まれているということ。
以前の強制わいせつ罪は、暴行や脅迫があったかどうかが大きな柱でしたが、2023年の改正で今の形に改められました。
さらに第2項には、「行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ」てわいせつな行為をした場合も、同じく罰するという一文が。
診察のふりをした行為も、罪の形として条文にはっきり書かれています。
ひざをさする、言葉をかける、といった行為がこの罪に当たるかどうかの線引きは、警察と裁判所が決めることで、ここでは決められません。
触ったり言葉をかけたりするだけでなく、診察中に撮影すれば、性的姿態撮影等処罰法という別の法律の罪にもなります。
実際に、診察室での被害が事件になった例は今年もありました。
国立病院機構の発表では、四国こどもとおとなの医療センターの40代の男性医師が、2026年1月5日に病院内で診察中の患者の性的な姿を撮影したとして、3月16日に逮捕されています。
この医師は休暇中だった2月18日に、沖縄県那覇市の商店街で撮影未遂の疑いで逮捕されていて、病院内の件はそのあとの再逮捕でした。
処分は、3月31日付の懲戒解雇です。
これはショック。国立病院機構四国こどもとおとなの医療センターは四国の基幹病院、逮捕されたのはその産婦人科医長。患者は不安を抱きつつも、男性医師であってもその職業倫理を信頼して内診台にあがる。医師がこんな欲求を持って診ているかと思うと受診も躊躇われてしまう。娘もショックを受けていた https://t.co/Hb63AekqHI
— 佐藤倫子 (@sato__michiko) 2026年3月16日
信頼して診察台に上がる、という前提そのものが揺らぐ話でした。
医師には、刑法とは別の物差しも。
医師法の第7条は、罰金以上の刑を受けたときだけでなく、「医師としての品位を損するような行為のあつたとき」にも、厚生労働大臣が戒告・3年以内の医業停止・免許の取り消しを決められると定めています。
有罪かどうかとは別に、医師としてふさわしいかを問う道も、法律には用意されているということ。
病院名を出すより確かな届け先
では、病院名を公表して訴えればいい、という声はどうでしょうか。
許せないと思う気持ちは、もっともです。
ただ、名前を出した側が、逆に罪に問われることも。
刑法の第230条は、名誉毀損の罪をこう定めています。
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。」
「事実の有無にかかわらず」とは、本当のことを書いても罪になりうる、という意味。
例外を定めた第230条の2では、公共の利害に関わる話で、目的がもっぱら公益のためで、しかも真実だと証明できたときに罰しない、とされているんです。
同じ条文には、まだ起訴されていない人の犯罪の話は公共の利害に関わるものとみなす、という定めもあります。
それでも、真実だと証明できるかどうかという重さは、書いた人が背負ったまま。
怒って声を上げた人が責められる側に回ってしまうのは、あまりに割に合いません。
しかも今回の動画は3年前のもので、話の中では、その医師はもういなくなり、別の女性の医師に替わっていたとされています。
いま誰かが病院の名前を当てにいけば、関係のない医師や病院まで巻き込むおそれもあるでしょう。
被害を受けたときに頼れる窓口は、ネットとは別に用意されています。
警察の性犯罪被害相談電話は「#8103」で、全国どこからでも地元の警察につながる、24時間の窓口。
性犯罪や性暴力の被害を受けた人のためのワンストップ支援センターは「#8891」で、医療や法律の相談、カウンセリングまでまとめて頼れる場所です。
「#8103」は、ほかの短縮番号と一緒に「覚えておこう」とまとめている人もいました。
便利な短縮ダイアルまとめ!
#7119 救急相談センター
地域によっては非対応の場合も#8000 小児救急電話相談
#8080 安全運転相談
#8103 性犯罪被害相談電話
#9110 警察相談専用電話
#9910 道路緊急ダイヤル
何かあったときのために覚えておこう!
無理ならブックマーク🔖— おると🦴整形外科医@筋トレ (@Ortho_FL) 2020年9月16日
医療そのものへの不安や苦情なら、都道府県などに置かれた医療安全支援センターでも話を聞いてもらえます。
流那自身も、病院の名前は出さないまま、何があったかだけを話していました。
医師向けの手引きにある「必ず」
怒っても、名前を出しても、診察室の中は変わらないのでしょうか。
じつは、診察室で患者を守るための心得は、すでに文字になっていました。
日本産婦人科医会は、医師向けの研修ノートの「思春期のケア」の項目で、若い患者の婦人科の診察についてこう書いています。
「診察医が男性でも女性でも,本人の緊張緩和のため,リスク管理のために女性看護師を必ず立ち会わせる.」
同じ項目には、「内診台のカーテンは本人の好みを聞く」「途中で気が変わったり,苦痛を伴ったりした場合は,いつでも中止を依頼してもよいことを最初に伝える」とも並んでいます。
「黙って器具を入れるようなことが決してないようにする」という一文まであり、初診で決心がつかなければ説明だけにとどめて後日に回すことも考える、とも書かれていました。
思春期の患者を診るときの心得とはいえ、医師の側には「必ず」「決して」という強い言葉で書かれた約束があるということ。
ところが、これは医師が読む研修ノートなので、診察台に上がる側が目にする機会はふつうありません。
大人の患者に向けた案内は、別の場所にありました。
東京都の働く女性向けのサイトでは、医師へのインタビューとして、内診は必ず要るわけではなく、不安や抵抗があればそれを医師に伝えていい、と紹介されています。
抵抗がある場合は、お腹の上から超音波を当てるなど、別の方法で調べられることもあるそうです。
カーテンについても、「カーテンを開けてほしい」と医師に伝えてみてください、と書かれていました。
閉めるか開けるかは本人の好みを聞くもの、という医師向けの心得とも重なる話です。
看護師さんがそばについてくれたことを、あとから振り返っている人もいます。
補足するとその先生はめっちゃ良い先生で、一緒についてくれてた看護師さんもめっちゃ良い人で、内診台から降りる時もフォローしてくれたしずっと笑わせてくれたりしてほんと良い方達だったんだよ。でも逆に言えばそうやってフォローし続けるしか痛みや苦痛を逃す方法がなかったってことなのかもね、、
— 大袈裟 (@Olahellobonjour) 2026年9月22日
そばに誰かがいてくれるだけで、診察台の上の心細さは変わるもの。
診察室で頼んでいいことは、この3つです。
- 看護師さんにそばにいてほしい
- カーテンを開けてほしい、または閉めてほしい
- いったん止めてほしい
どれも、わがままではありません。
その場で何も言えなかった自分を、責めなくていいんですよね。
次に診察台に上がる日は、この3つを頼んでいいと知っているだけでも、少し気持ちが楽になるかもしれませんね。
この記事で参考にした情報
この記事の内容は、次の資料で確かめています。
- 流那の告白の内容:デイリースポーツ(2023年10月24日)、モデルプレス(2023年10月23日)
- 法律の条文:男女雇用機会均等法第11条、刑法第176条・第230条・第230条の2、医師法第7条(e-Gov法令検索)
- 診察中の撮影事件:国立病院機構中国四国グループ「職員の懲戒処分について」(2026年3月31日)、四国こどもとおとなの医療センター「職員の再逮捕について」(2026年3月16日)
- 診察の心得:日本産婦人科医会「研修ノート No106 思春期のケア(3)婦人科的診察」、東京都「働く女性のウェルネス向上委員会」専門家コラム
- 相談窓口:警察庁「#8103」、内閣府男女共同参画局「#8891」
