2026年11月4日の夕方6時すぎ、常磐線快速の松戸駅で人身事故が起きました。

電車が止まったホームの様子として、ネットで一気に広まったのが、泣きながら働いていた若い駅員さんの姿です。

「泣くなよ」と突き放す声もあれば、あの駅員さんの心のケアもしてほしい、と願う声もあります。

涙を見せながらホームに立っていたあの駅員さんは、このあと誰かに支えてもらえるのか、心配になりますよね。

今回は、事故のあと鉄道会社が社員をどう支えているのか、そして国の基準がそれをどう見ているのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。

泣いていた駅員さんと止まった常磐線

JR東日本の発表では、18時13分ごろに松戸駅で人身事故が起き、その影響で常磐線は品川駅から土浦駅のあいだの上下線で運転を見合わせたとのことです。

快速電車の運転が再開したのは20時03分ごろで、そのあともしばらくダイヤの乱れが続いたと伝えられています。

事故にあった方のケガの程度は、いまのところ報道では伝えられていません。

ネットには、事故にあった方を責める言葉も混じっていましたが、事故がどんな状況で起きたのかは、まだ何も伝えられていない段階です。

そこを外から決めつけるのは、いまはやめておきたいと思います。

 

そのうえで、多くの人の目にとまったのが、ホームで働く駅員さんの涙でした。

「若い駅員さんが泣きながらがんばっていた」という声が広まると、その下には「辛い、大変な仕事だよ」「毎日お世話になっている常磐線はこういうことをしてくれる方で成り立っているのを実感した」と、感謝の言葉が並んでいます。

自分も新人のころ、続けて事故に当たった日に泣きながら接客していた、と振り返る人までいました。

駅員さんがその場でどんな仕事をしていたのかまでは、報道からは伝わってきていません。

それでも、あの涙を見て胸が痛くなった人がこれだけいた、ということですね。

 

「泣くなよ」と「外部委託できないの」

駅員さんへの声は、大きく2つに分かれました。

ひとつは「泣くなよ それがあなたの仕事でしょ」という声で、もうひとつは「気の毒すぎる、、そういう処理は外部委託できないのかな」という声です。

答えは正反対ですが、どちらも「あの場面に立つのは駅員の仕事なのか」に引っかかっている声だと思います。

 

鉄道の人身事故の現場には、駅員や乗務員だけでなく、警察や消防も入ってくるもの。

去年の11月には、別の駅の人身事故で救急隊とすれ違った救急医が、そのまま一緒に現場へ向かったという投稿も広まりました。

ケガをした人を病院へ運ぶのは救急隊、事故の状況を調べるのは警察の役目。

ただ、救急や警察が引き上げたあとも駅に残り、止まった電車を待つお客さんへの案内や振替輸送の手配を運転再開まで続けるのは駅員です。

あの場面に最初から最後までいるのが駅員だという点では、「仕事でしょ」という言葉はたしかに当たっているんですよね。

では、その仕事で心に負担を負ったとき、駅員さんを支える仕組みはあるのでしょうか。

事故のあとの支え方は会社ごとにばらばら

鉄道会社が人身事故のあと社員をどう支えているのかは、交通の専門ニュースサイト「レスポンス」が2020年12月に各社へ取材した記事にまとめられています。

記事によると、ある事業者では、事故のあとに管理者が面談して、必要だと判断したときは産業医との面談につないでいるそうです。

別の事業者では、事故に関わった運転士に、当日と3カ月後をめどに所属長が面談し、本人が望めば臨床心理士との面談や看護師への電話相談も受けられるとのこと。

その一方で、特に対応をしていない事業者もあった、という一文も。

事故のあとの心のケアを学ぶ研修を用意している事業者も、取材した範囲では見当たらなかったといいます。

つまり、泣いていた駅員さんが支えてもらえるかどうかは、法律で決まった手順ではなく、勤めている会社と職場しだいなんです。

今回のJR東日本が、松戸駅の駅員さんにどんな支えを用意しているのかは、発表されていません。

 

心に負担のかかる仕事について、ジャーナリストの安田菜津紀は、ひとりで気をつけるセルフケアだけでは「自己責任」で終わってしまう、と書いています。

記者でも駅員でも、ひとりで踏ん張るだけでは足りない仕事があるという話は同じでしょう。

 

国の労災の基準に書かれた「目撃」

会社ごとに支え方がばらばらでも、国にはひとつ、決まった見方があります。

仕事が原因で心の病気になったとき、それを労災として認めるかどうかを決める、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」です(2023年9月に改正)。

この基準には、仕事で起きた出来事を心の負担の重さで当てはめる表がついていて、その中にこんな項目が置かれています。

「業務に関連し、悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」

「仕事でしょ」という言葉のとおり、仕事中に悲惨な事故を目にすることは、国の基準でも仕事の負担として数えられています。

負担がいちばん重く見られるのは、自分が巻き込まれるおそれがあった場合や、助けられたかもしれない場合だと書かれていて、線路のすぐそばに立つ駅員の仕事は、この表とけっして遠い場所にはないんですよね。

今回の駅員さんがどこに当てはまるのかは、外からはわかりません。

 

そしてこの基準は、出来事そのものだけでなく、そのあとの職場の様子も見ます。

「職場の支援・協力が欠如した状況であること」は、「総合評価を強める要素となる」と書かれているんです。

職場が支えなかったことが、そのまま心の負担を重くする材料として数えられる、ということ。

会社ごとに支え方がばらばらなのに、国の基準は、支えがなかったこと自体を重く見ているわけですね。

「駅員さんのメンタル面のケアもして下さい」という声は、やさしいお願いにとどまらず、国の基準がいちばん大事にしているところをそのまま言い当てていると思います。

 

あの投稿を見て、自分まで胸が苦しくなった人もいるかもしれません。

そういうときは、同じような話や映像をくり返し追いかけないほうがいいとされています。

それから、この「目撃」の項目は、病院や介護、警備など、仕事の中でつらい場面に立ち会う人みんなに向けた書き方です。

もし自分が仕事でそういう場面に立ち会い、眠れない日や、ふとした拍子に思い出してしまう日が続いているなら、ひとりで抱えずに誰かへ相談してみてください。

厚生労働省の「こころの耳」には働く人のための電話相談があり、番号は0120-565-455で、月曜から金曜は17時〜22時、土日は10時〜16時に受け付けています(祝日などは休み)。

労災の請求も、会社に任せきりにしなくて大丈夫で、働いている本人が労働基準監督署へ出すこともできる仕組み。

事故にあった方の状態が、少しでも軽いものであってほしいと思います。

そして支えてもらえるかどうかが職場しだいだからこそ、泣いていた若い駅員さんのそばに、話を聞いてくれる上司や仲間がいてほしいですね。