会社員のお小遣いは、平均すると月に4万円足らず。

それなのに、大学生が会社員より自由に使えるお金を持っているのでは、という話がいま注目されています。

Yahoo!ニュースのトピックスに「購買力高い大学生 なぜ存在する」という見出しが並び、Xでも大きな話題になりました。

返信に多かったのは、「親が太いから」という声と、「パパ活か夜の仕事だろう」という決めつけです。

ただ、数年前にXで広がった、手取り13万円をめぐるこんな投稿を思い出した人もいるかもしれません。

同じ13万円でも、そこから家賃や食費を払うかどうかで、まったく別のお金になる。

大学生の財布が厚く見える理由も、実はこの差にあります。

会社員なら毎月払っているお金のうち、親の扶養に入っている大学生は、まだ払っていないものがいくつもあるんです。

今回は、大学生がなぜ会社員より自由にお金を使えるのか、その仕組みをわかりやすく解説していきます。


大学生のバイト代は平均6万円台

話題のもとになったのは、TBS CROSS DIG with Bloombergが配信した「お小遣いはサラリーマン以上?『金持ち大学生』のリアルと消費の二極化」という記事です。

書いたのは、ニッセイ基礎研究所の廣瀬涼さん。

廣瀬さんは、フラペチーノをためらわずに頼んだり、ラーメン一杯に2,000円を払ったりする若者の姿を挙げ、そこから話を始めていました。

記事が引いているマイナビの調査では、大学生のアルバイトの手取りは月平均で6万3,000円で、月15万円以上を稼ぐ学生は1.3%しかいません。

一方、SBI新生銀行の調査では、会社員の月のお小遣いは平均で男性が3万9,081円、女性が3万4,921円でした。

6万円ほどのバイト代をまるごと自分のために使えるなら、会社員のお小遣いを上回ってしまう、というのが廣瀬さんの見立てです。

 

では、パパ活や夜の仕事という見方はどうでしょうか。

夜間の接客業で稼ぐ学生や、在学中に起業した学生がいることは、元の記事も書いています。

ただ、平均が6万円台で、15万円以上が1.3%という数字を見るかぎり、多くはごくふつうのアルバイト学生でしょう。

同じ大学生どうしでも差がつくのは、稼ぐ額よりも、そのお金で何を払うかです。

全国大学生活協同組合連合会の調査では、バイト代の使い道に「生活費」を挙げた学生は、実家から通う学生で14.4%、一人暮らしの学生では49.3%でした。

実家暮らしなら、バイト代の大半がそのまま自由に使えるお金になります。

反対に、奨学金を借りながらバイト代から学費まで出していた、という投稿もありました。

同じ大学生でも、財布の中身は家の事情で別物なんですよね。

 

大学生がまだ払っていない3つのお金

会社員の給料からは、健康保険料や厚生年金の保険料、税金が毎月引かれていきます。

そのうえで家賃や食費を払って、残ったぶんがお小遣いに。

親の扶養に入っている大学生だと、このうち家賃と食費、健康保険料、年金の3つが、まだ自分の財布から出ていません。

まずは家賃と食費で、実家暮らしなら払うのは親でしょう。

次に、健康保険料です。

親の健康保険の扶養に入っていれば、学生が自分で保険料を払う必要はありません。

では最後の年金は、学生のうちはどうなっているのでしょうか。

20歳になると国民年金に入り、保険料はいま月1万7,920円。

ただ、学生には「学生納付特例」という制度があり、申請すれば在学中の支払いを待ってもらえます。

対象は、本人の前の年の所得が一定以下の学生で、家族の収入は問われません。

 

この学生納付特例は、払わなくていい制度ではなく、払うのを後ろへずらす制度です。

日本年金機構によると、猶予された期間は、10年以内ならさかのぼって納める「追納」ができます。

追納しないままだと、その期間は年金を受け取る資格の期間には数えられても、受け取る年金の額には反映されません。

学校を出てしばらくたつと、こんな案内が届きます。

この投稿の人に届いた案内では、学生特例の期間が49か月、追納できる額の合計は81万円あまりでした。

特例を使っている学生の財布の余裕には、この年金の後払いのぶんも入っています。

 


2025年、国は大学生が扶養のまま稼げる上限を上げた

大学生がどこまで稼げるかを決めているのが、国の決まりでもある、というのがこの話の面白いところ。

廣瀬さんの記事には、「親の扶養の範囲を意識しながらアルバイトで月10万円程度を稼ぐことは十分に可能」という一文がありました。

その「扶養の範囲」が、2025年に大きく動いています。

これまでは、大学生のバイト代が年103万円を超えると、親が受けられる特定扶養控除という税の控除がなくなっていました。

親の所得から63万円を差し引いて、そのぶん税金を軽くできる控除です。

それが2025年度の税制改正で、19歳以上23歳未満の子どもの給与収入が150万円までなら、親はこれまでと同じ63万円の控除を受けられるように変わっています。

150万円を超えても控除はいきなりゼロにはならず、188万円まで少しずつ減っていく仕組みで、名前は「特定親族特別控除」です。

財務省の資料は、この改正の理由をこう書いていました。

「現下の厳しい人手不足の状況において、特に大学生のアルバイトの就業調整について、税制が一因となっているとの指摘がある」

 

健康保険の扶養も、同じように動きました。

去年の10月からは、19歳以上23歳未満の人が親の健康保険の扶養に入れる年収の目安が、130万円未満から150万円未満に上がっています。

150万円を12か月で割ると、月12万5,000円になる計算。

人手不足を理由に、国が自分から、大学生が扶養のまま稼げる上限を引き上げた形です。

とはいえ、そこまで働くには授業や単位との両立が欠かせません。

上限が上がっても、学生の一日の時間までは増えないもの。

 

就職すると、払っていなかったお金が順番に戻ってくる

大学生の財布が厚く見えるのは、ここまで見てきた3つのお金をまだ自分で払っていないからでした。

それが、就職すると順番に自分の財布へ戻ってくるんです。

まず、給料から健康保険料と厚生年金の保険料が引かれるようになります。

厚生年金の保険料率は18.3%で、これを会社と半分ずつ負担する決まりです。

一人暮らしを始めれば、家賃も食費も自分持ちに。

そして2年目の6月には、住民税が加わります。

住民税は前の年の所得をもとに決まるので、学生のころのバイト代が少なければ1年目はかからず、2年目の6月の給料から天引きが始まるんです。

学生のころに待ってもらった年金をどうするかも、10年の期限のなかで決めなければなりません。

 

廣瀬さんは記事で、学生時代に自由に使えるお金が多かった人ほど、就職すると使えるお金が減る「逆転現象」が起こりうると書き、それが若者の働くことへの見方にも影響しうると指摘していました。

働きはじめてすぐに減り、翌年の6月にもう一度減る。

新社会人が感じるあのがっかりは、給料明細の数字にそのまま表れているんですよね。

大学生のお子さんがいる家なら、年末が近いいま、今年のバイト代が150万円をこえそうか、一度話してみるのもよさそうです。

こえると、子どもの年収が188万円になるまで親の控除が少しずつ減り、健康保険の扶養から外れれば、子どもが自分で保険料を払う番に。

大学生の財布の厚さは、パパ活か親が太いかの二択で決めるより、家賃と保険料と年金を誰が払っているかで見たほうが、ずっとよく分かります。

そう思って眺めると、迷わずドリンクを頼む学生の姿も、少しちがって見えてくるかもしれませんね。

この記事で参考にした情報

  • TBS CROSS DIG with Bloomberg「お小遣いはサラリーマン以上?『金持ち大学生』のリアルと消費の二極化」(2026年11月7日配信・ニッセイ基礎研究所 廣瀬涼)
  • 財務省「特定扶養控除の見直し・特定親族特別控除の創設等(令和7年度改正)」
  • 日本年金機構「19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります」
  • 日本年金機構「国民年金保険料の学生納付特例制度」「国民年金保険料」「厚生年金保険料額表」