2026年8月、日本の3つの地域で、よく似た形の大雨が降りました。

13日から14日にかけての千葉県。

27日の石川県と富山県。

そして30日の福井県です。

 

降った場所も、水の来かたも違います。

ただ、そこにいた人が迫られた判断は、どれも同じでした。

外へ出るか、それとも上へ上がるか

 

今回は、この3つで実際に何が起きたのかを並べたうえで、次に自分の街で同じ朝が来たときに使える判断のしかたを、わかりやすく解説していきたいと思います。

3週間で3回、同じ夏に起きた

まずは、起きた順に並べてみましょう。

 

2026年8月13日から14日|千葉県

千葉市中央区で1時間に115.0ミリ、3時間で188.5ミリ。

佐倉市も館山市も、観測史上1位を更新しました。

県内の22市町にレベル5の大雨特別警報が出て、千葉県と茨城県では最大でおよそ40万人に避難指示。

この雨で、8人の方が亡くなっています

一夜明けた街が、どうなっていたのか。

大網白里市では8か所で土砂崩れ、佐倉市では翌日になっても水が引かず、消防が排水作業を続けていました。

 

2026年8月27日|石川県・富山県

石川県羽咋市で12時間に316.0ミリ、富山県氷見市で317.0ミリ。

どちらもその地点に記録が残っているなかで、いちばん多い雨でした。

5つの市と町、あわせておよそ18万人に緊急安全確保。

 

2026年8月30日|福井県

24時間の雨量が、勝山市で350.5ミリ、坂井市の春江で314.0ミリ、福井市で233.0ミリ。

こちらもすべて観測史上1位です。

県内の9つの川で水があふれ、3つの市のおよそ24万人に緊急安全確保が出されました。

3つを並べると、あることに気づきます。

都市の真ん中、半島の付け根、内陸の盆地。

地形も、街の作りも、何ひとつ共通していません

それでも、ひと夏のあいだに3回、同じ規模の雨が落ちてきました。

亡くなった方のご冥福をお祈りするとともに、この3回から持ち帰れるものを整理しておきたいと思います。

川が近くになくても水は出る

大雨と聞いて、まず思い浮かぶのは川の氾濫ではないでしょうか。

堤防を越えて水があふれる、あの絵です。

だから川から離れた場所に住んでいる人は、どこかで自分は関係ないと思っています。

 

千葉で起きたのは、そうではありませんでした。

下水道や排水路が受け止めきれなくなった雨水が、行き場を失って地面へあふれる。

これが内水氾濫と呼ばれる現象です。

目に見える川が一本もない場所でも起きる、というところが厄介なところ。

駅前です。

それが40分で腰の近くまで来ています。

 

市川市の鬼高(おにたか)という地区では、川の氾濫は確認されていません。

それでも道路が水であふれ、暗渠(あんきょ)から水が噴き出して、動けなくなった車が10台ほど並んだそうです。

土地が低く、川の水面とほとんど同じ高さだったため、下水や排水路を通って水が逆流したとみられているとのこと。

同じ日の松戸市でも、市役所のすぐそばで道路が川のようになりました。

撮影した方はこの場所について、地盤がいちばん低くて水が集まりやすい、と書いています。

何度も市へ改善を申し入れてきたけれど、簡単ではないとのこと。

低い土地へ水が集まるのは、川があるかどうかとは別の話なんです。

ここが、川のそばに住んでいない人にとってのいちばん大事なところです。

水は、川から来るとはかぎりません

足元のマンホールから、側溝から、駐車場の排水口から、下向きに流れるはずのものが逆に出てきます。

福井で撮られた住宅街の用水路の映像も、同じ形でした。

警報が出たときには川はあふれている

次に、石川県で起きたことを時刻だけで並べてみます。

  • 午前5時06分|能登と富山に、3時間以内に線状降水帯が発生するおそれ
  • 午前5時12分|石川県へ特別警報
  • 午前5時48分|1時間およそ100ミリの猛烈な雨で、記録的短時間大雨情報
  • 午前6時20分|羽咋市など5つの市と町に、警戒レベル5の大雨特別警報

最初の予告から、市の名前が読み上げられるまで74分。

そして、その74分後に警報が出たときには、6時間ぶんの雨がもう落ちきったあと。

 

さらに、あとから分かったことがあります。

羽咋市内を流れる飯山川では、午前5時10分ごろに水が堤防の高さを超えていました。

市の名前が読み上げられたときには、川はもうあふれたあとだったことになります。

その一部始終を、羽咋市の防犯カメラがとらえていました。

午前5時半の時点では、車がふつうに走っています。

道路に水はまだありません。

レベル5が出る50分前の景色です。

 

ここで、警戒レベルの中身も押さえておきましょう。

レベル3が「高齢者等避難」、レベル4が「避難指示」です。

避難所へ移動してください、と言えるのはレベル4まで。

そしてレベル5には、緊急安全確保という名前がついています。

移動しなさい、とは書かれていません。

いまいる場所で、命を守るために最善の行動をとってください、という段階です。

言い方を変えると、レベル5はもう「避難所へ行け」と言っていません

 

誤解しないでいただきたいのですが、これは気象庁が怠けていたという話ではありません。

線状降水帯は、いまの技術でも発生する場所と時刻を正確に当てるのが難しい現象だとされています。

だからこそ「3時間以内に発生するおそれ」という、幅を持たせた形の情報が先に出る仕組みになっているわけです。

そのうえで、受け取っておきたいことが一つ。

警報は、動きはじめる合図のように見えます。

けれど実際には、危険がもう形になったことの確認として、あとから出てくる

市町村の名前が読み上げられるのを待っていると、判断の時間だけが先に消えていきます。

では、何を合図にすればいいのか。

答えは、警報より手前にある情報です。

  • 線状降水帯が発生するおそれ、という予告の段階
  • 記録的短時間大雨情報が出た段階
  • そして、自分の家の外で実際に起きていること

とくに三つ目が強い。

用水路の水位、道路にたまりはじめた水、雨音の変わり方

気象庁のデータより先に、そこにいる人の目のほうが早いことがあります。

避難所へ向かうほうが危ない朝がある

こういうニュースを見ると、まず頭に浮かぶことがありますよね。

どうして早く避難所に行かないのか。

責める気持ちからではなく、心配だからこその疑問。

 

ただ、水があふれはじめた朝に自分がそこへ立っていたと考えると、話がずいぶん変わってきます。

まず、雨そのものが視界を奪う。

線状降水帯の下では、明るい時間でも景色が白く沈んで、道の形が分からなくなる。

次に、足元。

道路が冠水すると、アスファルトも側溝もマンホールも、ぜんぶ同じ一枚の水面になります。

ふたが開いた側溝も、水の下に入れば見えません

 

そして、いちばん引っかかるのがここです。

大雨のときに水があふれるのは、たいてい川や用水路のまわりから。

その川があふれているのに、川のそばを通って避難所へ向かう。

文字にしてみると、おかしさがすぐに分かります

実際、2026年8月27日の石川県で、同じ結論にたどり着いた人がいました。

目が覚めたときには、すぐそばの川がもうあふれていたそうです。

だから外へは出ない、というのがこの人の判断でした。

 

そこで出てくるのが、垂直避難という言葉です。

避難には、大きく分けて2つの形があります。

  • 立ち退き避難=家を離れて、指定された避難所や親戚の家など、安全な場所へ移動する
  • 屋内安全確保=建物の中に留まったまま、2階や3階など高いところへ上がって水をやり過ごす

後者が、いわゆる垂直避難。

 

大事なのは、垂直避難が「逃げ遅れた人の妥協案」ではないという点なんです。

外へ出るほうが危ないと判断したときに選ぶ、正規の避難行動として位置づけられています。

国が示している避難のガイドラインでも、立ち退き避難のほうが危険な場合の行動として、この屋内安全確保がはっきり書き込まれているとのこと。

避難という言葉を聞くと、体育館のブルーシートの上に座っている絵が浮かびますが、あれは2つあるうちの片方でしかありません。

 

福井県では30日、14万世帯およそ34万人に避難指示が出て、避難所が95か所開かれました。

数だけ見れば、受け入れる場所は用意されています。

けれど、その全員に避難所まで歩いていける道が残っていたわけではないんです

福井県内から、こんな投稿も届いていました。

中部縦貫道も、鮎街道も、勝山街道も冠水。

どこにも行けない、という一言がすべてを言っています。

2階へ上がる前に確かめる3つのこと

ここまで読んで、じゃあ2階に上がればいいのか、と思った人もいるかもしれません。

ところが垂直避難は、どこの家でも成立するわけではないんです。

成り立つかどうかは、3つの条件で決まります。

  • 一つ目、自宅の想定浸水深が、上がれる階の高さに収まっているか
  • 二つ目、その建物が、流れに押されても崩れない造りか
  • 三つ目、土砂災害の警戒区域に入っていないか

 

一つ目から見ていきましょう。

市町村が公開している洪水ハザードマップには、その場所が何メートルまで浸かる想定なのかが、色分けで書かれています。

自治体によって「洪水避難地図」など呼び名が違うこともありますが、中身は同じもの。

ここで見るのは、色そのものではなく数字のほうです。

想定が3メートルを超える区域だと、2階の床は水面より下。

そこへ上がっても、水はあとから追いかけてきます

自分の住まいが川の中に沈む朝が来ると思って眠った人は、たぶん一人もいません。

水の深さは、こういう形でも分かります。

重機の運転席が隠れるほどの水位です。

ここまで来る場所なら、平屋の屋根はもう水の下ということになります。

 

二つ目。

木造の平屋や、川のすぐそばに建っている古い建物は、水位が上がりきる前に、流れの力そのもので壊れてしまうことがあります。

垂直避難は「建物が残っている」ことを前提にした行動です。

前提が崩れる場所では、そもそも選択肢に入りません。

 

三つ目。

これがいちばん見落とされます。

土砂災害の警戒区域では、垂直避難という考え方が通用しません。

水は下から来ますが、土砂は横から来るからです。

しかも山側の壁を突き破って入ってくるので、2階に上がったことが、かえってあだになる場合もあるとされています。

この場合に基本とされているのは、上ではなく山から離れた側の部屋へ移ること

2026年8月の大雨でも、富山県氷見市と福井県内の両方で、山ぎわの土砂が崩れて道路をふさぎました。

 

そして、この3つには共通点があります。

どれ一つとして、雨が降りはじめてから調べられるものがありません

ハザードマップを開いて自分の家の色と数字を見るのに、かかる時間は5分ほど。

晴れている日に一度だけ見ておけば、いざという朝は「上がる」か「出る」かを決めるだけで済むわけです。

大雨の日にやってはいけないこと

最後に、雨が降っているあいだの話をしておきます。

防災の資料で繰り返し挙げられているのは、次の6つです。

 

1|外へ出ない

基本は、建物の中で通り過ぎるのを待つこと。

とくに危ないのが、川や用水路の様子を見に行く行動です。

屋根の補修も、雨が降る前に済ませておくものとされています。

 

2|地下から地上へ、地上からより高い場所へ

地下にいると、外の雨がどうなっているのか分かりません。

そして地上が冠水すると、階段や入口から一気に水が流れ込んできます

地上へ出たあとも、指定された避難所より近くの2階以上のほうが安全なことも。

 

3|エレベーターを使わない

送電線が切れて停電することがあります。

2026年8月27日の富山県氷見市では、およそ1700戸が停電しました。

 

4|川や用水路のそばに近づかない

増水しているときは、ふたが外れた側溝に気づかず流されて亡くなる事故が、過去に起きました。

これは冠水した道を歩くときの話でもあります。

マンホールのふたが浮き上がっている、という一文が怖いところです。

水面から下は、歩いている本人にはまったく見えません。

 

5|アンダーパスに入らない

短い時間に強い雨が降ると、排水が追いつかずあっという間に水がたまります。

取り残された車の中で亡くなる事故も起きているので、迂回するのが正解。

千葉でも福井でも、冠水した道で動けなくなった車が並びました。

水に入ってしまうと、エンジンが止まり、水圧でドアも開かなくなります。

 

6|急な斜面に近づかない

土砂災害警戒情報が出たら、すぐに離れること。

斜面から小石が落ちてくる、湧き水がにごる、といった前ぶれが見えた場合も同じです。

6つとも、言われてみれば当たり前に見えます。

ただ、どれも「見に行きたくなる」「通り抜けたくなる」場面ばかりだというところが厄介なんです。

その日の判断を、雨音を聞きながら初めて考えるのは、かなり分が悪い話。

次に降るのはどこか誰にも分からない

千葉の豪雨のあと、こんな投稿を出した自治体があります。

千葉から1000キロ以上離れた札幌市が、よその県の水害を見て、自分の市の想定を確かめてくださいと呼びかけました。

 

災害の記憶には、こわいところがあります。

前のときにうちは大丈夫だったから、という感覚。

あれは経験から来ているぶん、なかなか手放せません。

けれど雨雲は、前回どこに降ったかとは無関係に、その日の風にのって列をつくる。

水蒸気の流れ込む道筋が変われば、列のできる場所も変わるとされています。

去年の実績も、2年前の被害も、そこには入っていません。

だから「前は無事だった」は、次の朝の安全を何ひとつ保証してくれないというわけです。

 

避難所へ行かないという判断は、逃げ遅れでも、横着でもありません。

その場でできる、いちばん確かな避難になることがあるという話です。

 

大雨の日に選べる道は、そんなに多くありません。

外へ出るか、上へ上がるか。

その二択を、雨の音を聞きながら初めて考えるのか、それとももう決めてあるのか。

違いはそこだけです。

 

2026年の夏は、3週間のあいだに3回、その二択を突きつけました。

次にどこで降るのかは、まだ誰にも分かりません。

だからこそ、雨の降っていない今日のうちに、家族と一言だけ決めておきたいですね。