そのうち調査が入るんじゃないか。

ネットで誰かが強く言われているとき、この一言をよく見かけます。

ただ、その調査が具体的に何をされることなのかは、たいてい説明されません。

 

警察なのか、それとも役所なのか。

何を調べて、その先に何が待っているのでしょうか。

調べる側ごとに、見ている場所はまったく違っています

1週間の配信が終わった直後に出た一言

2026年9月17日、1週間にわたって続いていた生配信が終わりました。

ショートスリーパーを名乗る堀大輔さんが、その暮らしぶりを流し続けた企画です。

その終わりぎわに出たという一言が、ネットで広がっています。

「ちょっと暗い話題なんですけど、これから警察や政府からあらゆる調査が入ると思います」

まとめのポストで書き起こされているのは、この形でした。

 

今回の話の出どころは、いまのところ本人の口だけです。

警察も役所も、この件について何かを発表してはいません。

実際に調査が始まっているのかどうかも、外からは確かめようがない状態が続いています。

 

リプ欄に並んでいたのも、じつは怒りだけではありませんでした。

「ありとあらゆる調査ってなんだ」

「政府というか消費者庁のことを言いたいんやろうね」

「なんで暗い話題なん? 身の潔白を証明する良い機会だろ」

言葉だけが大きくて、中身が誰にも見えていません

そういう戸惑いのほうが並んでいました。

警察と役所は同じところを見ていない

警察や政府、とひとくくりに言われています。

ただこの二つは、そもそも別のものを見る場所なんです。

 

まず警察のほうから。

商売をめぐって警察が動くとしたら、いちばん近いのは刑法246条の詐欺罪になります。

人を欺いて、お金や物を渡させた場合の罪です。

 

ここで壁になるのが、最初から騙すつもりだったのかどうか。

本人が本気で信じていたのなら、嘘にはなりません

そしてその内心を証明するのは、訴える側の仕事になります。

詐欺の立件は難しいとよく言われますが、理由はこの一点でしょう。

人の頭の中を、外から証明しなければいけないからです。

いっぽうの役所は、まったく別のところを見ています。

ここでいう政府は、実際には消費者庁のことを指している場合がほとんどでしょう。

消費者庁が見るのは、その人が何を信じているかではありません

売り物について、どんな広告を出したのか。

見るのは、そこだけになります。

嘘だと証明するのはこちらではない

消費者庁が使う道具は、景品表示法という法律です。

広告の書き方を決めた法律で、正式には不当景品類及び不当表示防止法といいます。

その5条1号で禁じられているのが、優良誤認表示と呼ばれるもの。

実際のものよりも、いちじるしく良いと思わせる表示のことです。

効果や性能を大きく見せる広告は、だいたいここに当たります。

 

第7条第2項の中身は、こうです。

消費者庁は、その表示をした事業者に対して、期間を定めて、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。

提出できなければ、その表示は不当表示とみなされます

 

期間として定められているのは、運用指針によれば原則15日以内です。

正当な理由があれば延ばしてもらえますが、基本は2週間ほどしかありません。

不実証広告規制と呼ばれている仕組みです。

 

詐欺罪では、騙すつもりだったことを訴える側が証明しなければいけません。

景品表示法では、それが逆になります。

本当ですと証明するのは、広告を出した側の仕事です。

 

リプ欄に、こう書いている人がいました。

「身の潔白を証明する良い機会だろ」

偶然ですが、制度の側はまさにそれを求める作りになっています。

言い合うのではなく、資料を出してください、と。

資料を出せば通るというわけでもない

ただし、何か紙を出せばそれで済む、という話でもありません。

運用指針は、合理的な根拠と認められるための条件を2つ挙げています。

  • 提出された資料が、客観的に実証された内容のものであること
  • 表示された効果や性能と、資料で実証された内容とが、きちんと対応していること

ひとつめは、感想や体験談をいくら積んでも足りない、ということです。

うまくいった人の声を100件集めても、実証にはなりません

 

ふたつめが、案外つまずきやすいところでしょう。

実験のデータそのものは本物でも、広告に書いてある効果とずれていれば、対応していないことになります。

一部の人に出た結果を、全員に出るかのように書いた場合も同じです。

 

実際に使われた例も出ています。

消費者庁は2026年3月、尿失禁対策用の下着について、合理的な根拠なく一定量まで漏れ出さない効果が得られるかのように示した表示が優良誤認に当たると公表しました。

販売事業者2社に出されたのは、その表示をやめるよう命じる措置命令です。

この「合理的な根拠なく」という一言が、いまの仕組みが動いたあとに残る跡になります。

書いてある効果に対して、裏づけがそろわなかったということです。

公表文のあの短い一行が意味しているのは、そこでした。

役所が見るのは売り物の広告だけ

この法律が届く範囲は、決まっています。

対象になるのは、自己の供給する商品又は役務の取引についての表示。

自分が売っているものについての広告、ということですね。

 

だから、配信でしゃべった内容そのものを役所が採点するわけではありません。

リプ欄に「政府が虚言癖を調査するというのも滑稽ですね」と書いている人がいましたが、そこはそのとおりで、役所は人の性格を調べる場所ではないんです。

同じ数字でも、体験談と広告とでは届く先が変わります

線が引かれているのは、売っているかどうかのところです。

 

2023年10月1日から、ステルスマーケティングも景品表示法の対象に入りました。

事業者が自分の商品について出している表示なのに、それが事業者の表示だと一般の人には分かりにくいもの。

知り合いの感想に見えても、売っている側が関わっていれば、そこは表示として扱われます。

誰が言ったかではなく、誰が関わっているかで見られる形です。

ここは今回にかぎらず、広告を見るときの目安になります。

重い罰にはならないのか

では、仮に表示が不当だと判断されたとして、そのあとはどうなるのでしょうか。

リプ欄には「そこまで重い罰にはならんやろうから腹立つ」という声も出ていました。

景品表示法が用意しているのは、次の4つです。

  • 措置命令=その表示をやめること、二度と繰り返さないこと、消費者に知らせることなどを命じられる
  • 措置命令に従わなかった場合=2年以下の拘禁刑(刑務所に入る刑)または300万円以下の罰金
  • 課徴金=対象期間の売上額の3パーセント。過去10年以内に同じ命令を受けていれば4.5パーセント
  • 直罰=2024年10月1日に施行された改正で新しく入ったもので、優良誤認と有利誤認そのものに100万円以下の罰金

罰金の額だけを見ると、たしかに軽く見えるかもしれません。

ただ、課徴金のほうは売上に比例して動きます。

たくさん売っていた人ほど、金額は大きくなる作りです。

 

もうひとつ、確約手続という制度も2024年から入りました。

違反の疑いを指摘された事業者が、自分で直す計画を出して認定されると、措置命令も課徴金も免除されます。

悪い人を懲らしめるというより、直させるほうを優先した設計になっているわけです。

 

「そこまで重い罰にはならん」という感想は、この作りを見るかぎり半分は当たっています。

ここに置かれているのは罰というより、蛇口を閉めるための手続きなので。

7条1項に置かれているのは、こういう定めです。

措置命令は、違反行為がすでになくなっている場合でも出せます

指摘されてから広告をあわてて消しても、それで話が終わるとはかぎりません。

消したかどうかより、見られるのは消す前に何を書いていたかです。

処分が出るまで外からは何も見えない

措置命令は、出されると消費者庁のサイトで公表されます。

会社の名前も、どの表示のどこが問題だったのかも、そこに並ぶ形です。

どれくらい出ているものなのかも、数字で公表されています。

令和7年度に消費者庁が出した措置命令は、13事業者に対して13件でした。

内訳は、優良誤認が3件、有利誤認が8件、原産国についてのものが2件です。

1年でこの数ですから、めったに出ない処分だと分かります

 

裏を返すと、調べている途中では何も出てきません。

資料を求めている最中も、確かめている最中も同じです。

外からは、ずっと静かなままになります。

 

だから、調査が入っているかどうかを外から見分ける方法は、基本的にありません。

今回の件についていろいろな説が流れているのも、そこに理由があります。

分かるのは、公表されたときになってからです。

 

そして公表された措置命令は、消費者庁のサイトにそのまま残ります。

年度ごとの一覧になっていて、過去に命令を受けた会社の名前も、そこから探せる形です。

高い買い物の前に、売っている会社の名前で一度のぞいてみる

それだけで見えてくることも、けっこうあります。

調べられてもお金は戻ってこない

課徴金は、国に納めるお金です。

その商品を買った人のところへ、分けて配られるわけではありません。

 

ただし、10条に返金措置という仕組みがあります。

事業者が買った人へ自主的に返金すると、その分だけ課徴金が減る形です。

返金は義務ではなくて、返したほうが得になる形で置かれているんですね。

 

つまり、調査が入って処分が出たとしても、それだけで自動的にお金が戻ってくるわけではありません。

買った側が自分で動く必要は、やっぱり残ります。

支払いについて困っている場合は、局番なしの188、消費者ホットラインが相談の入口です。

 

広告そのものが気になったときの窓口も、いちおう用意されています。

消費者庁には景品表示法違反の情報提供フォームがあって、誰でも情報を送れる形になっているんです。

ただし、そのページにはこうも書いてあります。

御提供いただいた情報に基づく措置結果や調査経過については、お答えしておりません。

送ったあとがどうなったかは、返ってこない作りです。

 

消費者庁は2026年9月1日に、悪質商法への対策パッケージを公表しています。

きっかけになる情報を分析して、早期の警戒情報を出したり、行政処分や関係機関への情報提供を行っていく、という内容でした。

送られた情報そのものは、そこで使われていく形ですね。

 

そして、買う前にできることもひとつだけあります。

数字を見せられて迷ったときに、その数字の根拠になる資料はありますか、と聞いてみること。

制度が15日で出せと求めているのと、同じものです。

そこで何も出てこないなら、急いで用意できないという話ではなくて、たぶん最初から無いということになります。

 

この1週間、ずっと繰り返されてきたのは、本当かどうかの言い合いでした。

でも制度の側は、本当かどうかを言い合いません。

根拠になる紙を出してください、とだけ言います

言い合いが終わらなかったのは、誰も紙を求めていなかったからなのかもしれません。

決着をつけるのは、たぶん言葉の強さではなくて、その紙一枚のほうなんですよね。