デパートの化粧品売り場には、当たりの日と外れの日があります。

同じブランドのカウンターなのに、行くたびに空気が違う。

肌をじっくり見てもらえた日もあれば、目も合わせてもらえないまま終わった日もあって、そのたびに「こちらの何がいけなかったんだろう」と考えてしまう。

 

2026年9月18日の夜、まさにその話がネットで大きく広がりました。

プレゼント用に買うものを2つで迷っていたら、店員さんに家で迷ってはどうかと返された、という投稿です。

94万回以上読まれて、返信欄は真っ二つに割れました

 

その当たり外れが、いったいどこから出てくるのか。

調べてみたら、接客のうまさとは別のところに理由がありました。

「お家で迷ったら」と言われた投稿が94万回読まれるまで

投稿されたのは、2026年9月18日の午後9時半すぎ。

プレゼント用に買いに行って、2つで迷っていたところ、店員さんから「お家で迷ったらいいんじゃないですか〜?」と返された、という短い文章です。

最後は「大量購入の客しかいらないのね、ハイハイ」という一文で結ばれていました。

9月19日の時点で、表示は94万回を超えています。

 

投稿には百貨店の名前とブランド名が挙がっていますが、その一部は投稿した人自身が伏せ字にしていました。

投稿した人が伏せたところを、こちらで開く理由もありません。

確かめられるのは、この投稿にどんな声が集まったか。

それと、デパートの化粧品売り場がどういう仕組みで回っているか。

その2つだけです。

 

返信欄はすぐに埋まりました。

温度がいちばん高かったのは、店員さんへの怒りです。

  • 「ただの販売員のくせにな」
  • 「ただブランドの商品を売ってるだけなのに自分凄って勘違いしてるだけ気がつかないかなぁ」
  • 「自分の給料じゃ買えないくせに偉そうだよね」

もうひとつ、まったく別の流れもありました。

自分も同じ思いをした、という報告です。

  • 「伊勢丹は昔よりDiorに限らず態度が悪いよね Tiffanyでも嫌な思いしたからもうここでは買わない」
  • 「デパートの美容部員の中でも高飛車で有名ですね… 他ブランドからも嫌われてる様でした」
  • 「ラグジュアリーブランドの店員は香水、アクセサリー、財布あたりの小物を見に来る客のこと、自分たちの成果に繋がらないからとことん見さげてる。なんなら接客しないがデフォ」

そして、この投稿を引用した側には、正反対の声も並んでいました。

  • 「ハイブラたまに行くけどそんな人1人も当たったことないな みんな丁寧な接客してくれる」
  • 「CHANELは迷ってる時に一緒迷ってくれる」
  • 「個人の体感なんだけど、都会の百貨店より地方の小さめの百貨店の方が優しい人がいる印象」

同じブランド、同じ業界の話をしているのに、受けた体験がまるで違う。

ひっかかった人がいちばん多かったのは、この温度差ではなく当たり外れのほうでした。

気のせいだと思っていた人が、これだけいた

売り場で感じた居心地の悪さは、その場では誰にも言えません。

言ったところで「考えすぎだよ」で終わりそうですし、証拠も残らないまま。

だから多くの人が、気のせいということにして帰ります。

 

ところが同じ時期のネットを見にいくと、同じ話が毎日のように流れていました。

  • 「デパコス買う時、接客ありきで購入が普通かと思うけど あの、見た目で判断されてる感じ本当に苦手なのよね、、、」
  • 「デパコス買いに行ったら雑に接客されるほどお金持ってなさそう(実際金無い)な見た目してる芋なので…気まずいのよ」
  • 「超絶陰キャで、話しかけられたり接客されるの無理すぎてデパコス買えないんだけど、いつかチャレンジはしたいんだよね!」

この3つに共通しているのは、怒りではありません。

自分のほうを責める言葉です。

お金がなさそうに見えるから、地味な格好だから、緊張してうまく話せないから。

そうやって理由を自分の側に探して、行くのをやめてしまう。

 

化粧品を買いに行くのに、ふさわしい服装や持ち物の決まりはありません。

迷うのも、見るだけで帰るのも、客がしていいことです。

居心地の悪さを感じたとき、それは感じ方が細かすぎるのではなく、そういう場面が実際に起きているということ。

 

その証拠になりそうな動きが、今年に入ってひとつありました。

『デパコスカウンターは今日も修羅場です 〜BA下剋上物語〜』という漫画が、2026年2月24日にKADOKAWAから出ています。

BAというのは、化粧品売り場に立つ美容部員のことです。

作者はユキミさん。

売上トップの美容部員が、地味な格好の客には一切笑わないところから始まって、ブランド物を持った客が来たとたんに態度が変わる、という作品です。

 

この作品を紹介したレタスクラブの記事(2026年9月4日配信)には、こう書かれていました。

「デパコスのカウンターに行くのが怖い」「BA(ビューティーアドバイザー=美容部員)さんに塩対応された」SNSで定期的に話題になるデパートのコスメ売り場での接客格差。

出典:レタスクラブ(2026年9月4日配信)

定期的に話題になる、と媒体のほうが書いています

つまり今回の投稿は、初めて起きたことではありませんでした。

同じ記事には、作者のユキミさんの言葉も載っています。

取材前に「こんなこともあったりする?」という素人目線で妄想していたことが、リアルにあるとBA経験者に聞いて驚きました。

出典:レタスクラブ(2026年9月4日配信)

漫画そのものは作り話ですし、これで「どこの店でもそうです」と言えるわけでもありません。

それでも、実際に働いていた人に取材した結果として、こういう話が出てきました。

気のせいということにして帰ってきた人にとっては、それだけでも受け取るものがあります

あのカウンターの人は百貨店の社員ではなかった

返信欄には「伊勢丹に苦情を言って」という声もありました。

売り場が百貨店の中にあるのだから、言う相手は百貨店。

そう思っていたのですが、実際の仕組みは少し違いました。

 

厚生労働省が出している職業情報提供サイト「job tag」に、化粧品販売と美容部員という職業のページがあります。

そこに書かれている説明が、これです。

化粧品販売会社からデパートやスーパー、小売店、ドラッグストア等に配置され、店頭で化粧法やスキンケアのための商品アドバイスや販売を行う。美容部員ともいう。

出典:厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「化粧品販売/美容部員」

配置される、と書いてあります。

デパートに雇われているのではなく、化粧品の会社から送り出されて、その売り場に立っているという形。

国の資料が説明しているのは、そういう働き方でした。

 

もっとはっきりするのが、ブランド側の採用ページです。

今回名前の挙がったブランドも、日本法人が自社サイトの中に「ビューティー コンサルタント採用」というページを持っていて、全国の百貨店で働く人をそこから募集しています。

募集しているのはブランドで、百貨店ではありませんでした。

 

もっとも、美容部員の働き方はひと通りではありません。

化粧品会社の社員として売り場に立つ人、百貨店の社員として立つ人、専門店やドラッグストアに勤める人、派遣の登録を通じてブランドに配属される人。

少なくともこれだけの入り口があります。

 

やっかいなのは、客の側からはどれなのか見分けがつきません。

同じフロアで、同じように制服を着て、同じレジを使っているところ。

それでも、販売員に給料を払う会社と、販売員を育てた会社は、カウンターごとに違っていることがあります。

仕事の中身を見たら、まるで逆のことが書いてある

同じjob tagのページを開くと、この職業に含まれる仕事が17個、それぞれ何割の人が実際にやっているかという数字つきで並んでいました。

上から順に見ていくと、あの一言との差がはっきり出てきます。

  • お客の相談にのり、アドバイスをし、商品を選んで勧める 94.2%
  • お客に対し、商品の使用法を実演する 92.3%
  • お客に商品の使用法やメイクの仕方を説明する 90.4%
  • サンプルを渡し、製品の特徴や使用法を説明する 90.4%
  • 来店したお客の肌の状態を測定するために測定器を操作する 76.9%

いちばん多くの人がやっている仕事は、相談にのって、選んで、勧めることです。

迷っている客を前にしたときにすることが、この職業の中心に置かれています。

「お家で迷ったら」は、その中心からいちばん遠い返事でした。

 

もうひとつ目を引いたのが、サンプルの項目です。

9割の人が、サンプルを渡して特徴と使い方を説明しています。

2つで迷ったときに本来渡されるはずだったのは、たぶんこれでした。

家で迷うにしても、手ぶらで帰されるのと、両方の小瓶を持って帰るのとでは、まるで話が違います。

 

同じページには、この仕事の意味についてもひとこと添えられていました。

たくさんある化粧品の中から、自分の肌にあったものを選ぶことは簡単ではないため、「自分の肌に合った化粧品を選びたい、じっくり化粧品に関する悩みを相談したい」という人も多く、的確なアドバイスができることが大切である。

出典:厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「化粧品販売/美容部員」

じっくり相談したい人が多い、と国の資料のほうが書いています。

売り場の前で「こんなに迷って迷惑じゃないかな」と縮こまる必要は、もともと無かったわけです。

それでも当たり外れが出てしまうところ

では、なぜ実際には差が出るのでしょうか。

同じjob tagの説明には、もう一文あります。

また、定期的に化粧品販売会社の支社等に出社し、営業担当とプロモーション(商品をPRするための様々な催事)の打ち合わせをしたり、活動状況の報告を行う。

出典:厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「化粧品販売/美容部員」

報告に行く先も、百貨店ではなく化粧品会社のほうでした。

教育についても同じで、入社後に基礎知識や実技の訓練を受け、社内の勉強会や会社独自の資格で専門性を高めていく、と説明されています。

 

つまり、その人が何を大事に接客するかを決めているのは、売り場のある建物ではありません。

ブランドごとの教育と、ブランドごとの評価です。

 

雇い主と報告先が見えてくると、返信欄にあった声の並び方も違って見えてきました。

「CHANELは迷ってる時に一緒迷ってくれる」「デパコスでいつ行っても接客に外れないのはRMKだけ」といった書き込みは、店の良し悪しではなく、ブランドごとの違いを言っていたことになります。

同じ建物の中の、隣のカウンターとの差。

だから「あの百貨店は」ではなく「あのブランドは」という形で、体験談が集まっていました。

 

売上の話になると、断定できるものがありません。

あの漫画は売上至上主義の売り場を描いていますし、返信欄にも「成果に繋がらないから」という見方がありました。

ただ、どのブランドがどんな目標をスタッフに持たせているかは、外からは確かめられません。

こちらで言えるのは、評価する人が百貨店ではなくブランドの側にいる、というところまで。

それでも、この一点が分かるだけで、次の行き先が変わってきます。

嫌な思いをしたとき、言う相手は二つある

嫌な思いをしたあと、もう行かないと決めてしまうのがいちばん簡単でした。

実際、返信欄でも「もうここでは買わない」という声が並んでいます。

ただ、その選択だと、次に同じ売り場に立つ誰かも同じ思いをすることになりました。

 

伝える先は、二つ。

 

ひとつめが、ブランドの本体です。

その人に給料を払い、教育をして、報告を受けているのがブランドなので、いちばん届く先もここでした。

探し方はどのブランドでもだいたい同じで、公式サイトをいちばん下までスクロールすると「お問い合わせ」という小さなリンクが並んでいます。

今回の投稿に出てきたブランドも、そこにフレグランスとビューティー専用の問い合わせ窓口があって、電話とメールフォームの両方が用意されていました。

 

ふたつめが、百貨店のお客様窓口です。

その人を直接指導する立場ではないにしても、売り場を貸している側として、話を通すことはできます。

どのフロアの、どのカウンターで、いつ、何を言われたか。

この4つが揃っていれば、それだけで十分伝わります。

 

どちらに言うかで、届く場所が変わる。

建物に言うか、その人を送り出した会社に言うか。

今回のように、投稿が広がってから初めて「そういえばどこに言えばよかったんだろう」となる前に、ここだけ覚えておくと迷わずに済みます。

次に行くときに持っていける三つのこと

ひとつめ。

迷っていることは、そのまま口に出していい

9割以上の人が「相談にのり、選んで勧める」を仕事としてやっている、という数字がありました。

2つで迷っていますと言うのは、わがままではなく、いちばん多く行われている接客の入り口です。

 

ふたつめ。

決められないときは、サンプルを頼んでみる

これも9割の人が業務として渡しているものなので、聞くこと自体はまったく普通のお願いです。

用意が無いと言われることもありますが、そのときも「無かった」という事実が残るだけで、こちらが変なことを言ったわけではありません。

 

みっつめ。

どうしても気が重い日は、公式のオンラインという道があります

話に出てきたブランドの公式サイトも、送料無料で、すべての配送にサンプルを付けると書いてありました。

カウンターでしか手に入らないものがある一方で、色や香りがもう決まっているなら、家で受け取るほうが気持ちの楽な日もあります。

 

行くたびに空気が違うのは、こちらの服装のせいでも、金額のせいでもありませんでした。

その人を送り出した会社が、カウンターごとに違っていただけのこと。

次に売り場の前で足が止まったら、「2つで迷っているんです」と言ってみてくださいね。