「想像通り地獄でした」

2026年9月11日の夕方、堀大輔がXにそう書き込みました。

1日30分の睡眠で17年暮らしてきた、と公言してきた人です。

その本人が、7日間の生配信を始めてまだ2日目に、地獄という言葉を使っていて。

 

配信を見ている人たちからは、呂律が回っていない、顔つきが普段と違う、そろそろ限界ではないか、という声が出はじめました。

今回は、この配信でいま何が起きているのかと、人は何時間起きていると体が壊れはじめるのかを、あわせて整理していきたいと思います。

2日目の様子に心配の声が並んだ

まずは、いま何が起きているところなのかを押さえておきましょう。

堀大輔は、一般社団法人日本ショートスリーパー育成協会の代表理事。

1日30分の睡眠で暮らしている、と長く語ってきた人物です。

その主張を疑う声に応える形で、2026年9月9日の20時から、24時間つけっぱなしの生配信が始まりました。

終わりは9月16日の予定。

まるまる7日間、カメラを止めずに日常を見せる、という企画になります。

 

そもそも、この大がかりな企画にはきっかけがありました。

1日30分という睡眠時間を疑う声が、本人には長く付いて回っていたそうです。

その疑いを晴らすために1週間ライブ配信をやってはどうか、という案が出てきたと報じられています。

つまり、自分からやりたいと言い出したというより、この配信は疑いに答える形で組まれたもの。

だから本人としても、途中でやめるという選択が取りにくい作りになっています。

 

ところが、始まって間もない9月10日、ヘッドマッサージを受けている最中に眠ってしまう場面が、そのまま配信に乗ってしまいました。

本人はあれを「マイクロスリープ」だと説明したと報じられています。

日中に数秒から数分だけ起きる、短い眠りのことです。

そして9月11日の夜。

配信を見ていた人たちの投稿に、それまでとは違う言葉が混ざりはじめます。

  • 呂律が回っていない
  • 顔が普段とは全然違うくらい疲れている
  • 目が充血している

「謝って8時間寝ればいいのに」と書いている人もいました。

「もう目がヤバすぎるだろ」「ほんとに死んじゃいそう」と書いた人もいます。

初日はネタとして笑っていた空気が、この日の夜から心配の側へ傾いていきました。

本人のアカウントには、その朝の投稿がそのまま残っています。

一睡もせず。

1日30分を証明するための配信で、その30分すら取らなかった夜がある、ということになりますよね。

本人が書いた地獄という一言

時間を少し戻して、同じ11日の夕方のこと。

筋トレのコラボ相手から「1週間寝ずに追い込み筋トレコラボお疲れ様」とねぎらわれた、その返信でした。

想像通り地獄でした、と。

ここで多くの人が引っかかったはずなんですよね。

 

だってこの配信は、特別なことに挑む企画ではなかったはずなので。

1日30分で暮らしている人が、いつもどおりの1週間をカメラの前で過ごす。

それだけの話として始まりました。

いつもどおりの生活が、2日で地獄になるものでしょうか。

 

Xにも、そこを突いた声が並びます。

  • いつも通り過ごしてるはずなのに2日目でもうバッキバキで笑う
  • そもそもチャレンジになってるのが面白い
  • 17年間続けてるくせに2日で限界とか面白いですねえ

どれも意地の悪い言い方ではありますが、指しているところは同じ。

日常に、耐えるという言葉はふつう出てこないもので。

証明が我慢大会に変わっている

ここが、この騒動のいちばん興味深いところ。

この7日間は、1日30分でも平気な人が実在することを証明するための時間でした。

ところが実際にカメラが記録しているのは、正反対のものになりつつあります。

人は眠らないとこうなる、という資料のほうが撮れているんです。

 

呂律、目の充血、顔色、そして本人が口にした地獄という言葉。

どれも「30分で足りている」の証拠にはなりません。

むしろ4つとも、「足りていない」の側にきれいに並びます。

2日目までに集まった映像を、誰かが睡眠不足の教材に使いたいと言い出したら、たぶんそのまま使えてしまう。

証明のために回したカメラが、反証のほうを撮っている状態です。

 

配信のタイトルにも、それが出ています。

本人が告知に付けているのは「1日目12時間〜」「2日目36時間〜」といった形。

日常を見せる企画のはずなのに、数えているのは経過時間のほうなんですよね。

何時間もったか、という数え方は、ふつう耐久企画のものです。

 

見ている側にも、そこへ寄った冗談が流れています。

「7日間耐えきった時に、普段から30分睡眠なんだからもう1日くらい、いいよねって延長させて絶望させたい」

こんな冗談まで流れていました。

延長という発想が出た時点で、もう証明の話ではなくなっているんですよね。

 

もちろん、これだけで本人を嘘つきと決めつけるのは乱暴でしょう。

カメラを向けられ、人に囲まれ、休みなく話し続ける1週間は、普段の生活とは別物のはず。

本人にとっては、睡眠時間より配信そのもののほうが負担かもしれません。

ただ、その別物ぶんまで含めて日常を見せると約束したのが、この企画でもあって。

 

そして、証明が我慢大会に変わってしまうと、いちばん困るのは本人なんですよね。

どこまでやれば終わりなのかを、見ている側が決めはじめるので。

見ている側の関心はもう、本当に30分なのかではなく、あと何日もつのか、のほうへ移りつつあります。

眠らないと体はどこから壊れるか

そもそも人は、何時間くらい起きていると体が壊れはじめるのでしょうか。

 

最初に動くのは、自律神経のうちの交感神経だと説明されています。

交感神経というのは、体を戦う側・動く側へ切り替えるスイッチのようなもの。

反対に、体をゆるめて休ませる側が副交感神経です。

医療機関の解説では、睡眠が足りない日は交感神経の働きが高まって、血管が縮み、心拍数と血圧が上がるとされています。

コルチゾールやアドレナリンといったストレスホルモンの分泌も増えるのだそうです。

つまり、休んでいるどころか、寝ていない体はアクセルを踏みっぱなしの状態になります。

 

配信を見ていた人の中には、心拍数が普段より上がっていると本人が話していた、と書いている人もいました。

もしそうなら、体が元気に回っているサインではなく、休めていないサインのほうに近いことになります。

 

そしてもうひとつ、眠らない体には有名な目安があるんです。

睡眠研究者の解説によると、朝起きてから17時間ほど起き続けたころに、作業能力や判断力はがくんと落ちるとのこと。

17時間起き続けた頭は、血中アルコール濃度0.05%と同じ程度。

日本の酒気帯び運転の基準は、0.03%以上。

さらに24時間起き続けると、0.1%に相当するところまで落ちると説明されています。

完徹明けの頭は、酔っぱらいの頭。

そう言われると、心当たりが出てくる人もいるのではないでしょうか。

呂律が回らなくなるのも、目の焦点が合わなくなるのも、お酒が入ったときに起きることとよく似た変化。

264時間眠らなかった高校生の話

眠らないとどうなるかを、実際に確かめてしまった人もいます。

1963年12月、アメリカの高校生ランディ・ガードナーが、眠らずにどこまでいけるかを試しはじめました。

当時17歳。

年をまたいで、264時間、11日と24分のあいだ起き続けたという記録が残っています。

スタンフォード大学の睡眠研究者が立ち会い、健康状態を見守る人もついていたそうです。

記録に残っているのは、気分の落ち込み、集中力の低下、記憶の障害、被害妄想、そして幻覚。

 

なかでも分かりやすいのが、11日目のやりとりです。

100から7を引き続けてください。

そう言われた彼は、65まで数えたところで止まってしまいます。

理由を聞かれて、自分が何をしていたのかを忘れてしまった、と答えたそうです。

計算ができなくなったのではなく、いま自分が計算をしていたことのほうが消えてしまっていて。

 

壊れるといっても、どこかが痛くなるような分かりやすい変化ではないんですね。

できていたことが、気づかれないまま、ひとつずつ静かに落ちていく。

この実験のあと、彼は15時間ほど眠って自然に目を覚まし、後遺症は残らなかったとされています。

そこだけ聞くと安心してしまいそうですが、真似をしていい話ではないですよね。

 

実際ギネス世界記録は、1997年に断眠記録の記録更新を見届けるのをやめています。

極限まで眠らずにいることには大きな危険が伴うので、それを後押しするようなことはしない、という判断だったそうです。

挑戦してよい記録と、挑戦してはいけない記録。

断眠は、挑戦してはいけない側に線を引かれているジャンルなんです。

寝不足は自分がいちばん軽く見る

ここまで読んで、自分は大丈夫、と思われたでしょうか。

今回の配信で、体の変化に先に気づいたのは本人ではありませんでした。

呂律がおかしい、顔が違う、目が赤い。

気づいたのは全部、画面のこちら側にいた人たちのほうでした。

 

これ、けっこう普遍的な話だと思います。

自分の寝不足は、自分がいちばん軽く見積もるもの。

昨日は5時間だったけど平気、この時期は毎年こんなもの、忙しいのは今週だけ。

そうやって値引きしているうちに、足りない分だけ静かに積み上がっていきます。

 

ここで効いてくるのが、ペンシルベニア大学などの研究チームが行った有名な実験です。

6時間睡眠を2週間続けると、集中力や注意力は2日間徹夜したのとほぼ同じところまで落ちる。

2日徹夜した人は、頭が働いていないことを自分で自覚できます。

6時間睡眠の2週間では、その低下を自覚できないのだそうです。

むしろ、普通に働いていると感じてしまう。

つまり、足りていない人ほど「足りている」と答えます。

しかもこの見積もりの甘さは、気合いを入れれば直る種類のものではありません。

自覚を担当している部分まで、一緒に鈍ってしまうからです。

 

一方で、周りの人の寝不足は驚くほどよく見えるんですよね。

同僚の反応がワンテンポ遅いことも、家族の口数が減っていることも、たいていは本人より先に気づきます。

だとすれば、自分の感覚ではなく、いちばん当てになるのは周りからの一言のほうなのかもしれません。

鏡の前で確かめても、映っているのはいつもの自分の顔なので。

もし言われたら、大丈夫と返す前に、一度だけ真に受けてみてもいいのかなと。

言ったほうは、たいてい何かを見たから言っています。

なお、私は専門家ではないので、眠れない日が続いているようなら早めに病院で診てもらってくださいね。

 

堀大輔の7日間は、9月16日まで続く予定になっています。

最後までやり切るのか、途中で止めるのか、それは本人が決めること。

ただ、「謝って8時間寝ればいいのに」と書いた人の言葉は、けっこう優しかったなと思うんです。

画面の向こうの人には、こんなにすんなり言えるんですよね。

同じ言葉を、隣の席の人や自分に向けたのは、いつだったか。

他人の寝不足は一目で分かるのに、自分のぶんだけは毎回見逃してしまうところですね。