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柔軟剤のにおいで体調不良に?香害で学校に行けない子どもたちと現場の対応
柔軟剤や制汗スプレー、香料入りのハンドクリーム。
多くの人にとっては、日常の中にある何気ない香りです。
ところが、そのにおいを吸い込むだけで、頭痛や吐き気、強い倦怠感に襲われる子どもたちがいます。
人工的な香りによって体調不良が起きる、いわゆる「香害」です。
深刻なのは、症状があることだけではありません。
学校が嫌いなわけではないのに、教室へ入れない。
つらくても、「気のせいではないか」と思われるかもしれないと、口にできない。
行きたい場所なのに、においが原因で行けなくなってしまう。
香害に苦しむ子どもたちは、そんな二重のつらさを抱えているんです。
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柔軟剤のにおいで起きる「香害」とは
香害とは、柔軟剤や芳香剤、制汗剤、消臭スプレー、合成洗剤などに含まれる人工的な香りによって、頭痛や吐き気、倦怠感などの体調不良が起きる問題です。
香りが少し強いだけなら、その場を離れれば済むと思われるかもしれません。
しかし、化学物質に敏感な人は、ごく微量でも症状が出ることがあります。
医師から化学物質過敏症と診断されるケースもあり、原因となる物質を避けることが、現時点では最も重要な対処法とされています。
学校には、柔軟剤で洗った衣服を着た人がいます。
教室では、制汗スプレーや香料入りのハンドクリームが使われることもあるでしょう。
給食当番で使う共用エプロンに、別の家庭で使われた柔軟剤の香りが残っている場合もあります。
つまり、自分だけ無香料の商品を選んでも、それだけでは避けきれないということなんです。
近年の柔軟剤は、香料をマイクロカプセルに閉じ込めて、香りを長持ちさせる製法が主流になっています。
香りが長続きすることは、商品の魅力でもあります。
一方で、においに敏感な人にとっては、症状が出やすい環境につながる可能性も指摘されています。
2024年に中学生以下の子ども約1万人を対象に行われた調査では、人工的な香りによる体調不良を経験した子どもは全体の8.3%、856人でした。
国内では、約70万人余りに上ると推計されています。
さらに、そのうち約4人に1人が、香りを理由に学校へ行くのを嫌がった経験があると回答しました。
香害は、一部の人だけが感じる「においの好み」の問題ではありません。
子どもの学校生活や、学ぶ機会そのものに影響を及ぼす課題として、少しずつ社会的な認知が広がり始めています。
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「学校は大好き」なのに教室へ入れない現実
香害によって学校へ通えなくなる子どもは、学校そのものが嫌いなわけではありません。
友達に会いたい。
授業も受けたい。
部活動にも参加したい。
それでも、教室へ入るだけで体調が悪くなるなら、気持ちだけではどうにもならないんですよね。
あおいさんを苦しめる教室内の香り
愛知県豊橋市に住む中学2年生のあおいさんは、小学3年生の頃、学校の改修工事で発生した石油系の強いにおいをきっかけに症状が現れました。
本人は、その感覚を「ガツンとくるにおい」「頭を殴られるような痛さ」と表現しています。
帰宅後には、母親へ泣きながら「学校行きたくない。学校くさいから」と訴えました。
それまで長い間、一人で我慢していたとみられています。
その後、医師から化学物質過敏症と診断されました。
現在は、部活動と屋外体育を除き、自宅でアプリを使って学習を続けています。
外出時も、マスクが欠かせません。
それでも、あおいさんは「学校はめっちゃ大好き」と話しています。
だからこそ、胸が痛みます。
教室で誰かが制汗スプレーを使ったり、香料入りのハンドクリームを塗ったりすると、気分が悪くなり、教室へ入れなくなるのです。
学校へ行きたくないのではありません。
行きたいのに、体がついていかない。
香害は、そんな現実を子どもたちに突きつけています。
給食エプロンで頭痛が起きたゆいさん
名古屋市に住む小学6年生のゆいさんは、小学5年生頃から、人工的な香りによる体調不良を感じるようになりました。
きっかけは、給食当番で使う共用エプロンです。
エプロンを着た瞬間、「うっ……なんだこのにおい」と感じ、給食前にもかかわらず食欲がなくなり、頭痛まで起きたといいます。
給食エプロンは、当番を終えた家庭が洗濯し、次の子どもへ渡す仕組みです。
そのため、家庭ごとに使用している柔軟剤の香りが残ることがあります。
香りが苦手ではない子どもにとっては気にならなくても、ゆいさんにとっては、給食が食べられなくなるほど深刻な問題でした。
現在は、香りの強い衣服を着た人が近づくと、少し距離を取るようにしています。
しかし、その理由はまだ周囲へ伝えられていません。
症状を避けるために、自分が動く。
それでも、なぜ離れるのかは説明できない。
見えないところで、子ども自身が毎日気を遣っているんです。
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症状があっても子どもが言い出せない理由
香害が難しいのは、症状が周囲から見えにくいこと。
けがなら、傷が見えます。
熱なら、体温計で確認できます。
しかし、柔軟剤の香りで頭痛や吐き気がすると話しても、同じ空間にいるほかの人には何も起きていません。
そのため、こんな反応をされるのではないかという不安が生まれます。
- 「本当ににおいが原因なの?」
- 「気にしすぎではない?」
ゆいさんも、「何言っているんだと思われるのが嫌だった」と話しています。
子どもにとって、自分だけが感じる症状を説明するのは簡単ではありません。
友達との関係が変わるかもしれない。
先生に相談しても、理解してもらえないかもしれない。
柔軟剤を使っている家庭を責めているように、受け取られたくない。
そう考えると、言わないという選択になってしまいます。
少し離れる。
我慢する。
保健室へ行く。
学校を休む。
原因が共有されないまま、子どもだけがその場から離れることになるのです。
周囲からは、「学校が嫌なのかな」と見えるかもしれません。
しかし、実際は違います。
学校は好き。でも、教室へ入れない。
さらに、その理由まで信じてもらえないかもしれない。
香害で苦しむ子どもたちは、体調不良だけでなく、そんな見えない不安とも向き合っているんですよね。
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給食エプロン廃止など学校現場の香害対策
香害は、家庭だけで解決できる問題ではありません。
学校現場でも、少しずつ対応が始まっています。
豊橋市は給食エプロンの共用を廃止
豊橋市では、2023年度頃から、特別支援学校を除くすべての小中学校で給食エプロンの共用を廃止しました。
現在は、子ども一人ひとりが自分のエプロンを持参しています。
背景には、柔軟剤などの香りが気になるという声の増加と、衛生用品を共用することへの懸念がありました。
児童からは、次のような声も上がっています。
- 「前はたまににおいがきつい時があった」
- 「他人の洗濯物のにおいは慣れていなくて、あまり好きじゃない」
- 「マイエプロンになって、めっちゃいい」
特定の家庭へ柔軟剤の使用をやめてもらうのではなく、仕組みを変えることで配慮する。
現場ならではの工夫と言えるでしょう。
名古屋市は健康調査票に香害の項目を追加
名古屋市では、2026年度から、入学・進級時の健康調査票に「柔軟剤などの香りで頭痛や吐き気がすることがある」という項目を追加しました。
この変更によって、学校側が事前に子どもの状況を把握しやすくなります。
担任や養護教諭が、香りと体調不良の関係を理解するきっかけにもなるでしょう。
名古屋市の広沢一郎市長は、「一概に『柔軟剤は使わないで』というのは難しい」としたうえで、香害で困る人がいることを周知し、解消へ向けて検討したいとしています。
一律に禁止するのではなく、まず知ってもらうこと。
その積み重ねが、子どもたちを守る第一歩になりそうです。
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香りを使う側と苦しむ側はどう共存するか
香害の話題になると、「柔軟剤を使わなければいい」と考える人もいるかもしれません。
しかし、現実はそこまで単純ではありません。
柔軟剤には、衣類を柔らかくしたり、静電気を抑えたりする役割があります。
香りを楽しみに使っている人も、少なくありません。
もちろん、使っている人に悪意があるわけでもないでしょう。
一方で、その香りによって学校へ通えない子どもがいることも事実です。
化学物質過敏症を20年以上研究してきた坂部貢客員教授は、まずは化学物質が原因だと気づいていない人へ知ってもらうことが大切だと話しています。
さらに、「香りの強い柔軟剤を販売しない」よりも、「影響の出ない柔軟剤を考えることが大切」との考えも示しています。
できる対応は、一つだけではありません。
- 無香料や微香料の商品を選ぶ
- 学校ではスプレーの使用場所を工夫する
- 共用品を個人持ちにする
- 体調不良を相談しやすい環境を整える
こうした積み重ねなら、香りを使う人の生活を否定せず、困っている人への配慮も広げられるはずです。
そして何より大切なのは、「そんなことで体調が悪くなるはずがない」と決めつけないことではないでしょうか?
香りは、目に見えません。
症状も、本人にしか分からない場合があります。
だからこそ、子どもが勇気を出して伝えた一言を、まず受け止めることが大切です。
学校が大好きなのに、教室へ入れない。
友達と過ごしたいのに、においを避けるため距離を取らなければならない。
そこへ「気のせい」という言葉まで重なれば、子どもが何も言えなくなるのも無理はありません。
香害への対応で最初に減らすべきものは、香りだけではなく、「困っている」と言いづらい空気なのかもしれません。

