カープのゾンビたばこ騒動|戦力外「第二弾」説の出どころを調べてみた

「確証あって出してんのかこれ?」
戦力外の「第二弾」として、広島カープの久保修と清水叶人の名前を挙げた記事が出て、ネットにはそんな声が並んでいます。
記事が2人の名前を出した根拠は、ゾンビたばこの騒動で有罪になった羽月隆太郎元選手が、5月にある投稿をリポストしていたことでした。
その投稿に書かれていたのは、選手の名字が5つ。
名前を並べただけ、リポストしただけ、見出しに「か」を付けただけ。
それでも、その名前はもう、うわさと一緒に読まれ始めているのが現状です。
今回は、この「第二弾」説の出どころを順番にたどりながら、リポストや「〜か」という書き方でも名誉毀損になるのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。
2人の名前を挙げた記事の中身
話の始まりは、2026年10月1日でした。
カープは小園海斗、矢野雅哉、前川誠太、田村俊介の4選手に、来季の契約を結ばないと伝えています。
いずれも、ゾンビたばこと呼ばれる指定薬物エトミデートの騒動のなかで、名前が報じられてきた選手です。
球団の鈴木清明球団本部長は、4人が使ったという事実は確認できていないと話し、そのうえで信頼関係を築くのが難しいと判断したと説明しました。
「白か黒かで言えば、白」という言葉まで出ていたそうです。
そこへ、ネットのニュースサイトに冒頭の記事が出ます。
書き出しは、戦力外の第二弾に広がるのではないか、という見方が出ているという内容でした。
ただ、記事の中には「いずれも球団からの発表はなく、使用の事実も確認されていない」という一文も入っているんですよね。
根拠のリポストについても、「姓だけの列挙で、本人が関与を認めたわけではない」と自分で書いています。
確かめられていないと断ったうえで、名前をタイトルに置いている形です。
ネットの反応は、ほとんどがこの記事への怒りでした。
「証拠もないのに」「名誉毀損だろ」という書き込みが、あちこちで続いています。
家族や応援している人の気持ちを思う声もありました。
証拠もないのにアホすぎる!
羽月がリポストしただけで世間に犯人扱いされてて選手は勿論、家族や応援してる人達は嫌な気持ちでいるでしょう。
こんな記事に惑わされないですよ!
SNSに出すなら証拠を出してみろ!— みー (@K7zA8yluEtXH63I) 2026年10月7日
いっぽうで、「え、久保さんと清水さんも戦力外なの…?」と、記事の見出しをそのまま受け取った投稿も見つかります。
見出しの「か」は、人から人へ渡るうちに落ちていくもの。
なお、いまのところ、カープから2人についての発表は何も出ていません。
初公判の夜に並んだ5つの名前
では、根拠になったリポストとは、どんなものだったのでしょうか。
2026年5月15日、羽月元選手の初公判が広島地裁で開かれました。
法廷で「周囲に吸っているカープの選手がいた」と証言したと報じられた日です。
当時ネットに出回った画面の写しを見ると、その日の夜、あるカープファンのアカウントに、名字だけを5つ並べた投稿が出ていました。
「久保、田村、矢野、小園、清水」
説明は一言もありません。
そして5月29日、同じアカウントが「好きな選手並べただけですけど」と添えて、その投稿を自分で引用し直します。
羽月元選手がリポストしたのは、この投稿でした。
ネットでは当日の夜から話題になり、投稿したアカウントはその後、投稿が見られない状態になっています。
羽月元選手がなぜリポストしたのかについて、本人が説明したという報道は見つかりません。
記事の根拠は、本人の言葉ではなく、本人が押したボタン1回ぶん。
しかもリポストされた文面そのものは、「好きな選手」としか言っていないんです。
もうひとつ見ておきたいのが、名前の形。
元の投稿にあったのは、名字だけでした。
今回の記事は、カープにいる久保という名字の選手は久保修、清水という名字の選手は清水叶人だと書いて、そこからフルネームにしています。
フルネームへの最後の一歩を踏んだのは、記事のほうでした。
これ名誉毀損やろ。文春の写真が出たとかならともかく上本愛好家がただ名前あげただけのツイートを羽月がリツイートしたって理由だけでこの記事書くの人としてやばいよマジで。上本愛好家のツイートに小園や矢野の前があったから羽月がリツイートしただけかもしれんやん。
— プロ野球ファン (@BcujDc4wni) 2026年10月7日
ちなみに、羽月元選手が配信で「私を含め6人が同じ人物から購入していました」と話したのは、リポストの前日の5月28日だと報じられています。
このとき実名は挙げていません。
記事は、この「6人」から処分された4人を引いて、残りは2人という計算も紹介していました。
ただ、「6人」は羽月元選手の言葉だけが出どころで、誰なのかも、本当にその人数なのかも確かめられていません。
引き算の答えが2になっても、その2人が誰なのかを示すものは、どこにもないんです。
当たったように見える名簿の正体
それでも、気になる人は多いと思います。
5つの名前のうち3人が、本当に戦力外になったわけですから。
名簿が当たったと感じてしまうのも、無理はありません。
ただ、同じ名前を別の答えと並べると、見え方が変わります。
たとえば、9月25日付で医薬品医療機器法違反の疑いで書類送検されたのは、矢野と前川の2人でした。
このうち名簿に入っていたのは矢野だけで、前川の名前はどこにもありません。
書類送検というのは警察が調べた書類を検察へ送る手続きのことで、それだけで裁判にかけると決まったわけではない、という点も押さえておきたいところです。
矢野の代理人は、違法な薬物を譲り受けたり使ったりした事実はないとコメントしています。
戦力外になった4人で比べても、名簿にいたのは3人で、前川はやはり入っていませんでした。
そして球団は、誰についても、使ったという事実は確認できていないと話しています。
名簿は、戦力外という答えとは3人重なり、書類送検という答えとは1人しか重なっていません。
突き合わせる答えしだいで、当たり外れが変わる名簿なんですよね。
しかも、球団が外した理由として挙げたのは、信頼関係でした。
リポストから記事が立ち上がったことには、あきれる声も出ていました。
リポストで記事にしてええんや、楽な仕事やね
— 勝つダルマ (@TPo123455) 2026年10月7日
同じ日には、週刊文春の電子版にも「広島カープゾンビ疑惑選手はまだいる!」という見出しの記事が出ています。
ただ、無料で読める範囲に、久保や清水の名前は出てきません。
世の中に出回っているのは、名前のない見出しと、名前だけのリポスト、という組み合わせでした。
リポストだけで33万円の判決
「これ名誉毀損やろ」
ネットでいちばん多かったのが、この声でした。
向けられた先は、名前を並べた人、リポストした人、記事にした人と、ばらばらです。
まずリポストについては、はっきりした裁判の例があります。
元大阪府知事の橋下徹が、ジャーナリストの岩上安身を訴えた裁判です。
岩上は、橋下の評判を下げる内容の他人のツイートを、コメントを付けずにそのままリツイートしていました。
2019年9月12日、大阪地裁は、特別な事情がないかぎりコメントなしのリツイートは元のツイートに賛同する意思を示すものと受け取るのが相当だとして、33万円の支払いを命じています。
2020年6月23日の大阪高裁も同じ33万円の判断を維持し、岩上が上告を断念して判決が確定しました。
高裁の判決は、元のツイートが人の評判を下げる内容なら、リツイートした経緯や意図、目的、動機がどうであっても責任を負う、という考え方を示しています。
つまり「押しただけ」は、言い訳として通らない場合があるということ。
リツイートの責任を認めた判決は、このあとも東京高裁で出ていて、芸能事務所アミューズの法務部が、Xで注意を呼びかけたこともありました。
当社とは無関係の名誉毀損事件についてですが、東京高等裁判所が、2022年11月10日、名誉毀損ツイートをリツイート(現在の「リポスト」)することがその事案においては違法であるとの判決を出しました。…
— 株式会社アミューズ 法務部 (@AmuseLegal) 2024年5月23日
では、「〜か」と疑問の形で書いた場合はどうでしょうか。
こちらにも、古い最高裁の判断があります。
1968年1月18日の最高裁は、「人の噂であるから真偽は別として」と断って書いた記事でも、名誉を傷つける事実を示したことになるとしました。
1997年9月9日の最高裁も、伝聞や推論の形をとっていても、普通の読者がそういう主張だと読み取るなら、事実を示したものと見るのが相当だと述べています。
疑問の形にしたから、噂として紹介しただけだから、で守られるとはかぎりません。
書いた側が罪に問われずに済む道も、刑法には用意されています。
230条の2という条文で、世の中の利益に関わる話を、もっぱら公益のために書き、中身が本当だと証明できたときは罰しない、という決まり。
まだ起訴されていない人の犯罪の疑いは、世の中の利益に関わる話として扱われます。
ただし、ここで証明が要るのは「そういう噂がある」ことではなく、噂の中身が本当であることのほう。
リポストをいくら重ねても、2人の行いの証明にはなりません。
とはいえ、今回の件がこれに当たるかどうかを決めるのは、裁判所です。
名字だけの羅列や、「好きな選手」という文面をどう読むかは、そのときの流れや書かれた場所も含めて判断されます。
外から言えるのは、リポストも疑問形も、それだけで責任から外れる書き方ではない、というところまででしょう。
訴えられるのは名前を出された本人だけ
それなら、誰かが訴えればいいのでは、と思うかもしれません。
ところが、ここに名誉毀損という罪の、少しやっかいな決まりが。
刑法230条は、多くの人が見られる場所で事実を示して人の名誉を傷つけた人を、その事実が本当かどうかにかかわらず罰すると定めています。
ただし232条で、名誉毀損は告訴がなければ裁判にかけられない罪とされているんです。
告訴できるのは、基本的に傷つけられた本人だけ。
ファンがどれだけ怒っても、代わりに訴えることはできません。
証拠がないなら名誉毀損だな
— こす (@K25llo) 2026年10月7日
今回いちばん困った立場にいるのは、名前を出された当の選手たちです。
久保修は2022年のドラフト7位で入った26歳の外野手、清水叶人は同じ年のドラフト4位で高崎健康福祉大高崎高から入った22歳の捕手。
どちらも、これから一軍に定着しようという年代の選手です。
訴えるには、本人が自分から前に出て「私の名誉が傷つけられた」と言わなければなりません。
そうすれば話題はもう一度大きくなり、黙っていれば名前だけが残ります。
どちらを選んでも重い場所に、2人は自分では何も言わないうちから立たされている状態です。
だからこそ、読む側にできることもあります。
「〜か」で終わる見出しを見かけたら、広める前に、この3つだけ確かめてみてください。
- その名前を最初に並べたのは誰か
- その人は何を根拠にしたと書いているか
- 球団や本人は何か発表しているか
今回の記事なら、最後の問いの答えは「何も出ていない」でした。
戦力外の通告の期間は、この先クライマックスシリーズが終わったあと、10月30日まで続きます。
久保と清水の来季がどうなるのかは、まだ誰にも分かっていません。
それでも、本人たちが何も言っていないうちに、名前だけが先に歩かされてしまうのは、やはり酷な話だと感じてしまいます。
見出しの「か」を見たら、拡散する前に一度だけ出どころをたどってみてくださいね。
