「信頼できないと言われた。仕方ないかなと思う」

2026年10月1日、広島東洋カープから来季の契約を結ばないと告げられた小園海斗は、報道陣の前でそう話したそうです。

去年のセ・リーグ首位打者で、今年の春にはWBCの日本代表にも入っていた26歳。

 

7月には、「ゾンビたばこ」と呼ばれる薬物の騒動をめぐって、週刊誌に写真が載った一人です。

ネットでは「やっぱりやらかしてたのか?」という声と、他球団が獲るかどうかを気にする声が、同じ時間帯に並んでいました。

しかも球団は、薬物を使ったかどうかについて「白か黒かでいえば、白」とまで言っています。

白なのに、どうして来年の契約がなくなったのか。

そしてこの先、ほかの球団のユニホームを着る道は残っているのでしょうか。

今回は、戦力外通告という仕組みと、小園たちがこれから通る道について、わかりやすく解説していきたいと思います。


球団の発表は1文と表だけ

カープの公式サイトに出たお知らせは、拍子抜けするほど短いものでした。

「10月1日(木)、下記の4選手に対し、来季の契約を結ばないことを伝えましたのでお知らせいたします。」

あとは、ポジションと背番号と名前を並べた表がひとつあるだけ。

戦力外という言葉も、理由も、お知らせには書かれていません。

名前が並んだのは、小園海斗内野手、矢野雅哉内野手、前川誠太内野手、田村俊介外野手の4人です。

小園は2018年のドラフト1位で、4球団が競合した末に報徳学園から入団しました。

2025年には首位打者と最高出塁率の2つのタイトルを取り、今季は101試合で打率2割5分7厘、8月18日からは2軍でプレーしていたとのこと。

矢野は2024年に遊撃手としてゴールデングラブ賞を受けた守備の名手で、今季は44試合で打率1割6分7厘でした。

前川と田村は、ともに23歳の若手です。

4人とも20代の野手で、4人とも現役を続けたいと話しています。

 

この4人の名前は、夏から「ゾンビたばこ」の騒動の中で報じられてきたもの。

カープでは2026年1月、羽月隆太郎元選手が、ゾンビたばこと呼ばれる指定薬物エトミデートを使った疑いで逮捕・起訴されていました。

エトミデートは海外で麻酔に使われてきた成分で、日本では指定薬物として、持つことも使うことも禁じられている薬物です。

5月の初公判では、本人が「周囲にも吸っているカープの選手がいた」と証言したと報じられています。

7月には週刊誌が、羽月元選手に薬物を渡していた男と、矢野・田村・小園の3人が同じ席にいる写真を載せました。

そして9月25日付で、矢野と前川が医薬品医療機器法違反の疑いで書類送検されています。

書類送検というのは、警察が調べた書類を検察へ送ることで、裁判にかけると決まったという意味ではありません。

送検されたのは矢野と前川の2人で、小園と田村はその中に入っていないとのこと。


「白か黒かでいえば、白」の続き

この日、取材に応じたのは鈴木清明球団本部長。

まず口にしたのは、羽月元選手の逮捕から続けてきた内部調査の結果です。

「エトミデート、ゾンビたばこを使用したという事実は確認できておりません」

そのうえで、「来年、新井監督の下で一丸となって進んでいくには信頼関係を築くのが難しいと判断して通知しました」と説明しました。

地元紙の中国新聞は、球団が8月に最後の聞き取りを終えた段階で、このまま来季も契約すれば信頼関係が築けないと判断したとみています。

「白か黒かでいえば、白」と言い切ったのも、この流れの中でした。

 

ところが、本部長の話は、そこで終わっていません。

選手から話を聞く中で、はっきりしない答えもあったそうで、「調査で矛盾があったりすることもあった。中身に関しては申し上げませんけど」と語っています。

もうひとつ持ち出したのが、プロ野球の選手がみな同じ形で結ぶ統一契約書でした。

その第17条には、こんな一文があります。

「個人行動とフェアプレイとスポーツマンシップとにおいて日本国民の模範たるべく努力することを誓約する」

つまり球団は、薬物を使ったかどうかの一点だけで決めたわけではありませんでした。

売人とされる男と同じ席にいた写真や、聞き取りで出た矛盾も含めて、本部長は4人について「総合的に判断した」と話しています。

 

ネットには、この判断を受け止めたうえで、球団にも問いを投げる投稿も見つかりました。

「白でなければ、グレーも含めてアウト」は、今回の判断をひと言でまとめた言い方です。

球団の責任について、本部長はファンや他球団への迷惑をわびたうえで、「個人のプライベートの活動に、我々がどこまでの責任を持つのかはいろいろ判断がある」とも話していました。

小園本人は、この日のうちにインスタグラムを更新しています。

違法薬物や反社会的勢力との関係については「過去も現在も一切関与しておらず、いかなる違法行為の事実もございません」と書き、はっきり否定しました。

それでも、「疑念を抱かせるような交友関係や不用意な行動を取ってしまったこと自体が、自身のプロアスリートとしての自覚を著しく欠いていた」とつづっています。


戦力外は「更新しない」という意味

それでも、首位打者が契約を切られたと聞けば、何かあったと思うのが自然です。

実際に、「これって小園もクロって言うてるようなもん」という受け止めも流れていました。

そう感じるのも無理はありません。

ただ、戦力外通告という言葉の中身を知っておくと、見え方が少し変わってきます。

 

プロ野球の選手契約は1年ごとで、統一契約書の第31条は「球団が選手と次年度の選手契約の締結を希望するときは、本契約を更新することができる」と定めているんですよね。

球団が希望すれば更新して、希望しなければ更新しないという決まり。

戦力外通告は、この「来年は更新しません」という知らせを、本人に先に伝える手続きのことです。

戦力外は、罰の名前ではありません。

毎年秋には、ケガや成績の不振で、多くの選手がこれと同じ手続きの通告を受けています。

これと形がちがうのが、羽月元選手のときの「契約解除」でした。

統一契約書の第26条には、選手が協約や球団の決まりに違反したときなどに、球団がプロ野球全体のトップにあたるコミッショナーの承認を得て契約を途中で解除できると書かれています。

こちらは、いま結んでいる契約を期間の途中で終わらせる、重い手続き。

今回の通告は、この手続きとは別物です。

今季の契約はそのまま最後まで続き、来年の分を結ばないというだけなんですよね。

 

ネットには、この形を「体裁の良い戦力外通告」と見る声もあります。

球団がいちばん傷つかない終わらせ方を選んだ、という見方です。

たしかに、罰を下したわけではないので、白か黒かを決めなくても成り立ちます。

ただ、罰ではない形だったからこそ、4人はどの球団とも話せる立場で外へ出られるんです。


トレードではなく自由契約を選んだ

小園のように実績のある選手なら、ほかの球団の選手と交換するトレードという手もありました。

本部長は、トレードの道にもはっきり触れています。

「他の選手と交換などを考える方もいるかもしれないが、ここはきっぱり自由契約にして、各球団の判断に任せればいいと。どこかで判断しないといけない。早いほうがいい」

トレードは、行き先を球団どうしで決める移籍です。

選手には、どこへ行くかを選ぶ余地がほとんどありません。

一方の自由契約は、選手がどの球団とも自分で話ができる立場になること。

カープは、行き先を自分たちで決める道を手放して、選手たちを外へ出しました。

 

日本野球機構(NPB)が決めた今年の戦力外通告の期間は2回あり、1回目は9月28日から、リーグ上位のプレーオフにあたるクライマックスシリーズが始まる前日の10月9日まで。

2回目は、そのクライマックスシリーズが終わったあと10月30日までです。

カープは、1回目の期間が始まってすぐに発表しました。

その日の夜にもマツダスタジアムで公式戦が組まれている、シーズン真っ最中の発表です。

シーズンが終わるのを待たなかったことについて、中国新聞は「今後、他球団への移籍に向けて動きやすくする最後の配慮だった」と書いています。

このあと各球団は、来年も契約したい選手を並べた契約保留者名簿を、11月30日までにNPBへ提出。

名前が載らなかった選手が正式に自由契約選手として公示されるのは、この名簿が出たあとです。

 

11月17日には、日本プロ野球選手会が主催するトライアウトも、バンテリンドーム ナゴヤで開かれます。

各球団のスカウトの前でプレーを見せる場ですが、実際にはトライアウトや公示を待たずに次の球団が決まる選手もいるそうです。


次に答えを出すのはほかの11球団

では、ほかの球団は本当に獲ってくれるのでしょうか。

ネットの声は、きれいに割れたまま。

「阪神はショートが喉から出る程欲しいけど、どうなんだろうか?」と気にする人もいれば、「めちゃくちゃ欲しいけど球団のイメージ的なのもあるからなぁ」と迷う人もいます。

「小園はどこも獲らないと思うよ」という声もありました。

 

NPBは毎年、戦力外になった選手と引退した選手が、その後どこへ進んだかを調べて公表しています。

2025年のシーズンが対象の調査では、169人のうち、NPBの支配下選手として契約したのは10人でした。

支配下選手というのは、1軍の試合に出られる枠に入っている選手のことです。

育成選手としての契約が48人で、育成選手は支配下の枠の外で契約するため、そのままでは1軍の試合に出られません。

そのあとに、社会人野球が18人、海外のチームが17人、独立リーグが8人と続きます。

戦力外だけの内訳は出ていないものの、引退した人を含めてもこの数字なので、もう一度支配下選手として契約できるのはかなり狭い門。

 

ただ、小園は去年の首位打者で、8月に2軍へ落ちてからも、ファームでは25試合で打率3割8分と打っていたそうです。

打つ力だけなら、手を挙げる球団があってもおかしくありません。

それでも獲る球団は、打率と一緒に、カープが「築くのが難しい」と言った信頼を量るはずです。

白黒は決めないまま、カープは獲るかどうかの判断をほかの11球団へ手渡したとも言えます。

分かれ目は、4人が信頼を取り戻す材料をこれから示せるかどうか。

 

本人たちも、信頼を取り戻すところから始まることは分かっているようです。

矢野は「一つの行動や野球の結果で、信頼を取り戻すしかない」と話しました。

小園もインスタグラムに、失った信用を取り戻すのは相当に困難な道だと書き、そのうえで「私には野球しかありません」と結んでいます。

新井貴浩監督も、4人について「彼らのことを考えると、すごく苦しくなります」と話していました。

どんな事情があったにせよ、去年の首位打者がこういう形でチームを離れるのは、やはり寂しいものですね。

ただ、終わったのはカープとの契約で、野球そのものではありません。

11月17日のバンテリンドームに4人の姿があるのか、それより先にどこかの球団が手を挙げるのか、静かに見ていきたいところですね。