不同意性交等罪をわかりやすく解説|マチアプで家に行くと逮捕なのか

「これ、実際どうしたらいいんやろうね」
京都で起きた逮捕のニュースに、ネットではこんな一行が並びました。
マッチングアプリで知り合った2人が、その日はじめて会って、男性の家に行った。
翌日、女性が警察の相談ダイヤルに電話をかけた。
男性のほうは「同意のない性交はしたことがない」と否認しているとのこと。
流れてきた情報は、だいたいそれだけです。
そこから先は、みんなで対策の話をしていました。
録音しておくしかない、同意書にサインしてもらうしかない、いっそイエスノー枕を全国民に配ってほしい。
冗談まじりの声もありましたが、根っこにあるのは同じ不安ですよね。
ただ、その対策談義をずっと読んでいて、ひとつ引っかかったことがあります。
この罪がどういうときに成立するのか。
条文に何が書いてあるかを見た人は、ほとんどいませんでした。
不同意性交等罪という呼び名になったのは2023年で、まだ数年しかたっていない新しい言葉。
条文の中身は、名前から受ける印象とはずいぶん違うものでした。
今回はその中身を、京都で報じられた事実と並べながらわかりやすく解説していきたいと思います。
マチアプで会った翌日に何があったか
報じられているのは、こういう流れです。
京都新聞によると、京都府警山科署が9月9日、不同意性交の疑いで京都市山科区の契約社員の男を逮捕したとのこと。
逮捕容疑は、7月12日の午後10時35分ごろから55分ごろにかけて、自宅で女子大学生に性的暴行を加えた疑いだそうです。
2人はマッチングアプリで知り合い、その日はじめて会ったと報じられています。
女子大学生が翌日、府警の性犯罪相談ダイヤルに連絡して発覚した、というのが報道されている流れ。
そして男性は「性交したことは間違いないが、同意のない性交はしたことがない」と容疑を否認しています。
ここまでが、いま公になっている全部です。
大事なのは、逮捕は疑いがあるので身柄を押さえるという段階でしかないということ。
有罪と決まったわけではありません。
かといって、女性の訴えが退けられたわけでもないんです。
どちらの言い分が通るのかは、これから調べられていくところ。
ネットではもう答えが出たかのような書き込みも並んでいましたが、実際には何も決まっていないんですよね。
そしてもうひとつ、この罪の重さも先に知っておいたほうがいい部分。
法律が定めている刑は5年以上の拘禁刑で、かなり重いほうに入ります。
拘禁刑というのは、2025年6月から懲役と禁錮をひとつにまとめた新しい刑の呼び名。
しかも被害を訴えた人が正式に処罰を求めなくても、警察は動けます。
途中で「やっぱりやめます」と取り下げて終わる、という形の罪ではないんですね。
疑われた側にとっても、訴えた側にとっても、いったん始まると簡単には引き返せない手続きです。
7月の夜のことで逮捕は9月だった
ここで、日付をもう一度見てください。
出来事があったとされるのは7月12日の夜。
逮捕されたのは9月9日です。
同じニュースの中に、この2つの日付が並んでいます。
拡散した投稿には「翌日に相談ダイヤルへ入電」という部分だけが書かれていたので、電話をした翌日に捕まったように読めてしまう並びでした。
けれど実際の日付は、そうなっていません。
相談の電話があってから逮捕まで、しばらく間があいています。
そのあいだに何があったのかは公表されていません。
警察が何をどこまで調べていたのかも、外からは見えないところです。
わかっているのは、日付が2つ離れて並んでいるという事実だけ。
電話一本で翌日に捕まる、という形ではありませんでした。
このニュースを最初に伝えたのは京都新聞です。
【速報】19歳女子大生に不同意性交した疑いで21歳男逮捕 マッチングアプリで知り合う 容疑を否認
— 京都新聞 (@kyoto_np) 2026年9月9日
見出しの終わりのほうを見てください。
「容疑を否認」という一行が、最初から見出しに乗っています。
ニュースが流れてくるとき、読み落としやすいのはこういう短い一行のほうなんですよね。
ちなみに警察には、性犯罪の相談を受ける専用の窓口が置かれています。
警察庁は全国共通の短縮番号として「#8103(ハートさん)」を案内していて、24時間つながる形になっているとのこと。
110番するほどのことなのかと迷う人のために、別の入口が用意されているわけです。
「同意がなかった」だけでは足りない
ここからが、名前のせいでいちばん誤解されているところ。
不同意性交等罪という名前を聞くと、こう受け取るのが自然ですよね。
同意がなかったと言われたら成立してしまう罪なんだな、と。
名前がそう読めるのだから、無理もない受け取り方。
でも条文は、そうは書かれていません。
刑法177条が処罰の対象にしているのは、相手を「同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態」にさせて、あるいはその状態に乗じて性交等をした場合です。
聞き慣れない言い方が並んでいるので、法務省の区分に沿って3つに割ってみます。
- 形成が困難……したくないという気持ちを持つこと自体が難しい状態
- 表明が困難……したくないと思っても、それを外に出すのが難しい
- 全うが困難……口に出したのに、そのとおりにならない状態
つまり問われているのは、同意があったかどうかではありません。
この罪が見ているのは、断れる状態だったかどうか。
ここは法務省自身がQ&Aではっきり書いています。
改正前のそれらの罪では処罰できなかった行為を新たに処罰対象に含めるものではありません。
出典:法務省「性犯罪関係の法改正等 Q&A」
新しく捕まる範囲が増えたわけではない、と国のほうが説明しているわけです。
もともと処罰されるはずだった行為を、判断のばらつきが出ないように書き直したもの。
そう説明されている条文が、ネットでは「あとから何とでも言える法律」として広まっています。
そのズレが、あの対策談義を生んでいるように見えました。
条文に並んでいるのは8つの状態
では、どういうときに「断るのが難しい状態」と判断されるのか。
ここが親切なところで、条文はその事由を8つ、具体的に並べています。
- 暴行や脅迫を用いること、またはそれらを受けたこと
- 心身の障害を生じさせること、またはそれがあること
- アルコールや薬物を摂取させること、またはそれらの影響があること
- 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること、またはその状態にあること
- 同意しない意思を形成し、表明し、または全うするいとまがないこと
- 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、驚愕させること、またはその事態に直面して恐怖していること
- 虐待に起因する心理的反応を生じさせること、またはそれがあること
- 経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること、またはそれを憂慮していること
読んでみると、暴行や脅迫だけの話ではないことがわかりますね。
お酒を飲ませる、寝ているところに及ぶ、断ったら仕事や生活が不利になると思わせる。
どれも「それはさすがにまずい」と言われてきた場面ばかりという印象。
そして、ここが今回のいちばん大事なところです。
この8つのどこにも、家に行ったかどうかは書かれていません。
ついて行ったから同意したことになる、という項目はどこにもないんです。
家に上がったかどうかは、条文が見ているものではありません。
だからネットで交わされていた「ノコノコ行ったほうが悪い」も「家に入れた時点でアウト」も、どちらも条文の外側の話でした。
逆に言えば、8つのうちどれかに当てはまる状況なら、相手が自分から家に来ていてもこの罪は成立します。
同じ場所にいたかどうかではなく、その場で相手が断れたかどうか。
見ているものが最初から違う、というわけです。
同意書とイエスノー枕は効くのか
ここまで来ると、あの対策談義への答えも見えてきます。
まず同意書。
弁護士の解説を読むと、扱いはかなり厳しめでした。
あとから「書かされた」「言わされた」と主張されると、同意書としての価値は大きく下がるとされています。
そもそも中身を理解しないままサインしていた場合は、ほとんど意味を持たないとも書かれていました。
ネットにも「その誓約書も無理やり書かされたと証言されたらなしのつぶて」という声が出ていましたが、この点にかぎっては見立てが合っていたことになります。
次に録音。
前後のやり取りを残しておくこと自体には問題がないとされています。
ただし行為そのものを一部始終記録するとなると、相手の同意なく撮る形になりやすく、別のトラブルの入口にもなりかねません。
守るために構えた道具が、そのまま新しい火種になる。
では何が強いのかというと、弁護士の解説が挙げているのは、意外なほど普通のものでした。
性交の前後にやりとりした、ふだんのメッセージです。
楽しかった、また会いたい、次はいつ会える。
ふだんのメッセージのほうが、構えた紙より効くそうです。
なぜかというと、あとから作れないから。
その場の空気がそのまま残っているものは、演出のしようがないんですよね。
紙にサインをもらう発想は、どうしても「これから疑われる」という前提から出てきます。
そこで作った書類は、疑われた瞬間に「作らされたもの」として扱われてしまう。
守りを固めたつもりが、いちばん弱いところを差し出す形になりかねません。
構えた紙より強く残るもの
あの日タイムラインで交わされていた話は、少しだけ的がずれていたことになります。
みんなが探していたのは「同意があったことをどう証明するか」でした。
でも条文が見ているのは、そこではありません。
相手が断れる状態だったか、というほうです。
同意を証明するのではなく、相手が断れる場をつくっておく。
条文を素直に読むと、求められているのはそちらでした。
そしてそれは、紙にも枕にも置き換えられないものです。
嫌そうにしていたら止める、酔っていたら日を改める、返事をはっきり待つ。
書き出してみると、拍子抜けするほど当たり前のことばかりですね。
法律の名前が新しくて、罰の重さも聞き慣れないものだから、身構えてしまう気持ちはよくわかります。
ただ、そこで用意すべきものが同意書やレコーダーだと思ってしまうと、いちばん肝心なところが素通りになってしまう。
今回の京都の件がどう決着するのかは、まだ誰にもわかりません。
否認している以上、これから調べられ、判断されていく段階です。
ただ、あの騒ぎの中で条文を一度も開かないまま「もう男は詰んだ」と言い合っていたのだとしたら、それはちょっともったいない話。
いちばん怖いのは法律の中身ではなく、中身を知らないまま怖がることのほうかもしれませんね。
