朝の散歩をしながら、リスナーから届いた質問にひとつずつ答えていく音声配信。

インコの話、肘の具合、最近通い始めたボクシングのクラスの話と続いたところで、こんな質問が読み上げられました。

「織田投手のように直メジャーはぶっちゃけどうなんですか」

答えたのはダルビッシュ投手で、その答えはその日の午後には「織田翔希はNPBを経由してメジャーに行くべき」という見出しをつけて、ネットを回り始めます。

巨人ファンの中には、こんなふうに受け止めた人もいました。

ところが配信の音声を頭から聞いてみると、「行くべき」という言葉はどこにも出てきません。

しかも答えの途中には、回っている要約からそっくり抜け落ちた話が3つ挟まっていました。

今回は、ダルビッシュ投手が織田翔希の直メジャーを勧めない理由を、配信で話した順番どおりにわかりやすく解説していきたいと思います。

お勧めしない理由はマイナーの厳しさ

織田翔希は、横浜高校のエースで、最速157キロの右腕です。

10月15日に会見を開き、日本のプロ野球(NPB)の球団には入らず、高校から直接アメリカで挑戦すると表明しました。

これが「直メジャー」と呼ばれている道で、多くの場合はメジャー球団とマイナー契約を結び、下のリーグから上を目指していく道です。

それでも10月22日のドラフト会議で巨人が1位で指名し、巨人が入団の話し合いをできる期限は2027年3月末まで残っています。

本人は指名のあとも「アメリカに挑戦する気持ちは全くブレません」と話していて、11月4日からは2週間ほどかけて、メジャーの11〜12球団と面談する予定だそうです。

織田翔希がMLB未登録?巨人入りの可能性はどこまで本当か巨人がドラフト1位で指名した横浜高の織田翔希投手について、指名の翌日にあたる10月23日の夜、アメリカの記者から短い一報が流れてきました...

 

ダルビッシュ投手の答えが、これだけ注目されたのも無理はありません。

日本ハムで7シーズン投げてから、2012年にレンジャーズへ移った人の言葉ですから、重みが違いますよね。

配信は日本時間の11月3日未明、アメリカでは朝の時間帯で、本人がXで告知した音声配信アプリ「stand.fm」のライブでした。

質問が読まれたのは配信の半ばごろで、答えの頭はこうです。

「織田投手が成功する、成功してないとかは別にそこを置いといて、現実的に考えてお勧めしないですね」

成功するかどうかは脇に置いて、と最初に断ってから話し始めていました。

続けて「絶対にこれ日本の球団経由で行った方が、メジャーでプレーできる確率は上がるんですけど」と話しています。

回っている要約では「メジャー活躍できる確率」となっていましたが、音声で聞こえるのは「プレーできる確率」でした。

 

では、なぜ日本の球団を経由したほうが確率が上がるのか。

ダルビッシュ投手が挙げた理由は、マイナーリーグの厳しさです。

「マイナーのその環境がやっぱりすごく過酷なので」と前置きして、ルーキーリーグから始まって、ローA、ハイA、2A、3Aと段を上がっていくあいだ、「環境も含めて常に結果を出さないといけない」と話していました。

「よっぽど特別扱いしてくれたら」別だけれど、そういう扱いはなかなかない、とも付け加えています。

メジャーのマウンドに立つ前に、何段もの階段を毎年の結果で上がり続けなければいけない。

これが、お勧めしない理由の本体でした。

 

要約から消えた3つの言葉

巨人ファンからすれば、「日本の球団経由で」が「巨人に来い」に聞こえるのは自然なことですよね。

ただ、この答えの中で、ダルビッシュ投手は巨人という名前を一度も出していません。

口にしていたのは、最初から最後まで「日本の球団」だけ。

それが回っていくうちに「NPBを経由してメジャーに行くべき」になり、下の投稿のように「織田くんは巨人入りした方がいい」という見出しまで付きました。

音声と並べると、回っている要約から落ちていたのは、次の3つです。

  • マイナーを「すごく過酷」と言った直後の「今だいぶマシなんですけど」
  • アメリカの文化や語学を若いうちから経験したいなら「全然悪くはない」という例外
  • 日本の球団で4、5年プレーしたら自動的にポスティングできる契約にする、というもうひとつの道

どれも、答えの向きを変えるほどの言葉ではありません。

ただ、3つとも落ちると、残るのは「行くな」だけになってしまいます。

 

巨人の名前が配信に出てきたのは、この答えのすぐあとでした。

別のリスナーから「巨人とは交渉していないそうですね」と振られて、ダルビッシュ投手はこう答えています。

「もう多分ある程度、多分もう決まっている状態でいると思うんで」

話の流れからすると、決まっているというのは織田投手の進路のことだとみられます。

横浜高校の村田浩明監督も、巨人との接触は「全くない」と話していると報じられていました。

マイナーは今だいぶマシ

「マイナーは過酷」というイメージは、野球にくわしくない人でも一度は聞いたことがあると思います。

たしかにダルビッシュ投手も「すごく過酷」と言っていますが、その直後に「今だいぶマシなんですけど」と付け足していました。

実際、マイナーの暮らしはこの数年で大きく変わってきたそうです。

スポーティングニュース日本版がMLBの発表をもとに整理したところでは、2021年に最低給与が階級に応じて38〜72%引き上げられ、2022年からはマイナー選手の9割以上が、球団の負担で住む場所を用意してもらえるようになりました。

それより前は、年間給与が4800ドルという水準もあったといいますから、ずいぶんな変わり方です。

同じ配信の終わり近くでは、マック鈴木の苦労話にふれて「あの時代はもっと大変だった」「今の時代はやっぱりすごく守られているというか、環境もいい」とも話していました。

ネットでも、栄養や長い移動を心配する声と、それはもう昔のイメージだという声が、両方並んでいます。

ダルビッシュ投手が「過酷」と言ったのは寝る場所やお金のことではなく、毎年の結果で段を上がり続けなければいけないことでした。

暮らしの不安が減ったぶん、残っている厳しさは、結果を出し続けることそのものなんですね。

 

4、5年で出られる契約という道

気になるのは、日本の球団に入ったら、本当に4、5年でアメリカへ行けるのかという点ですよね。

いまの織田投手の場合、日本の球団と言えば、交渉権を持っている巨人です。

ネットには「日ハムならダルビッシュや大谷の年齢でメジャーに挑戦できるかもしれないけれど、巨人の場合はポスティングを認めてもらうハードルが高すぎて」という声もありました。

日本の球団からメジャーへ移る道は、大きく2つ。

1つは海外FA権で、これは一軍の登録が9シーズン分たまらないと手に入りません。

もう1つがポスティングで、球団が認めて、選手をメジャーの球団へ送り出す仕組みです。

ポスティングは、選手が申し出ても、球団が首を縦に振らなければ使えません。

ダルビッシュ投手の提案は、その「首を縦に振る日」を、入団する時点で契約に書いておく、というものでした。

 

ところが巨人は長いあいだ、ポスティングを認めてこなかった球団です。

東京スポーツによると、上原浩治は2004年オフに初めてポスティングでの移籍を直訴したものの球団は認めず、海を渡ったのは海外FA権を使った2009年のことでした。

球団として初めてポスティングを認めたのは、2019年の山口俊です。

しかもその山口は、2016年オフにFAで巨人へ移ったとき、契約にポスティングを認める旨が盛り込まれていたと報じられています。

つまり、入るときに出口を書いておくやり方は、巨人自身に前例があるんです。

ダルビッシュ投手の言う「4、5年」は、大谷翔平や佐々木朗希の形に近いもので、ふたりとも日本で5シーズンを過ごしてからポスティングで海を渡り、マイナーを経ずにメジャーで投げ始めました。

もし織田投手が巨人に入るとしたら、鍵になるのは、入団のときの紙に何年と書けるかなのでしょう。

語学なら全然悪くないという例外

ダルビッシュ投手の答えのうち、いちばん見落とされているのが、この例外です。

「もっとアメリカの文化を若い時から経験したいとか、まあその語学のところでもとか、将来的にアメリカにずっと住みたいとかって言うんであれば、全然悪くはないと思うんですけど」

では、織田投手自身は、なぜ直メジャーを選んだのでしょうか。

デイリースポーツによると、10月15日の会見で織田投手は「このタイミングで行く理由としては一番の困難である言葉の壁、若いうちから生の言葉に触れることでメジャーリーグに上がった際に自分の意思疎通をできることが」と話し、言葉の壁をいちばんの困難として挙げていました。

語学という例外は、織田投手が会見で挙げた理由と重なっています。

しかも織田投手は、同じ会見で「本当にNPBを通った方がメリットのほうが多いことがあるかもしれませんが」とも口にしていました。

日本を経由するほうが近道かもしれない、という見方は、本人の口からも出ていたんです。

それでも、先に言葉を身につけるほうを選んだ。

ダルビッシュ投手が勧めなかったのは確率の話としての直メジャーで、織田投手が選んだのは、その確率を知ったうえでの直メジャーでした。

回っている要約だけを読むと、先輩が18歳を止めた話に見えます。

でも音声をいちばん後ろまで聞くと、織田投手が挙げた理由そのものに、先輩は「全然悪くはない」と言っていたということですね。