2026年8月29日の夕方から、日本テレビで「24時間テレビ」が始まりました。

今年で49回目です。

ところが放送前から、SNSには番組の中身とは別の話が並んでいました。

「精神障害や発達障害の人は、この番組に出てこない」という指摘です。

言われてみると、浮かぶのは車いすや義足の場面ばかりかもしれません。

そこへ寄付金の着服やギャラの話が重なると、どうにも素直に見られなくなります。

そういう人は、たぶん少なくないはずです。

この記事では、24時間テレビへの引っかかりの出どころを、ひとつずつ確かめていきます。

読み終わるころには、あなたが感じているモヤモヤに名前がついているはずです。

24時間テレビに精神・発達障害者が出ない件

まずは、今年の放送そのものから。

24時間テレビ49は、2026年8月29日の午後6時30分に始まりました。

終わるのは翌30日の午後8時54分、会場は両国国技館です。

テーマは「わたしの家族の話〜あなたは誰を想う?〜」。

 

放送前から伸びていたのは、こういう声です。

「うつや発達障害の人が主役になった回を思い出せない」という書き込みは、放送が始まってからも続いていました。

 

ただ、この話は意見が割れます。

「まったく出ていないわけではない」という指摘も、同じくらい多いからです。

 

実際、知的障害は何度も扱われてきました。

2023年の24時間テレビ46では、知的障害のある人が働く町工場を題材にしたドラマ「虹色のチョーク」が放送されています。

身体障害にいたっては、毎年どこかの企画に入っている状態。

 

ではなぜ「出てこない」と言われるのか。

精神障害や発達障害の人が、番組の主役になった回を思い出せないからです。

脇に映ることと、24時間の柱になることは別の話でしょう。

 

そしてこの指摘は、今年はじめて出たものではありません。

2022年の時点で、同じ疑問を当事者に取材した記事が出ています。

さらにさかのぼると、2016年8月28日にはNHK Eテレの「バリバラ」が、同じ時間帯に「検証!『障害者×感動』の方程式」という特集を組んでいました。

10年近く同じことが言われ続けているというのが、いまの位置です。

だから今年のSNSは、新しく怒っているわけではないんですね。

毎年たまっていたものが、また表に出てきただけです。

モヤモヤの正体は寄付金の着服とギャラの話

見えない障害の話に入る前に、片づけておきたいことがひとつ。

この番組にどうにも乗れない人が、毎年この時期に出てきます。

偽善だ、という言葉もよく見かけますね。

 

それをひねくれた見方だと片づける記事にはしません。

引っかかりのもとになっている出来事が、実際にあるからです。

 

ひとつは寄付金の着服。

2025年7月17日、鳥取地裁で業務上横領の判決が出ています。

罪に問われていたのは、日本海テレビの元経営戦略局長です。

会社の口座から抜いていた額は約470万円。

そこに24時間テレビの寄付金10万5000円も含まれていました。

2023年9月に、自分の口座へ入金していたと認められています。

判決は懲役3年、執行猶予5年。

 

ちなみに集まっているお金は、けっして小さくありません。

2025年の24時間テレビ48は、寄付金の総額が19億5915万23円でした(2025年10月26日発表)。

内訳は一般募金が10億3844万8504円、マラソン子ども支援募金が7億9186万1759円などとなっています。

この規模のお金が動く場所で、10万5000円が抜かれたという話です。

 

もうひとつがギャラの話。

チャリティー番組なのに出演者にお金が出るのはおかしい、という話です。

日本テレビは2000年に、BPOを通してこう説明しています。

「基本的にボランティアでお願いしております。しかし、拘束時間の長い方など、場合によっては謝礼という形でいくらかのお支払いをしております」

 

制作費や出演料はスポンサー料でまかない、募金は必要経費を除いて寄付へ回す。

これが局の説明です。

ただ、金額そのものは公表されていません。

ネットに出回っている「マラソンランナーは1000万円」といった数字も、局が認めたものではないんですね。

 

説明はあるのに、確かめる手立てが視聴者の側にないまま

その状態が何十年も続いてきたので、モヤモヤが残るのは自然なことだと思います。

感動できない自分がおかしいのかな、と抱え込む必要はありません。

見えない障害とは?精神や発達だけではない

「見えない障害」は、正式な法律用語ではありません。

外から見ただけでは分からない障害や病気を、まとめてそう呼んでいます。

英語圏でも invisible disability という言い方があり、意味はほぼ同じです。

 

ここでつまずきやすいのが、範囲の広さです。

精神障害と発達障害だけを指す言葉だと思われがちですが、そうではありません。

実際に含まれるのは、こういうものです。

  • うつ病や統合失調症などの精神障害
  • 自閉スペクトラム症やADHDなどの発達障害
  • 事故や病気のあとに残る高次脳機能障害
  • 言葉が出にくくなる失語症
  • 心臓や腎臓など体の中の機能が落ちる内部障害
  • 治療の続く難病や慢性の痛み
  • 補聴器では補いきれない聞こえにくさ

 

この幅の広さは、当事者の側からも指摘されています。

診断名で分けるのではなく、困りごとでつながる。

この見方をしておくと、あとの話がずっと分かりやすくなります。

もうひとつ、先に手帳の話を。

障害者手帳には3つの種類があります。

  • 身体障害者手帳
  • 療育手帳(知的障害のある人向け)
  • 精神障害者保健福祉手帳

発達障害のある人が申請するのは、多くの場合3つ目の精神障害者保健福祉手帳です。

ここも「発達障害なのに精神の手帳なの?」とつまずく人が多いところなので、覚えておくと混乱しません。

見えない障害の人は日本にどれくらいいるのか

ここで数字を見ておきます。

厚生労働省の患者調査によると、精神疾患で医療にかかっている人は令和5年(2023年)の時点でおよそ603万人です。

そのうち入院している人は約26万6000人で、残りの約576万4000人は外来です。

 

この内訳の意味が、けっこう大きいと思います。

9割以上の人は、病院に泊まっているわけではありません。

通院しながら、いつもの電車に乗って、いつもの職場や学校へ行っています。

すれ違っているのに、こちらが気づいていないだけなんです。

発達障害のほうも見てみます。

厚生労働省が令和4年(2022年)に行った「生活のしづらさなどに関する調査」では、発達障害と診断された人は推計でおよそ87万2000人でした。

ただしこれは、あくまで診断を受けた人の数です。

大人になってから気づく人も、気づかないまま働いている人もいます。

実際の人数は、これよりずっと多いと考えられているのが現状です。

 

身体障害者手帳を持っている人が全国で400万人台であることを思うと、規模が小さいわけではありません。

見えないことは、少ないということでも、軽いということでもないのです。

ここを取り違えたまま話が進むと、あとの議論が全部ずれていきます。

テレビが映せるのはゴールが上にある挑戦だけ

では、なぜ主役になれないのか。

SNSでいちばん身も蓋もない言い方をしていたのが、この投稿でした。

乱暴に聞こえますが、テレビの仕組みを考えると筋は通っています。

カメラは、目に映るものしか記録できません。

 

ただ、話はそこで終わらないんです。

本当の壁は「見えない」ことではなく、達成した瞬間にどんな絵になるか、のほうなんです。

 

当事者へ取材した2022年の記事に、こんな証言が残っていました。

パニック障害のある人の言葉です。

「もしそれができたとしたら、一見"普通の人"が目的地まで行けた、という映像にしかならないでしょう」

 

電車に乗れるようになるまで、どれだけの時間がかかったか。

その全部が、画面には「電車に乗っている人」としてしか映りません。

 

ADHDのある人の言葉も、同じ形をしていました。

「ものすごく苦労して片付け、息を切らして掃除機をかけても、やっと一般家庭の"ちょっときれいな状態"になるくらいだと思います」

 

ここが核心だと思います。

24時間テレビが映せるのは、ゴールが健常者より上にある挑戦だけです。

富士山に登る。

100キロを走る。

武道館で演奏する。

どれも、健常者がやっても大変なことばかりです。

 

ところが見えない障害のある人にとってのゴールは、たいてい「普通」のところにあります。

朝、起きること。

電車に乗ること。

部屋を片付けること。

達成した瞬間の絵が、普通の人が普通のことをしている映像になってしまいます。

 

もうひとつ、生放送という条件もあります。

SNSには「何をしでかすか分からないリスクがある」という声もありました。

言い方はきついですが、裏を返すと段取りどおりに動けることが出演の条件になっているということです。

体調が日によって変わる人は、その時点で候補から外れます。

 

この型に「感動ポルノ」という名前をつけたのが、オーストラリアの障害当事者でジャーナリストのステラ・ヤングでした。

2012年に使いはじめ、2014年のTEDxSydneyでの講演「私は皆さんの感動の対象ではありません、どうぞよろしく」で世界へ広がっています。

言っていたのは、障害のある人を健常者が元気をもらうための道具にしないでほしい、ということでした。

 

正直に書くと、私も長いあいだ、障害といえば車いすの絵を思い浮かべていました。

見える障害しか見ていなかったのは、番組だけではなかったのだと思います。

 

障害の描かれ方をめぐっては、この夏に別のところでも議論が起きています。

みいちゃんと山田さんアニメ化|意見書が中止を求めていない理由 1本のアニメ化の発表が、7月の終わりからずっと燃え続けています。 講談社のマンガアプリで連載されていた漫画、『みいちゃんと山田さん...

それでも感動してしまうのは自分のせいではない

ここまで読んで、少し引っかかった人もいるかもしれません。

仕組みは分かった。

でも、毎年なんだかんだで見てしまうし、泣いてしまう年もあります。

 

あのモヤモヤの正体は、たぶんそこです。

番組が嘘をついているから気持ち悪いのではありません。

嘘ではないのに自分の感情が動いてしまうから、気持ち悪いのだと思います。

 

24時間のあいだに始まりと終わりが収まる物語は、そう作られているからこそ、人の心に効くようにできています。

始まりがあって、困難があって、終わりに達成が置かれる形。

人の感情は、この形にほぼ確実に反応するようにできています。

 

感動してしまうのは、あなたが騙されやすいからではありません

設計どおりに反応しているだけの話です。

 

だとすると、モヤモヤは番組への評価ではないことになります。

自分の感情が設計されていることに気づいてしまった、というサインのほうですね。

気づいた人だけが、その先の「じゃあ画面に映っていないのは誰なんだろう」というところまで進んでいけます。

 

偽善だと言い切ってしまうと、そこで止まります。

反対に、素直に感動して終わってもそこで止まります。

どちらにも行けずに残っている引っかかりは、いちばん先まで行ける場所にあるということです。

いちばんつらいのは仮病だと疑われること

ここからは、テレビを離れた日常の話です。

見えない障害のある人が口をそろえて挙げる困りごとは、症状そのものではありません。

周りから疑われることです。

優先席に座っていると、じろじろ見られる。

体調が悪くて休むと、さぼりだと思われる。

配慮をお願いすると、甘えだと言われる。

 

車いすの人が優先席のそばにいて、疑われることはまずありません。

見えるからです。

見えないというだけで、証明する側に回らされるのが、この障害のいちばんきついところだと思います。

 

助けを求めるための道具にまで、同じ目が向きます。

職場でも同じことが起きています。

発達障害があることを伏せたまま働いている人は珍しくありません。

2026年8月27日には、Yahoo!ニュースのトピックスに「バレるの怖い 発達障害伏せて就労」という見出しが並びました。

言えば配慮してもらえるかもしれないのに、言えば偏見が来るかもしれません。

その天秤を、毎日ひとりで持たされている状態です。

 

そしてここが、さっきの章とつながります。

努力の量が同じでも、ゴールが「普通」だと、頑張ったこと自体が誰の目にも映りません。

見えないから疑われて、疑われるから隠して、隠すからますます見えなくなる。

この輪の中にいる人が、日本に何百万人もいます。

ヘルプマークを見かけたときにできること

最後に、今日からできる話をします。

赤い地に白い十字とハートが入ったタグを、電車で見かけたことはないでしょうか。

あれがヘルプマークです。

 

東京都が2012年に作ったもので、2017年に日本産業規格(JIS)の案内用図記号に登録されました。

いまは全都道府県で配られています。

きっかけのひとつは2011年の東日本大震災。

必要な支援をうまく伝えられない人が、あのとき大勢いたからです。

 

持っているのは、義足や人工関節を使っている人、内部障害や難病のある人、妊娠初期の人など。

精神障害や発達障害のある人も、もちろん対象に含まれます。

つまり見た目では分からないけれど助けが要る、という一点だけを伝えるマークだと思ってください。

 

見かけたときにできることは、そんなに難しくありません。

  • 席を必要としていそうなら譲る
  • 階段や乗り換えで困っていそうなら声をかける
  • 倒れている人がいたら、カバンのヘルプカードを確認する
  • 災害のときは、逃げ遅れていないか気にかける

逆に、やらないほうがいいこともひとつだけあります。

「どこが悪いんですか」と聞かないことです。

あのマークは、事情を説明しなくて済むように作られたものだからです。

 

24時間テレビは、今夜も明日も続いています。

画面に映るのは、たぶん今年も見て分かる困難のほうが多いのでしょう。

番組に乗れないまま眺めている人も、それでいいのだと思います。

ただ、テレビを消したあとの電車で、隣に立っている人が何を抱えているかは分かりません。

見えないだけで、そこにいるということ。

そこだけ頭の隅に置いておけたら、この24時間は無駄になりませんね。

この記事で参考にした情報

この記事は、次の資料と報道をもとに書いています。

 

【患者数・障害の統計】

  • 厚生労働省「患者調査」(精神疾患を有する総患者数)
  • 厚生労働省「令和4年 生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」

【ヘルプマーク】

  • 東京都福祉局「ヘルプマーク」

【番組と障害の描かれ方】

  • サイゾーウーマン「『24時間テレビ』、精神障害や発達障害はなぜ登場しない? 見えない障害の当事者に聞く」(2022年・全3ページ)
  • TEDxSydney 2014 ステラ・ヤング「私は皆さんの感動の対象ではありません、どうぞよろしく」

【募金とギャラ】

  • 公益社団法人24時間テレビチャリティー委員会「24時間テレビ48 寄付金総額のお知らせ」(2025年10月26日発表)
  • 日本テレビがBPOを通じて公表した出演者の謝礼についての見解(2000年)
  • 鳥取地裁の業務上横領事件判決を伝える各社報道(2025年7月17日)

【番組情報】

  • 日本テレビ「24時間テレビ49 愛は地球を救う」放送概要

 

私は医療の専門家ではないので、体調や診断で気になることがあるときは、かかりつけの医療機関やお住まいの自治体の障害福祉窓口へご相談くださいね。