2026年9月19日の午後4時ごろ、東京・八王子市にある交番で、10代の男性巡査が頭から血を流して倒れているのが見つかりました。

そばには、本人に貸し出されていた拳銃が落ちていたとのこと。

警視庁は、勤務中に拳銃で自殺を図ったとみて調べているそうです。

 

ネットでいちばん多かったのは、追い詰めた側を探す声でした。

「やっぱりパワハラかな」「いじめの上司が居なければ起きないやろ」。

「これがよく言う警察の闇」と書いている人もいました。

そこへ「絶対生き残れよ」「死を選ばず逃げるを選択してほしい」という言葉が重なっていきます。

 

職場で何があったのかは、まだ何も発表されていません。

いま確かめられるのは、拳銃の決まりに何が書いてあるか。

開いてみたら、そこにも別の闇がありました。

そもそも交番の中で、どうして拳銃を持ったままだったのでしょうか。

今回は、警察官が拳銃をどう持ち、どういうときに預けることになっているのかを、決まりの中身からわかりやすく解説していきたいと思います。

八王子の大和田交番で起きたこと

いまの時点で分かっていることは、そう多くありません。

現場は、東京都八王子市大和田町5丁目にある警視庁八王子署の大和田交番です。

倒れていたのは、八王子署地域課に所属する10代の男性巡査でした。

発見したのは、その交番にいた交番相談員です。

発砲音を聞いて、頭付近から血を流して倒れている男性巡査を見つけたと報じられています。

 

交番相談員というのは、警視庁の警察官OBが務める人たちのこと。

警視庁の案内には、遺失届や拾得届の受理、各種相談事案の聴取と助言、事件事故が起きたときの通報などが仕事として挙げられています。

男性巡査はこの日、午後からの勤務に入っていたそうです。

病院に運ばれましたが、9月19日の報道の時点では意識不明の重体と伝えられています。

 

八王子署の羽生一浩署長は「事案の詳細は確認中ですが、本人が拳銃を使用したのであれば誠に遺憾です。一命を取り留めることを祈りつつ、事実関係を明らかにして参ります」というコメントを出しました。

報じられているのは、ここまでです。

なぜそこまで追い詰められたのかについては、まだ何も発表されていません

「遺憾」という言葉に引っかかった人もいました。

拳銃を使ったことへの遺憾より先に、聞きたいことがあるんです。

10代で巡査になるまでの10か月

最初に多くの人が驚いたのは、年齢でした。

10代で巡査、という組み合わせが、すぐには結びつきません。

 

警視庁の警察官採用には大きくⅠ類とⅢ類があり、Ⅲ類は高校を卒業した人、または高校卒業程度の学力がある人が受けられるものです。

つまり、高校を出てそのまま受けることができる入口が用意されています

そして採用されたあと、いきなり交番に立つわけではありません。

警視庁の採用案内によると、Ⅲ類で入った場合、警察学校に入る期間は10か月とされています。

学校で基礎を学んでから、ようやく現場へ出る流れでした。

高校を出てまっすぐ進んだ場合、現場に立ち始めるのは10代のうちということになります。

 

巡査というのは、警察官の階級のいちばん下にあたる呼び方です。

警察法の第62条には、警視総監から巡査まで9つの階級が並んでいて、巡査はその最後に置かれています。

今回の男性巡査がいつ採用され、現場に出てどれくらいだったのかは公表されていません。

ただ、10代で交番に立っていること自体は、制度の上ではふつうにあることなんです。

だからこそ、「10代だぞ10代」という声が出たのだと思います。

まだ社会に出て何年も経っていない人が、拳銃を持って立っている姿。

その事実だけで、受け止めきれない気持ちになった人もいたはずです。

交番では室内でも拳銃を外さない

警察官が拳銃をどう持つかは、「警察官等拳銃使用及び取扱い規範」という決まりに書かれています。

警察庁に置かれている国家公安委員会が定めたもので、昭和37年にできて、いまも現役です。

その第11条に、こう書かれています。

「警察官は、制服(活動服を含む。以下同じ。)を着用して勤務するときは、拳銃を携帯するものとする。」

制服を着て勤務についているあいだは、持っているのが原則というわけです。

 

そのうえで、この条文にはただし書きがあり、9つの例外が並んでいます。

  • 室内で勤務するとき
  • 会議又は事務打合せに出席するとき
  • 儀式に出席するとき
  • 音楽隊員が演奏に従事するとき
  • 看守勤務の警察官が留置施設において勤務するとき
  • 交通整理、交通取締り、交通事故の処理などに従事するとき
  • 災害応急対策のための活動に従事するとき
  • 雑踏警備などで携帯に支障があると所属長が認めたとき
  • 携帯することが不適当であると所轄庁の長が認めたとき

このうち1つ目の「室内で勤務するとき」を読んだとき、交番は室内だから外しているのだろう、と思った人もいるはずです。

ところが、その1つ目にはかっこ書きが付いています。

「交番その他の派出所、駐在所その他これらに類する施設で公衆の見やすい場所において勤務するときを除く

交番は、例外の例外として、わざわざ外されていました

室内であっても、外から見える場所で勤務しているあいだは持ったまま

それがこの決まりの答えです。

 

理由は、読めばすぐに分かります。

交番は、外から誰でも入ってこられる場所です。

だから、建物の中にいても外と同じ扱いになっているんですね。

 

持ち方についても決められていました。

第12条では、拳銃入れに納めて帯革、つまりベルトに付け、右腰に着装するものとされています。

第13条には、携帯するときは常時、長官が別に定める数のたまを装塡しておく、という定めも置かれていました。

いつでも使える状態で、腰に着けたまま立つことになります。

それが、交番に立っているあいだの決まりです。

なぜ持たせたままだったのか、と思った人もいるはずですが、決まりの側から見ると、持っていたことのほうが通常の状態でした。

安全規則7つが見ているのは外側だけ

同じ規則には、拳銃の扱いについての「安全規則」も置かれています。

第14条に並んでいる7つは、こんな中身でした。

  • 拳銃を手にしたら、たまの有無を確かめること
  • 射撃するときのほか、撃鉄を起こさない、薬室(たまが発射される部屋)にたまを装塡しないこと
  • 射撃するときのほか、用心金(引き金を囲む輪)の中に指を入れないこと
  • 目標物以外のものや、跳弾(跳ね返ったたま)で人を傷つけるおそれのある方向には銃口を向けないこと
  • 他人に渡すときは、たまが入っていないことを確認すること
  • 必要がある場合のほか、拳銃入れから取り出したり弄んだりしないこと
  • 職務上必要のない者には、拳銃を渡したり触れさせたりしないこと

7つとも、銃口が自分の外へ向いたときの話なんです。

相手を傷つけないため、事故を起こさないため、他人に触らせないため。

危険は常に外側にあるものとして書かれていて、内側へ向かうことは想定されていません

 

試しに、この規則の全文を頭から終わりまで探してみました。

「自殺」という言葉は、一度も出てきません

昭和37年から改正を重ねてきた決まりの中に、その2文字は最後まで置かれていませんでした。

 

この件は、若い警察官が職場で追い詰められた話に見えて、実は拳銃の決まりが、銃口の向く先だけを見張り続けてきた話なのだと思います。

持たせるか外させるかは、細かいところまで決まっているのに。

構え方も、指の置き場所も、渡し方もそう。

それなのに、持っている人の内側については、ほとんど触れられていません

 

元警視庁捜査第一課の佐藤誠も、署長のコメントを引いたうえで書いていました。

「『なぜ撃ったのか』ではなく『撃つまで、なぜ組織は止められなかったのか』なんだよ」

そのあとに署長の責任を名指しし、一命を取り留めることを切に願う、と結んでいます。

問いの向きを変えるべきだ、という指摘でした。

拳銃を預けると決められる条文はある

では、内側について決まりはまったくないのかというと、そうではありません。

同じ規則の第18条に、拳銃を預けさせる手続きが置かれています。

まず、警察署などには拳銃の管理責任者が指定されていて、その下に取扱責任者がいるという形。

そして管理責任者は、次の場合に、取扱責任者へ拳銃の保管を命ずることができるとされています。

  • 警察官が、長期欠勤又は心身の故障のため、拳銃等を保管することが適当でないと認められるとき
  • 警察官が停職を命ぜられたとき
  • 修理、精密手入れなどのため、拳銃を集めるとき
  • 亡失その他の事故の防止のため、管理責任者が特に必要があると認めたとき

目を引くのは、1つ目の「心身の故障」という言葉

持たせないと決める道は、ちゃんと用意されていたわけです。

さらに第19条には、警察官の側から「携帯しないときは、取扱責任者に保管を依頼することができる」とも書かれています。

預ける側から言い出すこともできるわけです。

 

ただ、ここを読んで気持ちが軽くなるかというと、たぶん逆なんですよね。

「心身の故障」という言葉は、規則の中でここにしか出てきません。

しかも、長期欠勤と並べて書かれています。

外から見て分かるところまで来ていないと、引っかからない書き方なんです。

そして判断するのは、同じ職場にいる管理責任者のほう。

本人が「持っているのがつらい」と言い出せないほど追い詰められていたとしたら、条文は静かに使われないまま終わります。

 

決まりが無かったのではなく、決まりが動き出すきっかけは、人の目に預けられたまま

ネットに出ていた「本人が限界になるまで助けてと言えない環境になっていなかったか」という声が指しているのは、たぶんここ。

 

気づいた側にできることは決まっている

声を上げられなくなることは、どんな職場でも起こります。

そうなったとき、まわりが気づけるかどうか。

今回の件も、まさにそこが引っかかるところでしょう。

厚生労働省は、2026年9月1日にこんな呼びかけを出していました。

一人で抱えこまないでください、という呼びかけのあとに、もう一つ置かれているところがあります。

身近な人の様子がいつもと違うと感じたら、優しく声をかけ、温かく寄り添ってみてください、という一文。

気づいた側に向けた言葉が、同じ投稿の中に入っているんです。

 

相談の窓口は、電話だけでもいくつか用意されていました。

「#いのちSOS」は0120-061-338で、毎日24時間つながります

「よりそいホットライン」は0120-279-338で、こちらも24時間対応。

都道府県の窓口につながる「こころの健康相談統一ダイヤル」は0570-064-556で、受付時間は地域によって違うとのこと。

厚生労働省の「まもろうよこころ」という特設サイトには、LINEやチャットで相談できる窓口もまとめて並んでいます。

自分のためでも、誰かのためでも、開いていい場所です。

 

今回の件について言えば、拳銃を預けさせる条文が動くのも、まわりの誰かが気づいたときでした。

決まりは、気づいたあとの手順しか書いていません

気づくところは、いつも人の側に残されています。

男性巡査がなぜそこまで追い詰められたのかは、いまも分かっていません。

警視庁が調べている途中なので、外から理由を決めてしまうには早すぎます。

分かっているのは、拳銃の決まりが長いあいだ銃口の向く先だけを見てきたことと、そのすぐ隣に、誰にも気づかれないまま立っていた人がいたこと。

いまはまず、一命を取り留めてくれることを願いたいところです。