身体改造で指を2本切除|顔認証が通らない理由をわかりやすく解説

指を2本切った人と、顔にまったく手を加えていない人が、同じ場所で止められています。
スマホやマイナ保険証の、顔認証のところ。
2026年9月19日、集英社オンラインのインタビュー記事がXで広がりました。
白目を黒く染め、耳を尖らせ、頭や腕にシリコンを入れ、両手から1本ずつ指を取った人の話です。
リプ欄に並んだのは、気色悪い、可哀想、モザイクをかけてほしい、といった言葉でした。
ただ、その人が「いちばん大変だった」と語っていたのは、痛みでも見た目でもありません。
しかも、そこで挙がっていた困りごとのひとつは、体に何ひとつ手を加えていない人にも起きていることでした。
今回は、顔認証がなぜ本人を通さなくなるのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。
いちばん大変だったのは、痛みではなかった
インタビューに答えていたのは、メジルシ髙倉さんという方です。
福島県出身で、実家は神社。
高校までは野球に打ち込み、23歳でイギリスへ留学しています。
いまは横浜でバー「HELL BAR」を経営しながら、海外のタトゥーコンベンションに「Meji」の名前で招かれているそうです。
体に加えてきたものは、記事の中で細かく語られていました。
白目を黒く染めるアイボールタトゥー、耳を尖らせるイヤーポインティング、頭や腕に埋め込まれたシリコン。
残るひとつが、両手から1本ずつ取った指です。
その記事の後編で、いちばん大変だったこととして本人が挙げていたのが、これでした。
「いちばん大変だったのは、ない指がかゆいことです。かゆいのに、かこうにも、その指がそこにない。不思議ですね」
痛みでも、周囲の視線でもなく、かゆみ。
かこうとしても、かく先がもうないという話でした。
仕事での不便も語られています。
バーで働いているので、お釣りを受け取るときに指のない隙間から小銭を落としてしまうことがあるそうです。
化粧水を手に出すときも、隙間から流れてしまうとのこと。
それでも「慣れます。やり方を変えれば普通に生活できます」と続けていました。
ここまで読んで、ぞっとした方もいると思います。
その感覚は、べつにおかしなものではありません。
記事の末尾には編集部の注記が入っていて、身体改造には感染症や神経障害、視力障害など重大な健康被害につながるおそれがあると書かれていました。
怖いと感じたことと、その人を責めることは、まったく別の話。
ないはずの指がかゆい、は珍しい話ではない
リプ欄で目についたのが、この2つでした。
- 「痒いのに掻けないとか地獄だろ」
- 「ファントムペインってほんとにあるんだな」
後者が言っているのは、幻肢痛のことです。
これは身体改造をした人だけに起きるものではありません。
脳科学辞典に、東京大学医学部附属病院の住谷昌彦さんが書いた解説があります。
そこでは幻肢について、「失った四肢が存在するような錯覚」や「失った四肢が存在していた空間に温冷感や痺れ感などの感覚を知覚する現象」と説明されていました。
幻肢に痛みがくっついたものが、幻肢痛と呼ばれます。
数字が、なかなかの重さでした。
幻肢を感じるのは四肢切断後の患者の80%以上。
幻肢痛を感じるのは、四肢切断患者の50〜80%とされています。
つまり手足を失った人にとっては、あるはずのないところに感覚が残るほうが普通なんですね。
事故でも、病気でも、手術でも、失えば同じことが起きます。
痛みの性質も書かれていて、「刃物で裂かれるような、電気が走るような、しみるような」感覚や、「痙攣するような、こむら返りするような」感覚が挙げられていました。
なお、かゆみそのものを名指しした記述は、この解説の中には見当たりません。
髙倉さんの「かゆい」が医学的にどう分類されるのかまでは、こちらでは確かめきれていないのが正直なところです。
ただ、ないはずの場所に感覚が居座るという現象自体には、ずっと前から名前がついていました。
ネットで「ほんとにあるんだな」と驚かれていたことは、切断を経験した人のあいだでは、前から知られていた話なんです。
「免許を剥奪しろ」に法律はどう答えるのか
施術そのものに向けられた、強い一言もありました。
「頼まれても金積まれても指切断するなよ…その医者の免許剥奪しろ」
誰が切ったのかについて、記事には一行も書かれていません。
なので、そこは分からないままにしておきましょう。
ただ、身体改造に法律がどう線を引いているのかなら、条文のほうを見れば確かめられます。
まず医師法の第十七条。
「医師でなければ、医業をなしてはならない」とだけ書かれた、短い条文です。
違反すれば3年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金、またはその両方という罰則もついています。
拘禁刑というのは、これまでの懲役と禁錮がひとつになった呼び方です。
ところが、ここから先が多くの人の予想とずれました。
タトゥーに医師免許は要らないと、最高裁が判断しているんです。
2020年9月16日の決定で、最高裁はまず医行為をこう定義しました。
「医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」
そのうえで、当たるかどうかは「行為の方法や作用のみならず、その目的、行為者と相手方との関係、行為が行われる際の具体的な状況、実情や社会における受け止め方等をも考慮した上で、社会通念に照らして判断する」としています。
結論として、タトゥーは「装飾的ないし象徴的な要素や美術的な意義がある社会的な風俗として受け止められてきたもの」であって、医行為には当たらないとされました。
針を刺して色を入れる行為であっても、医師でなくてよいことになります。
免許を剥奪しろという声とは、ちょうど反対を向いた判断でした。
大事なのは、装飾のためなら何でも免許が要らない、と決まったわけではないという点です。
最高裁は行為ごとに、目的や受け止められ方まで見て判断すると言っています。
指を切る行為にその物差しを当てた判断は、少なくともこちらで調べたかぎり見当たりませんでした。
免許が要らないということは、医師のいない場所でもできてしまうということでもあります。
どこで誰が施術しているのかという問いは、免許の有無とは別に残り続けるわけです。
本人なのに本人だと認識してもらえない
記事の中でいちばん引っかかったのが、顔認証についてのやりとりでした。
インタビュアーに「ちなみに顔認証は……?」と聞かれた髙倉さんは、こう答えています。
「ほぼダメですね(笑)。特にアプリの顔認証は、本人なのに本人だと認識してもらえない。でも役所などで、職員が写真と僕の顔を見比べて確認する場合は大丈夫です」
ここに、二つのことが同時に入っていました。
機械は、本人を本人だと認めません。
人は、ちゃんと認めます。
この落差が、記事を読んだあとも残りました。
顔を大きく変えた人だから起きたこと、と読んでしまいそうになります。
ところが、そうでもないのです。
「顔認証 通らない」でX上を新しい順に見ていくと、こんな声が並んでいました。
- 「半年ごとに顔が変わってマイナ保険証の顔認証も通らないんだけど、どうしましょう」
- 「メイクで顔面変わりすぎて顔認証通らないのきっちー!」
- 「マイナンバーの顔認証通らないんだよな」
- 「本人確認の顔認証通らないから暗証番号にしてる」
いちばん刺さったのが、この一言。
「携帯の顔認証で何回やっても通らない時ってない??俺だけか笑笑 顔いじってないのに、あの現象なんなん?」
顔をいじっていない人も、同じ場所で止まっていました。
本人であることを機械に断られるという経験は、そう珍しいものではなかったわけです。
顔と指紋は、こんなことで通らなくなる
では、なぜ通らなくなるのでしょうか。
iPhoneのFace IDについて、Appleは変化への対応をはっきり書いています。
「メークを変えた、髭を生やした、といった外見の変化もFace IDは自動的に認識します」
さらに、こうも書かれていました。
「帽子をかぶったり、スカーフを巻いたり、メガネをかけたり、コンタクトレンズをしたり、サングラスをかけたりしても、Face IDは機能するようになっています」
つまり、顔が少しずつ変わることは、はじめから織り込み済み。
変わったぶんを、使いながら覚え直していく作りです。
問題は、変わり方が大きかったとき。
Appleの説明では、大幅に外見が変わった場合は「パスコードで本人確認をしてから顔のデータを更新します」と書かれていました。
顔が通らなくなったら、暗証番号で身元を示して、新しい顔を登録し直すことになります。
しかも、顔で試せるのは5回までです。
失敗が続けば、そこでパスコードの出番になります。
意外と見落とされているのが、ここでした。
顔認証の後ろには、最初からパスコードが控えています。
顔は玄関の鍵で、パスコードは家の権利書のようなもの。
鍵が合わなくなったときに本人を証明するのは、いつも権利書のほうなんです。
指紋も事情は似ていました。
スマートフォンのメーカーの案内には、指が濡れているとき、手荒れや指の損傷があるとき、指の表面が磨耗して指紋が薄いときには、登録が難しくなったり認証の精度が落ちたりすると書かれています。
乾燥する季節に急に通らなくなるのは、指の溝が浅くなるからなのだそうです。
水仕事の多い人、手荒れの続く人、年齢を重ねた人。
指紋が薄くなる条件は、暮らしのすぐそばに転がっています。
メーカーの案内が挙げている対処も、手を洗う、手を拭く、認証する指を変える、登録する範囲を広くする、といったものです。
こうして並べてみると、顔も指紋も、変わることが前提になっていない仕組みだと分かってきました。
正確にいえば、少し変わるぶんには追いかけてくれます。
でも、大きく変わった瞬間に、機械は手を離してしまうんですね。
通らなくなったときの道は用意されている
通らなかったときの逃げ道は、ちゃんと決められていました。
厚生労働省の公式アカウントは、2026年4月24日にこう案内しています。
【#マイナ保険証 の顔認証がうまくいかないとき】
以下をお試しください。
・カメラから少し離れる
・前髪を上げる
・マスクを下げる、はずす
・帽子や眼鏡をはずすそれでもできない場合は、暗証番号で本人確認を行うか、受付の方にお声がけください。
— 厚生労働省 (@MHLWitter) 2026年4月24日
案内されていたのは、この4つ。
- カメラから少し離れる
- 前髪を上げる
- マスクを下げる、はずす
- 帽子や眼鏡をはずす
それでもできない場合は、暗証番号で本人確認を行うか、受付の方に声をかけてくださいと書かれていました。
国がこの手順をわざわざ出していること自体も、なかなかのものです。
顔認証が通らない人は現にいる、という前提で制度が組まれているということですから。
さらに厚生労働省のよくある質問には、こうありました。
「暗証番号がロックされていても、顔認証付きカードリーダーで顔認証又は窓口職員によるマイナンバーカードの顔写真の目視確認で本人確認が可能」
受付ができなかったときの対応をまとめた案内も出ています。
マイナ保険証での受付ができない場合の対応方法
マイナ保険証で受付ができない場合の対応方法をショート動画で見る
マイナ保険証の顔認証が上手くいかないときに試していただきたいこと
— 厚生労働省 (@MHLWitter) 2026年7月21日
まとめると、持っておきたいのは次の3つでした。
- スマホのパスコードを、顔認証まかせにして忘れないこと
- 指紋が通らない日は、手を拭いてから、別の指を試すこと
- マイナ保険証は4桁の暗証番号を覚えておき、それでもだめなら窓口の人に声をかけること
どれも、読んで5秒で済む話。
通らなかった朝に慌てないための道具には、ちゃんとなります。
そして、ここまで書いてきて思い出すのが、髙倉さんのあの一言でした。
役所などで、職員が写真と自分の顔を見比べて確認する場合は大丈夫。
指を2本失っても、白目を黒く染めても、人が見れば本人として通ります。
機械の本人確認は、人の体が一生変わらないことを前提に作られていました。
だから、体が変わったときの最後の一行には、必ず人が置いてあります。
本人であることを最後に決めているのは、いまのところまだ人なんです。
この記事で参考にした情報
なお、ここに書いたのは公的な資料や公式の案内に出ている範囲の話で、僕は医療の専門家ではありません。
体のことで気になることがあれば、必ず医療機関で相談してくださいね。
- 集英社オンライン「〈身体改造のリアル〉『ない指がかゆい』顔認証はほぼ通らず、小銭も落ちる…指を2本切除した男が語る”改造後の日常”」(2026年9月19日配信・前後編の後編)および前編
- 脳科学辞典「幻肢痛」(執筆=東京大学医学部附属病院・住谷昌彦。幻肢と幻肢痛の定義、四肢切断後の患者に占める割合、痛みの性質)
- 医師法(昭和二十三年法律第二百一号)第十七条・第三十一条(e-Gov法令検索)
- 最高裁判所第二小法廷 令和2年9月16日決定(医師法違反被告事件。医行為の定義と判断の枠組み、タトゥー施術についての結論)
- Apple「Face IDを使う」サポートページ(外見の変化への対応、パスコードが必要になる場合)
- スマートフォンメーカーのサポートページ(指紋認証がうまくいかないときの状態と対処)
- 厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用についてよくある質問」および公式アカウントの投稿(2026年4月24日・2026年7月21日)
